小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

小児アトピー性皮膚炎の診断と治療(池澤善郎Dr.)

2019年03月10日 13時58分48秒 | アトピー性皮膚炎
 引きつづき、「小児科」2019年2月号(Vol.60 No.2)特集「クリニックで診る小児アトピー性皮膚炎のプライマリ・ケア」より。
3.小児アトピー性皮膚炎の診断と治療ー年齢別ポイント

 池澤先生は、横浜市立大学皮膚科教授としてアトピー性皮膚炎の世界では有名でした。退官後は開業されたのですね。
 内容は、まず小児アトピー性皮膚炎の病型を6〜8つに分類し、それぞれ診断と治療を記述しています。はじめは「そんなに種類があるかな〜、面倒だな〜」と半分疑いながら読み進めると、実際の臨床で出会う「あるある」がたくさん出てきて驚きました。そして病型により治療アプローチも異なるので、大変参考になりました。

 その一つは、亜鉛華軟膏の使い方です。
 ステロイド外用薬の必要であり有効な皮疹の特徴は「乾燥+かゆみ+発赤」ですが、間擦部(頚部しわ部分、腋窩、鼡径部しわ部分)が蒸れてふやけて赤くなっている場合に私は亜鉛華軟膏を使用してきました。
 池澤先生はさらに広く適用しており、以下の場合に亜鉛華軟膏とステロイド外用薬を重ね塗りしています;
(1歳半未満)
・おむつ部の赤い刺激性皮膚炎
・食べ物やよだれで赤くなった口囲や頬部などの刺激性皮膚炎
・頚部・肘窩・膝窩などの間擦部に赤い間擦疹
・乳児脂漏性湿疹/汗疹湿疹型
・膿痂疹様/ざ瘡合併の乳児湿疹型
(1歳半以上)
・口唇・口角・口囲の湿疹病変(唾液で傷つきやすい)
・陰部(陰嚢・陰唇・陰股部・肛門)の湿疹病変(湿潤化しやすい)

 それから、軟属腫(水いぼ)/疣贅に紫雲膏外用と書いてあることに驚きました。
 漢方好きな私は、痛い皮膚病変(おむつ皮膚炎、擦過傷、火傷など)に多用してきましたが、水いぼに使用したことはありませんでした。今後は試してみたいと思います。

 それから、手掌の異汗性湿疹(汗疱状湿疹)は治療困難例が多く、皮膚科通院してもよくならない患者さんが当院に流れてきます。漢方薬が一部有効ですが、完治はせず悩ましい疾患です。この異汗性湿疹は金属アレルギーの可能性があることを知りました。要検討ですね。


<メモ>

アトピー性皮膚炎の分類(成人・小児・乳児別)
 思春期以降の成人アトピー性皮膚炎は8つの病型に分類される。
①皮膚バリア障害による乾燥性湿疹型
②食物アレルギー関与の湿疹/蕁麻疹型
③ダニ/ペット/花粉などの環境アレルギー関与の湿疹
④マラセチア/汗アレルギー関与の湿疹/蕁麻疹型
⑤金属アレルギー関与の汗疱状湿疹型
⑥皮表常在細菌叢が関与する酒さ様皮膚炎/ざ瘡合併型
⑦疣贅合併/非合併の痒疹/苔癬化型
⑧心因性の嗜好性掻破による痒疹/湿疹型
これらの臨床病型を、さらにABCの3つのサブタイプに分類した。
A:基本タイプ:アトピー性皮膚炎の基本病態である皮膚バリア障害による
B:アレルギータイプ:食物・環境などのアレルギーの関与が示唆される
C:特殊タイプ:A、B以外の病因・病態が合併

上記を参考にして1歳半未満の乳児アトピー性皮膚炎を6つに、1歳半以上の幼児・学童期アトピー性皮膚炎を8つの病型に分類する。

(1歳半未満の乳児アトピー性皮膚炎の臨床病型)
A-① 皮膚バリア障害による乾燥性乳児湿疹
B-② 食物アレルギー関与の乳児湿疹/蕁麻疹
B-③ ダニ/ペット/花粉などの環境アレルギー関与の乳児湿疹/蕁麻疹
B-④ 容易に軽快しない乳児脂漏性湿疹/汗疹湿疹
C-⑤ 膿痂疹/ざ瘡合併の乳児湿疹
C-⑥ 刺咬症/軟属腫/疣贅合併の乳児湿疹

(1歳半以上の幼児・学童期アトピー性皮膚炎の臨床病型)
A-① 皮膚バリア障害による乾燥性小児湿疹型
B-② 食物アレルギー関与の小児湿疹/蕁麻疹型
B-③ ダニ/ペット/花粉などの環境アレルギー関与の小児湿疹/蕁麻疹型
B-④ マラセチアアレルギー関与の小児脂漏性湿疹/汗疹湿疹/蕁麻疹型
B-⑤ 金属アレルギー関与の小児汗疱状湿疹型
C-⑥ 皮表常在細菌関与の膿痂疹様/ざ瘡様小児湿疹
C-⑦ 刺咬症/軟属腫/疣贅合併の小児湿疹/ストロフルス型
C-⑧ 心因性反応関与の掻破嗜好性の小児湿疹/痒疹型

□ アトピー性皮膚炎の治療
(1歳半未満の乳児アトピー性皮膚炎の臨床病型)
A-① 皮膚バリア障害による乾燥性乳児湿疹
 保湿剤+ステロイド外用薬(Medium〜Strong)で容易に軽快する。
 これにくわえて、
・おむつ部の赤い刺激性皮膚炎
・食べ物やよだれで赤くなった口囲や頬部などの刺激性皮膚炎
・頚部・肘窩・膝窩などの間擦部に赤い間擦疹
ーがある場合は、保湿外用薬の代わりに刺激性皮膚炎によく効き、皮膚の保護作用がある亜鉛華軟膏をまず塗布してからM/Sのステロイド外用薬を重ね塗りする。

B-② 食物アレルギー関与の乳児湿疹/蕁麻疹
 通常のスキンケアで容易に軽快しない代表的タイプ。軟膏両方を粘り強く行うと共に、食物アレルギーの関与を検討し、DSCG(インタール®)の投与も考慮する。
 著者はこのタイプの可能性が高い例には抗ヒスタミン薬とDSCG経口薬を内服させながら、原因となる食物を少しずつ摂取させ、問題の食物アレルギーの寛容を図る(ただしアナフィラキシータイプは除く)。

B-③ ダニ/ペット/花粉などの環境アレルギー関与の乳児湿疹/蕁麻疹
 通常のスキンケアで容易に軽快しないタイプ。
・絨毯の上でハイハイするときに直接触れる膝や手に発疹が出る
・室内飼育しているペットに触れるか舐められて発疹が出る
・花粉の飛散時期に顔面などの露出した皮膚に発疹が出る
ーといった特徴があり、眼症状や鼻症状を伴うことがある。
 対策として、軟膏療法を粘り強く行うとともに、環境アレルゲン対策を行う。

B-④ 容易に軽快しない乳児脂漏性湿疹/汗疹湿疹
 ふつう乳児脂漏性湿疹は頭部・前額部にできて乳児期以降自然軽快する。
 しかし最近、自然寛解せずに、赤みの強う浸潤性紅斑が、前述した脂漏部位だけでなく、汗疹ができやすい間擦部にも生じ、そのまま「容易に軽快しない乳幼児アトピー性皮膚炎」に移行する例が増えている印象がある。
 治療として、M/Sのステロイド外用薬と亜鉛華軟膏の重ね塗りに汗疹対策(除湿換気やシャワーの励行)を加える。
 それでもコントロールできない場合には、上記に加えて抗真菌薬ケトコナゾールの外用を併用する。

