徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

タミフルは必要?

2012年01月22日 07時34分40秒 | 小児科診療
 全国的にインフルエンザ流行シーズンに突入し、学級閉鎖のニュースがあちこちで聞かれるようになりました。
 インフルエンザの治療薬といえば、タミフル、リレンザ、そして近年登場したイナビル、ラピアクタ。

 吸入薬より内服薬が好きな日本ではタミフルがベストセラーとなり、世界中のタミフルの7割を日本で消費している話は有名です。
 何事も人気が出れば中傷もつきもの。タミフルの光と影を思いつくまま列挙してみます;

★ タミフルの”光”部分
・発症から48時間内に使用すれば、病悩期間が約1日短くなる。
・2009年に発生した新型インフルエンザ流行に際して、日本の死亡率は極端に少なくアメリカの1/10以下であったが、これは国民皆保険による医療機関へのフリーアクセスとタミフルの使用のおかげと云われている。
・新型インフルエンザの治療においては、発症後48時間以内に限定せず、48時間以降でも重症化を予防する効果があったと云われている。

タミフルの”影”部分
・服用後の青少年の異常行動が問題となり、10歳代には使用制限がかかっている。
・耐性ウイルスは出現しにくく、出現したとしても流行はしない、と当初云われていたが、近年耐性ウイルスが蔓延してきた(とくにAソ連型)。

 さて、最近目にしたニュースも追加します。

タミフル、インフルエンザ治療効果に疑問
(2012年1月18日 読売新聞)
 【ワシントン=山田哲朗】医学研究の信頼性を検証する国際研究グループ「コクラン共同計画」(本部・英国)は17日、インフルエンザ治療薬タミフルが重症化を防ぐ効果を疑問視する報告書を発表した。
 タミフルは世界で広く使われ、特に日本は世界の約7割を消費している。各国が将来の新型インフルエンザの大流行を防ぐため備蓄を進めており、その有効性を巡り議論を呼びそうだ。
 報告書は、製薬会社に有利な結果に偏る傾向がある学術論文ではなく、日米欧の規制当局が公開した臨床試験結果など1万6000ページの資料を分析。
 タミフルの使用で、インフルエンザの症状が21時間ほど早く収まる効果は確認されたものの、合併症や入院を防ぐというデータは見つからなかった
 報告書は「当初の症状を軽減する以外、タミフルの効果は依然として不明確」と結論、「副作用も過小報告されている可能性がある」と指摘した。

タミフル副作用:25万人に1人、重篤化招く恐れ
(毎日新聞 2011年12月30日)
 インフルエンザ治療薬のタミフルが、患者25万人に1人程度の割合で、服用後12時間以内に重い呼吸困難など容体の重篤化を引き起こしている可能性があるとの分析結果を、NPO法人・医薬ビジランスセンター(大阪市天王寺区)理事長の浜六郎医師らがまとめ、オランダの医学専門誌「薬のリスクと安全の国際誌」に発表した。
 浜医師らは厚生労働省の公表データに基づき、09年発生の新型インフルエンザで死亡した患者のうち、医師にかかった時点では重篤でなかった161人について分析した。
 タミフルを投与された患者は119人で、うち38人が12時間以内に重篤な状態に陥るか死亡した。別のインフルエンザ治療薬のリレンザを投与された患者は15人で、12時間以内に重篤化や死亡した人はいなかった。
 浜医師らは一方、製薬各社が同省に報告したデータなどから、同時期のタミフル使用患者を約1000万人、リレンザ使用患者を約700万人と推定。年齢などを考慮して統計的に分析すると、タミフル使用者はリレンザ使用者より死亡率が約1.9倍高く、特に使用後12時間以内に重篤化か死亡する率は約5.9倍になるとの結果が出たという。
 厚労省医薬食品局安全対策課は「論文を検討中で慎重に確認したい」と説明。タミフル輸入販売元の中外製薬は「社内で統計学や疫学の専門家が精査している途中だ」と話している。


