世界に冠たる古代ローマ帝国の繁栄の礎は,風呂にあった。しかもその設計者であるルシウス・モデストゥスは,タイムスリップによって迷い込んだ現代日本のお風呂や温泉における小さな工夫や発明を模倣することによって,ローマの浴場を発展させたのであった。
こんな大胆な着想を,眉間に深い皺を刻んだ濃い顔のローマ人と「平たい顔族」と呼ばれる大和顔の対比,という強力なフックを武器に描いた原作は,ヤマザキマリの手になるコミックだ。これを「のだめカンタービレ」の武内英樹が実写化した本作は,今年上半期NO.1の観客動員となりそうな勢いで大ヒットしている。私が観た朝一番の回も,子供からカップル,高齢者まで,実に幅広い層が,温水洗浄に身悶えする阿部寛の顔に,明るい笑い声を上げていた。実に久しぶりに,健全な映画館の姿を見たような気がした。
コミックの映画化作品としては,興行面だけでなく内容的にも話題を呼んだ「のだめカンタービレ」を上回っている。その理由は,原作の面白さにあまりアレンジを加えずに,シンプルに時空を超えた東西のカルチャー・ギャップに焦点を当てた構成もさることながら,やはり阿部寛と「平たい顔族」に扮した日本人俳優との,お風呂の温度くらいの微妙な熱気をはらんだ「対決」にある。
哲学的な悩みを抱え肩を怒らせたルシウスを,一見お湯でふやけた赤ら顔ながら,見方によっては禅的と言えなくもない諦念をも湛えた笑顔の日本人が,柔らかく受け止める図は,見ていて実に楽しい。
一人で突っ込んで,勝手に納得しているルシウスを,シリアスかつ独特の軽さで演じ切った阿部寛の上手さもさることながら,そんなルシウスに力一杯背中をこすられて「痛い,痛い」と悶絶する漫画家宅の老人の飄々とした佇まいこそ,ローマ帝国を救う切り札に見えてくる。
ただ「ルシウス対日本人および日本の風呂文化」のエピソードが続く前半部に比べると,戦闘で傷ついたローマの兵士を平たい顔族が癒すことで,帝国の平和が保たれたという展開を大々的にフィーチャーした後半部は,笑いのトーンが一気に下がる。基本的に一話(もしくは二話)読み切りの原作を映画化するにあたって,エピソードをランダムに並べるだけでは映画として成り立たないと考えた制作サイド(または脚本家の武藤将吾)の判断も分からなくもないが,いっそのこと,デ・シーカやフェリーニ等も加わって60年代にイタリアで流行したオムニバス方式に倣い,統一感や脈絡には多少目を瞑って,最後まで笑いを追求する構成にした方が,いっそすっきりしたのではという恨みは残る。
それでも家族で湯あたりせずに楽しい108分を過ごせることは保証出来る。デビュー当時から「化粧しないとやばい」と言われていた上戸彩が,半ば開き直って「平たい顔族」の代表選手として2次元的なチャーミングさを振り撒く姿が,風呂上がりのフルーツ牛乳並みに爽やかだ。
★★★
(★★★★★が最高)
こんな大胆な着想を,眉間に深い皺を刻んだ濃い顔のローマ人と「平たい顔族」と呼ばれる大和顔の対比,という強力なフックを武器に描いた原作は,ヤマザキマリの手になるコミックだ。これを「のだめカンタービレ」の武内英樹が実写化した本作は,今年上半期NO.1の観客動員となりそうな勢いで大ヒットしている。私が観た朝一番の回も,子供からカップル,高齢者まで,実に幅広い層が,温水洗浄に身悶えする阿部寛の顔に,明るい笑い声を上げていた。実に久しぶりに,健全な映画館の姿を見たような気がした。
コミックの映画化作品としては,興行面だけでなく内容的にも話題を呼んだ「のだめカンタービレ」を上回っている。その理由は,原作の面白さにあまりアレンジを加えずに,シンプルに時空を超えた東西のカルチャー・ギャップに焦点を当てた構成もさることながら,やはり阿部寛と「平たい顔族」に扮した日本人俳優との,お風呂の温度くらいの微妙な熱気をはらんだ「対決」にある。
哲学的な悩みを抱え肩を怒らせたルシウスを,一見お湯でふやけた赤ら顔ながら,見方によっては禅的と言えなくもない諦念をも湛えた笑顔の日本人が,柔らかく受け止める図は,見ていて実に楽しい。
一人で突っ込んで,勝手に納得しているルシウスを,シリアスかつ独特の軽さで演じ切った阿部寛の上手さもさることながら,そんなルシウスに力一杯背中をこすられて「痛い,痛い」と悶絶する漫画家宅の老人の飄々とした佇まいこそ,ローマ帝国を救う切り札に見えてくる。
ただ「ルシウス対日本人および日本の風呂文化」のエピソードが続く前半部に比べると,戦闘で傷ついたローマの兵士を平たい顔族が癒すことで,帝国の平和が保たれたという展開を大々的にフィーチャーした後半部は,笑いのトーンが一気に下がる。基本的に一話(もしくは二話)読み切りの原作を映画化するにあたって,エピソードをランダムに並べるだけでは映画として成り立たないと考えた制作サイド(または脚本家の武藤将吾)の判断も分からなくもないが,いっそのこと,デ・シーカやフェリーニ等も加わって60年代にイタリアで流行したオムニバス方式に倣い,統一感や脈絡には多少目を瞑って,最後まで笑いを追求する構成にした方が,いっそすっきりしたのではという恨みは残る。
それでも家族で湯あたりせずに楽しい108分を過ごせることは保証出来る。デビュー当時から「化粧しないとやばい」と言われていた上戸彩が,半ば開き直って「平たい顔族」の代表選手として2次元的なチャーミングさを振り撒く姿が,風呂上がりのフルーツ牛乳並みに爽やかだ。
★★★
(★★★★★が最高)