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「母べえ」を観て     名古屋聖ステバノ教会司祭 テモテ野村 潔

2008年04月02日 21時27分51秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など
久しぶりに映画を観ました。山田洋次監督、吉永小百合主演の「母べえ」という映画です。これから観ようとする人もいると思うので、あまり詳しい内容を書くわけにはいきませんが、父べえ、母べえと呼ばれる大学教師の夫と妻、そして中学生と小学生の二人の娘の4人から成るごく普通の家族が直面したお話でした。時代は昭和10年前後の太平洋戦争前夜、日本軍が中国に侵略を始めた時代、場所は東京です。
 母べえの夫の父べえは、大学でドイツ文学か哲学を教える学者だったのですが、その著書や言動が国家に反逆していると見做され、思想犯として捕らえられ、不当に扱われ、戦争中に獄中で亡くなります。反逆と言っても何か明確な反戦運動をするということではなく、研究者の良心にしたがって、ごく普通にこの戦争について疑問を書き記した、或いはそのことを語ったぐらいの話だったと思います。
 今の時代であれば、例えば「イラク戦争は間違いだ」とか、誰だって口にするのですが、そのようなことを言ったり、考えたりするだけで捕らえられる、そのような時代でした。国家の圧力が、ごく普通の庶民の一挙一投足にも及ぶ、それが戦争というものだということを教えているように思いました。
 父べいが捕らえられたことを聞き、駆けつけてきた父べえの教え子がおりまた。その後、彼は、しばしば家に出入りするようになり、家族を支え続けました。しかし、その彼も、やがて徴兵されて、最後には戦死してしまいます。
 また、同じ東京で絵を学んでいた父べいの妹も、一生懸命、父べえの家族を支えます。しかし、戦況が厳しくなる中で絵の勉強を断念し、田舎の広島に帰ります。そこで被爆し、戦後まもなく亡くなります。身近な人々がどんどん死んでしまう。
 更に国家権力による思想統制や圧力は、庶民の間にも不信や疑心暗鬼を生じさせます。父べいの恩師は、自分の立場をまもるために、結果的に父べいの逮捕が正当であり、逮捕の責任は父べいにあると語ります。国家権力によって自分の意志を曲げざるを得ないようなことが起こるのです。その結果、お互いに信頼関係は損なわれてしまいます。このように普通に庶民生活をしていても、戦争というのは、その周りにどんどん犠牲者を生み出していくのです。
 今でも、世界の各地で戦争が起こっていますが、直接的な武力の行使による殺戮の犠牲者はもちろんですが、戦争の周辺にいるごく普通の庶民の中においても、母べえやその家族が経験したような出来事は、今でも毎日のように、このような悲しい事件が起こっています。
 イラク戦争が始まってから、この3月20日で五年目を迎えます。しかし、今も毎日のように、イラク国内のどこかで戦闘が起こり、尊い生命が失われています。イラクだけではありません。世界の各地で毎日のように、このような悲しい事件が起こっています。
 毎日どれだけ多くの人々が嘆き、悲しんでいるだろうか。母べえの家族のような体験を、どれほど多くの人々が体験し、苦しんでいるだろうか。
 戦後、何十年か経って、母べえの二人の娘たちはそれぞれ医師と美術の教師になっていました。母べえは、娘たちとその家族に見守られながら亡くなります。母べえは、最後に力を振り絞って「生きている父べえに会いたい」という言葉を残して旅立ちます。
 大きな力に踏み躙られ、大切な生命を奪われた人々が心から願うことは、奪われた生命の回復ではないでしょうか。2000年まえのあの時、悲しみにくれた人々のこの真摯な願いが、主イエスの復活への信仰へと導いたのかも知れません。
 
★筆者の「野村 潔氏」は昭和区九条の会の呼びかけ人であり、この文章は教会の通信ニュースに今月掲載されたものです。
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