今日のひとネタ

日常ふと浮かんだことを思いのままに。更新は基本的に毎日。笑っていただければ幸いです。

財津和夫 人生はひとつ でも一度じゃない/川上雄三

2023年02月09日 | ブックレビュー

 

 妙なタイトルの本ですが、これはかの財津和夫さんの曲名から。この本は集英社新書ですが、NHKのドキュメンタリー「ザ・ヒューマン」という番組で財津さんを取り上げた際に行ったインタビューを、その担当ディレクターが全面改稿したというものです。

 私はチューリップにも財津さんにも詳しくないのですが、人としての財津さんには関心があるので「財津和夫の現在を描く決定版的一冊」と言われるとつい買ってしまいました。

 財津さんというと、ビートルズに強烈な影響を受けたサウンド志向の人という印象でしたが、近年は地元福岡のホテルで一般を対象にした作詞講座を開講したりしたそうです。もちろん、要請があって引き受けたわけですが、一般の人が書く詞に財津さん本人も大きく刺激を受けたようですね。

 あとは、あれだけの人でありながら新曲を1曲作るのにすごく丁寧に、とにかく言葉の一つ一つを選びながら相当苦労してたというのが印象的でした。この辺は、本のカバーにあるように「癌や更年期障害を乗り越え、サウンド志向だった過去の自分から脱却し、詞の重要性に目覚めて…」ということかもしれません。

 こちらは昨年出たばかりの本なので、それこそ財津さんの今がわかるとともに、序盤はアマチュア時代からチューリップがデビューした頃の話もあったりで、私のようなものにとっては入門書として最適でした。

 個人的にはもっとボリュームがあってもいいかと思うのですが、そこは財津さんのインタビューを基にしてるので、ご本人が饒舌なわけではないのでしょう。そのテレビ番組は見てなかったのですが、この本は面白かったです。興味のある方は是非どうぞ。


2022年 今年読んだ本

2022年12月31日 | ブックレビュー

 読書マウントをとろうというわけではありません。何しろ今年は27冊ですし。調べてみたら、昨年は39冊、一昨年は64冊でした。一昨年はステイホームで本を読む時間が多かったし、今年はちょいと仕事で色々覚えることもあったためなんて言い訳しててもしょうがないので、来年はもっと頑張ります。体のトレーニングをすると筋肉がつきますが、ちゃんと読書をすると脳みそが豊かになりますので。

 ということで、今年読んだ本は以下の通り。

元気です/春一番(再)
定年前、しなくていい5つのこと~「定年の常識」にダマされるな!~ /大江 英樹
甲斐バンド40周年「嵐の季節」/石田伸也(再)
濱田マリの親子バトル/濱田マリ
ハコバン70'/稲垣潤一(再)
かだっぱり/稲垣潤一
名著の話/伊集院光
変身/カフカ(再)
罪の轍/奥田英朗
14歳から考えたいアメリカの奴隷制度/ヘザー・アンドレア・ウィリアムズ
人生教習所/垣根涼介
危機と人類(上・下)/ジャレド・ダイヤモンド
三島由紀夫と楯の会事件/保阪正康
ザ・タイガース 世界は僕らを待っていた/磯前順一(再)
マトリ/瀬戸晴海
50歳から男振りを上げる人 アツい仕事と人生の選び方/田中和彦
グループサウンズ文化論/稲増龍夫
さとうきび畑の風に乗って/BEGIN
嘘みたいな本当の話はだいたい嘘/ロマン優光
事実はなぜ人の意見をかえられないのか/ターリ・シャーロット
あの戦争はなんだったのか/保阪正康
マルクスの逆襲/三田誠広(再)
上を向いて歩こう/佐藤剛
ネオンサインと月光仮面/佐々木守
流星ひとつ/沢木耕太郎
13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海/田中孝幸
ドリフターズとその時代/笹山敬輔


 (再)とついてるのは、前にも読んだことがある本。今年は、Twitterなどで書評を見かけたり知り合いが紹介した本を読むこともちょくちょく。そして、伊集院光さんの「名著の話」を読んでカフカの「変身」をまたちゃんと読んでみたくなったり、私としては新しい読書の形もありました。

