昨日の続きです。
ガラス戸を開け、暖簾越しに『やってますか?』と声を掛けました。
『はぃ。どうぞ』と、カウンターの中で、何やら洗い物をしている女性が、手を止め顔を上げました。化粧気がまったくありません、歳は40半ばに見えました。
カウンターに座りました。目の前の壁には「七ツ海」の文字の入った「化粧まわし」間違いないです、あの「七ツ海」の店です。
以前、外から眺めて想像していた店の様子とほとんど変わらない、懐かしい気持ちになる、昭和の匂いを感じる店内です。
カウンターの中には、女性と同年配の男性が仕込みをしています。夫婦か? それとも兄妹か? 姉弟か? 兎に角何か一言と思い、
『今日は暑いですねぇ』と、つまらないことを云ってしまいました。
『そうですねぇ。ホントに・・・・・・』と女性は、座敷に上がり2台のクーラーのスイッチを入れました。
そうなんです。それはまさしく「クーラー」であって「エアコン」ではありません。紛れもなく「昭和時代」のクーラーです。
さてと、次はどうしょうか?と思いながら、おしぼりで手を拭いながら、メニューに目をやり考えました。
兎に角、ここは先ず、取りあえず「生」を注文しました。
女性が冷蔵庫から冷えたジョッキを取り出し、生ビールを注いでくれ、男性は何やら小皿に盛っています。
カウンターの上には、道具や、器や、細々とした物がのっていて、男性の手元は死角になっています。男性は痩せていて小柄です。
生ビールと、「突きだし」に「オクラの和え物」が出て来ました。先ずはいっきに半分ほど飲み干しオクラをつまみました。
さて、どこから話しを切り出そうかと、ジョッキを口運び、当たりを見回していると、「とり唐揚げ」のかわいい文字が眼に入り、迷わず注文しました。
そろそろと思い、
『あの~。この店ねェ、インターネットで見つけて来たんですよ』
『あ~。そうなんですかァ』女性の反応はそれだけでした。無愛想と云う訳でもなく、ただ普通に淡々としているのです。
『私ねぇ、小さい頃に七ツ海に抱っこしてもらった想い出があるんですょ』
『あ~、そうなんですか・・・、相撲を見に行かれたのですか?』手元を動かしながら、口紅も付けない顔で、こちらに視線を向けてきました。
『いゃ。家に来たんですよ! 七ツ海が!』この一言で、話しに乗って来ると思ったのですが、
『はぁ~、そうなんですか・・・』と、出来上がった鶏の唐揚げを男性から受け取り、カウンターに置きました。
『生お代わり』とジョッキを女性に差し出しました。どうも、予想とは異なり、相手の反応が鈍いのです。
暫く当たりを眺めたり、唐揚げを食べたり、ビールを飲んだり、オクラをつまんだりしていました。飲むペースが速くなりました。
店に来る前に、膨らんでいたワクワク、ドキドキの気持ちは少しずつ萎んでいきます。まぁ、こちらが勝手に膨らましていた訳ですからね・・・・・・。
兎に角、お代わりの「生」を黙々と飲みました。冷や奴も注文しました。それから、一息ついて、座敷に上がり、飾られている、「七ツ海」の写真、賞状等を「来店記念」に撮す作業に取りかかりました。
写真中央は、あの「双羽黒」です。優勝しないで「横綱」になり、「暴力事件」を起こし部屋から逃亡して、世間を騒がせた横綱です。
双羽黒の右の肩口から顔を出しているのが、晩年の「七ツ海」です。
兎に角、未だ外は陽が落ちていません。「生」も未だ2杯目です。盛り上がるのはこれからです。
話しのネタは沢山ありますから、もう少し飲んでからです。
それでは、明日またお待ちしています。