カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

文系魔術師と理系魔術師

2016-08-22 00:05:21 | 色々小説お題ったー(単語)
「財布」「茶髪」「数式」がテーマ

 その茶色い髪の魔術師は、文語的表現に呪力を込めるのではなく数式の法則性を呪言の源とする魔法を習得して己の生業としていた。メリットは詠唱の善し悪しによって術の質にばらつきが出ないこと、デメリットは相当の演算能力が必要とされる為、ごく一部の才能のある人間にしか扱えないことだそうだ。ちなみに、どちらであろうと基本的な魔術の強さや質には特に変わりが無いらしい。
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店長が視ている世界

2016-08-20 00:18:42 | 色々小説お題ったー(単語)
「ココア」「カッター」「サヨナラダケガ」がテーマ

 街道沿いのココアの美味しい店には沢山の客が訪れるが、普段は穏やかな笑顔を浮かべている店長の表情が特定のお客に対してだけ僅かに翳ることがある。そんな時の店長に何が見えたのかを尋ねても曖昧な表情のまま決して答えてくれないが、今のところ店長の表情を曇らせたお客が再び来店したことは無い。
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お兄ちゃんの青い眼

2016-08-19 01:05:29 | 色々小説お題ったー(単語)
「青」「伊達眼鏡」「はつこい」がテーマ

 子供の頃の私は隣に住むお兄ちゃんの青い眼が大好きだった。けれど、大人達はそんな青い眼を不吉な輝きだと忌み嫌い、お兄ちゃんはいつだって不格好なゴーグルでその眼を隠していた。そんなある日、サーカス団から逃げ出した魔獣と出くわした時、私を庇ったお兄ちゃんはゴーグルを外して睨み据え、その眼力だけで魔獣を屈服させた。そして数日後、お兄ちゃんは事の一部始終を見ていて酷く怯えてしまった私に何も言わぬまま、何処か遠くに引っ越して行った。
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場面その8

2016-08-18 01:24:00 | 松高の、三羽烏が往く道は
 そして日曜日。
 学生服姿で学生帽を被って黒革靴を履き、更に膝丈の袖無し外套を纏った圭佑、信乃、優吾が松本でも名のある料亭である翡翠(かわせみ)亭に到着すると、心得たように仲居が現れて三人を離れに案内してくれた。とにかく女性には愛想良くが習い性になっている信乃が笑顔で礼を言うと頬を赤らめ、それでも失礼にならないような動作でその場を去って行き、やがて料理が運ばれてくる。昼日中、しかも成人前の学生に出す膳として流石に酒は無いが、料理は川魚や季節の山菜だけでなく卵や山鯨(猪)などを使った豪勢なものだった。
「お前の兄貴、今日は随分と張り込んでくれたようだな」
 感嘆とも呆れとも付かない呟きを漏らす信乃と無言のまま料理を見詰める優吾に、圭佑が凄いだろうと嬉しそうに自慢していた頃。

 圭佑の兄、秀一は翡翠亭の中庭を見合い相手を伴って散歩していた。

*   *   *

 型通りの挨拶が終わり、あとは若いもの同士でと言うお定まりの言葉と共に大人連中が退散したあと、秀一は自分の眼前で控えめに俯いている着飾った娘を中庭に誘う。その柔らかな笑顔と穏やかな物腰に緊張がほぐれたのか、娘のほうもぎこちなく微笑みながらそれに従った。
 敷地自体はそれ程広くないのだが、巧みに配されて上手い具合に視界を覆う植木と、岩や石塔を傍らに置き石橋を渡した池の存在で実際より遙かに広く感じられる庭園を進みながら、秀一は娘に向かって話し掛ける。
「優香さん……でしたか、貴方もわたしのような年の離れた相手とお見合いとは災難でしたね」
 当然だがこの時代、自由恋愛などと言うものは存在しないに等しい。子供の結婚は親同士が決め、極端な場合は式当日までお互いの顔を知らなかったりもした。ましてや秀一のように大店の跡取りともなれば、本来なら相手は引く手あまたで年齢的には既に家庭を構えていてもおかしくはない年齢と言える。
「そんなことありませんわ!確かにお目に掛かるまではどんな方かと不安でしたけれど、想像していたよりずっと素敵な方でしたもの」
 なかなか積極的な褒め言葉に秀一が笑顔で応じると、優香は再び控えめな、しかし探るような口調で言い添える。
「でも、確かにこんな素敵な方が今までお一人だったのはとても不思議ですわ」
「昔、鬼隠しに遭ったのですよ」
 一瞬だけロイド眼鏡に隠された眼に強い光を宿しながら呟いた言葉を聞き取り損ねたのか、戸惑いの表情を浮かべる優香に、秀一は再び柔らかく微笑んでから囁いた。
「ところで素敵な櫛ですね、拝見しても宜しいですか?」
 生まれて始めて父親以外の男に、もしも接吻を求められたら逃れることの出来ないほどの間近に顔を寄せられ、優香は上気した表情で頷いてみせる。細やかな手付きで優香の髪から櫛を抜き取った秀一は、しばらくの間黙って櫛を眺めていたが、やがて優香に向き直ると櫛を手にしたまま尋ねる。
「夢二がお好きでなのすか」
 はい、と答える優香。大正浪漫のシンボルと称される当時の流行画家の作品は、美人画の他にも挿絵、商標、それに日用品のデザインなど幅広く、優香の櫛も明らかに『夢二のいちご』と呼ばれる絵柄を元に細工が施されているのが判った。秀一は手にした櫛を矯めつ眇(すが)めつ眺めやってから笑顔のまま続ける。
「実はうちの店には様々な職人の出入りがありましてね、特に修行中の若い職人は良くわたしに自分の作品を見せてくれるのですよ」
 彼の言わんとすることが判らないのか曖昧に微笑む優香に、更に言葉を重ねる秀一。
「その中に面白い男がいましてね、依頼を受けると細工物に一見では判らぬような印を入れるのが得意なのですよ」
 例えば依頼主が櫛を贈る相手の名前をローマ字で図柄に入れ込むとかね。そんな言葉に一瞬だけだが優香の表情が歪む。
「ところで、『MUTUMI』と言うのはお友達の名前ですか?」
 既に蒼白と言うべき顔色となった優香に、心底から残念そうに秀一が言葉を掛ける。
「個人的には、その外面の良さも底意地の悪さも含めて貴方のことはなかなか気に入ったのですがね。商家の人間として他人のものに手を付ける相手を伴侶に選ぶ愚は犯せないのですよ」
 迷いの無い動作で櫛を己の懐に仕舞い込み、とても残念ですと言い置いてから歩き出す秀一に、優香は追いすがることも出来ぬままに一人小刻みに震えながらその場に立ち尽くしていた。
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梟の夢

