今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「新聞雑誌に印刷された言葉は、すべて有料である。代金が払われている。あれは売られた言葉のえんえんたる行列である。代金は雑誌なら原稿料、本なら印税として執筆者に払われる。
それは一般にあとから送金される。戦前は、いつまでたっても送ってこない(または送れない)版元が多かったが、今は稀れになった。印刷された言葉に支払う習慣は、すでに確立したといっていい。
ついでに、話をしただけで金をくれる習慣もできた。テレビ・ラジオはその場でくれる。新聞雑誌主宰の座談会も、その場でくれることが多い。
客として料理屋に招き、丁重にもてなし、もう一人の客と歓談させ、さて宴はててのち、その場で金一封をさし出されて驚く場面を書いた文章がある。
〔『朝日ソノラマ』昭和45年5月号〕」
(山本夏彦著「とかくこの世はダメとムダ」講談社刊 所収)