※ 小児科医の私は抗真菌薬をアトピー性皮膚炎患者さんに使用した経験がありません。

C-⑤ 膿痂疹/ざ瘡合併の乳児湿疹
 掻爬性の湿疹病変に皮表の常在細菌叢が増殖して生じる臨床病型。
 通常のスキンケアでは軽快しにくく、亜鉛華軟膏とM/Sのステロイド軟膏と抗菌薬軟膏の重ね塗りと一緒に、抗ヒスタミン薬に加えて有効な抗菌薬を全身投与する。
★ 新生児ニキビ;生後1週間から3ヶ月頃の赤ちゃんのおでこや頬部に生じるニキビで、通常は治療の必要がなく自然軽快するが、赤く腫れる場合は高に機微作用のある抗菌薬軟膏ナジフロキサシンを塗布する。

※ 小児科医の私は、伝染性膿痂疹(皮膚が毒素で溶けて広がる皮疹)のないアトピー性皮膚炎患者に内服抗菌薬を処方した経験がありません。新生児ニキビは石けんで洗うことにより軽快するので、こちらも抗菌薬軟膏を使用した経験がありません。

C-⑥ 刺咬症/軟属腫/疣贅合併の乳児湿疹
・刺咬症:M/Sのステロイド外用+抗ヒスタミン薬内服
・軟属腫/疣贅:紫雲膏外用+ヨクイニン散剤内服

(1歳半以上の幼児・学童期アトピー性皮膚炎の臨床病型)
A-① 皮膚バリア障害による乾燥性小児湿疹型
 小児アトピー性皮膚炎の基本タイプで、通常の保湿保護・抗湿疹抗炎症のスキンケアで容易に軽快する例が多い。
 学童期・思春期に近づいてM/Sランクのステロイド外用薬では抑えられずに痒疹・苔癬化病変を伴う例ではVS(very strong)ランクへ変更する。
 口唇・口角・口囲の湿疹病変は唾液で傷つきやすく、陰部(陰嚢・陰唇・陰股部・肛門)の湿疹病変は蒸れやすく湿潤化しやすいため、どちらの病変にも皮膚の保護作用があり、刺激反応を抑える作用がある亜鉛華軟膏をまず塗布し、湿疹病変の症状と部位を考慮してM/S/VSのステロイド外用薬を重ね塗りする。

B-② 食物アレルギー関与の小児湿疹/蕁麻疹型
 食物アレルギー関与の乳児アトピー性皮膚炎よりも即時型症状を呈する比率が高くなる。
 DSCG経口薬による改善効果は乳児に比べるとあまり顕著でないが、それでも明らかに食物アレルギーがあるアトピー性皮膚炎に対してはある程度の効果が認められる。

B-③ ダニ/ペット/花粉などの環境アレルギー関与の小児湿疹/蕁麻疹型
 これらの環境アレルゲンに直接触れる部位の皮疹の悪化や新たな痒い皮疹の出現が特徴。

B-④ マラセチアアレルギー関与の小児脂漏性湿疹/汗疹湿疹/蕁麻疹型
 現時点では、小児脂漏性湿疹における常在真菌のマラセチアとそのアレルギーの果たす役割は不明である。成人アトピー性皮膚炎と脂漏性湿疹では関与が指摘されている。
(成人の脂漏性湿疹)
 マラセチアは脂腺から分泌される皮脂を栄養源としているため、皮脂の量が多くなるとマラセチアが増え、それ自体の刺激作用に加えて、皮脂成分の一つであるトリグリセライドを遊離脂肪酸に分解し、その遊離脂肪酸が皮膚に刺激反応を起こし脂漏性湿疹を発症するとされている。

B-⑤ 金属アレルギー関与の小児汗疱状湿疹型
 金属アレルギーは成人より少ないが、最近は小児でも、微量の金属が含まれている砂場での砂いじりや、金属歯絵のおもちゃを舐めたりすることにより、手足や顔、口囲などの赤みや痒みといった症状が出ることがある。
(成人におけるアトピー性皮膚炎と金属アレルギー)
 成人ではIgE値が低い内因性アトピー性皮膚炎患者に金属アレルギー(Ni、Co)の比率が高いことが報告されている。
 アトピー性皮膚炎の有無にかかわらず、全身型金属アレルギー患者は、発汗の多い手掌足蹠・手指足趾・体幹四肢などに異汗性湿疹(汗疱状湿疹)の症状を呈する傾向あり、DCSG経口薬が有効とされている。

C-⑥ 皮表常在細菌関与の膿痂疹様/ざ瘡様小児湿疹
 通常のスキンケアでは軽快しにくい。
 亜鉛華軟膏+M/Sのステロイド外用薬+抗菌薬軟膏(フシジンレオ®、アクアチム®など)の重ね塗り+抗ヒスタミン薬/抗菌薬内服。また、漢方薬(桂枝茯苓丸加薏苡仁、十味敗毒湯、排膿散及湯)も今後の検討課題である。

C-⑦ 刺咬症/軟属腫/疣贅合併の小児湿疹/ストロフルス型
 1歳半未満と同じ対応。

C-⑧ 心因性反応関与の掻破嗜好性の小児湿疹/痒疹型
 通常の湿疹皮膚炎病変に不釣り合いな顕著な掻破痕を伴う痒疹・苔癬化皮膚炎が特徴的である。掻破痕が顕著な場合は、ステロイド外用薬に亜鉛華軟膏や紫雲膏の重ね塗りを追加する。心身症の要素が顕著な場合、心身症の専門医に紹介する必要がある。

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アトピー性皮膚炎のスキンケア指導のポイント(佐々木りか子Dr.)

2019年03月09日 16時23分30秒 | アトピー性皮膚炎
 当院では乳児アトピー性皮膚炎に対して積極的治療を行っています。
 その基礎は「スキンケア」。
 最近発行された小児科系医学雑誌にアトピー性皮膚炎の特集を見つけたので、知識をアップデートすべく早速購入して読んでみました。

「小児科」2019年2月号(Vol.60 No.2)特集「クリニックで診る小児アトピー性皮膚炎のプライマリ・ケア」より
2. スキンケア指導のポイント(佐々木りか子Dr.)