 結局、例年のごとくタレント本とか芸能関係の本が多いわけですが、違う系統として「14歳から考えたいアメリカの奴隷制度」、「危機と人類」、「13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海」などにも手を伸ばしてみましたが、どれも勉強になりました。

 芸能関係では、最近読んだ「上を向いて歩こう」「流星ひとつ」「ドリフターズとその時代」の三冊がすごく面白くて、いわゆる読み始めたら止まらない感じでした。来年もそういう本を探したいと思う次第です。

 自分の読んだ本を公開するのは、脳みその中身を晒してるようなものなのでためらいもありますが、まあ「わしゃこういう男よ」ということで。ちなみに、今は就職の面接で「最近読んだ本は?」とか聞くのはNGだそうです。いろいろややこしい世の中ですね。


ドリフターズとその時代/笹山敬輔

2022年12月26日 | ブックレビュー

 

 文春新書で今年6月に発売なので、結構新しい本です。著者は演劇研究者ということなので、「日本人にとってドリフとは何だったのかを明らかにするために、一つの軸として演劇史の視点を導入したい」そうですが、それはそれとして膨大な資料に当たっての執筆で、私としてはこれまで読んだドリフ関係の本では一番面白かったです。

 本書のカバーには「視聴率50%を超えたお化け番組『全員集合』はどのようにして生まれたのか。気鋭の研究者が、国民的グループ『ザ・ドリフターズ』を舞台・演劇の視点から読み解いた野心作。」とあります。

 そして本書の構成は以下の通り。

第一章 遅れてきた青年いかりや長介
第二章 天才・加藤茶誕生
第三章 「全員集合」スタートと志村けん
第四章 高木ブーと仲本工事の「居場所」
第五章 主役交代「全員集合」の栄枯盛衰
第六章 志村けん「喜劇王」への道

 いかりや長介がいかにしてミュージシャンになり、どのようにドリフに加入したかというのをここまで詳細に見たのは初めてでした。20代はずっと静岡にいたので、東京のショービジネスシーンが花開いていくことに「完全に乗り遅れた」と思ってたらしいのは、今回初めて知った感じです。いかりやさんの自伝は読みましたが、やはり自分で書いたのと客観的に見たのは違いますので。

 全員集合開始に至るあたりも面白いですが、あの番組を語る際に大体なかったことにされる「8時だヨ! 出発進行」の話もキチンと書いてあって、そこも興味深かったです。私は単にドリフが毎週の生放送に疲れて一旦お休みしただけかと思ってました。結局は「また、渡辺プロか!」と思ったりしますが、まあ世の中知らないこと多いです。ただ、リアルタイムで見ていた子供としては出発進行は面白くなかったですね。

 この本では前半はほとんどいかりや長介中心に話が進み、後半というか終盤は志村けん中心になります。実際二人の間に確執はあったかというと、これを読むと確かにあったという判断になりますが、その志村けん自身が自分の番組を持つうちに全員集合の時のいかりや長介的になって行った流れなどは、ちゃんと様々な事象を押さえての記載なので納得度は高かったです。

 この著者は1979年生まれなので、高視聴率でお化け番組といわれてた頃の全員集合は見てない事になりますが、リアルタイムで見ていた世代である私が違和感を持たない分析力はさすが。とはいえ、私は1963年生まれで、全員集合が始まったのは私の6歳の誕生日。本当に楽しんで見てたのは小学生の間くらい。なにしろ欽ドン派でしたので。ドリフだと、どちらかというと「ドリフ大爆笑」のが好きだったので、特に志村けん加入後の全員集合については私もよく知らない部分が大きいです。

 そんなこんなですが、力作だし大変面白い本です。文春新書で定価880円。ドリフに少しでも関心がある人は是非どうぞ。


流星ひとつ/沢木耕太郎

2022年12月10日 | ブックレビュー

 

 この本は、沢木耕太郎さんが藤圭子さんにインタヴューした会話だけで構成されたものです。たまたま図書館で見つけたのですが、びっくりするほど面白かったです。そもそもこういう本が出ていたのを知らなかったので。

 全編に渡って、酒を酌み交わしている二人の会話だけなのですが、それが1979年で藤圭子さんが一旦引退した頃のこと。こういう取材のような懇談のようなものがあったという事自体知らなかったので、最初は空想か「もし、あの頃の藤圭子と対談したならば」という創作なのかと思ってました。

