
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から、昨日の続き。再録。
「この世の中は、自分で考え、自分で発言できるごく僅かな人と、自分では考える力がなく、他人に考えてもらって、それを自分の考えだと思いこんで、他人の言葉をおうむ返しにいう大ぜいとから成っている。
大ぜいは進んで他人の考えを着服し、喜んで他人の言葉をいうのだから、一世を風靡(ふうび)する言論が大好きで、それに従って、ちっとも強制されていると感じない。」
「人は本来時流に従う存在である。豹変して心に痛みを受けぬ存在である。」
「大ぜいのいう正義は、他人の脱税はけしからぬが、自分の脱税はやむを得ぬ。むしろ当然だという程度のものである。他人が儲けるのは悪で、自分が儲けるのは善だという程度のものである。他人の値上げなら何でも反対で、自分の値上げなら結構だという程度のものである。」
「マス・コミの正義は、大衆の正義と瓜二つである。ある日とつぜん豹変するところまで瓜二つである。
言論の自由とは、大ぜいがいうことを、共にいう自由のことではないのか。第一、人は真に言論の自由を欲しているのか、いうべき何ものかを内に蔵しているのか。」
〔『朝日ソノラマ』昭和45年5月号〕」
(山本夏彦著「とかくこの世はダメとムダ」講談社刊 所収)
