
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から、再録。
「私はこの世にタダのものなどありはしないと思っている。それなのに民放はタダだとだまされて、ついでにNHKまでタダにせよなんて気勢をあげるのは見当ちがいだと思っている。
私は民放もNHKも、もっともっと金をとればいいと思っている。一ケ月五万円十万円とるがいい。それがいやなら番組ごとにコインを投じさせるがいいと、何度も書いて恐縮だが書かせてもらう。
『なっちゃんの写真館』一回百円と聞けば、たいていの人はコインを投じようとしてやめるだろう。こうして番組は厳選され女子供がテレビを見る時間は激減し、視聴率などという不確かなものでなく、番組ごとに〇千〇百万円という確かな収入があるだろう。
『芸』は客が劇場へ出むいて入場料を払ってひまをつぶしてくれて始めて芸である。タダで先方からおしかけてくる芸にろくなものがあるはずがない。
〔Ⅰ『タダほど高いものはない』昭55・8・21〕」
(山本夏彦著「ひとことで言う‐山本夏彦箴言集」新潮社刊 所収)