 が、巻末の後期をよんで、これがリアルなインタヴューであること、1979年のインタヴューがなぜ2013年に発刊されたのか、その辺すべてを理解しました。詳しい事情はお読みいただくのがよろしいかと思いますが、2013年というのは藤圭子さんが亡くなった年で、その後発行されたこの本が話題になった記憶はありません。私が不勉強なだけなのかもしれませんが。

 私の年代では、この人はテレビでたまに見たという程度だったのですが、実際に藤圭子という歌手がどういう生い立ちだったのか、両親がどういう人だったのか、どういう経緯でデビューするに至ったか、スターになってどんな気持ちで歌っていたのか、最初の結婚とその破たん、その最初の夫とのその後の関係、なぜ引退を決意したか、など知らなかったことだらけで、それがまた凄く興味深い内容でした。

 これは今は文庫でも出てるので、手元に置いておきたい本です。これを読んでいるうちに姿が浮かび上がってきた藤圭子さんは、凄くチャーミングで聡明な女性でした。暗い歌を無表情で歌う歌手という認識しかなかった自分が恥ずかしい…。


やっと読みました>「上を向いて歩こう」佐藤剛

2022年11月27日 | ブックレビュー

 

 前から読もう読もうと思ってた本を、秋の夜長に読み始めたら止まらなくなってしまいました。ちょっと前に入手してたものの、約330ページのボリュームに躊躇してましたが、実際は面白くて読み始めたら一気です。

 これはタイトルの通り、坂本九さんのヒット曲「上を向いて歩こう」についての本。この曲がいかにして生まれ、どういう経緯で海を渡って全米No.1ヒットにまでなったかというのを、佐藤剛さんが膨大な資料の精査と当時の関係者への綿密な取材により解き明かしたものです。

 実際にこの本の「はじめに」でも、「実際に『上を向いて歩こう』の資料や参考文献に当たってみてわかったのは、確かなことが何一つないという、意外な事実だった。」「肝心要なところが、いずれも伝聞や憶測に基づいたもので、事実は曖昧だった。」と書かれています。

 この曲は私が生まれる前にリリースされ、全米で大ヒットした時にもまだ生まれていなかったので、当時の取り上げられ方は知りません。アメリカでは「SUKIYAKI」というタイトルだったのは知ってましたが、恥ずかしながらあちらでは英語の歌詞にしてリリースしたと思ってたくらい。「うちに帰ってスキヤキ食べよう。」という歌詞にしてあるというのをどこかで聞いたのですが、あれは完全にガセ情報でした。どこで聞いたのやら…。

 それがこの本を読んで、坂本九さんのレコードをたまたま入手したアメリカのラジオDJが気に入ってオンエアしてみたら問い合わせが殺到し、その後大手のレコード会社からリリースされたという経緯を知って、一種サクセスストーリーを見るようでその流れが一番ワクワクしました。

 ただ、その経緯も諸説あり、ワシントン州のローカルラジオ局で数回オンエアされて話題になったからといって、日本語の曲を大手のキャピトルレコードがすぐリリースしてくれるとは通常考えにくいということがあります。

 それがどうだったかというと、実際事実だったというのは佐藤剛さんが突き止めたのですが、その経緯とキャピトルレコードのキーマンが誰だったかというのもこの本に記されています。面白いエピソードとしては、その人は坂本九さんの歌声を女性だと思っていたとか、あらためてレコーディングしたのではなく日本のレコード盤をマスター音源として利用したとかいうのがあるのですが、そのあたりは実際にお読みいただくのがよろしいかと。

 何気なく聞いていた曲ですが、中村八大さんのメロディーはもちろん、坂本九さんのあの裏声を交えた「ウォ ウォ ウォ ウォ」という唱法、イントロや間奏で見られる構成など、ヒットするには様々な要素があったことがわかって、そこに中村八大さんの音楽人生、坂本九さんの生い立ち、作詞の永六輔さんの思いと、当時のレコード会社や芸能プロダクションの事情までわかって本当に読みごたえ十分でした。これは10年以上前の本ですが、もっと早く読んでおけばよかったとしみじみ思います。反省にも近い感じで。