 保湿剤について囲皮と通りのことが記述されており、あまり目新しい記述はありませんでした。
 特徴と言えば、紫外線対策も項目に入れているところでしょうか。

<メモ>
・スキンケアは外用薬を使用しないで皮膚を手入れすることである。アトピー性皮膚炎にとっては、スキンケアは治療の補助というよりその一端を担う重要な方法といえる。スキンケアは通常、①清潔、②保湿、③紫外線防御の3つに大別される。

・ベビー用スキンケア製品は、弱酸性、無香料、無着色、アルコールフリー、パラベンフリー、無添加など、不必要な成分を可能な限り除いた設計になっている。

・石けんとは、植物油(パーム油、ヤシ油、大豆油など)や動物油(牛脂、豚脂など)を原料とし、それらを苛性ソーダで鹸化したもので、脂肪酸のナトリウム塩、カリウム塩の総称である。したがって、石けんという化合物はアルカリ性である。石けんを使用した後の皮膚には、水道水中の金属イオンと脂肪酸が結合した、金属石けん(石けんカス)が残留する。

・皮膚の表面のpHが弱酸性であることの意義;
1.角層のバリア機能や水分保持機能の維持
2.皮膚の病原菌を増加させない(正常細菌叢の維持)

・ベビー用洗浄剤にはアルカリ性、中性、弱酸性の製品がある。市場に出ているベビー用ボディーシャンプーの半数は石けんを主成分としている。アルカリ性や中性の製品は、泡立ちがよくしつこい皮脂汚れには洗浄力を発揮するが、皮脂を取り過ぎる点や皮膚への刺激性があることを考えると、やはり乳幼児には弱酸性の洗浄剤を選択するのがよい。

※ 弱酸性のベビー用ボディーシャンプーを検索してみました;
キューピー 全身ベビーソープ(泡タイプ) ポンプ400mL 560円
キュレル 泡ボディウォッシュ ポンプ 480ml 1250円
ママ&キッズ ベビー全身シャンプー フレイチェ 460ml 1512円
ピジョン 全身泡ソープ しっとり 本体 500ml 980円(?)
・あわぴよ 全身泡シャンプー 本体500ml 579円


・正しい洗い方;弱酸性の洗浄剤をよく泡立ててから皮膚におき、手でそっと皮膚表面を撫でるように洗う。戸外遊びの機会が増える1歳以降は手だけでは汚れが落としきれない場合があるので、柔らかい綿タオルを用いてそっと洗う。

・保湿の三要素と保湿剤
1.天然保湿因子:NMF(アミノ酸、尿素、乳酸、塩基類)→ ヘパリン類似物質(NMFの一種であるヒアルロン酸に類似)
2.角質細胞間脂質:セラミド、コレステロール → セラミド含有保湿剤(市販) 
3.皮脂膜:トリグリセリド、スクワレン → 白色ワセリン

※ NMF(natural moisturizing factor)は、角化細胞(ケラチノサイト)が分化する過程でフィラグリンなどのたんぱく質から作り出される。
※ 角質細胞間脂質:角化細胞が分化する過程で作られ、スフィンゴ脂質(セラミドなど)、コレステロール、コレステロール・エステル、遊離脂肪酸などで構成される。

・サンスクリーン剤は、午前10時から午後2時くらいまでの、紫外線照射量が多い時間帯に、衣類から出ている部位に補助方法として使用する。SPF(sun protection factor)は15-20くらいで十分で、取れたら塗り替えることが大切である。発汗量の多い乳幼児は2時間以上は持たないと考えた方がよい。

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アトピー性皮膚炎 〜「第五回総合アレルギー講習会」より

2018年12月16日 12時45分53秒 | アトピー性皮膚炎
 総合アレルギー講習会は、アレルギー診療を底上げするための教育・啓蒙活動です。以前は秋に行われたアレルギー学会でしたが、5年前から講習会に変更されました。アレルギー疾患関連の最新情報をアップデートするチャンス。
 私は第一回から毎年参加してきましたが、今回(2018.12.15-16)は諸般の事情で不参加となってしまいました。
 だた、スライド原稿が冊子にまとめられていますので、それを読むことはできます。
 アトピー性皮膚炎のレクチャーから気になる箇所を抜粋しました。

 メモしていて気がついたこと&気になったこと。

<治療のゴールの混乱>
 アトピー性皮膚炎治療のゴールは「軽微な症状が残っていても日常生活に支障がない状態」とありますが、現在治療の中心となるプロアクティブ療法では「皮疹・炎症をゼロにしてそれを維持する」のが基本です。ちょっと矛盾していますね。プロアクティブ療法中も、軽微な症状には目をつぶるべきなのか、軽微な症状にもモグラたたきの要領で完璧を目指してステロイド軟膏を塗るべきなのか・・・日々悩みながら診療しています。

<リアクティブ療法からプロアクティブ療法へ>
 従来のリアクティブ療法は何だったのか?
 アレルギー専門医になって四半世紀が経ちますが、ガイドラインはずっとリアクティブ療法を推奨してきました。それにならって治療を試みるも、再燃を反復し、先が見えない状況がずっと続いてきたのです。皮膚科専門医は「この治療法で8割はよくなる」と主張していたので、うまくいかないのは自分のやり方が悪いのかなあ・・・と自信を失っていました。
 そこにプロアクティブ療法の登場。
 リアクティブ療法では悪循環を断ち切れませんよねえ、プロアクティブ療法なら大丈夫、と素早い切り替えに驚かされました。
 皮膚科専門医の嘘つき!
 と言いたくなります。

 数年前に導入したプロアクティブ療法はとてもよいです。
 といっても、このステップダウン方式は喘息の抗炎症治療と同じ考え方、やっと喘息治療にアトピー性皮膚炎治療が追いついたという印象を持っている小児科医は多いと思います。

<乳幼児アトピー性皮膚炎の自然経過>
 「乳幼児アトピー性皮膚炎の自然経過」のシェーマは参考になりました。成人と違って、年齢により症状が異なることが特徴です。ステロイド外用薬減量の際には、年齢/月齢のみでなく季節も考慮する必要があることを再認識しました。

<ステロイド外用薬による眼圧上昇/緑内障リスク>
 先日某大学の皮膚科教授の講演会で、「アトピー性皮膚炎の眼周囲へのステロイド軟膏塗布は気をつけてください。ネオメドロールEE軟膏など弱いランクのステロイドにとどめた方が無難です」という話を聞きました。
 「?」
 一般に、抗菌薬(=抗生物質)入り軟膏は連続塗布でかぶれ(=接触皮膚炎)を起こしやすいから使わないように、とテキストに書かれています。今回のアレルギー講習会でも「パッチテストで陽性率の高いアレルゲン」にフラジオマイシンの名前があり、フラジオマイシン含有軟膏の欄にもネオメドロールEE軟膏の名前がありますね。
 こういうズレは混乱をきたすので、皮膚科専門医内で統一していただきたいものです。

 将来、アトピー性皮膚炎プロアクティブ療法が普及してくると、非アレルギー専門医でも行うようになると思われます。そのときに心配なのが、ステロイド外用薬による眼圧上昇/緑内障の副作用です。
 小児は敏感に反応する傾向があり、また乳児における使用成績や眼圧上昇の評価報告が皆無の現在、慎重に進めなければならないと思います。


<メモ>

アトピー性皮膚炎の鑑別:角質バリアが生まれつき弱い疾患
 以下の三疾患は、紅皮症・喘息・食物アレルギー・高IgE血症を引き起こす;
Netherton症候群)LEKT1欠損によるKLK5のプロテアーゼ活性過剰のために角質剥離が亢進
Peeling skin症候群B型)コルネオデスモシン(CDSN)欠損のために角質剥離が亢進
掌蹠角化・乏毛・高IgE血症を伴う先天性紅皮症)デスモグレイン1(Dsg1)欠損のために角質剥離が亢進

表皮は角質バリアとタイトジャンクション(TJ)バリアの二つのバリアを持つ

経皮感作がアレルギー疾患の引き金となる
・皮膚炎があるとアレルギー感作が起こりやすくなり、経皮感作を通じてアレルギーマーチが起こる。
・乳児期に湿疹があると、3歳になったときに食物アレルギーになっている率が高い(国立成育医療センターのコホート研究)
・アレルギー感作予防/アレルギーマーチ予防として、乳児湿疹は徹底的に治し慢性化させない。維持には、週1〜2回の全身ステロイド外用

