旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

海辺の露天風呂と青池と安東水軍と 五能線を完乗!

2020-10-17 | 呑み鉄放浪記

川部05:55発、始発の822Dで先ずは日本海に出会う鰺ヶ沢へと向かう。
この旅、観光列車 "リゾートしらかみ" には乗らずに、窓全開、各駅停車を乗り継いで往く。
どうやら遠くない将来、このキハ40系という国鉄時代のディーゼルカーが引退しそうなのだ。

川部駅でスタンバイ中に夜明けを迎える。
五能線は起点東能代で奥羽本線と別れ、日本海沿岸を北上し、ここ川部で再び奥羽本線と合流する。
時刻表と睨めっこした結果、どうも逆走する方が効率が良さそうだ。

朝日が岩木山を照らしはじめた。稲刈りを待つ黄金色の田圃にディーゼルカーの影が走る。
たわわに実ったリンゴ畑を包むように裾野を広げる津軽富士が美しい。

車窓に日本海がキラリと光ったらまもなく鰺ヶ沢。
06:55着。次の列車までは1時間30分、しばし漁港の町を漫ろ歩くことにする。

駅を背にして、白神山地に流れを発した中村川を渡ると海水浴場に出る。
芝生の公園、白い砂浜、凪いだ海はどこまでも穏やかで、イメージする荒波打ち寄せる日本海には程遠い。

鰺ヶ沢はほぼ1年を通して水揚げされるヒラメが名産、町は "ヒラメのヅケ丼" を名物として売り出している。
この時間の漁港はほぼ空、夜通しイカを獲ってきた集魚灯をつけた二隻だけが小さく揺れていた。 

鰺ヶ沢08:33発、沿線の各駅から通学の高校生を送り届けた2両のディーゼルカーはここから快速運転となる。

最初の景勝「千畳敷海岸」は、寛政4年(1792年)の地震により隆起して出来た岩床の海岸。
線路は割と低いところを走るので全景は掴めない。時間のある方には途中下車をお奨め。
ちなみに "リゾートしらかみ" は15分の停車時間を設定している。

赤茶けた奇岩に囲まれた行合崎海岸が見えてくると間もなく深浦駅。

閑散とした小駅を飛ばして、快速列車は十二湖駅に停車、世界遺産・白神山地のゲートウェイだ。
奥十二湖(青池)行きの路線バスまでは50分、大阪からの青年を誘ってタクシー相乗りで先を急ぐ。

路線バスの終点・奥十二湖(青池)、森の物産館キョロロから歩きだす。
すぐ左手に見える「鶏頭場(けとば)」の池、上空から見ると鶏の頭のかたちに似ているらしい。
幸運にもさざ波ひとつなく、鏡のような水面に映る白神の山が美しい。

そして神秘の池「青池」が現れる。澄んだコバルトブルーに吸い込まれそうな気になるね。

十二湖12:09発、下りの弘前行き2531Dに乗って4駅戻る。艫作(へなし)ってのも難読駅名だね。
人っ子ひとりいない無人駅から、右手に五能線全通記念碑、艫作埼灯台を見ながら下って行くと、
眼下にご存知「不老ふ死温泉」が見えてきた。一度は浸かってみたい波打ち際の露天風呂をいただく。

先ずは高台にある新館内風呂「不老ふ死の湯」へ。豊富な源泉かけ流しの茶褐色の湯が楽しい。
遮るものがない開放的な露天風呂から日本海の大海原を感じる。

そしていよいよ「海辺の露天風呂」へ、海の青と温泉の茶褐色のコラボレーションが良いね。
打ち寄せる波の音、頬を撫でる潮風、潮の香りと鉄分の匂い、日本海の景色、五感で日本海を感じる。

凍らせたジョッキで生ビールが美味しい。思わず喉が鳴る。
深浦町が推すのは "マグロステーキ丼"、本マグロの水揚量では大間を抑えて青森県ナンバーワンらしい。
天然本マグロを三種のどんぶり(刺身丼・片面焼きステーキ丼・両面焼きステーキ丼)で楽しむマグロ尽くしだ。 

艫作14:50発、東能代行き326Dが近づいてくると、線路で遊んでいたカモシカが草叢に飛び込んだ。

陸奥沢辺の駅を過ぎると、2両のディーゼルカーは海岸間際まで降りてくる。
ガンガラ穴、象岩、かんざし岩が車窓を流れると、午前中に訪れた十二湖駅に滑り込む。

日本海に傾いていく陽を眺めながら、鰺ヶ沢で仕込んだ "安東水軍 辛口本醸造" のスクリューを切る。
白神山地から湧き出た水で醸したすっきりとした淡麗辛口の酒で五能線の旅を締めくくる。

っと、大間越~岩館間の絶景ポイントで列車が停車、車掌さんの観光案内アナウンスが入る。
"リゾートしらかみ" もいいけれど、旧型ディーゼルカーが窓全開でご機嫌なのです。

 2両のディーゼルカーが平地に飛び出して、高野々浜に7機の風車が見えると旅の終わりも近い。
向能代、能代で帰宅の高校生を乗せて、屈曲する米代川に沿って大きな左カーブを描くと奥羽本線が近づく。

東能代は3番線に終着、向かい側2番線には弘前行き、跨線橋を渡って1番線には秋田行きが停車中。
いずれも2~3分の待ち合わせで乗り継ぎの便が図られている。
でっ、ボクはと云えば、旅の余韻に浸る間もなく、慌ただしく秋田行きに乗り込むのだった。

朝陽を浴びた岩木山、車窓に次から次に現れる波打ち寄せる奇岩、深浦のマグロステーキ丼、
波音を聴きながら露天風呂、神秘の青池そして "安東水軍" 、アトラクションたっぷり五能線の旅が終わる。

五能線 川部~東能代 147.2km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
風は秋色 / 松田聖子 1980