早春の庭は何度見ても飽きない。今は、日に3度は眺めに出る。
東西に長い40坪ほどの庭だが、真ん中近くの大きなガラス窓から3メートルほどの正面には、2本のボケが真っ盛りだ。黒が混じった感じの深紅の一本は咲き過ぎてこの花特有の花塊ばかりを呈しているようだが、この色が好きで探し出して来たもの。左の他方は、不適切な時期に枝を払いすぎて花が少ないが、ボケとしては珍しく早く出た葉の緑の影に咲いている朱色が美しく、僕の目を吸い付ける。県営住宅で花畑係だった老人の助手のようなお手伝いをしていた幸せな小学生時代から、木瓜はずっと好きな花である。
緑の下草の間の所々に黄色の水仙やムスカリがちらほらと顔を覗かせているのも、僕にはとりわけチャーミングだ。これからの庭には、ツツジ、クチナシ、ライラックや卯木の花も見えて来るだろう。
今の庭は1年で最も良い時。それが、病気のために少々活動力を無くしている82歳の我が身には、すごい救いになっている。ちょうど、人間関係に悩んで人嫌いになった境遇が大自然を親友とする事が多いのと似ているような。こんな時の僕は思う。無宗教で神を信じない僕にとっては、自然こそ神様であるような、有り難いことだ。