タクロリムス軟膏使用時の注意点(安全性)
 これまで、タクロリムス軟膏の使用は皮膚癌やリンパ腫の発症リスクを高めないというエビデンスが集積されている。
 タクロリムス軟膏使用者におけるリンパ腫の発生が報告されているが、いずれも後方視的研究であり、リンパ腫の診断の確実性に問題があることや、タクロリムス軟膏使用前にアトピー性皮膚炎とされていたものが、リンパ腫であった可能性がある。
 小児のアトピー性皮膚炎に対するタクロリムス軟膏小児用の長期使用の安全性について、本邦における最長7年の経過観察で、有害事象としての悪性腫瘍の発症はなかったとの中間報告がある。
 ただし、血中濃度上昇を防ぐために、外用量の遵守は必要である。

日本皮膚科学会によるアトピー性皮膚炎の定義・概念は、アトピー性皮膚炎治療の混乱に対処するために決められた
・特異的IgE抗体をもつ「外因性アトピー性皮膚炎」と、特異的IgE抗体をもたない「内因性アトピー性皮膚炎」とがある。
・WAO(World Allergy Organization)は外因性アトピー性皮膚炎をアトピー性皮膚炎とし、内因性アトピー性皮膚炎は Atopiform dermatitis として区別している。
・内因性にはFLG異常はなく、バリア機能正常、Th2サイトカインは低め、IFN-γ高い、eotaxin, IL-5, IL-13低め、ダニ・金属パッチテスト陽性率高い(Kabashima, Tokura)

アトピー性皮膚炎の治療は、火事の消火に似ている。
・大火事の時に消化器で消化しようとしても延焼を防げない。
→ 皮膚炎も炎症が延焼を起こす。
・ぼやの時に消防車で消火すると、大事なものまで水浸しになる。
→ 皮膚炎も薬の副作用があるので、適切な薬で初期消火すべし。

アトピー性皮膚炎に対するプロアクティブ療法の極意。
・皮疹が良くなっても、かゆみが取れても、炎症が残っているので治療を止めない!
・以前湿疹があった部位全体に、間欠的にステロイド外用薬を使用しつづける。

プロアクティブ療法は寛解維持療法
・急性期の抗炎症外用薬による治療で炎症のない状態にまで改善した皮疹に、ステロイド外用薬を週2回程度塗布し、皮膚炎の再燃を予防する治療法。
・予防的な外用方法であると同時に、「一見正常に見えるが実は炎症が潜んでいる皮膚」も治療対象にして、抗炎症作用を持つ外用薬の間欠的塗布を継続するというのが基本的な考え方。
・この方法により、長期の連日外用により懸念される副作用を避けつつ、炎症再燃の頻度・程度を軽減することを目指した寛解維持療法の一つと言える。

生下時からの保湿剤1日1回塗布により、ハイリスク児のアトピー性皮膚炎発症を2割減らせる。
・J Allergy Clin Immunol. 2014 Oct;134(4):824-830

アドヒアランスとは?
 患者自身が治療の必要性を感じて、自分自身で治療するという心構え。

アドヒアランスを高めるための指導
「歯を磨かないと虫歯になりますよね」
「あなたの皮膚は保湿をしないと湿疹になりやすいので続けましょう」

アトピー性皮膚炎治療のゴール
・症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物治療もあまり必要としない状態に到達し、その状態を維持すること。
・このレベルに到達しない場合でも、症状が軽微ないし軽度で、日常生活に支障をきたすような急な悪化が起こらないような状態を維持する。
・アトピー性皮膚炎は適切な治療により皮疹が安定した状態が維持されれば、寛解が期待される疾患である。

ステロイド軟膏治療のポイントは「強さ」「塗布量」「塗布期間」の三つ。
(軟膏の強さ)高度な皮疹には十分に強力な軟膏を選択
(塗布量)FTU遵守
(塗布期間)十分に炎症が沈静化する前に外用を中止しない(プロアクティブ療法⇩)

アトピー性皮膚炎のリアクティブ療法
・急性期や皮疹が悪化したときには、ステロイド外用薬で炎症を抑えて寛解導入し、その後は保湿剤によるスキンケアで寛解を維持する方法。
軽快している期間がだんだん延びてくることが期待されたが、実際には外用期間が延びることはなく、頻回の再燃を繰り返してしまうのが現実
→ 「どうせ塗ってもすぐ悪くなる」という外用アドヒアランスの低下。

乳幼児アトピー性皮膚炎の自然経過JACI 2004 113(5):925-931
・典型的な経過:生後4ヶ月頃顕在化し6ヶ月頃ピークを迎え1歳頃に落ち着いてくる。
・月齢、季節、感染症が影響を与える因子。
・1歳頃にはよくなる、3歳頃にはもっとよくなる、夏には改善し冬に悪化する。

ジャパニーズスタンダートパッチテストで陽性率の高いアレルゲン
・硫酸ニッケル(金属)・・・ニッケルメッキ、歯科用合金、塗料、チョコレート、豆類
・ウルシオール(植物)・・・漆製品、マンゴー、カシューナッツオイル
・塩化コバルト(金属)・・・合金、毛染め剤、陶磁器、絵具、チョコレート、豆類
・パラフェニレンジアミン(染料)・・・毛染め剤、毛皮/皮革(ひかく)染料
・フラジオマイシン(抗生物質)・・・外用剤

フラジオマイシン含有軟膏一覧
・フルコートF®軟膏(OTC)
・クロマイP®軟膏(OTC)
・ドルマイシン®軟膏(OTC)
・リンデロンA®軟膏
・ネオメドロールEE®軟膏
・バラマイシン®軟膏
・ベトネベートN®軟膏

アトピー性眼瞼炎
・所見:
(急性期)紅斑、丘疹、鱗屑
(慢性期)皮膚の肥厚、亀裂
※ ヘルトーゲ(Hertoghe)徴候:掻破のため、眉毛がすり切れて、眉毛外側部が疎毛になっている状態
※ デニー・モルガン(Dennie-Morgan)徴候:下眼瞼に皺を形成している状態
・強いかゆみのため、繰り返し皮膚を掻爬することにより、湿疹病変の悪化だけでなく、網膜剥離や白内障を引き起こす。
・眼瞼炎が慢性化すると、眼瞼の内反または外反、閉眼障害などが生じ、角膜上皮障害が生じる。

アトピー性皮膚炎患者におけるステロイド外用の眼圧への影響
(京都府立医科大学皮膚科の集計:Tamagawa-Mineoka R. Allergol Int, 2018;67:388-391)
・平均1ヶ月間の顔面へのステロイド外用量の90パーセンタイル値は、2歳以上13歳未満で11.8g、13歳以上で15gだった。
・眼圧については、眼手術後の炎症による眼圧上昇(29mmHg、38mmHg)が2例(3%)、軽微な眼圧の上昇(24mmHg)が1例(1.5%)だった。後者はステロイド点眼及び外用を継続したが、眼圧は低下し、ステロイド薬によって眼圧が上昇した可能性は低いと考えた。したがって、通常の日常診療でステロイド外用により明らかに眼圧が上昇した症例はいなかった。

