毎週、土曜の夕方五時。
FMラジオから流れ始める、雑踏の中に響く靴音。
やがて扉を開く音とともに、賑やかな話し声にジャズ、シェーカーの音に包まれる。
そして始まる「東京一の日常会話」。
ご存じの方も多いでしょう。
21年間にわたりTFM(北海道ではAir-G’)で放送された「Suntory Saturday Waiting Bar "AVANTI"」。
放送が始まった頃は、僕はまだ大学生。
ふいに聴いたその番組の魅力に、一瞬で虜になってしまいました。
まだ「バー」と言う存在がどういうものかはもちろん、お酒の飲み方すら知らない若造は、その番組で繰り広げられる風景に憧れたものです。
バーのカウンターに座るとバーテンダーが徐に近づき、注文を聞く。
一言「いつものを」とだけ告げると、バーテンダーもまた「かしこまりました」とだけ返し、しばらくしてシェーカーを振る、甲高く心地よい音が響く。
そして、グラスの中で氷が軽やかな音を立てながら、その「一杯」が客の目前にスッと差し出される。
口にした客は「うまい」と満足げに告げると、そこから至福の時間が始まる…
番組の主な構成は、この常連客である「教授」がカウンターでお酒を楽しみながら、店内の会話に聞き耳を立てる、というものでした。
この「会話」がまた、ありとあらゆるジャンルにわたり、毎回、興味深い話ばかり。
そしてなにより、その雰囲気はまさに華やかな「大人」の世界。
自分も社会人になったら、週末にはバーで過ごしたいと思ったものです。
実際はこのラジオを流しながら、自宅で土曜の夕食を作りつつビールを飲む、と言うことが多かったのですが、長年この習慣は続き、週末の何よりの楽しみになりました。
しばらくして社会人になり、やがてバーにも通うようになりましたが、その時、このラジオで繰り広げられていた風景が自分の目前にあることに、最初はそれだけで心が躍りました。
素晴らしいバーテンダーの方々との出会いもあり、カクテルやウイスキーなどのお酒の飲み方や、その知識も色々と得ることができました。それはいまだに自分にとって大きな財産です。
そして、バーでの過ごし方、客としての立ち振舞いなどは、まさにこの番組を聴いて学んだこと。
「予習」があったからこそ、バーと言う世界に物怖じせず飛び込めたんだと思います。
札幌のススキノには、実際に "AVANTI"と名のつくバーが二軒あります。お店の経営者の方がラジオのファンで、この店名になったとか。
そのうちの一軒、「AVANTI1923」では、土曜の五時になると店内にラジオの「AVANTI」を流していました。
なので、その時間にラジオの「教授」さながらこの店のカウンターに座り、お酒を口にすれば、まるで自分もラジオの「AVANTI」の客の一人になり、一緒に店内の会話に聞き耳を立ててるような感覚になりました。
まさしく、長年憧れた世界が「現実」になった訳で、この感動は(決して大袈裟ではなく)言葉にできない位だったのです。
このお店の店長さんに、何気なく「土曜の夕方にラジオをかけたら素敵ですよね」と話したら、ご自身も同じことを考えていらっしゃったようで、しばらくして実現してくださったのですが、これには心から感謝しましたね。
このお店で、初めてラジオを聴きながら飲んだ時のお酒の味は格別でした。
最近、土曜の夕方に用事ができるようになってしまい、しばらくその時間帯にお店に行けなくなり、ラジオは録音して聴いていたんですが…
3月末をもって、ラジオの「AVANTI」はその長い歴史に幕を下ろしてしまいました。
最終回の日は東京では「パブリックリスニング」なるイベントも行われたようで、大盛況だったとか。
その日駆けつけた皆さんは、「AVANTI」を心から愛し、その世界に憧れながら大人になった方々ばかりなのではないでしょうか。
先ほど僕も、録音してあった最終回を聴き終えました。
最後に「教授」は『また週末にお会いしましょう』と告げて、「AVANTI」を去っていきました。
お店も、「AVANTI」での時間も続いていく、というメッセージ。
21年間、聴き続けた番組が終わる寂しさはもちろんありましたが、僕に大人の世界を教えてくれたことへの感謝の気持ちも大きかったです。
そして。
果たして自分は、21年前に憧れた「大人」になれているのか。
聴き終えてから考えましたが、それはまだわかりませんでした。
けれども、いつの日か仙台坂の上で、その答えが見つかるのかもしれませんね。
「AVANTI」に集った、全ての人々に感謝を。
