徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

大人にも予防接種を

2012年05月20日 18時42分41秒 | 小児科診療
 予防接種というと「子どもが受けるもの」というイメージがありますね。
 しかし、この理解は正しくありません。
 なぜって、小児期に受けた予防接種の効果は一生持たないからです。

 ワクチンには生ワクチンと不活化ワクチンが存在することはご存じだと思います。
 生ワクチンは自然界に存在するウイルスそのものを弱毒化してヒトに投与して感染させ、症状は出さずに免疫だけ付けるという方法。
 一方の不活化ワクチンはウイルスや細菌などの病原体の一部を取り出してヒトに投与する方法。一回では効果が不十分なので複数回注射し(基礎免疫)、その後免疫が弱くなる頃に追加接種をするのが基本です(追加免疫)。

 従来生ワクチンは1回で十分有効と考えられてきましたが、2007年の大学生を中心とした麻疹流行でみられたように、一回では足りないことが判明し、2回接種が標準になってきました。
 不活化ワクチンは追加免疫をしても5~10年後にはまた免疫が低下するのは避けられません。つまり理論的には5~10年間隔で一生追加免疫が必要になるのです。

 でも、現在の日本では行っていませんよね。

 私が勤務した病院の中で、1箇所だけ破傷風の追加免疫を5年ごとに行っている病院がありました。
 夕方地域の公民館に出張して、農作業帰りの人たちに接種するのです。
 10ヶ所の病院に勤務して1ヶ所だけですから、どちらかというと例外的です。

 さて、不活化ワクチンは三種混合(DPT、Diphteria-Pertussis-Tetanus)、日本脳炎ワクチン、ヒブ/肺炎球菌ワクチン、B型肝炎ワクチン、HPVワクチンなどがあります。

 現在問題になっているのは三種混合に含まれる百日咳
 前項でも触れましたが、大人で1ヶ月以上咳が続いているヒトの3割は百日咳であるという報告があります。皆、小児期にDPTを受けているはずなのに罹ってしまう。つまり、免疫が長持ちしないのです。
 ではDPTを追加接種すればいいじゃないかと思いきや、そう単純には行きません。
 DPTの追加接種として位置付けられているのは小学校高学年で受ける二種混合(DT)です。
 なぜか「P」(Pertussis)つまり百日咳が省略されています。これは、百日咳は大人が罹っても軽く済むから省略してもよいだろうと昔考えたからです。
 しかし、前項で触れたように、大人の百日咳患者→乳児へ感染し重症化、が問題になっていますので、そんな暢気なことは言っていられません。
 
 米国ではすでに成人用3種混合ワクチン(Tdap)を作って接種をしています。これは子ども用DPTを大人に接種すると局所の腫れがひどくなる傾向があるため、ジフテリア・トキソイドと百日咳ワクチンを減量して新たにつくった混合ワクチンです。

 一方、日本はなにも指針を出していません。無策。

 DTよりTdapの方が有効なのに・・・と知りつつ接種せざるを得ないストレスフルな状況は、生より不活化が安全と知りながら生を接種せざるを得ないポリオワクチンと状況が重なります。
 そんな時、頭の中で「ワクチン後進国日本」「日本の常識世界の非常識」という言葉が巡ります。
 
 何時になったら、このストレスから解放されるのでしょう。
 
追記>(2012.8.24)
 日本脳炎ワクチンに関して、IDSC(国立感染症研究所感染症情報センター)はQ&A「大人になってからの予防接種」を掲載し、その必要性を説いています。また、厚生労働省検疫所のHPでは、以下のように説明されています;

■ 日本脳炎ワクチンの追加接種
定期の予防接種を完了していても、予防接種の有効期間は3~4年といわれています。この期間を経過した後に、流行地域(特に農村部)に長期間渡航される方は、追加で1回接種し、以後3~4年ごとに接種することが勧められます。
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