ステロイドに対する眼圧の反応性
・眼圧のステロイド薬に対する反応性は、個人の遺伝的素因により決定するという説が提唱されており、ステロイド点眼により眼圧上昇をきたしやすい一群は、ステロイドリスポンダーとして認識されている。健常人の約25-30%、膠原病の患者ではより多くのステロイドリスポンダーが存在することが報告されている。(北沢克明ほか:日眼会誌. 1985;76:1277-1285)
・年齢が低いほど眼圧がステロイド薬に反応しやすい傾向があり、小児や若年者では特に注意が必要である。乳児の重症例では、顔面にステロイド薬の外用を継続する場合があり、定期的な眼圧測定が重要である。(Gaston H, et al: Br J Ophtal. 1983;67:487-490)
・ステロイド点眼薬への反応(デキサメサゾンの場合)(Invest Pohtalmol Vis Sci,4(2);187,1965)
 低反応性(5mmHg以下の上昇)66%
 中等度反応性(6-15mmHgの上昇)29%
 高反応性(16mmHg以上の上昇)5%
・処方薬による反応の違い:内服<点眼、眼軟膏、結膜下注射
・点眼における薬剤による反応の違い(Arch Ophtalmol,86:138-141,1971)
 フルオロメトロン<ベタメサゾン、デキサメサゾン、プレドニゾロン

ステロイド点眼薬による緑内障
・眼圧上昇の自覚症状はほぼ無い
・視野狭窄の自覚症状出現時には手遅れ(末期の緑内障で、もう治らない)

アトピー性皮膚炎患者におけるステロイド外用による緑内障発症例の報告
35/F:Betamethasone 0.1%:20年使用(Michaeli-Cohen A, et al:Can Fam Physician,1988;44:2262-2263)
45/M:Difluocortolone 0.1%:20年使用(同上)
27/F:Methylpredonisolone 0.5%:14年使用(勝島晴美:日眼会誌,1995;99:238-243)
10/M:Bethamethasone valerate 0.12%:2年使用(同上)
21/M:Predonisolone acetate 0.25%:3年使用(伊藤正ほか:あたらしい眼科.2000;8:1101-1102)

点眼薬の使い方
(自己点眼)
1.手をよく洗う。
2.容器の先が睫毛や眼瞼・眼表面に触れないよう点眼する。
3.目を閉じる。
4.あふれた点眼は、ティッシュ等でふき取る。
(小児の点眼介助)こどもが怖がらない方法で
1.手をよく洗う。
2.目の周りの汚れをふき取る。
3.こどもの頭を膝にのせて下まぶたを下げて点眼する
・目を開けてくれない場合 → 目頭に目薬を落とす:そのままの姿勢で目を開けたり閉じたりすると自然に眼の中に点眼液が入る。
・泣いているときは? → 泣き止むまで点眼しない
・点眼した後、まばたきをしてもいい? → ダメです。目を閉じましょう。

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「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018」を読んでみました。

2018年11月23日 15時45分17秒 | アトピー性皮膚炎
 今までは、日本のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインは2つ存在していました。
 一つは日本皮膚科学会作成「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版」(皮膚科専門医向け)、もう一つは日本アレルギー学会作成「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2015」(非皮膚科専門医向け)。

 2018年、春のアレルギー学会で「皮膚科と内科が協力してガイドラインを一つにまとめている、夏以降に発表される予定」という情報が耳に入りました。
 今までのガイドラインと何が異なるかというと、

・乳幼児は従来、成人よりステロイド軟膏のランク(強さ)を1つ弱いものに下げて使用するとされてきたが、今回、皮疹の重症度により軟膏のランクを決めることとし、年齢で区別しなくなった。
・ステロイド軟膏は従来1日2回塗布が基本であったが、1日1回塗布でも差がないことがわかってきたことが記載される。

 と聞きました。
 ほかには、経皮感作のこと、プロアクティブ療法がどれくらい詳しく書かれているんだろう・・・楽しみにして待つこと数ヶ月、ようやく日の目を見ました。
 日本皮膚科学会のHPからダウンロード可能です。

 早速読んでみました。
 まず、ガイドラインが一つに統一され、「これだけ読めばよい」という現実をうれしく思いました。
 そして上述の情報通りのことが記載されていました。
 それから、小児アトピー性皮膚炎に関して<小児における注意事項>が設けられて解説されており、大変役に立ちます。
 「乳児脂漏性皮膚炎でも一旦改善の後、またはそのままアトピー性皮膚炎に移行していく例があるとされるが、これは、生後1ヶ月の時点では定義上アトピー性皮膚炎とは診断できないだけで、すでに発症していると考えてよい」
 という記載は大胆ですね。

 ただ、プロアクティブ療法に関してはジレンマが残ったままです。
 当院は「小児科・アレルギー科」を標榜していますので、赤ちゃんの湿疹がメインです。
 乳児早期の生後3ヶ月頃から治療が必要になりますが、顔面から発症しますので、顔面に数週間の間はステロイド軟膏を塗り続ける事になります。
 一方、ステロイド軟膏の眼合併症である眼圧上昇・緑内障については、危険性を述べるだけで「どこまでの使用が安全なのか?」が示されていません。
 つまり、「治療は必要だけど安全性は担保されていないから、自己責任でやってね」というスタンスなのです。
 これではガイドラインとして不完全、片手落ちといわざるを得ません・・・残念。


<メモ>

アトピー素因における「家族歴, 既往歴」では蕁麻疹を考慮しない。

→ アトピー素因とはアレルギー体質と言い換えてもよい概念ですが、アレルギー疾患というイメージのある蕁麻疹は、実はアレルギーの関与が証明できるものは1割程度と少ないため、アレルギー疾患に含まないということですね。

小児アトピー性皮膚炎が自然に治る率は?
1.2006-2008年、横浜市・千葉市・福岡市の乳幼児健診でのデータ;
・生後4ヶ月検診でアトピー性皮膚炎と診断された児は16.2%。
・1歳6ヶ月検診では、そのうち70%が寛解していた。
・1歳6ヶ月児の約50%が3歳時までに治癒していた。
2.大島らの報告;
・1 歳未満で小児アレルギー 専門医によりアトピー性皮膚炎と診断された 169 人の乳児を 4年間追跡したところ,症状は 51%で改善,34%で消失していた。
3.阿南らの報告;
・自然寛解は 2~3 歳ごろから認められ,50%が自然寛解に到達する年齢は 8〜9歳,16歳を過ぎると全体の約 90%が自然寛解する。
4.若森らの報告;
・小学 1 年生の時にみられたアトピー性皮膚炎の 4分の 3は中学校入学時に寛解していた。

※ 寛解率に影響する因子(CQ18より)
・寛解率が高くなる因子として、軽症なこと、発症年齢が高いこと、屈側部に皮疹がないこと、食物アレルギーがないこと、郊外に住んでいることなどが挙げられる。
・病院を受診した患者の調査よりも、健診における有症率の調査の方が軽症例が多く、寛解する割合は高い傾向が見られた。


乳児(2歳未満)の皮疹の特徴
・乳児早期には,頬,額,頭の露出部にまず乾燥,次いで潮紅を生じるのが始まりである。
・病勢が強いと潮紅は強まり丘疹が出現すると同時に痒みが生じて搔くために皮疹は傷つけられ湿潤性となり痂皮をつくる。
・同時に皮疹は拡がり,耳周囲,口囲,頬,顎など顔面全体に及ぶ。
・顔面の症状にやや遅れて頸部,腋窩,肘窩,膝窩などの間擦部に滲出性紅斑が生じ,さらに,胸腹部,背部,四肢にも紅斑,丘疹が出現する。


→ ときに、顔面皮疹の目立たない、四肢体幹中心の湿疹乳児に出会うのですが、これはアトピー性皮膚炎と決めつけない方がよいようですね。

皮疹の性質:急性病変と慢性病変を分けて考える。

急性病変)いままさに出現した皮疹としては紅斑丘疹とがある.これらには表皮内に小水疱を多く持つものがあり,それが湿潤性紅斑漿液性丘疹である.それらの悪化または搔破によって表皮が破壊されると滲出液が出て,痂皮となる。
慢性病変)主に搔破の影響で変化した皮疹である。搔破を繰り返すと機械的刺激により皮膚が肥厚し, 苔癬化病変痒疹結節をつくる。


除外すべき皮膚疾患と鑑別ポイント

皮脂欠乏性湿疹
 アトピー性皮膚炎も皮膚の乾燥によって湿疹が生じる疾患で,冬に悪化することも多いが,経過や皮疹の分布,性状などから鑑別する。


→ この記載だけではよくわかりませんが・・・?

