前回の最後に書いたのが、「(政権首脳の)組織図とブレーン3人」。今回はこの続きとして、彼らの力関係の在り様、その流動と結果ということになる。以下の場面は、政権発足後わずか2か月あまりでバノンが凋落していくまでのことだ。トランプ大統領誕生の最大功労者にして、政権の主席戦略官が、わずか2か月で実質解任! そのちょっと前に、ホワイトハウ内幕についてこんな文書が流れていたが、大統領に次ぐ権限を持った人物が、責任を取らされたというかたちになるのだろう。
この電子メールは、この本の著者も同意する内容と言える。
政権内幕暴露メール
『四月には、当初は十数人に送信された電子メールがどんどん転送され、かなり広範囲に広まってしまった。その内容は、ゲーリー・コーンの見解を評しているとされ、ホワイトハウスのスタッフが感じた衝撃を簡潔に表現している。メールの文面にはこうある。
想像も及ばないほどひどい。まるで道化師に囲まれた愚か者だ。トランプはたった一枚のメモも、短い政策文書も、何一つ読もうとしない。世界各国の首脳との会談でも、退屈だからといって途中で席を立つ。部下も同じようなものだ。クシュナーは赤ん坊が地位を与えられたようなもので、何一つ知らない。バノンは傲慢なひどい男で、それほどでもないのに頭がいいとうぬぼれている。トランプにいたっては、もはや人間というより不愉快な性格の寄せ集めだ。一年もすれば、家族以外、誰も残っていないだろう。この仕事は嫌いだが、トランプの行動を知っているのは私だけだから、辞めるわけにもいかない。欠員が非常に多いのは、馬鹿げた“適性試験”に合格した人しか採用しないからだ。日の目を見ることのない中堅レベルの政策策定業務のポストですら、そんなことをしている。絶えずショックと恐怖にさらされる毎日だ』(P300~301)
ここに言うコーンとは、現役のゴールドマンサックス社長だった人物。ニューヨーク財界人をバックに抱え始めた娘婿クシュナーが、大統領経済補佐官としてを引き抜いてきたお人だ。クシュナー自身は、ユダヤ人で億万長者の御曹司で民主党支持者。メディア王として知られるルパート・マードックも彼のブレーンになっていた。
こうして、大統領府内の実権が、バノンや、プリーバスが代表した共和党中枢部から、クシュナー・ニューヨーク財界主流へと移っていく流れができたのである。
バノンの凋落
トランプ政権発足直後の乱暴すぎるような新移民政策は、バノンの力が示された。が、次のオバマケア問題が、バノンの最初のつまずきだったと述べられた後、こんな展開になっていく。折りしも、4月4日午前中に、シリアでの化学兵器攻撃に関する情報が、ホワイトハウスに集まってきた。
『バラク・オバマは、シリアの化学兵器攻撃に直面しても行動を起こさなかったが、いまなら行動を起こせる。限定的な対応になるだろうから、マイナスの影響はあまりない。それに、事実上アサドを支援しているロシアに対抗しているように見え、国内での受けもいいはずだ。
当時、ホワイトハウス内での影響力が最低レベルにまで下降し、辞任は時間の問題だと多くの人から思われていたバノンは、軍事的対応に反対した唯一の人間だった』(P306)
こういう事実が最後のきっかけとなって、シリア政府軍の攻撃の翌日、バノンを国家安全保障会議から外すと発表されたのである。
(あと5回は続きます)