ジュリアン・ムーア主演作に(「ブラインドネス」を始めとして,二三の例外はあるが…)駄作なし,という法則がある。と言っても,本作を観終えた当方が,勝手にかつ漠然とそんなことを思っただけの話なのだが,その似非法則でも本作に関しては「ズバリそうでしょう」と,多くの人の賛同を得られそうな気がする。「キッズ・オールライト」は,そんな風に舞い上がってしまうほどのパワーに満ち溢れている。
二人の「ママ」がいる同性夫婦と彼らから人工授精で生まれた姉弟の家族が,遺伝子上の父親と出会ってしまうことで起こるドタバタを,ドライに描いたコメディという体裁を取ってはいるが,ストレートな台詞の応酬を,達者な役者同士のレスポンスから生まれる柔らかくも繊細な空気でくるんだ,新世紀に相応しい斬新なホーム・ドラマだ。
自らも人工授精で生まれた子供を持つという監督のリサ・チョロデンコが,スチュアート・ブルムバーグと共同で書いた脚本は,勿体ぶったところのない,それでいてニュアンスに富んだ会話を,様々なシチュエーションで展開させながら,5人の感情のひだを掘り下げていく。
終盤,ニック(アネット・ベニング)がジュールス(ジュリアン・ムーア)の浮気を発見する直前に,ポール(マーク・ラファーロ)と一緒に歌うシークエンスの,ノスタルジーとスノビズムと緊張感に溢れた雰囲気も,ジョニ・ミッチェルという「くせ玉」を繰り出してくる脚本のセンスに負うところが大きい。
5人の俳優によって作り上げられたアンサンブルは,どれひとつ欠けても成り立たないパズルのような精巧さを持つ一方で,これ見よがしの技巧は抑えられ,観客は明るく力強いコンチェルトを聴いているような気分にさせられる。
今春の賞レースでは,アネット・ベニングがオスカーの主演女優賞にノミネートされ,ゴールデングローブ賞では見事に同賞を獲得しているが,本作に限っては5人揃っての食事シーンに代表される丁々発止のやり取りこそが,賞賛されるべきだろう。
カーター・バーウェルの音楽は,コーエン兄弟作の時のように魔法にかけられたような気分になる瞬間は少ないが,冒頭のレイザーが路上を疾走するシーンにヴァンパイア・ウィークエンドを選ぶ感覚も,全面的にマーク・リボーのギターをフィーチャーした音楽も,どちらも実に若々しい。
途中からテレ東「鈴木先生」のヒロインである小川さん(土屋太凰)に見えて仕方なかったミア・ワシコウスカ(「アリス・イン・ワンダーランド」とは違って,実に活き活きとしている)の未来は,これによって明るいものとなった。めでたし,めでたし。
★★★★☆
(★★★★★が最高)
二人の「ママ」がいる同性夫婦と彼らから人工授精で生まれた姉弟の家族が,遺伝子上の父親と出会ってしまうことで起こるドタバタを,ドライに描いたコメディという体裁を取ってはいるが,ストレートな台詞の応酬を,達者な役者同士のレスポンスから生まれる柔らかくも繊細な空気でくるんだ,新世紀に相応しい斬新なホーム・ドラマだ。
自らも人工授精で生まれた子供を持つという監督のリサ・チョロデンコが,スチュアート・ブルムバーグと共同で書いた脚本は,勿体ぶったところのない,それでいてニュアンスに富んだ会話を,様々なシチュエーションで展開させながら,5人の感情のひだを掘り下げていく。
終盤,ニック(アネット・ベニング)がジュールス(ジュリアン・ムーア)の浮気を発見する直前に,ポール(マーク・ラファーロ)と一緒に歌うシークエンスの,ノスタルジーとスノビズムと緊張感に溢れた雰囲気も,ジョニ・ミッチェルという「くせ玉」を繰り出してくる脚本のセンスに負うところが大きい。
5人の俳優によって作り上げられたアンサンブルは,どれひとつ欠けても成り立たないパズルのような精巧さを持つ一方で,これ見よがしの技巧は抑えられ,観客は明るく力強いコンチェルトを聴いているような気分にさせられる。
今春の賞レースでは,アネット・ベニングがオスカーの主演女優賞にノミネートされ,ゴールデングローブ賞では見事に同賞を獲得しているが,本作に限っては5人揃っての食事シーンに代表される丁々発止のやり取りこそが,賞賛されるべきだろう。
カーター・バーウェルの音楽は,コーエン兄弟作の時のように魔法にかけられたような気分になる瞬間は少ないが,冒頭のレイザーが路上を疾走するシーンにヴァンパイア・ウィークエンドを選ぶ感覚も,全面的にマーク・リボーのギターをフィーチャーした音楽も,どちらも実に若々しい。
途中からテレ東「鈴木先生」のヒロインである小川さん(土屋太凰)に見えて仕方なかったミア・ワシコウスカ(「アリス・イン・ワンダーランド」とは違って,実に活き活きとしている)の未来は,これによって明るいものとなった。めでたし,めでたし。
★★★★☆
(★★★★★が最高)