 音楽とは、ヒット曲とは、歌手とはなんだろうとか色々考えさせられますね。それにしても凄い本です。今では電子書籍でも読めますので、この記事を読んでいただいたすべての方々にお勧めします。どーですか、お客さん。


「ネオンサインと月光仮面 宣弘社・小林利雄の仕事」/佐々木 守

2022年11月21日 | ブックレビュー

 

 図書館で見つけた本ですが、タイトル見て「なんじゃ?」と思いました。宣弘社はわかりますし、月光仮面もわかりますが、ネオンサインはなんじゃろかと。

 それで読んでみたら話はわかりました。宣弘社というのは元々広告代理店で、戦後銀座のネオンサインというかあのきらびやかな電飾の広告看板を作ったところで、そこの社長が小林利雄さん。そして、「月光仮面」やら「光速エスパー」「シルバー仮面」「アイアンキング」などの番組制作をした宣弘社プロダクションもこの小林さんが社長で、番組プロディーサーまでやってたと知って驚きました。

 この人は昭和21年に復員し、父から宣弘社の仕事を受け継いでまずやったことは銀座四丁目の空をネオンサインで明るくすること。東京の復興を夢見ながら銀座の夜空を見上げて「暗すぎる。ここをまず明るくすることから始めよう。」と考えたそうです。

 私はネオン広告というと、広告代理店が企業をそそのかして広告料をせしめる材料だと思ってたのですが、戦後の復興のシンボルとして夜空を明るく飾るものであったと知って、ちょっと考えを改めました。

 その小林さんが海外も視察し、日本のみならず香港、台北、バンコクの空までネオンで照らした話は大変面白いですが、この本を書いたのが佐々木守先生であって、私としては佐々木先生がテレビ番組の台本を書き始めたあたりの話が凄く面白かったです。

 特にすごいのが「柔道一直線」の脚本を書いた時のこと。そもそもその時間帯には「妖術武芸帖」をやってて、四月開始なのが最初からどうも視聴率が上がらず早々に六月での打ち切りが決まったのだそうです。

 それでいきなりTBSのプロデューサーに呼び出されて漫画を2冊渡され、「お前ならこれをどう脚色する?」と。それが「柔道一直線」だったのですが、佐々木先生は「柔道とは二人で闘うスポーツだ」以上のことは何も知らなかったと。

 それでも、その原作本と柔道入門などの本を渡され「明日の朝までに二回分の台本を書け!」と言われたのだとか。これ以上ないほどの無茶ぶりですが、凄いのはちゃんと翌朝には二回分の台本を仕上げたということ。驚くべき仕事人ぶりです。

 この人はスポーツ全般疎いのですが、「男ドアホウ甲子園」の原作を書いた時のことも面白くて、水島新司先生には「今どき甲子園球場が大阪にあるなんて思っている人に初めて会いましたよ。」と笑われたそうです。何しろ主人公の家は甲子園球場の真ん前にあるのに、反対側の窓を開けると大阪城が見えるなんて当然のように書いていたということですし。

 この本には「月光仮面」の台本とか、「シルバー仮面」「アイアンキング」の初回の台本まで掲載されていて大変面白いです。実は図書館から借りてきたのですが、これは手元に置いておきたいと思ってネットで探したら、なんと今は新品では入手できず。中古は結構なお値段になってました。まあ近所の図書館にあっていつでも読めるからいいですけど。

 とにかく、宣弘社プロダクションの番組とか佐々木守先生のお仕事に興味がある方なら絶対面白いと思います。手に取る機会のある方はご覧下さい。


読むところが多すぎて>昭和40年男「俺たちニューミュージック世代」

2022年11月17日 | ブックレビュー

 

 発売中の雑誌「昭和40年男」は、特集が「俺たちニューミュージック世代」。ご覧の通り表紙はアリスですが、第一章が【証言】で冒頭がそのアリスのロングインタビュー。さらにミュージシャン本人のインタビューが、岸田敏志、永井龍雲、渡辺真知子、尾崎亜美という豪華さ。

