歩く・見る・食べる・そして少し考える・・・

近所を歩く、遠くの町を歩く、見たこと食べたこと、感じたことを思いつくままに・・・。おじさんのひとりごと

成瀬巳喜男の『めし』で原節子を観る・・・その2 矢向駅はいまでも六十数年前の撮影当時と変わらない風景を残しています

2013年08月30日 | 原節子

一昨日の続きです。

三千代(原節子)が降り立ったのは、


「矢向駅」とあります。いったいこの駅は何処に?と思って調べてみたら、東京ではなく神奈川県は横浜市の鶴見区にある南武線の駅でした。東海道線を川崎で降り、南武線に乗り換え二つ目の駅です。

調べついでに、現在の駅がどう大変貌を遂げているのかと思い、グーグルのストリートビューで見たら、何と、何と、60数年の歳月が過ぎているのに、ほとんど当時のままでした。


映画と近い角度で見ると、こんな感じで、駅舎は外壁を白く塗装しただけで、昔のままです。駅前の樹もそのままです。


話しを戻します。

実家に近づき笑顔になる原節子、やはり笑顔が似合います。


駅前の風景が、もう、堪らなく、とても、懐かしいです。こういう風景は、落ち着くというか、馴染んじゃうというか、こころの風景と云うか・・・。


店先から中を覗くカット、地面は未舗装でデコボコで石ころがちらほら、こういう感じでしたよ、当時わたしが住んで居た東京の外れ板橋区でも、でも、これはたぶんセット?


娘を優しい笑顔で向かい入れる母親“杉村春子”そのうちに怖い顔で娘を叱ると思っていたのですが・・・。


大阪には戻らない決意で居たが、職探しで訪ねた職安前の行列に、現実の厳しさを知り・・・。


行列を見つめるこのカットの原節子がイイ! 背景の高圧鉄塔がまたイイ!


職安前で出会った子連れの幼馴染み、敗戦後5年、未だ帰還しない夫、失業保険も残り3ヶ月、一人で生きていく事の厳しさを知り・・・。

男の子の髪型、とても懐かしいです。いわゆる“坊ちゃん刈り”当時はみんな男の子はこのスタイルでした。昔の自分が画面に居るようです。

自分の境遇を羨ましがられ・・・。


そんな、二人の前をチンドン屋がとおり、幼馴染みは“あれ御夫婦じゃない”“そんなこと、どうして分かるの”“だって歩き方があんなに巧くあうじゃない”

帰らぬ夫を待つ女、一人生きる厳しさ、一つの曲を奏で歩調を合わせ前に進む夫婦、ほんのすこし少し気持ちに変化が・・・。

このチンドン屋のシーン、夫婦のかたちを象徴したのでしょうが、二人だけのチンドン屋は何か、とても、不自然で寂しいです。

演じている二人の表情が硬いのです。当時、チンドン屋さんはもっとにこやかでした。これって、もしかして、ホンモノの方?映画初出演で緊張?

それでも、未だ、東京で職探しをするのです。東京で働く事は、ほぼ離婚を意識している訳で、銀行員の従兄弟に仕事の紹介を依頼すると云う事は・・・。

結婚前は互いにそれとなく意識していた二人です。でも、しかし、未だ独身の従兄弟に同情され、少し気持ちに変化が・・・。


少しずつ、少しずつ、気持ちの変化を重ねて、『あなたの側を離れると云うことは、どんなに不安に身を置くことか、やっと分かったのです・・・』と、夫宛の手紙を書く、でも、しかし、投函する直前でためらい引き返す。


手紙を投函しなかったことを知った母は、『わたしがいま初之輔さんのお母さんだったらね、あんな嫁のどこがいい、さっさと離縁してしまいなさい、そう言うかも知れないよ』と、笑顔で優しく忠告するのです。


その場に妹が銭湯から帰って来ます。


妹に声を掛ける母、しかし、姉はまったく雑誌から眼を上げません。そんな姉の態度に鋭い視線を向け心の内を読み取ろうとする母。


この時、妹から姉への視線の移動は素早く鋭くとても怖かったです。母親の優しさと厳しさを表現したカットでした。小津作品の杉村春子でした。

帰りたい、でも、帰れない、夫への愛情はあるが、あの退屈な日常に戻ることへの不安、そして、何も連絡をしてこない夫、どちらが先に折れるのか、このまま互いに意地を張り続けたら・・・破局?

こういう処が、とても、とても、ムズカシイ駆け引きなのです。兎に角、どちらかが謝ってしまえば事は解決するのですが、そも、そも、謝って済む問題ではないからムズカシイ。

夫としては、何がイケナイの?なのです。謝ったとしても、退屈な日常は変わらないのですから、戻って来てくれとは云えません。退屈な日常に嫌気がさして出て行った妻が変わらないと、状況は打開できないのです。

さあ、二人は、どうなるのか? 別れるのか? 元の鞘におさまるのか?

時代は60数年前、あの頃の男女の仲はどうだったのか? 戦前の意識を引き摺った解決か、戦後民主主義で、男女同権で、新しい自立する女的な解決になるのか?

公開時も結末には賛否両論があったようです。


この続きは次回。


それでは、また。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 成瀬巳喜男の『めし』で原節... | トップ | 成瀬巳喜男の『めし』で原節... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

原節子」カテゴリの最新記事