のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

空のない街 / せぷさん

2006年02月18日 01時00分57秒 | 読書歴
■ストーリ
 妹を殺された一人の少年の孤独な復讐のお話。
 そんなに長くないお話ですので、興味をひかれた方は
 こちらをぜひ直接お尋ねください。
 →空のない街

■感想
 以前、こんな質問が子供から出て大人を困らせた。
 「どうして人を殺しちゃいけないの?」
 誰も明確な答えは持っていなかった。

 つい最近はこんな言葉を発して顰蹙を買った人がいた。
 「お金さえあれば、何でも買える。」
 不快感を感じた人は多かったけれど、なぜ不快感を感じたのか
 明確に伝えられる人は少なかった。

 この物語は私に訴えかけた。
 「生き延びるためには何をしてもいいの?」
 「やられたら、やりかえしていいよね?」
 「一度犯した罪は償うことができるの?」
 どれも、感情ではわかっているし、感覚では回答もできる。
 けれども、その理由や根拠は伝えられない。

 人はあいまいな価値観で生きている。
 そして、言葉にできないこと、理屈を言えないことほど
 たいせつなことが多い。
 そういうことに気づかせてくれる小説だ。

 生きていくために何でもしてきた兄妹。
 殺された妹の復讐を誓う主人公。
 復讐をしても救われないことは誰よりも主人公が実感している。
 復讐すべき相手など、本来存在しないことにも
 うすうす気づいている。
 それでも、そのことに目をつぶり、復讐に集中しなければ
 彼は生きてこれなかったのだと思う。

 人はただ生きているのではないから。
 誰かのために生きているから。
 誰かに必要とされて生きたいと願っているから。
 主人公にとって必要としてくれる相手は死んだ妹だった。
 主人公も妹のために生きていた。
 生きる理由をなくした主人公は、新たな理由が
 必要だったのだと思う。生きていくための。

 けれどティルダとその家族に会って
 彼は「光」を見てしまった。
 憎しみという闇だけでは生きられないこと
 生きていくには「光」が必要だと気づいてしまった。
 多くの人の支えによって、主人公の凍りついた心は
 ようやく解き放たれる。ようやく未来に向かって時を刻み始める。

 それが「幸せ」なのか分からない。
 他人のせいにしてきた妹の死が自分のせいだったと
 気づいた彼は 自分の抱える罪に苦しむだろう。
 ディルダという光を知ってしまった彼は、
 今まで以上に寂しさを感じるだろう。

 それでも私はこの物語をハッピーエンドだと言い切る。
 彼にとって、ではない。彼の妹、エミリーにとって。
 彼女はようやく救われたのだと思う。
 兄に理解されることによって、そして兄の心から
 復讐心がなくなることによって。

 こんなことを言うと少女趣味だと笑われるかも知れない。
 それでも私は主人公の幸せな未来を、夢物語を空想した。
 数年後。青空の広がる街で、きっと彼はティルダのもとに現れる。
 彼女は彼の生きる目的、希望だから。
 そして、ティルダも彼を受け入れる。そう思いたい。