のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

幸せ最高ありがとうまじで/本谷有希子

2010年11月09日 21時48分24秒 | 読書歴
144.幸せ最高ありがとうまじで/本谷有希子

■ストーリ
ある新聞販売店を訪ねて来たひとりの女性。
彼女は販売店の店主と7年間も愛人関係にあると告白する。
彼女の出現で怒涛の如く吹き荒れる一家の本音と確執。

■感想 ☆☆☆*
約2時間の舞台作品の書籍化とあって、同じぐらいの時間でさくさくと
読み進められます。さくさくと読み進められるけれど、
テーマはいつもの本谷作品らしい「悪意」と「嫉妬」、
「エゴ」と「自意識」を抱えた人間たちのぶつかりあいで
読み終えた後、体内に膿がどっしりと蓄積される感じ。
「分かる」とか「共感した」とか、そういったありきたりの感想を
一切、受け付けない本谷ワールドです。
その毒気にあてられながらも、突き抜けた世界観に爽快さを感じて
読み終えました。

ヒロインの奇天烈キャラは見事。
ありがちな「トラウマ」や「心の傷」を一笑し、「それがなんなの?」
「免罪符になるの?トラウマさえあれば許されるの?」とわめき暴れる。
共感を一切必要としない、そういったキャラ設定をしているにも関わらず
彼女が抱える虚無がどこかで理解できてしまうのは、
彼女が「現代を生きる私たちの焦燥感」をデフォルメして抱えているからだろう。
「何物かでありたい。」
「世界にひとりだけの特別な存在でいたい。」
「私にしかできないことがあるはず。」
そういった価値観、願いをもっていて、
だからこそ「何もない。」ことが怖い彼女。
彼女にとっては、「何もなく生きているぐらいならば、
いっそ、辛いことや死にたくなるような出来事、
トラウマがあるほうがまだまし。」なのだ。
彼女の抱える虚無感は果てしなく、けれどどこか底が浅い。
その底の浅さこそが「痛々しさ」につながっていて、
この物語を「私たちの物語」にしている気がしてならない。

舞台化された時はヒロインを永作さんが演じられたそうです。
あー。なんかぴったり。
きっと、迫力あふれる演技で、見事にこのヒロインの狂気を
魅せたんだろうな。見たかったなー。と思いましたが、
どうやらこの舞台。チケットは即日完売だった模様。
そりゃそうだよねー。と納得しました。