Wiskott-Aldrich 症候群
 免疫不全(T細胞機能不全),血小板減少,難治性湿疹を三主徴とする。生後 6カ月までにアトピー性皮膚炎に似た湿疹が顔面や四肢屈側などに出現する。血小板減少による紫斑もみられる。伝染性膿痂疹,単純疱疹,カンジダ症などの感染症を繰り返す。


→ アトピー性皮膚炎様湿疹+α には注意すべし。

高 IgE症候群
 黄色ブドウ球菌を始めとする細菌による皮膚膿瘍(冷膿瘍)と肺炎(肺囊胞),アトピー性皮膚炎様の湿疹病変,血清 IgEの高値がみられる。高 IgE症候群の皮疹とアトピー性皮膚炎の皮疹との臨床的な鑑別は容易ではない。


→ これもアトピー性皮膚炎様湿疹+α に注意。

ステロイド外用薬治療と皮膚科専門医への紹介のタイミング
 4週間程度外用を行っても皮疹の改善がみられない症例,重症例に関しては皮膚科専門医への紹介が望ましい。


→ ということは、ステロイド軟膏連日塗布は4週間までは許容されるということですね。

ステロイド軟膏の年齢による使い分け
 乳幼児,小児において,年齢によってランクを下げる必要はないが,短期間で効果が表れやすいので使用期間に注意する。


→ ここが大きく変わった点です。従来のガイドラインでは、乳幼児には無条件で成人より1ランク弱い軟膏を使用すると記載されてきました。今回初めて、年齢による使い分けが撤廃されたことになります。
 今まで,乳児でロコイド軟膏をしっかり塗ってもよくならない湿疹はすべて皮膚科へ誘導してきたのですが、苔癬化病変にははじめからリンデロンVを使ってよいことになり、診療範囲が広がります。

ステロイド軟膏の外用回数
 急性増悪の場合には 1 日 2 回(朝,夕:入浴後)を原則とする。
 炎症が落ち着いてきたら 1 日 1 回に外用回数を減らし,寛解導入を目指す。
 1 日 2 回外用と 1 回外用の効果の差の有無についてはさらなるエビデンスの集積が必要であるが,1 日 2 回外用と 1 回外用で効果に差がないとするランダム化比較試験(RCT: Randomized control trial)やシステマティックレビューも複数ある。
 一般的には 1 日 1 回の外用でも十分な効果があると考えられ,外用回数が少なければ,外用アドヒアランスが向上することも期待できるため,急性増悪した皮疹には 1 日 2 回外用させて早く軽快させ,軽快したら寛解を目指して 1 日 1 回外用させるようにするのがよい。


→ 私が主に診療している生後6ヶ月未満の早期乳児には、この文章の使い方は合わないような気がします。アトピー性皮膚炎の初発は、生後数ヶ月頃からはじまる顔面の痒い湿疹で、それがどんどん体幹・四肢へ広がっていきます。つまり、乳児早期は急性増悪・病変拡大の時期であり、定常状態ではないのです。ですから、1日1回に減らすと皮膚の赤みが出てきて、塗布間隔を開けられなくなると思われます。
 プロアクティブ療法施行中の患者さんには、実際に塗っているお母さん(あるいは養育者)に「ステロイド軟膏を塗る前になると皮膚科赤みを帯びてきますか?」と質問します。「はい、赤くなります」という回答の場合は塗布間隔をそのまま維持し、「いいえ、赤くなりません」という回答の場合は塗布間隔を開けます。お母さんに決めてもらうので、納得の上の治療となります。

ステロイド軟膏の顔への使用
 顔については,原則としてミディアムクラス(IV群)以下のステロイド外用薬を使用するが,重症の皮膚炎に対しては,重症度に応じたランクの薬剤を用いて速やかに寛解に導入した後,漸減あるいは間歇投与へ移行するようにし,さらにタクロリムス軟膏外用への移行に向けて努力する。


→ どれくらいの期間と塗布量までが安全なのか、目安を示した欲しかったです。

ステロイド軟膏の眼への副作用について
 眼周囲の病変に対するステロイド外用薬の副作用として問題となるのは,白内障と緑内障である。
 ステロイド外用薬の眼周囲への使用は,アトピー性皮膚炎患者における白内障のリスクを高めるとは言えないと考えられる。アトピー性皮膚炎患者にみられる白内障は,ステロイド忌避による顔面皮疹の悪化や叩打癖,原病による顔の皮疹の炎症などが誘因と考えられる。
 ステロイド外用治療後の緑内障の症例は多数報告されており,緑内障のリスクを高める可能性は十分にあるが,弱いランクのステロイドを少量使用する分にはリスクは低いと考えられる。眼周囲や眼瞼皮膚にステロイド外用薬(特に強いランクのもの)を使用する際は,外用量や使用期間に注意する必要があるが,十分に炎症を抑え寛解状態に向けていくことも重要であり,タクロリムス軟膏への切り替えも検討すべきである。また,これらの眼合併症が懸念される場合は,眼科との連携が重要である。


→ これは、日本皮膚科学会作成の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016」の記載と変わりません。私としては「ロコイド軟膏なら○週間までは安全」と明記して欲しかったのですが、まだデータがないようですね。

プロアクティブ療法はアトピー性皮膚炎の皮膚症状の評価に精通した医師によるか,あるいは皮膚症状の評価に精通した医師と連携して行われることが望ましい

→ ごもっとも。しかし当院の治療では改善悪く、近隣の皮膚科専門医に紹介しても、より強いランクのステロイド軟膏によるリアクティブ療法に変更される傾向があります。皮膚科学会内で意見を統一していただきたいものです。

抗ヒスタミン薬の分類
 抗ヒスタミン薬には,抗コリン作用や鎮静作用が比較的強い鎮静性抗ヒスタミン薬(第一世代)と,眠気・インペアー
ドパフォーマンス(眠気の自覚を伴わない集中力,判断力,作業能率等の低下)・倦怠感などが少なく抗コリン作用のない非鎮静性抗ヒスタミン薬(非鎮静性第二世代)がある。脳内 H1受容体占拠率の程度により,
・50%以上を鎮静性
・50〜20%を軽度鎮静性
・20%以下を非鎮静性
と 3 群に分け,第二世代はおおむね 30%以下。


入浴とアトピー性皮膚炎
・湯の温度が42℃以上でそう痒が惹起されるため、入浴・シャワー浴時は38〜40℃がよい。
・発汗や体のほてりが収まったら速やかに保湿剤を塗布する。
・皮脂の融点は約30℃であり、温めのお湯でも皮脂はある程度除去できる。


→ 世界を見渡すと、砂漠や草原で生活している人々は毎日お風呂に入る習慣はなく、年に数回という民族もいます。だからといって彼らが皆、痒い湿疹で悩まされているわけではなく、ふつうに生活できています。
 ですから、ケースバイケースで適切な方法を探る、というスタンスを持てばよいと思います。

