カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

百物語・その3

2007-08-12 17:20:36 | 百物語
其の参 橋本氏の話 

私は幽霊なんて信じていませんが、人間、疲れがたまるとへんなモノが見えるようになるんですよ。

何年前かは忘れましたがね、その頃、会社のプロジェクトの関係で地獄のような忙しさが続いたことがあったんです。もう夜討ち朝駆けなんて生易しいモノじゃなくて、数日は家に帰れないまま会社に泊まり込むような感じでした。

で、やっとの思いで家に帰れるんですが、朝よりはましと言え混み合っていて座れないまま電車の席に一時間です。仕方ないんで、吊り革に掴まったまま薄く目を閉じた状態で休んでたんですよ。うつらうつらとね。
そうしていたら、目の端にちらちらと何かが見えるんです。どうも気になったんで薄目のまま視線をそちらに向けたんです。
私の右斜め向かいに座っていた派手な身なりをした若い女性の肩に、髪を金色に染めた若い男性の首だけが乗っていました。

もちろん、隣に座っていた男性が女性の肩に自分の顎を乗せていたなんて状態ではありません。
どちらかというと、女性の肩から男の首が生えているように見えましたね。
その首は、女性に向かってぶつぶつと何事かを呟き続けていました。多分、雰囲気からすると愚痴か恨み言を繰り返していたんでしょうね。女性の方は全く気付いていない様子でしたが。

まあ、私も疲れていたし、へんなモノが見える程度にしか頭が働かなかったのですが、不意に男の首が私の視線に気付いたようにこっちを向いて、言ったんです。

「見てんじゃねーよ、オッサン」

その後ですか?なるべく刺激しないようにゆっくり離れて、別の車両に移りました。
幸いそちらの車両では席が空いていたので降りる駅まで座って仮眠を取れましたが、やっぱり疲労が溜まりすぎると人間というのはどこかでおかしくなるものだと思いました。

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