旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

渓流の露天風呂と制服と比内地鶏と 花輪線を完乗!

2020-10-10 | 呑み鉄放浪記

IGRいわて銀河鉄道(旧東北本線)に乗って盛岡から6つ目、好摩駅が花輪線の起点。
ちょうど1番線と3番線に2両編成が顔をそろえた。すべての列車は盛岡始発終着なのでここは途中駅。

『ふるさとの 山に向ひて 言ふことなし ふるさとの山は ありがたきかな』
跨線橋の窓を開けると、石川啄木が朝に夕に仰ぎ見た岩手山の存在感が半端ではない。

旧東北本線から分岐した2両のディーゼルカーは八幡平の豊かな田園地帯を往く。
ボクは盛岡で仕込んだ "七福神" のスクリューキャップを切って、黄金色の田圃を眺めながら一杯。
安比高原まで唸りを上げていたエンジンも、峠を越えたのかいつの間にか軽快に坂を下っている。

 山間の小駅で途中下車、2両編成のディーゼルカーを見送ってしまうと次の列車までは3時間もの空白。
急ぐ旅ではなし、渓流のせせらぎ聴きながら、湧き出る温泉にと大自然に身をゆだねるのだ。

 駅から5分、湯瀬ホテルに伺う。宿泊客の到着までは日帰りの湯を提供してくれるのだ。
湯舟がそのまま渓谷に張り出したような露天風呂、せせらぎに耳を澄ませながら至福に浸る。

渓谷美を切り取って絵画のような半露天風呂からの眺め、木々が赤や黄に染まる頃は最高だろうな。
そっと右足を湯舟に入れると、湯面に映ったもう1枚の絵具が滲んだ。

温泉を堪能したら、ラウンジで缶ビールのリングを引く、やはり3時間の待ち合わせを少々持て余してる。

 静かな山間の駅だから、列車の接近はずいぶん速くから感じるんだね、到着の5分前くらいから。
風に乗って、山に響いて、レールを伝って、タタンタタンという走行音やピーって警笛音が届いてくる。
ずいぶん遠くまで来ている感(実際そうなんだけれど)がして、ひとり旅の醍醐味かな。

2両編成のディーゼルカーは米代川の渓谷を軽快に下る。終点の大館までこの東北第5の大河に寄り添うのだ。

やがて車窓に平地が広がると鹿角花輪に停車、反対側のホームにも2両編成が到着して上り下りが交換。
可憐な制服たちが手を振りながら、盛岡行きと大館行きに分かれて乗り込む。夏服姿も今週で見収めだ。

 鹿角花輪を出て8キロほど、それまで北へ流れていた米代川が西へとほぼ直角に流れを変える。
米代川に沿う花輪線は十和田南で不自然なスイッチバックで進行方向を変える。んっ?
どうやら鉄道が敷かれた頃は、潤っていた小坂鉱山方面へと直進する路線計画があった名残りらしい。

 秋分を過ぎたこの沿線が夜の帳に包まれるのは早い。6時ともなれば寂しさと肌寒さに包まれる。

終点ひとつ点前の東大館に降り立つ。地図で見る限り、酒場の集積は大館駅周辺よりむしろこちらの様だ。
といっても真っ暗な町並み、スナックや赤ちょうちんの灯りが点在するノスタルジックな通りを抜けていく。
やがてアーケードの蛍光灯の灯りが眩しい県道に出ると、正面に「一の酉」の紅い暖簾が現れる。

地酒はまず "刈穂 山廃純米" を。山廃ならではの超辛口をさっぱり "とりかわポン酢" をアテに愉しむ。
(地酒と言っても大曲の酒、鹿角・大館の酒は置いてなかった。ちょっと残念。)

二杯目の "福小町" は湯沢の純米吟醸酒、吟の精仕込みの限定醸造は024/300とナンバーリングしてる。
アテは "とり豆腐"、絹ごしに熱々の鶏のとろみ煮がかかって絶品、寒い季節、燗酒のお供に最高だろうな。 

さて、味は申し分ないこの店だけど、焼き方がワンオペで回っていないなぁ。ずいぶん時間がかかりそう。
ご自慢の焼き鳥やつくねは諦めて、そろそろ仕上げにかかる。

でっ〆は "比内地鶏の親子丼"、ここまで来たのだから食べておかないと。
歯応えある比内地鶏にとろっとろの玉子を絡めて口に運ぶ、噛むほどに旨味が感じられ美味。

 まだ9時前だけど、これが最終の大館行き。ただひとりを乗せて2両のディーゼルカーはラストスパート。
地方都市の夜は早い、駅前にはタクシーがぽつり1台。すでに晩秋の気配の中、花輪線の旅は終わる。
これからこれまた早い最終青森行きで弘前に向かう。明日は五能線を潰すのだ。

花輪線 好摩~大館 106.9km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
Eighteen / 松田聖子 1980