太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

バイト

2013-02-13 17:46:32 | 日記
私はあまりアルバイトの経験がない。

最初のアルバイトはお好み焼き屋で、
次が木曽御嶽の旅館、そしてずーっと歳月が流れて(流れすぎ)今の本屋だ。

美大の頃には、単発で店のメニュー書きとかはあったけれど、
こちらから出向いてまとまった日数を働く、というのはこれだけだ。
旅館のバイトもかなり強烈であったが、それはまたの機会に書くとして、今回はお好み焼き屋の話をしよう。


私が通っていた高校は校則が厳しく、アルバイトはもちろん禁止だった。
私は根が真面目な上、小心者だったから、あえて校則を破るようなことはあまりしなかった。と思う。
スカートを長くするのも(あの頃は長いのがイケていた)、
薄いカバンにも興味はなかった。
しかし、何故だかアルバイトには憧れた。
通学、勉強、部活の繰り返しの日々に飽きていたのか、理由はわからない。

何とかして先生の目を盗み、アルバイトできないものかといつも思いながら暮らしていた或る時、
通学路にあるお好み焼き屋が、バーン!と目に入った。
1回か2回入ったことがあった。店主が一人で焼いて、運ぶ人が一人いたかどうかの小さな店だ。

バーン!と劇的に目に入ったとなると、
もうそこでアルバイトするのが最高の思いつきに思えてくる。
何日か迷った挙句、私は店に入ってアルバイトとして雇ってくれないかと頼んでみた。

バイト募集の張り紙もないのに、なんでそんなことができたろう?
我が事ながら不思議である。

細かいことは忘れたが、わりとあっさり決まって、翌日の夕方から働くことになった。


意気洋々と行ったものの、そこは思ったような楽しい場所ではなかった。
………いや、働くということがわかっていないのは恐ろしいと改めて思う。

私の他に、女子大生のアルバイトがいた。
彼女はお客様のあしらいも上手だったし、大学の仲間や、顔見知りになったお客様と
とても楽しそうにしていた。
それほど年が離れているわけじゃない彼女が、すごく大人に見えた。
私は、自分の居場所がなくて辛かった。

思っていたのと違うと思いつつ、5日目。
キャベツを半分に切ろうと包丁を下ろすと、

「サク」

と妙な感触がした。
キャベツを支えていた左手の薬指の先がザックリ切れて、
取れそう、と思うと同時に気が遠くなった。


たくさん出血したから、そう見えただけで、
実際は数針縫っただけだった。
青くなったのは私よりも店主だった。
店主は、もともと神経質そうな顔をさらにヒクつかせて、私を病院に連れて行った。
私に大枚を握らせると、
「店のことはもう心配しなくていいからね。」
と言い、急いで車に戻った。


心配しなくていい、というのは、もう来なくていいというのと同じ意味だと、
今の私なら想像がつくだろうか。

かくして、私の初バイトは僅か4日で終わりを告げた。

あれから何十年。

出来上がった社会に後から入る時は、居心地がよくないのは当たり前で、

焦らず、ありのままでいれば、自然と場所ができてくる。

そんなこともわかってきた。

適度にスレて、お客様のあしらいも何とかできるようにもなった。

左手の薬指の先に、うっすら残る傷痕に気付くたび
お好み焼き屋の店主の、壁紙のように血の気の失せた顔が浮かんできて
申し訳ない気持ちになるのである。

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虫のいどころ

2013-02-13 16:07:10 | 日記
虫のいどころが悪い、という。
人には何かスイッチみたいなものがあって、条件が揃うと虫が動き出すように思う。

その条件は本人にもわからない。

自分の気分は自分で選べるなら、私はいい気分でいることを選び続けたいと思っているのだが、
それでもどうにもならないこともある。

昨夜はそんなふうだった。
平和な気分でいる時には姿もみえない、その虫が、
胃の上のあたりでモゾモゾと動き出す。
私はシーツを頭からかぶり、虫の行方を観察した。

その虫は、

[謝らせたい] と言う。

[もしくは悪いことをしたと反省させたい]と言う。

つまり私に嫌な気分をさせたことを認識してくれたら、許してやるというのだ。

虫の言い分を聞いて、呆れてしまった。

虫(つまり私)はそんなふうに思っているんだ。

いかにも腕を組み、ふんぞり返っているかのような頑なさは、滑稽ですらある。

しかし、この虫は、外から感染するわけじゃなく、私の中にある、まさに私そのものなのだ。

いい気分になるには条件がある、と威張る虫を
じっと眺めているうちに眠ってしまった。


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