2024年10月10日女性セブンプラス、
《アフターコロナの真実》日本国内の病院で続く厳しい基準の“面会制限”、「患者にとって不都合な環境になる」との指摘も (女性セブンプラス) - Yahoo!ニュース
「病気と闘う家族や友人の元に駆け付け、顔を見て話して、手を握って励ます──“予防”の名の下、そんな「当たり前」のことがままならない現実がある。この問題が解決しない限り、コロナ禍はいつまでも終わらない。病院の面会制限の問題について、ジャーナリストの鳥集徹氏と本誌女性セブン取材班がレポートする。
「末期がんの義母が東北地方の病院に入院しているのですが、面会できるのは緊急連絡先として登録されている義父と次女だけ。長女や、三女である私の妻は『新型コロナが流行している』という理由でいまも面会できずにいます。
義母と最後に会ったのは入院する前、夏休みの帰省中で、それが最後になるかもしれない。国内の多くの病院がいまだに厳しい基準で面会制限を設けていますが、私も当事者になってはじめて、その異常さに気づきました」
そう話すのはXなどのSNSで「内科医の端くれ」というアカウント名で発信を行う30代男性の医師Sさんだ。ここ数年の間、家族や知人が入院した人で、S医師と同じような経験をした人は多いだろう。
新型コロナウイルスが蔓延し、感染が拡大していった2020年、日本中の病院が入院患者への面会を禁止または制限した。
その根拠の1つとなったのが、厚生労働省が同年2月25日に都道府県に向けて発表した「医療施設等における感染拡大防止のための留意点について」という通達だ。そこにはこう書かれている。
《面会については、感染経路の遮断という観点から、感染の拡大状況等を踏まえ、必要な場合には一定の制限を設けることや、面会者に対して、体温を計測してもらい、発熱が認められる場合には面会を断るといった対応を検討すること》
確かに新型コロナウイルスに未知の部分が多く、致死率も高かった当初は、面会の禁止や制限は致し方なかったかもしれない。
しかし2023年5月に政府は新型コロナウイルス感染症を季節性インフルエンザと同じ「5類感染症」に位置づけ、それをきっかけに社会はほぼコロナ前の日常を取り戻した。ところが多くの医療機関や介護施設では、いまも2020年から“時が止まっている”かのように厳しい感染対策を続けている。
別掲の表を見てほしい。これは、国内の病床数が多い病院上位10施設の面会制限の状況をS医師が調べたものだ(2024年9月末時点)。国内で最大規模の藤田医科大学病院は「原則として病院が必要と認めた場合に限る」。倉敷中央病院や東北大学病院の面会時間はたったの「15分」。これでは込み入った話や相談事は、ほぼできない。
厳しい面会制限を嘆く声はXにも多数投稿されている(以下、一部抜粋・原文ママ)。
《慢性心不全で療養していた妻が昨年亡くなりました。3年間に渡り入退院を繰り返していましたがコロナで面会禁止。最後も見取りができない。深夜、病院から『呼吸が止まったので来て下さい』との電話。面会ができずに行ってしまったことが唯一の心残りです》(投稿日9月5日)
《最愛の祖父の最期にコロナという名目で会うことがかないませんでした。聡明な祖父が施設で言っていました。『コロナの人が会えないならまあわかるけど、どうしてそうじゃない人も会えんのや。じいちゃんが言うてもこんな年寄りの話は誰も聞いてくれんのや』祖父が亡くなってもう2年になります》(同9月9日)
温もりなしの入院に耐えられない
終末期だけでなく、検査や手術などで入院が必要な人の中にも制限をやめてほしいと訴える声がある。10月中旬に九州の病院に5日間入院して手術を受ける予定のMさん(40代女性)が嘆く。
「私がお世話になる病院は『コロナ流行中』との理由で面会が原則禁止です。手術前後のみ1名だけ付き添いができるものの、その後は家族ですら面会できません。荷物の受け渡しや売店の買い物などは看護師さんなどが対応してくれるそうですが、家族と会えないことが寂しくて不安です。見舞いに来てもらって、温もりを感じられるからこそ、つらい入院生活を乗り越えられるはずなのに……」
病院側にも言い分がある。Mさんが入院する予定の病院に聞いてみた。総務課の担当者が語る。
「コロナの感染状況が落ち着いていた時期には家族2名まで30分以内の面会を許可していましたが、現在は感染が拡大しているとの判断で原則禁止としました。ただし『容体が悪い』と医師が判断したかたのご家族に限って、面会を許可しています。また、直接面会できないかたは、スマホなどでビデオ通話していただくことも可能です。
当院は急性期病院なので、免疫力が低下されているかたが多数入院されています。その点をご理解いただければ幸いです」
入院患者の中には新型コロナに感染すると重症化し、亡くなる人もいる。そのことを考えれば、外部からウイルスを持ち込む恐れのある来訪者の面会に制限をかけるのは当然だという人もいるだろう。
ただ、これほど厳しい面会制限を続けている病院がこんなにも多い国は、実は日本くらいなのだ。2つ目の表は米ニューズウィーク誌が選んだ世界トップ10の病院の面会条件についてS医師が調べたものだ。
人数は「一度に2名まで」が多いが、終末期は追加可能で、時間は「制限なし」という施設がほとんど。前出のS医師が話す。
「たとえばカナダの有名病院グループUHN(ユニバーシティ・ヘルス・ネットワーク)のホームページには『治療中は、ご家族やご友人が訪問されることをおすすめします。愛する人が近くにいることで患者さんはより快適になり、回復が早まることを私たちは知っています』と書かれています。米ジョンズ・ホプキンス病院も『ケア・パートナーや面会者は、患者の治療とケアに欠かせない存在である』としています。
