’08/05/01の朝刊記事から
ミャンマーのデモ主導 タイ逃亡の僧侶
軍政寄り憲法案に怒り
10日国民投票 貧しい国民 内容知らぬ
【メソト(タイ西部)30日斎藤正明】新憲法案の賛否を問う国民投票を10日に控えたミャンマーで昨年9月の反政府デモを主導した僧侶たちの中には、国境を超えてタイに逃れてきた人たちが少なくない。
「国民が貧しさにあえいでいるのを見過ごせずにデモをした」と語る彼らは今、軍事政権の追求におびえながらも、軍政寄りの新憲法案への不満を隠さない。
「デモに参加した僧侶たちは、大半が国外に逃げた」。
モエイ川をはさんでミャンマーと接するタイ西部メソト。
木造の質素な民家が並ぶマチの郊外の寺院に身を隠す僧侶ピアニーサーミーさん(32)は、不安そうな表情で語る。
ミャンマー西部アラカン州でデモに参加。
昨年9月下旬に軍政の弾圧が始まると、一緒に行動した僧侶たちは次々に逮捕されていった。
12月に国外脱出を決意、1ケ月かけてメソトにたどり着いた。
一般市民と同じ服装に着替えてバスを乗り継ぎ、細心の注意を払っての逃避行だった。
かくまってもらう寺院には、同じようにミャンマー全土から逃げてきた僧侶が20人以上暮らす。
最大都市ヤンゴンでデモに参加したケサリンダさん(31)は、日本人カメラマン長井健司さん=当時(50)=が射殺された現場に居合わせたという。
「座り込みを続けていたら、兵士を乗せたトラックが10台ほどやって来て突然、発砲が始まった。長井さんと私の距離は数メートルしか離れていなかった」
必死の思いで逃げてきた僧侶たちにとって、ここも安住の地ではない。
ソメトは人口の8割がミャンマー人といわれ、不法入国者も絶えない。
「自分たちを探りに来たスパイが紛れ込んでいないかと、神経をすり減らす日々です」
ジェニーダさん(32)はそう話す。
2月中旬には少数民族の反軍政組織「カレン民族同盟」の幹部がメソト市内で射殺された。
これを機に、数カ所に分かれて隠れていた僧侶たちは、安全確保のため国境から最も遠い寺に集まった。
僧侶たちは反軍政活動を続けるために全員が米国移住を希望、すでに5人が渡った。
新憲法案は、国会議員の4分の1を軍人に当てるなど軍部の権益維持を保障する内容で、米国などは強く非難している。
ミャンマー国内では国営テレビや新聞を通じ、賛成投票を呼びかける大キャンペーンが行われている。
「新憲法案は、軍政が生き延びるための道具でしかない。国民は内容について何も知らされていない。新聞を買うカネさえない人が大勢いるのです」
僧侶たちは口々に軍政に対する怒りを訴えた。