◎NHK「二・二六事件 消された真実」を視る
原秀男は、『二・二六事件軍法会議』の「あとがきに代えて」において、「NHK特集 二・二六事件 消された真実――陸軍軍法会議秘録」という番組に言及している。この番組を私は、最初に放映された時に視聴した。その後も、数回、視聴したと思う。
最初に放映されたのは、1988年(昭和63)2月21日、その後、2004年(平成16)2月22日に、「アーカイブス」で再放送された。今日では、そのアーカイブス版が、ユーチューブによって視聴できる。
この番組の目玉は、「匂坂資料」である。二・二六事件の軍法会議で、主席検察官を務めた匂坂春平(さきさか・しゅんぺい)という陸軍法務官がいた(1883~1953)。その匂坂が残していた裁判資料が発見され、作家の澤地久枝氏が、それを整理・解読した。そうした過程を映像化したのが、「二・二六事件 消された真実」という番組である。ディレクターは、NHKの中田整一氏であった。
「匂坂資料」によって、初めて明らかになった事実は多いが、特に重要なのは、匂坂検察官が、東京警備司令官・戒厳司令官だった香椎浩平中将を、陸軍刑法第46条の辱職罪(じょくしょくざい)で起訴し、身柄を拘留しようとしていたことであろう。しかし、結果として、香椎中将は起訴されなかった。
番組では、この一件について、元陸軍法務官の原秀男に対し、男性スタッフが「もしあのとき、匂坂さんが香椎中将たちを起訴していたら、軍はどうなりますか」と質問している(質問者は、たぶん、中田整一氏)。
これに対し、原秀男は、「軍は崩壊するか……」と答えていた。
ちなみに、陸軍刑法46条の条文は、以下の通り。
第四十六条 部下多衆共同シテ罪ヲ犯スニ当リ鎮定ノ方法ヲ尽ササル者ハ三年以下ノ禁錮ニ処ス