「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2014・04・16

2014-04-16 07:45:00 | Weblog


今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

私は言論というものを、大ぜいがいうことを疑うことから発すると、ひそかに思っている

「ことに商品としての言論なら、疑わないほうがどうかしている。ところが、俗に『世論』といって、大ぜいのいうことは正しいことになっているそれに逆らってはいけないことになっているほとんどタブーになっている
 だから、異端を述べる言論は、二重の構造になっていなければならない。すなわち、一見世論に従っているとみせて、読み終ると何やら異様で、あとで『ははあ』と見る人が見ればわかるように、正体をかくしていなければならない。いなければ第一、マス・コミが採用してくれない。
 現代の言論は、商品として、マス・コミのなかにしかない。マス・コミになろうとして、なりそこなったミニ・コミに望みをかけることはできない。それなら本音はかくさなければならない。本音は毒をふくんでいるにきまっているふくんでいれば大ぜいに忌避される糖衣をかぶせて、大ぜいの口を目をあざむき、同類にだけわかるように、ほとんどサインのように書くのが義務だと私は思っている
                                                 〔『朝日ソノラマ』昭和45年5月号〕」

(山本夏彦著「とかくこの世はダメとムダ」講談社刊 所収)

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