原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

癌をいつまでも売り物にするな

2008年04月13日 | 医学・医療・介護
 私が過去において癌を経験し一時期闘病生活を余儀なくされたことに関しては、既に本ブログの健康・医療カテゴリーのバックナンバー「癌は突然やってくる」において公開済みである。

 術後12年が経過した今、再発転移もなく私はこの通りごく普通に生きている。
ただ、癌及び周辺組織の摘出手術及びその部位をカバーするための植皮手術による手術跡は一生の置き土産として私の体に刻み付けられ、共に人生を歩み続けているのであるが。

 私の癌は体の表面に出現したため、癌の成長すなわち癌細胞の増殖が自分で手に取るように把握できていた。そのため、癌細胞の増殖スピードが急速化してから摘出手術までの期間が短く周辺組織への転移が回避できたため、大事には至らなかったお陰で予後が良好であると思われる。


 私は病気をはじめ自分や家族の“弱点”や“ハンディ”を売り物にすることを元々毛嫌いしている人間である。そのため、自分の過去の癌闘病に関しても上記のごとく、本ブログにおいて一度公開した以外は一切公表していない。

 世間を見渡すと、何とまあ、自分や家族の癌をはじめ難病克服や闘病に関する書籍やブログの多いことか。もちろん表現の自由が保障されていることだし、自己責任の範囲内で公開する分には誰からも非難される筋合いもないのであろうが。

 私が癌闘病中にある信頼できる知人から、癌闘病を綴った一冊の書籍を届けていただいたことがある。大変失礼ではあったが、私はその書籍をパラパラとページをめくっただけで、読む意思がないことを明確にお伝えしお返し申し上げた。理由は上記のごとくその種の自伝を売り物にすることを毛嫌いしていたこと、また、私は元々医学分野の仕事に従事していたために自分の癌について冷静沈着に客観的に把握できていたこと、加えて、死生観や病気に対する考え方、また置かれている立場等は人それぞれであり他者の闘病の様子が私にとって参考になりにくいと判断したためである。

 そんな私が最も毛嫌いするのは、有名人の癌をはじめ難病罹患等のマスメディアの情報である。確かに、社会で活躍中の著名人が癌に罹患したとなればニュースにはなり得るであろう。この私でも「へえ、そうなんだ。」ぐらいには受け止める。
 ところが辟易とするのは、本人自身がもう元気に復帰して通常に活躍しているにもかかわらず、いつまでもいつまでも癌闘病の過去を書籍出版等の形で売り物にすることなのだ。
 その心理がわからなくもない。生死にかかわる修羅場をくぐってきた過去は自分にとってはひとつの勲章である。その類稀な経験が今の自分の人格の一部を創り上げていると言っても過言ではないであろう。それを公表して自慢したい感覚は少しは理解できるのだが、他者の視点から見ると単なる手前味噌に過ぎず、みっともなささえ私は感じる。 有名人の場合、知名度を利用して金儲けのためにそれを売り物にしようという魂胆がみえみえだ。

 私も癌を克服した身であるから言いたいのだが、元気になったのならそれでいいではないか。癌をいつまでも売り物にするのはみっともないからやめよう。
 
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