人生100年時代は、いつまでも健康に過ごしたい。
厚生労働省がまとめた「健康寿命延伸プラン」では、食環境が鍵とみている。
特に日本人は、減塩が大切だと指摘されている。
そもそも日本人は、どうして欧米諸国に比べて、塩分を過剰に摂取しがちなのか。
食欲の秋こそ、考えてみたい。
「餃子は、具の下味をしっかりとつけ、食べるときには、
しょうゆを使わず、酢と胡椒につけて食べています」
国民的な人気料理の焼き餃子を食べる際に、管理栄養士の緑川鮎香さんが勧める減塩法だ。
しょうゆは、塩分を多く含み、小さじ1杯で、塩分量が約1グラムとされる。
餃子の具には、生姜を多めに入れ、風味づけに酒とごま油を加えているという。
2019年の国民健康・栄養調査結果によると、食塩摂取量は1日平均で10・1グラム。
1995年は13・2グラムあり、このところ減少傾向にあるが、
欧米諸国などに比べて高い水準で、世界保健機関(WHO)が推奨する1日5グラム未満の倍以上もある。
厚労省のサイトによると、ナトリウムは、
人体に必要なミネラルの一種で、主に食塩の形で摂取される。
細胞外液の浸透圧を調節し、細胞外液量を保つなどの役割がある。
人が1日に必要とするナトリウムは600ミリグラムで、食塩相当量は1・5グラムぐらい。
「ナトリウムは食事の素材に入っており、
普段の食事で1日に食塩相当量の1・5グラムぐらいとれるので、
ナトリウムが不足することはありません」
こう指摘するのは、公衆栄養学が専門で福岡女子大学名誉教授、奈良女子大学特任教授の早渕仁美さん。
1日の塩分摂取基準として「世界保健機関(WHO)は3グラムぐらいに抑えたいが、
食生活を楽しむため、5グラムぐらいにしている」(早渕仁美さん)という。
野生の動物も、塩分を必要としており、
「1日に1~2グラムで生活している」というのは滋賀医科大学教授の三浦克之さん。
日本高血圧学会の減塩・栄養委員会委員長の三浦克之さんは
「アマゾンの先住民の摂取量は、1~2グラムぐらい」と話す。
人類は調味料などから、大量に塩分をとっていると指摘する。
塩分を過剰にとると、どうなるのか。
「高血圧との関連が、一番大きな問題。
日本人の血圧は、すごく高く、脳卒中は1960年代がピークで、死因のトップだった」(三浦克之さん)
早渕仁美さんは、寝たきり介護の6割に、高血圧の問題があると指摘する。
世界保健機関(WHO)が、食塩摂取量を1日5グラム未満に推奨しているのは
「血圧が高くなることを一番の目安にしている」(三浦克之さん)。
ただ、国際的に達成している国は、多くないとも。
日本は5年ごとの見直しで徐々に下げ、当面の目標は
男性7・5グラム、女性6・5グラム、高血圧の人で6グラムとしている。
「医学的にとりすぎ」(三浦克之さん)とされるほど、
日本人が塩分をとってしまうのは、なぜなのか。
「日本は湿気の多い風土で、冷蔵庫のない時代から、防腐の目的で、塩を使ってきた。
浸透圧による脱水作用で、塩は細菌の増殖を抑える効果がある」(早渕さん)
さらに、日本料理は、味つけなどに塩分が多く使われる。
「日本人は、文化的にしょうゆや味噌を使ってきた。
調味料として、塩は飽きることがない味。
うま味成分のグルタミン酸だけでは、おいしく感じず、適量の塩が味を引き立たせる」(同)
塩には、食品の物性を変える効果もある。
かまぼこやハムなど、塩の働きで、弾力性が出てくる。
パンや麺類は塩がないと、小麦粉のなかでグルテンが形成されず、弾力性や伸展性が出てこない。
「加工食品では、塩が重要な役割を果たしている。
日本料理は、歯ざわりも大事で、塩が大きくかかわっている」(同)
このほかにも、塩の役割は多い。
「ほうれん草などの青ものをゆでるときに、塩を入れると、酵素作用を抑制する。
りんごを切ると変色するのが、酵素作用です」(同)
普段の食生活に、塩は欠かせない。
テレビで料理番組を見ると、必ずといっていいほど、塩少々と出てくる。
少々でも、使用頻度が高い。
塩分の過剰摂取をどう抑制すればいいのか。
「減塩と同時に、カリウムの摂取を増やすことも大事」(同)。
カリウムには、ナトリウムとともに体内で、細胞の浸透圧を維持するなどの働きがあり、
腎臓でのナトリウムの再吸収を抑制し、尿への排泄を促して血圧を下げる。
例えば、塩化ナトリウムと塩化カリウムは分子構造が似ており、後者にも塩味があるという。
「食品会社では、塩化カリウムに置き換えても、変な味にならないように工夫している」(同)