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「ある娘通わぬ夫を待ち望み病の床で恨み節かな(娘子が夫の君を恋ふる歌一首、また、短歌)」
「美しいあなたの言葉と玉梓の手紙の使い来ぬは寂しい()」
「気病で吾アが身ひとつはちはやぶる神のせいとはいえないけれど()」
「占い師座らせ亀甲焼かないで恋でボロボロわたしのこの身()」
「つらい恋身に染みとほり肝にくる心砕けて死ぬ思いする()」
「命つき死にそうになるこの際に今更ながら呼び戻すのか()」
「たらちねの母は辻々夕占してあなたの帰り祈っていたり()」
「神頼み母は祈れる夕占ユフケにも占い問える死を待つ吾を()」
「さ丹づらふ 君が御言と 玉づさの 使も来ねば 思ひ病む 吾アが身ひとつそ ちはやぶる 神にもな負ほせ 卜部ウラベ座マせ 亀もな焼きそ 恋コホしくに 痛き吾アが身そ いちしろく 身に染みとほり むら肝の 心砕けて 死なむ命 にはかになりぬ 今更に 君か吾アを呼ぶ たらちねの 母の御言か 百モモ足らず 八十ヤソの衢チマタに 夕占ユフケにも 卜ウラにもそ問ふ 死ぬべき吾アがゆゑ(#16.3811)」
「卜部をも八十の衢も占問へど君を相見むたどき知らずも(反し歌 #16.3812)」
「占って八十衢ヤソチマタにて尋ねても君に逢いたい手段わからず()」
「吾アが命は惜しくもあらずさ丹づらふ君によりてそ長く欲りせし(或ル本ノ反シ歌ニ曰ク、#16.3813 )」
「わが命惜しくはないが美しいあなたによってと長くと欲せし(この歌を詠んですぐ死んだ〓)」
「辞世歌で車持なる娘なりほんまかいなよ恋に死ぬとは
(右伝云けらく、時ムカシ娘子有り 姓ハ車持氏ナリ。其の夫セ年を逕ヘて徃来カヨはず。時に娘子、息の緒に恋ひつつ、痾疾ヤマヒに沈臥コヤれりき。日に異ケに痩羸ミツれて、忽ち臨泉路ミマカりなむとす。ここに使を遣はして、其の夫の君を喚ぶ。来て乃ち歔欷ナゲきつつ斯の歌を口号ヨみて、登時スナワチ逝没ミマカりき)」