子供はかまってくれない

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映画「ファミリー・ツリー」:50代に突入したジョージ・クルーニーがドタドタと走るの巻

2012年06月24日 09時49分17秒 | 映画(新作レヴュー)
出世作「ER」のダグラス・ロス先生役から早18年近く。どこをどう切り取って撮っても,絵になる男ばかりを演じて来たジョージ・クルーニーが,妻が浮気をしていたことを知って慌てふためき,サンダル履きでドタドタと走る。アレクサンダー・ペインの新作「ファミリー・ツリー」は,クルーニーが初めて年齢相応の普通のおじさん役(と言ってもカメハメハ大王の子孫で,広大な土地を受け継ぐ弁護士なのだが…)を演じた作品として記憶されることだろう。ハワイのいかにも湿度の低そうな空気に響く軽やかなウクレレに乗せて綴られる,妻との別れを通して自らの人生を発見する男の物語は,陽光を浴びて熟した土地の果実(食べたことはないけれど)のような味わいだ。

たが「おじさん」とは言っても,そこはハリウッドきっての伊達男クルーニーのこと。ペインがしっかりと作り込んだシナリオ(見事にアカデミー賞脚色賞を受賞)を咀嚼した上で演じて見せるドタバタは,そこはかとない哀愁とユーモアを漂わせて,味わい深いことこの上なし。
娘二人とのギクシャクした関係に悩み,義父の厳しい叱責に耐える,仕事一筋のお父さんの姿もよいが,妻の恋人だった男の妻が,植物状態となったクルーニーの妻の見舞いに訪れるクライマックス・シーンでの,歓迎と同情とうんざり感とがないまぜになった表情の奥深さは絶品だ。

更に大きな発見は,長女役のシャイリーン・ウッドリーだ。今年21歳になる若手女優は,10代で出演したというTVシリーズで鍛えたと覚しき物怖じしないキレのある演技と弾けるような美しさで,クルーニーの渋い演技の相方という重責を十二分に果たしている。父親に反撥する一方で,母親の秘密を知って悩む前半部も上手いが,「真の父娘」を飛び越えて,父親と「家族という名のチーム」を結成して母親の浮気相手の家に乗り込む場面は,まるで高倉健と組んだ藤純子みたいだった。「マイ・レージ マイ・ライフ」の時のアナ・ケンドリックと同様に,クルーニーの背中を追いかけていくうちに,自然と空高く飛び立っていく可能性は高い。

ウェルメイドと書いたが,よく出来ている分,予定調和的な滑らかさが少し鼻につくところもある。せっかくボー・ブリッジス(いかにもハワイ人に見える絶妙のキャスティング)を起用しながらも,土地問題でのクルーニーの葛藤が盛り上がらないのも残念だった。
物語全体を掻き回すトリック・スター,シュミットの諸作で言うと「アバウト・シュミット」におけるキャシー・ベイツのような存在がいればという気がしないでもないが,それでもいつの時代にも人を惹き付けてきた「ワイハ」の魅力は,ホームドラマの枠組みの中からゆっくりと立ち上ってくる。同じ日本人でも,お正月に訪れることが義務付けられていると思われる「業界の人」ではない私は,ハワイはこれまでほとんど興味の外だったが,こんな場所なら行ってみたい。
★★★★
(★★★★★が最高)


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