オスが子育てをする気になる脳の部位が見つかったという、動物実験による興味深い研究結果が報告されたので、紹介したいと思います。
人間でも、親が子育てを放棄したり子どもを虐待したり、最悪の場合殺してしまったりという事件がよく報道されます。再婚した女が連れてきた子供に対して男がそういうことをするという事例が多いように思います。こういう話を聞くと、そんなことをするやつは人間の皮をかぶった獣なんじゃないか、と思ったりします。実際、ライオンのオスはメスとつがうと、そのメスが別のオスとの間にもうけた子どもをかみ殺してしまうと言われています。しかしこういうことをするのは動物(哺乳類)の話で、人間には道徳心や利他心などの高度な脳機能があるので、子どもを虐待するのは獣なみだと思っていたわけです。今回の研究結果は、オスには子どもを攻撃する脳の部位もたしかにあるが、子どもを子育てする脳の部位もあることがわかったという発見です。これはマウスでの研究なので、ヒトを含めた哺乳類一般にあてはまる可能性があります。そして、その脳の部位というのは、高度な脳機能を司る前頭前野ではなく、情動を司る偏桃体などもある大脳辺縁系というところにあるようです。
理化学研究所(理研)脳科学総合センター親和性社会行動研究チームの黒田公美チームリーダーたちによる研究で、国際科学誌『The EMBO Journal』(9月30日付け:日本時間10月1日)に掲載されました。
下記に理化学研究所によるプレスリリース(マウスの「父性の目覚め」に重要な脳部位を発見―オスマウスの子育て意欲は2つの脳部位の活性化状態に表れる―)の短縮版を引用します。
『ほ乳類の場合、子は未発達のまま生まれてくるので、母乳を与えるなど親による子育て(養育)が欠かせません。マウスでは、メスは若い時から子の世話をすることが多く、出産時の生理的な変化によってさらに養育行動が強化されることが知られています。しかし、オスは?となると、これがなかなか複雑です。交尾をしたことがないオスマウスは、養育はせず子に対して攻撃的です。しかし、メスとの交尾・同居を経験して父親になると、自分の子ばかりか他人の子までも養育します。この「父性の目覚め」現象に関わるメカニズムの1つとして、理研の研究者はこれまでに、子の発するフェロモンを鋤鼻器という嗅覚器官で検出することが子への攻撃には必要であることと、父親マウスでは鋤鼻器の働きが抑制され、子への攻撃行動が抑えられると同時に養育を促すことを発見しています。
しかし、「父性の目覚め」現象は、鋤鼻器が退化している類人猿でも見られることから、嗅覚などさまざまな感覚入力を受けとり子への行動を決定する、より高次の脳領域に重要なメカニズムがあるのでは、と考えました。そこでまず、子を攻撃するオスマウスと養育するオスマウスを、それぞれ2時間、子と同居させることによって脳のどの部分が活性化されるかを、神経細胞の活動の指標であるc-Fosというタンパク質を使って、詳細に調べました。
その結果、攻撃をしている時は前脳にある分界条床核(BST)という部位の一部分「BSTrh」が、養育するときには内側視索前野中央部「cMPOA」が活性化していることを突き止めました。BSTrhの機能を阻害すると子への攻撃が弱まり、またcMPOAの機能を阻害すると子を養育することができなくなりました。また、“光遺伝学的手法”を使って脳内のcMPOAに光を照射し活性化すると、子への攻撃が減ることも分かりました。cMPOAは交尾によっても活性化することから、メスとの交尾・同居を経験して父親になったマウスでは、BSTrhに対しcMPOAの活動が優位になることで攻撃を抑制し、子を養育するようになる「父性の目覚め」が起きている可能性を示しました。さらに、オスマウスが子を攻撃するか、養育するかは、cMPOAとBSTrhの2つの脳部位の活性化状態を測定するだけで、95%以上の確率で推定できることも明らかになりました。cMPOAとBSTrhはマウスと霊長類でよく似ているので、今後詳細な研究を進めることで、私たち人間の父子関係をより理解し、問題解決に役立つ知識が得られるかもしれません。』
以上、引用。
私も以前は子どもにほとんど興味がなかったのですが、子どもができてからは自分の子どもをかわいいと思うだけでなく、よその子どものことも気にかかるようになりました。それは明らかな変化です。
