大腸癌治療ガイドラインは、患者用とこの医師用が出ている。自ら患者である人の中で、知識を得たいと思う人はまず患者用を読むわけだが、もっと詳しく知りたいと思った人は、こちらの医師用を読んでもいいのではないだろうか。私は、医師ではないが、医療についてある程度は知識があって、大腸癌患者の当事者という立場である。そうした立場から、患者用を読んだ後、この医師用のガイドラインを読んでみたので感想を述べたい。
本書は専門家向けだけあって難しいが、内容的にはいちおう読めるレベルである。素人にはわからない略号がよく出てくるが、本書内には説明がないので、おそらく関連書の「大腸癌取扱い規約 第9版」などを参照しないと意味がわからないのであろう。一方で、患者用の本には書かれていない、様々な詳しい治療法が記載されている。CQ(クリニカル・クエスチョン)の項では、それぞれの病態におけるそれぞれの治療法について、エビデンスレベルと推奨度が書かれているので、その治療法がどのくらい科学的に証明されていて、「大腸癌研究会」においてどのくらい推奨されているのかがわかる。逆に、そのような記載がない治療法は、十分なエビデンスが得られていないのか、否定的なエビデンスが出ているのであろうと想像できる。ただおそらく、素人であるわれわれ患者にとっては、自分が知りたいところを中心に読むことで情報が得られれば十分だろう。全部読んだところであまり頭には入ってこないと思う。
例えば、私が個人的に知りたかったところについては、次のような記載があった。
・本ガイドラインは、文献検索で得られたエビデンスを尊重するとともに、日本の医療保険制度や診療現場の実状にも配慮した大腸癌研究会のコンセンサスに基づいて作成されており、診療現場において大腸癌治療を実践する際のツールとして利用することができる。ただし、本ガイドラインは、大腸癌に対する治療方針を立てる際の目安を示すものであり、記載されている以外の治療方針や治療法を規制するものではない。
・CQに対する推奨文には、下記の作業によって決定したエビデンスのレベル、推奨の強さが付記されている。エビデンスのレベルは、CQに関する論文を網羅的に収集し、CQが含む重大なアウトカム(効果、評価指標)に関して個々の論文が提示するエビデンスを研究デザインでグループ分けし(システマティックレビュー群、メタ解析群、無作為化比較試験群、観察研究群、・・・・)、GRADEシステムを参考にして文献レベル・エビデンス総体を評価し、最終的にCQのエビデンスのレベル(A(高)、B(中)、C(低)、D(非常に低))を決定した。上記の作業によって得られたアウトカムとエビデンスのレベルをもとに推奨文案を作成し、ガイドライン作成委員によるコンセンサス会議において推奨文案を評価し、推奨の強さを決定した(1(強い推奨)、2(弱い推奨))。
・補助放射線療法の術後照射についてー術後照射は術後6~8週までに開始することが望ましい。術後照射により局所再発は低下するが、生存率の改善をもたらさない。補助放射線療法または化学放射線療法による腸管障害の症状として、頻便、便意切迫、排便困難感、便失禁、肛門の感覚異常などがある。
・サーベイランス(監視のための検査)についてー欧米で行われたランダム化比較試験の複数のメタアナリシスにおいて、大腸癌治癒切除術後のサーベイランスが再発巣の切除率向上と予後の改善に寄与することが示されている。一方、近年の研究においてもintensiveな(集中的な)サーベイランスによる再発切除率の向上は示されているが、全生存率の改善には否定的な結果も報告されている。
・CQ1:内視鏡的切除されたpT1大腸癌の追加治療の適応基準は何か?ー大腸癌研究会のプロジェクト研究によればSM(粘膜下層)浸潤度1,000 µm以上のリンパ節転移率は12.5%であった。しかしながら、1,000 µm以深浸潤癌のすべてが追加手術の絶対適応になるわけではない。SM浸潤度1,000 µm以上であっても9割程度はリンパ節転移がないわけであり、SM浸潤度以外のリンパ節転移危険因子、個々の症例の身体的・社会的背景、患者自身の意志等を十分に考慮したうえで追加治療の適応を決定することが重要である。
・CQ18:StageⅡ大腸癌に術後補助化学療法は推奨されるか?ー行わないことを弱く推奨する(推奨度2・エビデンスレベルA)。再発高リスクの場合には補助化学療法を行うことを弱く推奨する(推奨度2・エビデンスレベルB)。
本書を読むことで、どの対応方法(治療を行うか、経過観察するかを含めて)を選ぶかを患者が決めるための情報はかなり得られたことになる。