カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

焼失

2016-10-06 00:18:19 | 字書きさんにお題出してみったー
たかあきさん、『百貨店』を舞台に、『茶色』と『笑顔』と『睡蓮』の内二つをテーマにして話を書いてみませんか。

 直後に俺の家が炎に包まれた理由は今になっても不明だ。従兄が何か細工をしたのか、研究施設にあった様々な蒸気機関のいずれかがトラブルを起こしたのか。とにかく俺は炎に包まれた瓦礫に肩を焼かれながらアイツを抱えて脱出するのが精一杯で、死んでしまった両親も姉夫婦も、最後まで笑顔のままだった従兄も、奴の顔を爪で抉った御嶽丸も、全てを置き去りにせざるを得なかった。
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場面その19

2016-10-06 00:10:10 | 松高の、三羽烏が往く道は
 行方不明になっていた圭佑が信乃と優吾に伴われて自宅に戻ってから数日後。
「松高の……三羽烏の往く道は、と。うん、これで良いな」
 いつものように煙草盆を傍らに置いた姿で店に座っていた秀一が、達筆とは言い難いが下手でもない癖のある筆跡で大福帳に上の句を書き付けてから、さて下の句はどうしたものかと考えていると。
「ただいま、兄ちゃん!」
 いつものように圭佑が元気良く店に入ってきて声を掛けてくる。
「ああ、お帰り圭佑」
 結局、一連の騒動は圭佑が神隠しに遭っていたと言うことになった。実際、首謀者の優香以外が泥を被らずに事を治める方法はそれしかなかった。
 ちなみに当の優香は事件発覚直後に新しい縁談が持ち込まれ、即座に東京に住む男の元に嫁いで行った。何でも彼女と親子程も年の違う、更に彼女より年上の子供が数人いる男の後妻だそうだが、相手は結構な金持ちと聞いているから玉の輿だろうし、ああいう根性の持ち主のお嬢さんなら、ひょっとしたらそんな環境でも上手いことやっていくかも知れないなどと秀一は無責任に考えている。
「そう言えば兄ちゃん、ちょっと前におれが街で立ち回りを演じた事があったろう?
 さっき、あの時に優吾が投げ飛ばした相手が女の子と一緒に歩いていたんだ」

 優吾が二人は兄妹だって言ってたけど、妹の方が……うーん、美人じゃないんだけど凄く可愛い子でさ。どうせなら兄ちゃんのお見合い相手があの子だったら良かったのにと思ったねおれは。

「おや、そんなに可愛い子だったのか?」
 秀一のロイド眼鏡に隠れた瞳が底光りするのに気付かぬまま、圭佑は無邪気にうん!と頷いてみせる。
「それなら私も色々と考えなければならないな……とにかく、夕飯だから部屋に鞄を置いてきなさい」
 わかった!と答えるなり家の奥に入っていく圭佑の背中を見送りながら、秀一は優香から取り戻した櫛を何処にしまっておいたかを思い出すことにした。



松高の、三羽烏が往く道は 其の壱 松葉の圭佑・終
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