ゆきたんくは一人っ子である。
親の期待も高かったのだろうなぁとは思う。
しかし、それに応えるだけの器量はなかったんだなあ。
洗濯屋の親父は厳しかった。
職人である。
白いものを指差して「俺が黒と言ったら黒なんだぞ!」
子ども心に職人というものを理解していなかったので、親父は頭が変になったんだ。とか思うこともあった。
よく、殴られたし、アイロンは投げるし、怖いこと怖いこと。
現代では考えられないだろうが、学校で体罰なんて受けたら大変。
親父「おい、お前、今日学校でしかられたんだって?」
「何発ぶたれた?」
ゆきたんく「2発・・・」
というと×2の4発ぶたれるのである。
都合の悪いことは一切告げなかったね。
そして受験に関しては
「お前は公立しか受けさせない。」
「私立なんてとんでもない。」
「落ちたら働くんだな。」
と毎日のように言われていた。
「都立1本か・・・」
ところが、秋川を受けることが本決まりとなった夕飯時・・・
親父「おい、お前。私立を受けてみないか。」
ゆきたんく「・・・・(まじ)。」
親父「受けてもいいぞ。」
ゆきたんく「・・・・(冗談じゃないよなぁ)。」
親父「3校くらい受けるか?」
ゆきたんく「・・・・(ここで受けるなんて返事をしたら、「やっぱりおまえの本音はそこかとつっこまれるかもしれない」)」
親父「まぁ、受けろよ。」
ゆきたんく「考えさせて」
本当はラッキーと思っているのに格好をつけたゆきたんくである。
まじかな、いいのかな・・・
下手に返事できないなぁ・・・
今、親になって思うけれど、一人っ子を家から出すのは心配だったのだろう。
ただ、秋川を第一志望にしていなければ、私立の話はあったか分からない。
親だって馬鹿ではないだろうから、受ける公立の合格率については計算していただろうからね。
かくして、滑り止めを受ける特典も手にして心が緩みに緩んだゆきたんくであった。
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