「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2014・04・26

2014-04-26 06:40:00 | Weblog


今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

新聞と執筆者の仲は、殿様と家来の仲に似ているたとい殿様が名君で腹蔵なく申せと命じても家来は言わない生殺与奪の権をにぎっている主人に、忌憚なく言えるはずがないそれでも言えと迫るのは野暮で、小利口な家来なら殿は申しぶんない名君で、ただこの一点だけと言ってとるにたらぬ欠点をあげる他の家来たちはへへーっと平伏してそれに賛意を表する。この迎合に立腹しないのが殿様というものなのである。
 こんなことを言うのは去る六月の第一日曜『NHKへの提言と期待』というテレビ番組を見たからである。名士の二、三が苦言を呈して、NHK会長がそれを拝聴するという番組である。はたして名士が忌憚なく言うふりをして、会長が耳を傾けるふりをした。それも五分や十分でなく日曜の夜九時三十五分から、えんえん十時二十分までやりとりが続いた。あまり長いのでしまいに会長は拝聴するふりするのを忘れてNHKの自慢話をはじめ、ついには値上げしたい口吻までもらした。
 新聞もNHKも共に現代の殿様だから、手下を集めて意見を徴するのであるそれが茶番であることは第三者にはすぐ分るのに、当人にはよしんばいくら利口でも分らないのである。
                                       〔Ⅰ「現代のばか殿様『NHK』」昭56・7・2〕」

(山本夏彦著「ひとことで言う‐山本夏彦箴言集」新潮社刊 所収)


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