FMラジオから流れ始める、雑踏の中に響く靴音。
やがて扉を開く音とともに、賑やかな話し声にジャズ、シェーカーの音に包まれる。
そして始まる「東京一の日常会話」。
ご存じの方も多いでしょう。
21年間にわたりTFM(北海道ではAir-G’)で放送された「Suntory Saturday Waiting Bar "AVANTI"」。
放送が始まった頃は、僕はまだ大学生。
ふいに聴いたその番組の魅力に、一瞬で虜になってしまいました。
まだ「バー」と言う存在がどういうものかはもちろん、お酒の飲み方すら知らない若造は、その番組で繰り広げられる風景に憧れたものです。
バーのカウンターに座るとバーテンダーが徐に近づき、注文を聞く。
一言「いつものを」とだけ告げると、バーテンダーもまた「かしこまりました」とだけ返し、しばらくしてシェーカーを振る、甲高く心地よい音が響く。
そして、グラスの中で氷が軽やかな音を立てながら、その「一杯」が客の目前にスッと差し出される。
口にした客は「うまい」と満足げに告げると、そこから至福の時間が始まる…
番組の主な構成は、この常連客である「教授」がカウンターでお酒を楽しみながら、店内の会話に聞き耳を立てる、というものでした。
この「会話」がまた、ありとあらゆるジャンルにわたり、毎回、興味深い話ばかり。
そしてなにより、その雰囲気はまさに華やかな「大人」の世界。
自分も社会人になったら、週末にはバーで過ごしたいと思ったものです。
実際はこのラジオを流しながら、自宅で土曜の夕食を作りつつビールを飲む、と言うことが多かったのですが、長年この習慣は続き、週末の何よりの楽しみになりました。
しばらくして社会人になり、やがてバーにも通うようになりましたが、その時、このラジオで繰り広げられていた風景が自分の目前にあることに、最初はそれだけで心が躍りました。
素晴らしいバーテンダーの方々との出会いもあり、カクテルやウイスキーなどのお酒の飲み方や、その知識も色々と得ることができました。それはいまだに自分にとって大きな財産です。
そして、バーでの過ごし方、客としての立ち振舞いなどは、まさにこの番組を聴いて学んだこと。
「予習」があったからこそ、バーと言う世界に物怖じせず飛び込めたんだと思います。
札幌のススキノには、実際に "AVANTI"と名のつくバーが二軒あります。お店の経営者の方がラジオのファンで、この店名になったとか。
そのうちの一軒、「AVANTI1923」では、土曜の五時になると店内にラジオの「AVANTI」を流していました。
なので、その時間にラジオの「教授」さながらこの店のカウンターに座り、お酒を口にすれば、まるで自分もラジオの「AVANTI」の客の一人になり、一緒に店内の会話に聞き耳を立ててるような感覚になりました。
まさしく、長年憧れた世界が「現実」になった訳で、この感動は(決して大袈裟ではなく)言葉にできない位だったのです。
このお店の店長さんに、何気なく「土曜の夕方にラジオをかけたら素敵ですよね」と話したら、ご自身も同じことを考えていらっしゃったようで、しばらくして実現してくださったのですが、これには心から感謝しましたね。
このお店で、初めてラジオを聴きながら飲んだ時のお酒の味は格別でした。
最近、土曜の夕方に用事ができるようになってしまい、しばらくその時間帯にお店に行けなくなり、ラジオは録音して聴いていたんですが…
3月末をもって、ラジオの「AVANTI」はその長い歴史に幕を下ろしてしまいました。
最終回の日は東京では「パブリックリスニング」なるイベントも行われたようで、大盛況だったとか。
その日駆けつけた皆さんは、「AVANTI」を心から愛し、その世界に憧れながら大人になった方々ばかりなのではないでしょうか。
先ほど僕も、録音してあった最終回を聴き終えました。
最後に「教授」は『また週末にお会いしましょう』と告げて、「AVANTI」を去っていきました。
お店も、「AVANTI」での時間も続いていく、というメッセージ。
21年間、聴き続けた番組が終わる寂しさはもちろんありましたが、僕に大人の世界を教えてくれたことへの感謝の気持ちも大きかったです。
そして。
果たして自分は、21年前に憧れた「大人」になれているのか。
聴き終えてから考えましたが、それはまだわかりませんでした。
けれども、いつの日か仙台坂の上で、その答えが見つかるのかもしれませんね。
「AVANTI」に集った、全ての人々に感謝を。