人間でも、親が子育てを放棄したり子どもを虐待したり、最悪の場合殺してしまったりという事件がよく報道されます。再婚した女が連れてきた子供に対して男がそういうことをするという事例が多いように思います。こういう話を聞くと、そんなことをするやつは人間の皮をかぶった獣なんじゃないか、と思ったりします。実際、ライオンのオスはメスとつがうと、そのメスが別のオスとの間にもうけた子どもをかみ殺してしまうと言われています。しかしこういうことをするのは動物(哺乳類)の話で、人間には道徳心や利他心などの高度な脳機能があるので、子どもを虐待するのは獣なみだと思っていたわけです。今回の研究結果は、オスには子どもを攻撃する脳の部位もたしかにあるが、子どもを子育てする脳の部位もあることがわかったという発見です。これはマウスでの研究なので、ヒトを含めた哺乳類一般にあてはまる可能性があります。そして、その脳の部位というのは、高度な脳機能を司る前頭前野ではなく、情動を司る偏桃体などもある大脳辺縁系というところにあるようです。
理化学研究所(理研)脳科学総合センター親和性社会行動研究チームの黒田公美チームリーダーたちによる研究で、国際科学誌『The EMBO Journal』(9月30日付け:日本時間10月1日)に掲載されました。
下記に理化学研究所によるプレスリリース(マウスの「父性の目覚め」に重要な脳部位を発見―オスマウスの子育て意欲は2つの脳部位の活性化状態に表れる―)の短縮版を引用します。
『ほ乳類の場合、子は未発達のまま生まれてくるので、母乳を与えるなど親による子育て(養育)が欠かせません。マウスでは、メスは若い時から子の世話をすることが多く、出産時の生理的な変化によってさらに養育行動が強化されることが知られています。しかし、オスは?となると、これがなかなか複雑です。交尾をしたことがないオスマウスは、養育はせず子に対して攻撃的です。しかし、メスとの交尾・同居を経験して父親になると、自分の子ばかりか他人の子までも養育します。この「父性の目覚め」現象に関わるメカニズムの1つとして、理研の研究者はこれまでに、子の発するフェロモンを鋤鼻器という嗅覚器官で検出することが子への攻撃には必要であることと、父親マウスでは鋤鼻器の働きが抑制され、子への攻撃行動が抑えられると同時に養育を促すことを発見しています。
しかし、「父性の目覚め」現象は、鋤鼻器が退化している類人猿でも見られることから、嗅覚などさまざまな感覚入力を受けとり子への行動を決定する、より高次の脳領域に重要なメカニズムがあるのでは、と考えました。そこでまず、子を攻撃するオスマウスと養育するオスマウスを、それぞれ2時間、子と同居させることによって脳のどの部分が活性化されるかを、神経細胞の活動の指標であるc-Fosというタンパク質を使って、詳細に調べました。
その結果、攻撃をしている時は前脳にある分界条床核(BST)という部位の一部分「BSTrh」が、養育するときには内側視索前野中央部「cMPOA」が活性化していることを突き止めました。BSTrhの機能を阻害すると子への攻撃が弱まり、またcMPOAの機能を阻害すると子を養育することができなくなりました。また、“光遺伝学的手法”を使って脳内のcMPOAに光を照射し活性化すると、子への攻撃が減ることも分かりました。cMPOAは交尾によっても活性化することから、メスとの交尾・同居を経験して父親になったマウスでは、BSTrhに対しcMPOAの活動が優位になることで攻撃を抑制し、子を養育するようになる「父性の目覚め」が起きている可能性を示しました。さらに、オスマウスが子を攻撃するか、養育するかは、cMPOAとBSTrhの2つの脳部位の活性化状態を測定するだけで、95%以上の確率で推定できることも明らかになりました。cMPOAとBSTrhはマウスと霊長類でよく似ているので、今後詳細な研究を進めることで、私たち人間の父子関係をより理解し、問題解決に役立つ知識が得られるかもしれません。』
以上、引用。
私も以前は子どもにほとんど興味がなかったのですが、子どもができてからは自分の子どもをかわいいと思うだけでなく、よその子どものことも気にかかるようになりました。それは明らかな変化です。