接触皮膚炎(=かぶれ)を疑うタイミング
・アトピー性皮膚炎の治療への反応が期待通りでない場合。
・皮疹の分布が典型的でない場合。
・成人例では最近になって発症あるいは悪化した場合。


食物除去は医学的根拠がなければ推奨されない。
・アレルゲンになりやすいという理由で特定食物を除去することは推奨されない。
・アレルゲンになりやすい食物というだけで、摂取する食物の種類を制限することはアトピー性皮膚炎の治療のために有効ではない。
・食物除去を行うためには、アトピー性皮膚炎に対して抗炎症治療を十分に行った上でアレルゲン除去試験を行うべきである。


→ しかし巷では未だに「検査結果信仰」がはびこっていて困ります。

妊婦・授乳婦への食事制限(アレルゲン除去)は児のアトピー性皮膚炎の発症予防に有用ではない。
・2000年当時、米国小児科学会は妊婦へのアレルゲン除去食を推奨した。
・2006年および2008年に妊婦・授乳婦へのアレルゲン除去食によるRCTのシステマティック・レビューが報告され、妊婦や授乳婦のアレルゲン除去による食事制限は、生後から18ヶ月児までのアトピー性皮膚炎の発症を抑制する効果はないとされた。


→ 私がアレルギー専門医になって四半世紀が経過していますが、この「予防としてのアレルゲン除去の正否」が一番変わった点ですね。食物アレルギーを予防するためにも治療するためにも、アレルゲンを除去するより注意しながら積極的に食べる方向に180°変わりました。

発汗活動は、アトピー性皮膚炎の症状をよい方向にも悪い方向にも導く。
 発汗を避ける指導は必要なく、むしろ発汗後の汗対策指導を重視すべきである。
(汗の利点)
・汗の主要な構成要素:電解質(塩化ナトリウム,カリウム等),重炭酸ナトリウム(HCO3-),尿素,ピルビン酸,乳酸,抗菌ペプチド,プロテアーゼ,プロテアーゼ阻害物質がある。
・尿素と乳酸は天然保湿因子として角層の水分保持に関わる。汗に由来する乳酸ナトリウムは天然保湿因子として機能し,特に角層上層に多く含まれるため皮表の保湿に大きく関わると考えられる。
・尿素の汗中濃度は血漿中と同程度を示し,持続的な角層の保湿に関わる他,角層の剝脱を調節する作用がある。
・その他,汗のシステインプロテアーゼ阻害,セリンプロテアー ゼ阻害作用はシステインプロテアーゼ抗原のダニ抗原(Derf1), キウイフルーツ抗原(アクチニジン)を失活するとともに,過剰なセリンプロテアーゼ活性に伴う角層の脆弱性を回復する効果が期待できる。
・汗に含まれる抗菌ペプチドは皮膚表面の感染防御にも関わる。
(汗の欠点)
・これら汗のもたらす利点は発汗後の時間経過とともに損なわれる。
・気化できず皮表に残存する余剰な汗に混入するマラセチア由来抗原が症状悪化につながると懸念されている。


→ 汗をかくことは正常の生理反応、でも放置するとアトピー性皮膚炎の悪化因子になり得るのでケアが必要、ということになります。

細菌とアトピー性皮膚炎
 小児アトピー性皮膚炎の皮膚においては、増悪期には皮膚細菌叢の多様性が低下し、黄色ブドウ球菌の割合が増加する。
抗菌薬内服)感染徴候のないアトピー性皮膚炎に対して抗菌薬内服が有効であったとする報告はなく、抗菌薬内服は勧められない。
ポピドンヨード液)積極的に推奨するだけの医学的根拠に乏しい。補助療法として考慮することもあるが、びらん面に対する刺激による皮膚炎の悪化、アレルギー性接触皮膚炎、アナフィラキシー、甲状腺機能への影響などの可能性があり、安易に行うべきではない。
ブリーチバス療法)次亜塩素酸を使用する。米国を中心に広く行われており、その有用性を示した報告もあり、乾癬の関与が疑われる症例に対しての使用は推奨されるが、効果の検証はまだ不十分であり国内での指針も存在しない。


→ ポピドンヨードやブリーチバス(次亜塩素酸)は消毒療法という位置づけで、皮膚表面の細菌を除去する目的で使用します。
 ここで気になるのが、皮膚の正常細菌叢です。腸管内にも口腔内にも「正常細菌叢」というのがあるのは認知されてきていますが、皮膚にもあります。ふつう、表皮ぶどう球菌が優位で、病的状態になると黄色ブドウ球菌が優位になると耳にしたことがあります。
 消毒するということは、この正常細菌叢を壊す施術でもあります。すると、バランスが崩れて悪い影響が出る可能性も出てきます。ですから、感染症の要素が疑われる場合は除菌は必要かもしれませんが、そうでもない場合は効果より副作用が上回るリスクをはらんでいると思います。

真菌とアトピー性皮膚炎
 アトピー性皮膚炎患者におけるカンジダやマラセチアに対する特異的IgE抗体の測定やプリックテストの結果から、皮疹の重症化に真菌が関与している可能性が示唆されてきたが、病態との明確な関連性は不明である。
 アトピー性皮膚炎に対する抗真菌薬の治療効果については、抗真菌薬内服が有効であったとする報告、頭頸部の皮疹に対して抗真菌薬の外用が有効であったとの報告があるが、大規模な試験はない。


→ 成人の背中のニキビはマラセチア感染が関与しているとされています。真菌の関与は昔から繰り返し話題になりますが、定着した治療にはなっていないので、少なくともメインの原因ではないのでしょう。

食物アレルギーとアトピー性皮膚炎
 2008年にLackらが提唱した「二重抗原曝露仮説」により食物アレルギー発症における「経皮感作」と「経口免疫寛容」が注目されるようになった。
・乳児アトピー性皮膚炎が食物アレルギー発症のリスクであるとの報告は「経皮感作」説を支持する。
・アレルギーハイリスク児に対する早期スキンケアによる介入によりアトピー性皮膚炎発症予防の可能性が報告されたが、食物アレルゲン感作の予防効果を示すには至っていない。
・アトピー性皮膚炎児では鶏卵の摂取が遅いほど鶏卵アレルギーを発症するリスクが高い。アトピー性皮膚炎乳児において、アトピー性皮膚炎を寛解させた上で、離乳早期の鶏卵摂取が1歳での鶏卵アレルギーの発症率を減少させることを報告し、食物アレルギー発症予防として乳児期における経口免疫寛容の誘導の重要性を示唆した。


<参考>「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」(日本小児アレルギー学会、2017)

→ 10年後のアトピー性皮膚炎&食物アレルギーに対する予防法は、「生まれたときから積極的にスキンケアをして皮膚バリアを保ち、アレルゲンになりやすい食材を加熱したものを早期に開始する」となっているかもしれません。

スギ花粉症とアトピー性皮膚炎
 アトピー性皮膚炎でスギ花粉に対するアレルギー性鼻炎を有している場合、スギ花粉の接触によりアトピー性皮膚炎を増悪させることがある。その症状は顔面などの皮膚露出部位のみでなく、全身に及ぶことがある。


