カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

『迷子』と【寂しい】より・貯蓄と借金と分け前と略奪の果て

2015-09-16 23:08:38 | 物書きさん、お題です
 人生をやっているとなんて台詞を呟いても厭味じゃ無くなるほど長く生きたとしても、それでも躓いたり苦しんだりすることがある。
そんな時、一番やっていけないのはその苦しさを理不尽な形で他人にぶつけることだと爺ちゃんは言った。それは他人を気遣うと言うより己の将来の平穏を見据えての行為だと。

「別に今は信じなくて良いけどな、他人の気分を無駄に害しても自分の取り分が減っていくだけで本当に何の得にもならんぞ。それに『人生をやっているとなんて台詞を呟いても厭味じゃ無くなるほど』長く生きていればそのうち余裕も小狡さも出て来て、笑顔で面倒を回避できるようなるものだ」

 そんな爺ちゃんの笑顔は、良く見ると僅かながらでがあるが闇と苦みを含んでいるが故に、とても深い。 
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『子供 』と【代わり】より・人形のある光景

2015-09-15 22:06:30 | 物書きさん、お題です
 ある夫婦が一体の少女人形を大切にしていました。
 夫婦にはやがて娘が生まれて少女人形は顧みられなくなりました。
 娘はやがて両親を使用人のように扱い始め、夫婦は安らぎを少女人形に求めて娘を顧みなくなりました。

 やがて娘は全ての憤りを人形に叩き付け、壊れた人形を見付けた夫婦は激情と共に娘を包丁で刺し貫きました。

 事件を知った人は口々に『人形の祟りだ』と無責任に言い立てましたが、実際の処、少女人形は最初から最後までただの人形でしか無かったのです。
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『もういない』と【甘い】より・今はもう居ないあの人との甘い思い出

2015-09-14 23:16:17 | 物書きさん、お題です
 聞きかじった話だが、旨いものは基本的に全て甘みがあるのだそうだ。例えば上質の天然塩を舐めた際、鋭敏な味覚は砂糖とは違うほのかな甘味を感知するという。

 そういう意味では、僕にとって彼女と過ごした時間はどれだけ踏みにじられ、蔑ろにされた苦みに満ちていようと、同時に僅かながらの甘味も確かに存在した。全てが終わった今になって、ようやくそう思えるようになった。
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『約束』と【下手くそ】より・いつかはお日様のような

2015-09-11 22:08:02 | 物書きさん、お題です
 幼馴染みの彼女は昔からホットケーキが大好きで、でも自分では上手く焼けなかった。大概が焦げたり生焼けだったり、まあそう言った物体をいつだって半泣きで量産していた。だからボクは常に再加熱と焦げ落としを駆使しながらご相伴にあずかっていた。
 やがて歳月が流れ、ボクの妻となった彼女はホットケーキが焼けないと半泣きになる自分の娘に対して、『お母さんと一緒に頑張ろう』と言って得体の知れない物体を量産している。そしてボクは常に再加熱と焦げ落としを駆使しながらご相伴にあずかっているのだ。
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『プレゼント』と【笑顔】より・勝負の行方

2015-09-10 23:10:03 | 物書きさん、お題です
 相手が喜んでくれたように見えたらこちらの勝ち、そんなルールで贈り物をするのが昔からの趣味だった。
 けれど、当時付き合っていた彼は何を贈っても反応が無かった。こちらも喜んで貰おうと彼が好きなモノを調べたり直接リサーチした品物を贈ったりしたが、やはり彼は面倒くさそうに受け取るだけでお礼の言葉も無かった。それなら贈り物を使わないのかというとそうでは無く、どうやら私が贈ったと言うことをすっかり忘れているとしか思えない態度を何度も繰り返した。
 やがて彼と別れ、別の男性と結婚した私は、何を贈っても精一杯喜んでくれる夫に対して無敗記録を更新中だ。
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『雪』と【のんびり】より・大自然の驚異

2015-09-09 22:18:57 | 物書きさん、お題です
 降雪量の少ない地で生まれ育ち、降雪量の少ない地で暮らしていたある日、珍しく大雪が降った。
 郊外のショッピングモールからは人が消え、ガラガラのフードコートで呑気に食事をしてからバスに乗ろうとしたら雪が膝まで積もった。何とか最終便のバスで帰宅したが翌日は街が雪で完璧に埋もれて大騒ぎになった。
 ちなみにショッピングモールから我が家までは10キロほど離れていて、その日のうちに帰れなかったらマジで生命の危険があったと知ったのは後の話。
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『指切り』と【甘い】より・危険な蜜月

2015-09-08 23:59:27 | 物書きさん、お題です
 料理をしていた妻が包丁で指を切ったので慌てて手を取り傷を口に含んで舐めたら、その血の甘さに陶然とする。
 見境を無くしたら離婚ねと言う言葉でようやく正気に返ったが危ないところだった。

 人間に恋した吸血鬼と、吸血鬼を愛してくれながら人間で有り続ける妻、いつまでこの蜜月が続くのだろう。
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『子供 』と【飾り(る)】より・雛に寄せて

2015-09-07 22:11:46 | 物書きさん、お題です
 子供の時、兄の鯉のぼりは飾るのに私の雛人形を飾ってくれないのは不公平だと駄々をこねた時があった。
 当然ながら両親の、端午の節句は子供の日だからという言葉も受け入れずにひたすらごねまくったら、とうとう次の年の節句にお雛様が飾られることになった。嬉しくて嬉しくて、母や祖母の「お嫁に行けなくなるよ」という言葉を無視して通年飾っていたら、お陰様で現在も独り身だ。
 雛を片付けないと嫁き遅れるというのは、本来ものをきちんと仕舞えないような娘は嫁に行けないという意味合いらしいが、私の場合、己の感情と欲望に対して歯止めが利かないまま、慣習も常識も、周囲の人間の感情さえ考えずに我を張り通す性格が根本的に結婚に向いていなかったのだと思う。 
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『言葉』と【別れ】より・左様であるなら

2015-09-04 23:22:27 | 物書きさん、お題です
 貴方にそういう理由があるなら絶対に止めるのは無理だよね。
 そう言って、私は彼との恋人関係を終了した。

 理由の内容は大し事柄ではない、ただ、そういう理由で何の気なしに相手の嫌がることをやってしまうなら、それを『仕方のないこと』としか認識できないなら、それを耐えられない私に貴方との関係を続けるのは絶対に無理だと。

 後に、私はさよならの語源が『左様であるなら仕方ない』であると知った。
 だからきっと、あの別れも『仕方ないさようなら』だったのだろう。
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『指切り』と【高い】より・彼女への贈り物

2015-09-03 21:49:59 | 物書きさん、お題です
 彼女が『良いねコレ』と欲しがった指輪を買おうと僕は必死にアルバイトに励んだが、リサーチの結果、必要な予算の桁が違うと知って愕然とした。プレゼントを楽しみにしていてくれと言っておきながら大幅な予定変更を迫られた僕は、恥も外聞もかなぐり捨てて彼女に期待を裏切って済まないと謝ったら、実は彼女が欲しいと言っていたのは指輪に付いた石の方で、そんなわけで僕が予算で買える一番大きな鉱石標本をプレゼントしたら、何だか今まで見たことも無いくらい凄く喜んでくれた。
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