カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

夢の薬と悪夢の現実

2016-08-11 00:23:25 | 色々小説お題ったー(単語)
「薬」「餌付け」「はつこい」がテーマ

 新しい薬を錬成したが飲ませる相手を思い付かず、さしあたって家に来る野良猫の餌に混ぜたら効果は覿面で、とんでもないレベルの美形に姿を変えるなり甘い鳴き声を上げながら俺にまとわりついて離れなくなった。変身薬及び惚れ薬としては大成功の結果となったが、猫が雄だったので薬が切れるまで随分と哀しい事になった。
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少女の姿をした化け物の最期

2016-08-10 20:49:32 | 色々小説お題ったー(単語)
「身長」「意地っ張り」「自己防衛」がテーマ

 私の事を恐れもせず、お前がもっと大きくなったら一緒に探索に連れて行ってやるよと笑った彼は、そのまま二度と訪れなかった。だから私はいつまでも彼を待とうと外見を変えずに存在し続け、そんな私を化け物として退治に来た狩人を殺し続けた。やがてある日、彼によく似た少年の狩人が持つ護り石に気付いた私は、その石と引き替えに私の肉体を滅することにした。
 今度は本当の人間の娘として、彼と再び巡り会う為に。
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母の戦い

2016-08-09 00:07:54 | 色々小説お題ったー(単語)
「買い物」「青空」「迷宮」がテーマ
 
 ダンジョンの探索暮らしに慣れると空の見える空間がとてつもなく怖く感じられる。何しろここには区切りが無いのだ、つまり、四方八方の何処からでも襲われる可能性があるではないか。そんな言葉を単なる戯言と決めつけた母はこれ以上の問答は無用とばかりに、己の夫が留守の間に家を守る逞しい腕で、家から出ようとしない父を荷物持ちとして市場に引き摺っていった。
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甘い宝石

2016-08-08 00:18:31 | 色々小説お題ったー(単語)
「嘘つき」「十分間」「甘党」がテーマ

 誕生日に贈る輝石を調達できなかったという彼に頼むから十分だけ付き合ってくれと言われて同行したら、三十分ほど歩いた辺りでようやく目的地に着いた。そこは木苺がたわわに実る茂みで、彼にとっては秘密の穴場なのだそうだ。
 なお、持参した籠に詰めるだけの木苺を摘んで作ったジャムのうち一瓶は来月の彼の誕生日に贈った。
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モンスター始めました

2016-08-05 00:18:47 | 色々小説お題ったー(単語)
「カーテン」「白衣」「ブラック」がテーマ

 君の傷は此処に運ばれた時、通常の手段では既に手の施しようが無かったと白衣の施術士は哀しそうに言った。そして次の瞬間には実に得意そうな笑顔を浮かべて、だから手持ちの呪物を使って結合と再生を試みたと断言する。そんな訳で少しばかり異形と化し、更に計り知れぬ力を手にしたらしいオレは、取りあえず先ずは眼前の命の恩人兼憎むべき仇敵の体を使って新しい力の具合を試してみる事に決めた。
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初めてのダンジョン

2016-08-04 00:15:23 | 色々小説お題ったー(単語)
「怒らないで」「カッター」「はじめて」がテーマ

 ボクが初めて1人でダンジョンを攻略したのは八歳の時だった。と言っても実際は村の外れにある大きな生き物は何も住んでいない単なる洞窟だ。天井の狭い場所で頭をぶつけたり入り口に結びつけた紐が途中で切れたりと、子供にとってはそれなりの大冒険の末に帰還し、その成果をうっかり父に自慢したら禁止されていた探索を勝手に行った事で酷く怒られたのも良い思い出だ。
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ムッテルのハーブ

2016-08-03 01:19:14 | 色々小説お題ったー(単語)
「白」「水」「蜂蜜」がテーマ

 その白い花を乾燥させてお茶にすると、軽い風邪やお腹を壊した時に安眠を誘う薬になる。僅かに苦みの混じった林檎のような香りのするお茶に蜂蜜を垂らすと優しく品の良い飲み物となるのだ。小さい頃からしょっちゅう熱を出して床に着いていた私に、いつも母さんが心配そうにしながら作ってくれた思い出の味だ。
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嘘つきな彼女が黙り込んだ理由

2016-08-02 00:18:55 | 色々小説お題ったー(単語)
「嘘」「乾き」「愛らしい」がテーマ

 彼女は呼吸をするように罪のない嘘をつく。そこに不思議と醜さは存在しないまま、彼女の嘘はまるでこの手では掴むことの出来ない妖精の羽ばたきのように煌めいてみせる。けれどその嘘は彼女の乾きから生ずるものであり、乾きのままに嘘を重ねた結果、やがて彼女に騙されたと信じた男によって、彼女の嘘と呼吸は永久に止められた。
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若返りの泉