 第二章が【名曲・名盤】ですが、ここでも瀬尾一三、新田和長という方々のインタビューがあります。第三章は【トピックス】として、吉田拓郎 アイランド・コンサート in 篠島 ライブレポート、ユーミンと中島みゆき、昭和40年男のオフコース愛、などなど。第四章は【エトセトラ】で、ヤングギター、雑誌メディア、ニューミュージック名場面、モーリスギターなどの話題。

 本当に私のためにあるような構成で全部読みたいのですが、何しろ買ってきたばかりなので、ちゃんと読んだのは尾崎亜美さんのインタビューのみ。(ちなみに亜美さんのインタビュー記事はカラーで写真入りの3ページ。)

 そして嬉しいことに、名盤アルバムコレクションとして亜美さんの「プリズミイ」が紹介されていて、私もこのアルバムは大好きなので感激しました。さらに嬉しいことには隠れた名盤として、私の大好きなマザー・グースの「インディアン・サマー」が紹介されています。なかなかこういう時にも語られることがないので、これは本当に嬉しいです。

 これら以外にも連載特集が今回は「昭和55年」なので、色々懐かしい記事が多すぎ。ちゃんと読まねば!

 それこそ昭和40年あたりに生まれた方は大いに楽しめると思います。どーですか、お客さん。


凄く勉強になる本>「音楽業界の動向とカラクリがよくわかる本」山口哲一 著

2022年10月11日 | ブックレビュー

 

 最近たまたま見かけたのですが、8月に出たばかりなのでまだ新しい本です。どちらかというと、音楽業界に就職や転職を考える人向けなのでしょうが、それは別にして音楽を聞くこともコンサートに行くことも好きなものにとっては凄く勉強になりそうです。

 著者の山口哲一さんは、音楽プロデューサーを経て業界の様々な要職も努め、人材育成や起業家の支援など大活躍の人のようですが、さすがに音楽制作の現場の話だけじゃなくて業界の課題や未来という話がかなり具体的です。まだじっくりとは読めてないのですが、目次の中で気になった部分は以下の通り。

第1章:音楽ビジネスの根本的構造的変化
 1-2 CDからサブスクへ、音楽体験の変化
 1-4 ストリーミングによる分配率変化

第2章:世界の音楽市場を知る
 2-3 サブスク時代の変化と課題

第3章:世界で最もIT化が遅れた日本
 3-1 CD長期低迷とコンサート伸長
 3-2 テレビタイアップとCDバブル時代
 3-3 iTunes普及を止めたレンタルCD店
 3-5 ストリーミングサービス遅延の罪と罰

第6章:既存会社の現状と展望
 6-1 レコード会社の機能は賞味期限切れ?
 6-3 「事務所」の未来
 6-5 DXが遅れるプレイガイド
 6-6 DXが進んだファンクラブ事業

第9章:音楽業界の課題と業界団体の取り組み
 9-2 チケット高額転売問題
 9-5 違法アプリ天国日本


 サブスクがあんだけ普及してCD売れなくなったらアーティストは生き残っていけるかとか、CDの時代と違って音楽家の取り分がもっと増えてもいいんじゃないかとか、私もちょっと前に書きましたが、そんなことは専門家は当然課題として色々現状分析とか今後のことは考えてるんですね。

 中身をちらっと紹介すると、

「デジタル配信になって、分配率が上がったときに、レコード会社と音楽家がどういう割合で分配するのが適切か、少なくとも従来の業界慣習を大きく変える必要があることは間違いありません。」
「そのアーティストの熱狂的なファンでなければ、その作品がいつ録音されたかは、それほど重要ではありません。」
「ユーザーが存在を知ったときが、その楽曲の『リリース日』なわけです。」

などが特に気になった部分。また、2021年のアメリカ市場では、1年半以上前にリリースされた作品の売上比率が74.5%を占めたそうです。ユーザーに支持された作品を作れば長く収益を得られるものの、これまでに比べて初期投資の回収に時間がかかる側面もあるとか。色々面白いですね。もちろん、あの握手券や投票券目当てで何枚もCDを買わせるグループアイドルの曲がヒットチャート上位を占めた事にも触れています。

 あとは、あの人気ドラマやCMでテレビがヒット曲を作ってCDが売れた時代の成功体験に拘ってストリーミングへの移行に抵抗した流れなども当然出てきます。まあ簡単な話ではないですが。