諸外国の病院には面会が入院患者の不安を和らげ、回復を促すのに重要だという認識が当たり前にありますが、日本の医療者はそうではない。そうした意識の差が、この国の面会制限問題の根底にあると私は思います」
もちろん感染状況は国によって違うので、海外にならって国内の病院も制限を緩めるべきだと一概には言えない。また「いまの日本の流行状況で面会制限を緩めたら、院内感染が広がるのではないか」と懸念する声も理解できる。
だが、欧米諸国で面会を制限しなかったために院内感染が広がったという話は聞こえてこない。
それにコロナ禍の日本でも、トラブルなく通常通りの面会を行ってきた病院がある。静岡市立静岡病院緩和ケア内科主任科長・血液内科科長で感染管理室室長を兼ねる岩井一也医師が証言する。
「当院では身内のかたとの面会を一律に制限や禁止したことはありません。なるべく短時間にとお願いはしていますが、午後1時から8時まで面会可能ですし、ご家族以外のかたも主治医が承諾すればご来院いただけます。臨終が近いときなどは泊まり込むこともできます。しかし、それによって明らかに院内感染が拡大したということはありません。
緩和ケア医の間で話題になる『孫モルヒネ』という言葉があります。ご家族との面会で患者さんの不安や痛みが落ち着くのです。まったく連絡が取れないよりは電話で声を聞けた方がいいし、姿が見えるビデオ通話ならなおいい。でも、家族がベッドサイドに来て、直接顔を見て触れ合うことで得られる効果はまったく別物です」
面会制限が患者の環境を悪化させる
面会制限が続くことによる人権侵害を懸念する声もある。かつて精神科病院では閉鎖病棟に患者を隔離して、家族にすら会わせずに閉じ込めるようなことが平然と行われていた。患者を社会や生活から断絶する精神医療のあり方に異を唱えてきた精神科医の高木俊介さんが話す。
「特に精神科の病院では面会は大切な人権の1つとされていますが、日本では簡単に制限されることは国際的な問題になっています。ましてや諸外国の一般科病院ですでに撤廃されている制限を、日本だけが漫然と続けている状況は、人権侵害と言わざるを得ない。
精神保健福祉法では、面会を制限した場合にはその理由を患者、家族、関係者に通知するとともに、病状に応じてできるだけ早期に面会の機会を与えるべきと規定されています。しかし、それでも面会制限によって外部と接触する機会を奪われた患者を取り巻く状況は密室的になり、その結果、虐待が横行して殺人事件も起きています。
一般科病院でも面会制限が続けば、外部の目が入りにくくなり、患者にとって不都合な環境になるのではないかと懸念しています」
面会制限は法的にも「人権侵害」と言えるのだろうか。高齢者や障害者の施設虐待の問題に取り組む矢野和雄弁護士が解説する。
「入院時、患者と家族が自由に会ってコミュニケーションを取ることは憲法上の権利の1つと言えます。一方で、院内での感染拡大を防止することが、その権利を制約する根拠の1つにならないわけではありません。ただ、すでに新型コロナが5類に位置付けられていることや、外来患者を含む医療関係者が制約なく病院内と屋外を自由に行き来している現状を鑑みると、感染拡大防止策として面会を制限することに充分な合理性があるとは考えにくく、人権侵害が行われていると言えるのではないかと思います」
患者と家族を切り離し、寂しく悲しい思いをさせてまで、いまだに国内の大半の病院が面会制限を続けている。この異様な状況が続く原因を作った厚労省はどう考えているのだろう。5類移行時、厚労省は「医療機関におけるマスク・面会について」というリーフレットで《医療機関における面会については面会の重要性と院内感染対策の両方に留意し、患者及び面会者の交流の機会を可能な範囲で確保するよう各医療機関で検討をお願いします》と呼びかけるに留まり、制限解除の通達を出すには至らなかった。この通知を出した健康局結核感染症課の広報担当者は次のように回答した。
「新型コロナウイルスが5類に移行したタイミングでホームページにも出した通り、感染対策の実施については個人・事業者の判断が基本となり、政府として一律の対応を求めることはありません。
感染対策上の必要性に加え、経済的・社会的合理性や、持続可能性の観点も考慮して取り組んでくださいということです」
面会を断るなどの対応を求めておきながら、その制限を緩和するかどうかの判断は事業者まかせで、国として責任は持たないという結論のようだ。
政府が傍観している一方で、国内でも制限を自主的に緩和する病院が出始めている。その1つが順天堂大学医学部附属順天堂医院だ。ホームページに次の記載がある。
「当院では、今まで新型コロナウイルス感染症流行状況に応じて面会制限緩和について見直しを行ってまいりましたが、2024年7月1日(月)より、面会制限をさらに緩和いたします」
面会可能時間は14~17時で事前の予約は不要。個室、多床室、デイルームいずれでも面会可能となっている。
社会が日常を取り戻す中、病院や施設の中だけが、いまだコロナ禍に取り残されているようだ。患者や家族のことを思えばこそ、一刻も早く面会制限を緩和してもらいたい。加えて筆者のもう1つの懸念は、多くの医療機関や介護施設でいまだにマスクの着用が義務付けられていることだ。
すでに多くの人が素顔で生活している中、いつまで「緊急事態」を続けるつもりなのか。その問題点を明らかにする。
(以下次号につづく)」