のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

夜のピクニック/恩田陸

2006年12月02日 00時54分21秒 | 読書歴
■ストーリ
 融(とおる)と貴子が通う高校には毎秋恒例の行事があった。
 80キロの道を一晩かけて全校生徒が歩き通すのだ。高三の
 二人にとっての最後の歩行祭。そこで、貴子は融に対して
 ひとつの賭けをする。

■感想 ☆☆☆☆☆☆
読み終わった後に、思わず貸してくれた人に感謝のメールを出した。
それぐらい、読んでよかったと心から思えた。

一晩かけてただ歩くだけ。劇的な出来事は何も起こらない。
高校時代のたった一日(24時間)を追うだけのストーリーだ。
それなのに、なぜここまで気持ちが高揚するのだろう。
感動するのだろう。
胸をぎゅっとつかまれるような切なさを感じるのだろう。

私の高校では、同様のイベントは行っていない。
しかし、感じるのは狂おしいまでの懐かしさだ。
高校時代という「今」は、きっと特別なときなのに、
特別なことは何も起こらなかったと振り返る主人公。
平凡な毎日。その延長線上にある24時間ウォーキング。
24時間、ただ歩くだけ。それだけの行事なのに
終わった後には「特別な」思い出が残る。
そして、それは主人公が「平凡だった」と振り返る
高校時代もまったく同じなのだと思う。
素敵な恋をしたわけも、部活に入ったわけでもなく
特に何もしていない主人公。けれど、彼女は数年後に
この3年間をきっと懐かしく振り返る。
思い出を愛おしく抱きしめている。そう思うのだ。
それは、私自身が今、そう感じているから。
高校時代、ものすごく劇的なことはなかった。
けれども、あの3年間は私にとって特別だった。
そんなふうに自分にすんなりと置き換えて
この物語の中に入り込める作品だった。
あの頃の自分自身の思い出さえも愛おしく思い出しながら
読み進めることができた。

その一方で、学生時代という特別な時間の中で
24時間ウォーキングにぜひ参加したかった、
地味で辛くて、でも特別なイベントを満喫したかった
という羨ましい想いにもかられた。
あの頃の私がこのイベントに参加していたら
夜通し、何を考えていただろう。
朦朧とした意識の果てに、どんな明け方を迎えることができただろう。

眠る時間も惜しんで読み終えたのは本当に久しぶりで
今も思い出すだけで気分が高揚してくる。
読書ってこんなにも幸せをもたらしてくれるものなんだった、と
久々に心の底から思った一冊となった。