2016-08-18 00:13:01 | 色々小説お題ったー(単語)
「四つ葉」「星空」「トランス」がテーマ

 ささやかな願いなら一つだけ叶えてくれるという四つ葉のクローバーを手に星空を見上げる。ボクの願いは一つ、あの子の居る街に飛んで行きたい、それだけだ。そしてボクの姿はやがて白い梟に変わり、翼を広げ音も無く夜の闇を駆け抜けてあの街に辿り着き、灯りの消えた彼女の眠る部屋の窓辺で哀しく鳴くのだ。
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月の精霊

2016-08-17 00:21:19 | 色々小説お題ったー(単語)
 孤独な錬金術師が満月の光を凝集させて錬成し、形が崩れぬように硝子瓶に詰めた小さな精霊は、その姿に相応しい美しい歌声を披露して彼を楽しませてくれるが、次の新月には光を失い地上から消えて無くなってしまう運命にある。それでも彼は満月が来る度に精霊を錬成しては哀しい別れを繰り返すことを止めないのだ。
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貴方を待つ運命、教えます

2016-08-16 11:57:03 | 色々小説お題ったー(単語)
「カーテン」「マシュマロ」「猫かぶり」がテーマ

 天幕の中、蝋燭の光の元で色鮮やかなカードを展開してみせる占い師は、かつて師匠が彼女に何度も教えてくれた『占い師の極意』を何度も思い出しながら依頼人に言葉を掛ける。つまり占い師の託宣とは明言を避けながら依頼人自身が己の裡に秘めている解答を引き出すように仕向けるのが本来の仕事であるのだと。
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お望みの結末に

2016-08-15 00:16:56 | 色々小説お題ったー(単語)
「薬」「水」「刺」がテーマ

 一方は薬、もう一方は蒸留水。
 どちらか片方のアンプルを選んで自分の体に注射するなら今までの借金は帳消しにしてやると錬金術師が言った。片方が本当に水である保証やら薬の効果についての説明は無いのかと色々突っ込むべきだったかもしれないが、その時の俺は、ただひたすら注射は嫌だとしか考えていなかった。
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夏の休暇

2016-08-14 01:10:59 | 突発お題
青、彷徨、人知

その1
 たまには「日常」から離れた空間と品物を求めて見知らぬ町の見知らぬ店をGoogleマップ頼りに探したら、お約束のように道を見失った。途方に暮れながら偶然見付けた神社で「道を教えて下さい」と祈ったら、目と鼻の先にあったお店の看板に気付いた。神頼み最高。


その2
 ようやくたどり着いた小さなお店でキレイな色のソーダ水を頂きながら、欲しがった品物の値段を尋ねたら、あからさまに予算オーバー。ついでに他のお客さんもいらしたので泣く泣く撤退。ちなみに品物は無事に他のお客さんが引き取って行かれたらしいので、きっとそういう縁だったのだろうと思う事にする。
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修羅族の少年

2016-08-12 00:34:02 | 色々小説お題ったー(単語)
「バイク」「爪先」「シャングリラ」がテーマ

 肩に修羅族の刺青を持つ少年は、上半身に纏っていた布を脱ぎ捨てるなり疾走する荷台から軽く飛び降り、今まで彼の乗っていた馬車を追って来た盗賊団の前に一人で正面から立ち塞がった。刺青に気付かなかった盗賊団は小柄な少年と侮った彼を絡め取ろうとして瞬く間に返り討ちに遭い、彼ら盗賊が死後に行くべき世界に一人残らず送り込まれた。
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