カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

場面その13

2016-09-18 19:04:33 | 松高の、三羽烏が往く道は
 てんにんご、敢えて漢字を当てるなら天人児。
 これは倉上家の屋号である『神倉』の元になった伝説から生まれた呼称で、良くある話なのかも知れないが神倉屋を興した先祖は天女を己の妻として娶ったのだそうだ。ただ通常の伝説と異なり天女は男と子を設けた後も天に還らず、地上で人としての生を全うしたと伝えられている。
「……それ以来、神倉の家には時折、あたかも天人であるかのように人並み外れた才能と幸運に恵まれた子供が生まれるようになったのですよ」
「それが圭佑ですか」
 信乃の言葉に、秀一は何故か口元を引きつらせてから答える。
「私はね、昔は自分がその『てんにんご』だと思っていたのです」
 自分で言うのも何ですが、私は昔からそこそこ出来の良い頭脳の持ち主で、更に言うなら今より遙かに愚かだったので、周囲の大人達に持て囃されていい気になっていたのですねと、秀一の言葉は続く。
 だが、そんな甘ったるく居心地の良かった世界は圭佑が産まれた事で完膚なきまでに叩き壊された。

「実は圭佑は産声を上げずに誕生し、三つになるまで全く何も喋らなかったのですよ」

 通常なら、次男とは言え商家の息子であれば決して歓迎されないそれを、しかし当時存命だった祖父は手放しで喜んだ。てんにんごは必ず五感の何処かにその『印』を宿して産まれ、先代のてんにんごだったとされる祖父の大伯母も長い間目が見えずにいたが、ある日突然千里眼に近い能力を発揮するようになったというのがその根拠だった。
「それにまあ圭佑の場合、喋れないと言っても昔からあの通り人好きのする子でしたから、てんにんごの件も含めて周囲にとても大事にされながら育ちました……私以外には、ですが」
 流石に眉を顰めた優吾の気配に気付いたのか、秀一は微かに微笑んでみせる。
「周囲の目も有りましたから別に明確な虐待を行った訳ではありませんが、なるべく早く死んで欲しいとは常に思っていましたね。てんにんごは往々にして寿命が短いと聞いていましたし、実際に大伯母も二十歳前に亡くなっていましたから」
 あまりの発言に溜まりかねたのか何事かを口にしかける優吾を軽く手で制し、信乃はその人形のように整った顔に柔らかな、だが凄惨極まりない笑みを浮かべながら断言した。
「ただし、それも『鬼隠し』に遭った貴方をあいつが……圭佑の奴が見付けるまでは、ですね?」
「ええ、その通りです」
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取引

2016-09-18 08:25:02 | 色々小説お題ったー(単語)
「黄」「噛み癖」「甘党」がテーマ

 ヤツは卵をたっぷり使ったケーキがお気に入りなので、毎年この時期になると『食わせろ』と家にやって来る。俺はケーキをテーブルに置いてからはずっと納屋に隠れているので奴がどんな風に食事をするのか見た事は無いが、翌朝にはケーキの消えた皿に奴が置いていった血石が数粒乗せられてているのだ。山で遭った俺を食おうとした奴と、俺の持っていたケーキが気に入った奴との、これは正当な取引だ。
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