 この浜六郎さんは、薬にはとりあえず何でも反対という有名なお方。その根底には「病気で希に命を落としてもあきらめられるが、薬で悪化するのは1例でも許せない」という感情が見え隠れします。
 2009年の新型インフルエンザでは病気により「25万人に1人」以上重症者が出たのではないでしょうか?
 他の薬との比較ではなく、病気自体の合併症・重症化と比較しなければ意味がないと思います。

 まあ、医薬界は新薬のデータを改ざんして副作用を隠蔽する体質がなきにしもあらずですので、浜六郎さんのような存在も必要かと日々感じていることも申し添えます。

 さて、先日発表された「新型インフルエンザ対策ガイドライン」では、従来通り有事に備えてタミフルとリレンザの備蓄が基本となっています。タミフルは危険、という認識がもし広がるようであれば無意味な備蓄と化してしまいそう;

新型インフル対策ガイドライン改定案のポイント
(2012.1.19 キャリアブレイン)
 政府は、2009年に流行した新型インフルエンザ(インフルエンザ2009)対策の反省を踏まえ、対策の見直しを進めている。まず、対策の骨子となる「新型インフルエンザ対策行動計画」を昨年9月に改定。その具体的な運用方法を定める「新型インフルエンザ対策ガイドライン(GL)」の改定に向けては、厚生労働省の専門家会議が18日、意見書案を大筋でまとめた。意見書案のポイントを整理した。
対策切り替えの判断基準を明示
 行動計画は、対策を全国一律にせず、それぞれの地域の状況に応じて都道府県の判断で切り替えられるよう改定された。これを受け、意見書案では、対策切り替えの判断基準を明示した。
 発熱患者のうち、渡航歴や新型インフルエンザ患者との接触歴がある人が受診する「帰国者・接触者外来」は、海外で患者が発生した段階で設置。同外来を終了し、一般医療機関での対応に切り替えるタイミングは、▽受診者の著しい増加により、同外来での対応が難しくなる▽同外来以外で患者が増加している▽隣接する都道府県で患者が多発している―などが目安となる。
 遺伝子検査(PCR法)などによる確定診断は、すべての患者の接触歴を疫学調査で確認できるうちは、原則すべての疑い患者が対象。感染が拡大し、接触歴を確認できなくなれば、都道府県の判断で検査を中止できる。
ワクチンは集団接種を基本に
 新型インフルエンザ発生後、そのウイルスを基に製造される「パンデミックワクチン」は、集団接種を基本にすることを前提に、10ミリリットルなど製造効率がよい大容量のバイアルで主に供給する。一方、小規模な医療機関の従事者への接種などに対応するため、1ミリリットルなど小さなバイアルも確保する
 インフルエンザ2009のワクチン接種をめぐっては、個別接種では大容量のバイアルを消費し切れず、残りを廃棄せざるを得なかったとして、集団接種を基本にすべきだとの声が上がっていた。
 抗インフルエンザウイルス薬は、これまで通りタミフルとリレンザで備蓄を続け、全国民の45%に相当する量を目指す。インフルエンザ2009発生後に発売されたラピアクタとイナビルは、有効期間が短く、備蓄には適さないと判断した。
GL改定は関係省庁局長級会合で決定
 GLの改定は、最終的に関係省庁の局長級の会合で決定される。厚労省の専門家会議が取りまとめる意見書のほか、政府が次期通常国会への提出を目指している新型インフルエンザ発生に備えた特別措置法案などを踏まえた内容になる見通しだ。


 というわけで、問題がなきにしもあらずのタミフル。
 当院ではインフルエンザの迅速検査をした方には、結果が出るまでの間、自作のパンフレット「陽性に出た場合は抗インフルエンザ薬を希望しますか?」を読んでいただき、希望される方に処方するようにしています。

 私自身は「ぐったりしてかわいそうで見ていられないようなら使用、熱もそこそこ元気もまあまあなら使用しなくてもいいのでは(ただし受験生は別として)」というスタンスです。
 あなたは、タミフルを使いますか?
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 同時接種の危険性、その後 | トップ | 今年の流行は「A香港型」 »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小児科診療」カテゴリの最新記事