◎日本経済新聞「大機小機」欄に異論あり
一昨日(二七日)の日本経済新聞のコラム「大機小機」は、「労働市場の失敗と政府」と題するものであった。引用してみよう。
【前略】人件費の抑制を目指すあまりに、日本企業は行き遇ぎたところまで非正規化を進めたのではないか。顧客情報が漏洩し、大きなトラブルが発生した企業を見ると、そう思えてくる。
外食チェーンの大手で長時間残業など違法な労働環境が日常化していた。「過労死ライン」とされる残業時間を上回る月100時聞を超えた残業が常態的にあり、24時聞働いたり2週間自宅に帰れなかったりした社員もいたという。これは、ビジネスモデルの名にすら値しない違法行為だ。
このように労働市場は失敗するが、そうしたときに登場しなければならないのが政府である。ブラック企業が問題になるたびに、当然のことながら経営者は指弾される。しかし、そもそもそうしたことが起きないように、法律で定められている雇用・労働に関するルールの順守をチェックするのが厚生労働省の責任であり、そのために全国321の労働基準監督署があり、3000人の労働基準監督官がいる。
見えざる手が働くためには、市場のルールが守られなくてはならない。それを担保するのは政府の役割である。問題を起こした企業には監督署が何度も「勧告」を出していたそうだ。監督署の権限が弱すぎるのである。時代の役割を終えた規制を緩和・撤廃する一方で、必要なところでは政府の権限を強化することもアベノミクスに求められる。(与次郎)
一読すると、まともな提言であるかのように思えるが、要するにこれは、労働市場の失敗を労働基準監督官の責任に帰そうという議論であって、大いに異論がある。「大機小機」欄には、ときどき、ジャーナリストの知性・理性を感じさせる文章が載ることがあるが、この文章は、それにあてはまらない。
そもそも、政府や財界、あるいは日本経済新聞などの報道機関は、ここ数十年、「規制緩和」ということを主張してきたのである。それが、特に本年になって「労働市場の失敗」が明らかになったからといって、急に労働基準監督官の責任を問い、「規制強化」を唱えるというのは、あまりに無節操というべきではないか。
右コラムでいう「ブラック企業」に該当しそうな某外食チェーンの経営者である某氏は、これまで、某学校法人の理事長となり、政府の教育再生委員に選ばれ、某市の教育委員となり、さらに、参議院議員にもなった。これらのことについて、当時、批判的な報道がなされたことは少なかった。むしろ、これを支持するかのような報道があり、これを歓迎するかのような世論があった。「ブラック企業」が、ここまではびこってしまった理由は、労働基準監督官にあるのではなく、「ブラック企業」を容認してきた政財界、マスコミ、世論にあるのではないだろうか。
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