◎漢語入り都々逸・英語まじり都々逸
昨日、久しぶりに早稲田大学講演部編『明治維新の全貌』(早稲田大学出版部、一九三五)という本を手にとってみた。中に、京口元吉〈キョウグチ・モトキチ〉による「明治時代の生活的展望」という文章(講演記録)があり、「漢語入り」の都々逸〈ドドイツ〉や「英語混り」の都々逸が紹介されていた。本日は、これを紹介してみよう。
ところで、この官員と書生とが、文明開化の本家本元は我輩ぢやとばかりに威張つたものですが、人を威す〈オドス〉のには何が何だか解らないことを言ふに限ります。田舎者や慌て者は、それだけで「あゝ豪い〈エライ〉」と感心します。そこで無闇矢鱈〈ムヤミヤタラ〉と英語や漢語を使つたものです。それが忽ち〈タチマチ〉流行致しまして、車夫馬丁から女子供までが使ひました。『やれ因循姑息〈インジュンコソク〉』だの『不開化』だの『迂遠』だの『苛刻』だの『探索する』の「傍観坐視する」の『浮名が伝播〈デンパ〉する』の『輿論〈ヨロン〉』だの『典型』だの『跋扈』だの『切歯する』だのといつたものです。英語ではビールやワインは素より〈モトヨリ〉、ランプ・ポンプ・テリガラフ(電信)、モルニング(朝)・ナイトからショルト(短い)やロング(長い)、フインゲル(指)、へール(髪)・ハツト(帽子)、ゲレート(大きい)、スモール(小さい)、ベット(寝床)、スピーキ(言葉)、スリープ(寝る)などゝ使つたものです。
ですから都々逸にまでも漢語入りや英語混りがありまして、その気障〈キザ〉なことつたら嘔吐を催すほどです。
『腹も立たうが堪忍さんせ概略わたしが跋扈〔気まま〕から』『文〈フミ〉はやれとも返事は来ない何故に〈ナゼニ〉因循姑息する〔古いしきたりにこだわる〕』
『旧弊すらりと更張したら〔あらためたら〕家業勉強するがよい』『神機妙算あの吝嗇〈リンショク〉を五円はづます謀事〈ハカリゴト〉』。
などは漢語都々逸の中から無難なものを拾つて見たのです。英語入りは無理なだけに好いのが見当らないが
『約束した日はバット〔こうもり〕と同じ、トワイライト(黄昏)を待ち兼ねる』。
『切つたリツトル(小指)待つ夜の数に入れてもエンナイト(一夜)が逢へぬとは』。
『ワインの機嫌か主人や又してもビットル(苦い)無理さへ言はさんす』。
『恋のわけ知りジユリー(陪審)に立てゝ粋な裁判して欲しい』。
などゝいふのがあります。【以下略】
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