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映画「デッド・ドント・ダイ」:そしてみんなゾンビになった

2020年06月22日 21時40分13秒 | 映画(新作レヴュー)
敬愛する作家のひとりジム・ジャームッシュは,とてつもない傑作をものす一方で,平気で「 これ,どうしても撮りたかったんだね。 諒解です」という感想を観客に呟かせてしまうような作品群も,実は豊富に抱えている。その中間に位置する作品も幾つかあるが,ゾンビVS.田舎の凸凹三人組警察の,ゆるい死闘を描いた「デッド・ドント・ダイ」は,明らかに「撮りたかった。けど結果はね…」群に属する作品だ。
だが,ジャームッシュを慕う大勢の役者たちがずらっと揃ったスクリーンは,この30余年のオフ・ハリウッドの歴史を反映して,実に渋く輝いていた。

昔,暮れになるとお正月映画として東映スター総出演と銘打った「忠臣蔵」を始めとする大仕掛けの時代劇が公開されたが,「デッド・ドント・ダイ」もそのメンツだけを見ればまさに「インディペンデント・スター総出演!」と絵看板で大々的に宣伝したくなるような華やかさだ。その昔「ブロークン・フラワーズ」でジャームッシュとメジャーをつないだビル・マーレーと,今を時めくアダム・ドライヴァーを船頭に,ティルダ・スウィントンやスティーヴ・ブシェミなど「その筋」の大スターがスクリューを回し,メイクをしてないんじゃないかと思わせるイギー・ポップで笑わせ,最後は殺しても死なないトム・ウェイツで締め括る航海劇を見せられては,もう平常心での評価を超えて,「投げ銭持ってけ泥棒てやんでぇ!」的な拍手を送るだけだ。

そんな,唯々リラックスして「脳天かち割りアクション」を楽しむだけの104分の中でも,「おや?」と思わず居住まいを正してしまったのは,最初にゾンビの犠牲者となるダイナーのウェイトレスの顔を見た瞬間だった。
もしかして?と思ってクレジットをチェックしたら,やはり「エスター・バリント」その人だった。永遠のマスターピース「ストレンジャー・ザン・パラダイス」で,ハンガリーからやって来た物憂げな少女は,36年後の今も独特の輝きを放つ美しいおばさんになっていた。R-15指定のゾンビ映画で,まるで同窓会で初恋の人に再会したような甘酸っぱさを味わえるとは,死人も生き返るはずだ。

唯一残念だったのは,そのマスターピースで彼女と一緒に雪の中を彷徨ったジョン・ルーリーの姿がなかったこと。イギーと同様,メイク要らずの彼がゾンビをやっていたら,★ひとつおまけしたのに。残念。
★★★
(★★★★★が最高)

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