 他に興味深いのは第6章で、コンサートチケットをプレイガイドを通じて入手する方法が、現状ではかなりユーザーの負荷が大きいことも指摘されています。コンサートに参加したい人の熱量が高いために多少の負荷は乗り越えているとも指摘していますが、確かにネットで予約してコンビニで発券してその際に手数料を負担するというのも当たり前のようにやってますが、問題だと指摘する人もいるのですね。

 そして、この本では途中に「日本音楽の潜在力を知るための推薦図書」というコラムもあります。その中の一つに佐藤剛さんの「上を向いて歩こう」があって、佐藤さんのプロフィールとともに紹介されています。ビジネスの話ばかりじゃなく、この本を推薦するあたりで、日本の音楽文化や歴史を真剣に考える姿勢もうかがえます。

 実は私はこれを図書館から借りてきたのですが、手元に置いておきたいので買おうと思います。結構難しい用語が多くて、色々調べながら出ないと理解できない部分が多いので、ちゃんと読まねばと。特にデジタルの世界の用語がわかりにくいのですが、今覚えれば将来は理解が深まるはず。

 とにかく勉強になる本ですので、関心のある方は読んでみてはいかがでしょうか。発行は秀和システムで、定価1540円です。どーですか、お客さん。


BEGINの本を少々

2022年08月20日 | ブックレビュー

 

 BEGINというのはバンドのことですが、ちょっと興味があるので本を2冊ほど読みました。今回読んだのは以下の2冊。

・さとうきび畑の風に乗って 1998年発行 278ページ
・肝心(ちむぐくる) 2005年発行 約420ページ

 BEGINは、ヴォーカル&ギターの比嘉栄昇さん、ギターの島袋優さん、ピアノの上地等さんからなる3人組ですが、「さとうきび畑の風に乗って」(以下「さとうきび畑」)はそれぞれが各自の生い立ちやデビューからそれまでのことを書いており、「肝心」は三人の鼎談を中心にディスコグラフィーやライブの記録も掲載されています。

 BEGINは1990年にデビューしましたが、「さとうきび畑」がデビュー8年目、「肝心」がデビュー15周年の時の本です。実は昨年「肝心」を読んで、先日「さとうきび畑」の方を読みました。順番は逆です。

 彼らはご承知の通り「イカ天」でチャンピオンとなり鳴り物入りでデビュー、「恋しくて」がCMソングにもなって大ヒットしたものの、その後はCDもあまり売れず一時期低迷してたのが、2000年頃から「涙そうそう」「島人ぬ宝」などでブレイクして沖縄の音楽シーンを代表する存在となって今に至ります。

 1998年の段階ではちょっと人気が盛り返してきてた頃ですが、まだいわゆる島唄は歌っておらず、「さとうきび畑」の中でもハワイアンに興味を示していたり、メンフィスとかナッシュビルの事が書かれています。

 そして2005年の「肝心」では、そのナッシュビルやメンフィスでの体験がキッカケで、本場のブルースを目指すこととは逆に「自分たちのルーツとなる音楽はなんだろう?」という事を考え始めたことが語られています。

 イカ天では三人だけの演奏でバカ受けしたわけですが、実際プロとして活動していくには演奏力が未熟だったり引き出しが少ないと判断され、デビュー後のコンサートツアーではドラム、ギター、ベース、キーボード、バイオリンとサポートメンバーが5人もいたのだとか。そして全国どこへ行ってもホールは超満員、しかし肝心のメンバーの方はギターとピアノがサポートメンバーに比べるとあまりにも弾けないということで、本人たちもそうだし、イカ天の時の演奏を期待したお客さん達もかなり戸惑いがあったようです。その辺の苦悩はどちらの本にも綴られています。

 それでヴォーカルの比嘉さんが頑張って自分たちの味を出そうとしても、あとの二人が気が引けてついてこないというもどかしさがあったというのは、特に「さとうきび畑」からヒシヒシと伝わってきます。イカ天をはじめ各種コンテストから出てきたバンドがデビューしてほどなく解散するケースはよくありますが、同様の事情なのでしょうね。

