太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

木曽御嶽にアホ3人 ~4~

2013-02-20 18:12:40 | 日記
木曽御嶽にアホ3人 ~1~

木曽御嶽にアホ3人 ~2~

木曽御嶽にアホ3人 ~3~




「今日から一緒に働いてくれるカネマツくんです」

大女将さんの横でヌボーッと立っていたのは、おっさん臭い全く冴えないオトコだった。

「よろしくお願いします」

と私達が挨拶しても、ニヤニヤと薄ら笑いをしているだけ。


ハンサムとか、感じがいいといった表現から1億光年も離れているくせして、
あの態度はなんだ、けしからん!と私達は憤慨した。

しかも、本来なら私達と同じで昨日来るはずだったという。
1日も遅刻じゃないか。


私達はカネマツとはあまりかかわらないようにしようと決めたのだが、
カネマツがやたらと私達に突っかかってくる。

嫌味を言うかと思えば、関係ないことをしつこくアレコレ聞いてくる。
基本的に外周りのヒョロリの手伝いをするのだが、私達の仕事をやりたがる。
気がつけば近くに来て、うろうろする。


適当にあしらったり無視したりしていたけれど、ある晩、私達の部屋までやってきた。


寝るんだから自分の部屋に戻りなさいよ、と私達が言っても
カネマツは部屋の入口に座りこんで、聞きもしないガールフレンドの話を始めた。


イライラした私達が
「アンタに彼女なんかいるわけないでしょ」
と言うと、カチンときたらしいカネマツが言った。


「オンナなんかチョロいぜ。腹ふくらましちまえばこっちのもんさ」



これには私達も寒気がした。

「変!アンタ変だよ!キモすぎ!」


3人でカネマツを追い出して、よく眠れないまま朝になり、私達は大女将さんに、腹ふくらませ事件を訴えた。


私達はアホ学生だが、一応若い未婚女性。大女将さんも心配になったのだろう。

それから2日後、

「突然ですが、カネマツくんは急用で帰ることになりました」

と大女将さんが、来た時と同じようにカネマツを隣に立たせて言った。
カネマツはふてくされた態度で、あらぬ方を睨んでいた。


「サヨナラー、彼女によろしくねー」

と言うHの肘を、Kが突ついた。

カネマツは去り、平和が戻った。





平和は戻ったが、鯉は続く。


そう、鯉なのだ。
ココの名物は鯉料理で、旦那さんが毎日豪快に鯉をさばく。
それを毎日夕食にタップリと出してくれるのだ。

生まれて初めて食べた鯉は、少し生臭さがあるけれど、まずくはなかった。
しかし、毎日食べたいものでもない。

「都会の人達には珍しいでしょー、ほらほらたくさん食べていって」

まるで親戚のおばさんのような大女将さんの人柄に、鯉を残すこともできず、
しまいには飲み込むようにして涙目で食べた。
一生に食べる鯉を、あの10日間で食べたと思う。




こうして、濃い10日間は過ぎた。


帰りは大旦那さんと大女将さんがバス停まで送ってくれた。

「あなた達みたいな娘さんが、うちに嫁に来てくれないかしらねー」

大女将さんはほがらかにそう言って笑ったが、目は笑っていなかった。
大旦那さんは、フムフムという感じでうなづいていた。

私達は盛大に笑ってごまかして、アルバイト代を押し頂き、バスに飛び乗った。


「北海道に行く前に疲れちゃったねぇ」

心なしか言葉も少なく、相変わらず暑苦しいアブラセミの声が降る中を、私達は
バスに揺られていった。


その翌年、御嶽山にいくつかスキー場ができた。
あの辺りも随分と変わったことだろう。

今だに私は、泳いでいる鯉を見ると「う…」となる。

確かめたことはないが、あとの二人も同じに違いない。



(木曽御嶽にアホ3人 終わり)


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