2016-08-01 00:23:07 | 色々小説お題ったー(単語)
「色白」「十分間」「満たされる」がテーマ

 ダンジョンの奥底にはたまに不思議な清水が湧き出ていて、その水で顔を洗うと十分間だけ肌に若かった頃の張りと艶が戻る。冷静に考えれば空しいばかりの効果ではあるがその清水を求める者は意外に多く、老婆はその水で洗った顔を鏡に映して若く美しかった頃の己の顔をつかの間取り戻したささやかな幸福感に浸るのだ。
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場面その7

2016-08-01 00:00:16 | 松高の、三羽烏が往く道は

 優吾が橋本を呼び出した数日後。
 その日の天気は上々だったので、生徒達は昼休み時間に教室を離れ中庭やホール周辺の屋外で弁当を使う者が多かったが、圭佑や信乃、それに優吾の姿もその中にあった。
 寮暮らしの優吾はホールで買った業者搬入の弁当を、他の二人はそれぞれ家から持ち込んだ弁当を敷地内の立木の枝葉をを初夏の爽やかな風が揺らす中で広げ、いつものことだが圭佑は三人の中でもひときわ嬉しそうに箸を動かす。松本でも有数の大店の息子である圭佑の弁当は量だけでなくおかずの内容もなかなかに豪華なもので、信乃などはこれだけの量の飯を日常的に喰らっている筈の圭佑が、どうして縦にも横にも伸びずに小さい躰のままなのかと疑問に思ったりするが、当然ながら口に出したりはしない。
「ああ、そう言えば二人とも、今度の日曜って何か予定あるか?」
 ふと思いだしたように尋ねてくる圭佑。
「いや、特には無いが」
「己も無い」
 信乃と優吾が答えると、圭佑はにんまりと満面の笑みを湛えてから提案してくる。
「それじゃさ、ちょっと良い料亭で一緒に昼飯なんてどうだ?」
「何かあるのか」
 今までの経験上、圭佑がこういう表情をするのは大概が碌でもない騒動の発端であると知っている信乃が一瞬だけ優吾と視線を交わし合ってから呟く。
「実はさ、うちの秀一兄ちゃんがお見合いするんだよ。でさ、父さん達には内緒でおれ達三人にご馳走してくれるって言うからさ」
「俺達三人に?」
「信乃と優吾には色々おれが世話になってるから、こう言う機会にお返しをしておきたいって兄ちゃん言ってたぜ」
「世話に、ねぇ」
 別に世話をしてやっているなどと言う気はないが、確かに圭佑と連(つる)んでいると面倒ごとに巻き込まれる頻度は相当に高い。そんなことを信乃が考えていると、同級生の一人が三人の存在に気付いたように近寄ってきて声を掛けてくる。
「おい圭佑、羽柴先生が職員室まで来いって呼んでたぞ」
 何かやったのかお前、と続く同級生の言葉に思い当たる節でもあるのか僅かに表情を引きつらせる圭佑が救いを求めるように信乃と圭佑に視線を送るが、二人は自分の弁当から視線を外すことはなかった。
「取りあえず行って来い、お前の弁当は見ていてやる」
 優吾が重々しく呟くと圭佑も観念したように立ち上がり、すぐ戻るからな!と叫ぶなり小走りでその場を駆け去って行く。
「……それにしても圭佑の兄さんが見合いとは、とうとう覚悟を決めたのかね」
 信乃の呟きに優吾も頷く。
「元々から、大店の跡取りとしての責任を果たさねばならぬ身ではあっただろうが」

 秀一兄ちゃん、何か女性が苦手なんだって。おれが小さい頃に何かあったらしいけど、詳しくは教えてくれないんだよね。

 以前、圭佑が行っていた言葉を思い出しながら頷き合う二人。圭佑の兄である秀一とは何度も会った事があるが、さすが大店の番頭を勤めるだけあって人当たりが良く、少しばかり締まりのない印象は拭えないが顔立ちも悪い方ではない。故に秀一が現在まで女性を遠ざけるに至った、圭佑の言う『昔あった何か』は相当に深刻な事件だったと容易に察することが出来た。
「まあ、わざわざ圭佑や俺達を見合い現場に、しかも親に内緒で呼びつける辺り、何かはありそうだが」
「確かにな」
 根っから坊ちゃん育ちの圭佑と違って平穏とは程遠い、はっきり言ってしまえば相当に屈折した幼少時代を送ってきた信乃は巧い話を額面通りに受け取るという習慣を持たないし、優吾は信乃とは別の意味で他人の好意に甘えるのが苦手だ。しかしそれ故に、何度か世話になっている秀一が圭佑と二人を巻き込んで何かを企んでいるというのなら、むしろ積極的に乗るべきではないかとも思えるのだった。
「とりあえず、今度の日曜か」
 信乃が呟き、応ずるように優吾が頷いてすぐ、先生との話を終えたらしい圭佑が『おれの弁当~っ!』と叫びながら二人の側に駆け戻ってくる
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