 簡単なコードで作った曲がレコーディングの段階で難しいコードに変えられ、それをメンバーが弾けず、自分たちの音楽が自分たちのものではなくなる感覚があったというのはよくわかります。さらに、アルバムを作るにも曲が足らず、他の人が作った曲が集まっては来たけどそのデモテープがどれも半端なくレベルが高くて「これがプロの世界か…。」と衝撃を受けたり。

 BEGINがここでくじけなかったのは、三人が元々友達同士だったこと、それぞれの音楽に対する思いが強かったこと、あとはメンバーの性格によるものでしょう。(ここが一番大きいような気がして、それが大事だと思うのですが。) あとは、売れなくなって予算がなくなり、サポートミュージシャンをつけられなくなって三人でライブをやるようになって、自分たちの音楽を取り戻した感覚があったのも運命というものかも。

 そもそもブルースバンドとしてデビューしたのが、石垣島の出身だからといっていわゆる島唄を歌う事や、比嘉さんが三線を弾くことに迷いがあったというのも、今となっては意外な気もしますが、そこを吹っ切って自分たちの限界を突き破り世界を広げたというあたりは「肝心」に詳しいです。私の場合はこちらを先に読んで、最近「さとうきび畑」を読んだので、既に答えを知ってたような感じもありました。

 それにしても、ずっと興味を持たなかったこのバンドに、実は私の好きなギタリストの山田直毅さん、大森信和さんが深く関わっていたことはこの2冊を読んで知りました。もう30年以上やってるバンドなのに、Wikipediaには案外情報が少なく、なんとこれらの本の事も書かれていないという…。まあそのあたりもこのバンドの持ち味という気がします。「俺が!俺が!」という匂いは昔も今もまったくないですしね。

 ということで、関心のある方はこれらの本をお探し下さい。普通に新品で買えないのが少々ハードル高いですが、結構面白いし興味深い本です。


14歳から考えたいアメリカの奴隷制度/ヘザー・アンドレア・ウィリアムズ

2022年06月12日 | ブックレビュー

 

 先日ドラマの「ルーツ」を見たこともあり、奴隷制度についてもっと深く知りたいと思い読んでみました。これは今年の2月に出た本で、著者はペンシルベニア大学の教授。

 本のカバーには「17世紀から19世紀半ばまで、アメリカの発展は奴隷の労働力を搾取することでもたらされた。その傷は癒えることもなく、奴隷廃止から160年がたつ今も、社会の分断を引き起こす。」とあります。

 「14歳から考えたい」とある通り、かなりわかりやすい言葉で書かれており、人名や事件については同じページの上の欄に注釈があるのでかなり親切な本です。当方58才、一般男性ですがおかげでスイスイと読めました。

 私は奴隷制度というと、つい「ルーツ」の世界とリンカーンによる奴隷解放宣言のあたりだけ考えてしまいますが、この本では1441年の大西洋奴隷貿易の話から始まります。それはポルトガルのエンリケ王子の命によって西アフリカの海岸へ向かった船の記録から。奴隷制度がアメリカの発展を支えたのは確かですが、アメリカだけの話ではないんですね。当たり前ですが。

 さらに奴隷制度というと、それぞれが好き勝手に始めたのがズルズルと続いたかと思ったら、その時代によって法律でも細かく制度が決められていたのですね。

 そもそもアメリカの独立宣言には「すべての人民は法のもとに平等である」と謳われており、それを基に奴隷制度の廃止を訴える動きももちろんあったのですが、ある時は法律によって、ある時は宗教的に、ある時は科学的に、とにかく黒人は白人より劣っており、奴隷として使われることが天の真理であるかのごとく主張する説が時代が変わっても出てくるので、読んでいると本当にムカムカ来ます。

 当初は先住民族を奴隷にしたこともあったのが、報復を受ける恐れや様々な問題もあってそれは法律で禁止して「奴隷は黒人のみとする」ということを定めたことも知りました。アフリカ人であれば土地の事をよく知らず、逃げ帰る家もなく、報復を仕掛けてくる家族もいないので、連れてくるのに金はかかるが面倒は少なかったということなのですね。

 とにかく、いかにこれまでの自分の知識が浅かったかというのを思い知ったのでした。14才というと中学生ですが、これは中学校の夏休みの課題図書にして欲しいものです。私なんぞはますますアメリカ人が嫌いになりました。お勧めの本です。