→ 近年「スギ花粉症皮膚炎」などと呼ばれている病態です。患者さんからの訴えがなくても、こちらからあえて問診すると皮膚の痒みを感じている方はたくさんいます。

カポジ水痘様発疹症
 単純ヘルペスウイルスの初感染あるいは再活性化により発症する。
 通常の単純ヘルペスと異なり、顔・頚部を中心に、湿疹病変上に小水疱や膿疱が多発し、周囲に散布する。発熱、リンパ節腫脹を伴う。抗ウイルス薬(アシクロビルあるいはバラシクロビル内服、アシクロビル点滴)が必要である。


→ この病態、何回か診たことがあります。抗ウイルス薬の内服と点滴の使い分けを記載した欲しかったですね。

<小児における注意事項>

小児アトピー性皮膚炎の臨床像
・小児では成長段階に伴って湿疹病変の部位が変化することに留意する。
・乳児アトピー性皮膚炎(2歳未満)における“慢性”の定義は6ヶ月ではなく2ヶ月である。
・乳児期に重症であった児が必ずしもその後も重症であるとは限らず、1歳から1歳半くらいでほぼ寛解していく児も少なくない。
・幼児期は乳児期から移行していくものと、3歳頃を中心に新たに発症する児がある。
・乳児では頬部を中心とした顔・頭などに始まり、悪化すると首回りから体幹、四肢に拡大する紅斑、浸潤性紅斑が出現する。
・顔面の皮疹は4〜6ヶ月頃をピークとして徐々に落ち着き、頚部や四肢関節部の病変に移行していく。
・幼児期〜学童期の湿疹病変は頚部や四肢関節部位が中心となる。
・思春期以降は成人と同様に頭、頚部、胸、背中などの上半身に皮疹が強くなる傾向がある。


→ これらを考慮に入れた治療スケジュールが必要になります。

経母乳負荷試験
 食物アレルゲンに感作されている乳児アトピー性皮膚炎では、母親が摂取した原因食物により母乳を介して皮疹が悪化することがある。疑わしい場合は診断のために母親に疑わしい食品を除去させて症状の改善を見たら、母親に再度摂取させた状態で母乳を児に与えて症状の悪化の有無を観察する(経母乳負荷試験)。感作があっても母親の除去は必要のない例が多い。


→ 経母乳負荷試験で陽性でも、母親がその食品を完全除去することが必要な例はほとんどないと言われています。

乳児脂漏性皮膚炎とアトピー性皮膚炎
・脂漏部位(乳児では顔面、頭部)に黄色調の落屑を伴う紅斑をきたす湿疹病変で、生後1ヶ月頃に好発しやすい。
・浸出液が見られるような場合はマイルドクラスのステロイド軟膏を外用をすると軽快し、アトピー性皮膚炎のように外用を中止すると再燃を繰り返すということはあまりない。
・一方で、乳児脂漏性皮膚炎でも一旦改善の後、またはそのままアトピー性皮膚炎に移行していく例があるとされるが、これは、生後1ヶ月の時点では定義上アトピー性皮膚炎とは診断できないだけで、すでに発症していると考えてよい。どのように早期に見分けるかであるが、“痒み”があるかどうかは重要なサインとなる。


→ 痒くない湿疹は一過性で自然に落ち着き、痒がる湿疹は遷延悪化し慢性化することを、日々の診療で実感しています。

小児アトピー性皮膚炎と鑑別が必要な疾患
 アトピー性皮膚炎に特徴的な皮疹でない場合、ステロイド外用で改善が乏しい場合は、先天性皮膚疾患(先天性魚鱗癬、Netherton症候群、色素性乾皮症など)との鑑別が必要である。


→ この疾患群は、一般の小児科医は診療経験がありません。なので私は治療の手応えがないと(具体的にはステロイド軟膏を2週間しっかり塗っても改善しない場合)、鑑別診断を含めて皮膚科専門医へ誘導しています。

アトピー性皮膚炎に対する民間療法の現実
・民間療法の定義:医師が医療使節において施行する医療以外の医療の総称。その多くのものは作用機序が科学的には検証されていない。
・アトピー性皮膚炎の67%に何らかの民間療法の経験があったとの報告がある。
アトピー性皮膚炎増悪・重症化による入院例の44%が民間療法による不適切治療が原因であったとの報告がある。
・ホメオパシーレメディの有効性を評価したRCTでは、プラセボ群と比較して有意な改善は認められなかった(つまりホメオパシーはアトピー性皮膚炎に無効)。
※ 代替医療の定義:通常診療の代わりに用いられる医療。
※ 補完療法の定義:通常医療を補完する医療。


→ 民間療法は金儲けという要素が見え隠れします(アトピービジネス)。悪化しても誰も責任を取ってくれませんので、結局病院に泣きつき駆け込み入院する例が後を絶ちません。
 ただ、アトピービジネスが生まれる背景には、患者さんが皮膚科専門医の治療に満足していないという現実があることを忘れてはいけないと思います。

<CQ>(Clinical Question)より抜粋

CQ6:タクロリムス軟膏の外用は皮膚癌やリンパ腫の発症リスクを高めるか?
A. 現時点ではタクロリムス軟膏が皮膚癌やリンパ腫の発症リスクに関与するとは言えない(今後さらなる検討が必要)。


→ タクロリムス(プロトピック®)軟膏が登場したとき、「ガン化する可能性を説明した上で使用する」ことが義務づけられていましたが、最近は疑いが晴れてきたようですね。
 ただ、当院では赤ちゃん中心で、2歳以上の患者さんは皮膚科通院をお勧めしていますので、使用する機会がありません。

CQ8:再燃を繰り返すアトピー性皮膚炎の湿疹病変に寛解維持にプロアクティブ療法は安全か?
 ステロイドは16週間、タクロリムスは1年間までの観察期間においては、多くの報告が基剤の外用と比べて有害事象の有意な差はないとしており、比較的安全性の高い治療法であると考えられる。しかしそれ以上の期間での検討がなされておらず、副作用の発現については注意深い観察が必要である。


→ 当院では生後数ヶ月の乳児湿疹〜初期アトピー性皮膚炎を主に治療していますが、数ヶ月のうちに週2回ペースまで持って行ける例がほとんどで、その後は「卒業」して継続するかどうかは家族に任せています。
 九州大学皮膚科(古江教授)のHPには「ステロイド軟膏を3日に1回塗るペースなら、長期に使っても副作用は問題にならない」と書いてあるので、私はそれを信じています。

CQ11:アトピー性皮膚炎の病勢マーカーとして血清TARC値は有用か?
・6ヶ月以上15歳未満の小児アトピー性皮膚炎において、血清TARC値はSCORADと有意な相関を示し、治療に伴う変動(改善)ともよく一致したという報告(藤澤ら)がある。
・血清TARC値は小児では年齢が低いほど高くなるので、年齢によって基準値に違いがあることに注意する必要がある。
血清TARC値は水疱性類天疱瘡や菌状息肉症などアトピー性皮膚炎以外の皮膚疾患でも上昇するので、注意が必要である。


→ 当院ではこのTARC測定をしておりません。赤ちゃんに何回も採血するのはされる方もする方も大変です(1回で成功するとは限らないし)。それから、乳児では正常値が変動し、アトピー性皮膚炎以外の病態でも変動するため、評価が難しいというものあります。
 私は、皮膚の状態を「かゆみ」で評価しています。 毎回受診の際に、お母さんに「かゆみ」「睡眠」「満足度」を5点満点で何点か聞いて、評価・指導の参考にしています。

CQ21:石けんを含む洗浄剤の使用はアトピー性皮膚炎の管理に有用か?
(利点)洗浄剤を用いて洗浄し、皮膚を清潔に保つことは重要である。
(欠点)一方、石けん・洗浄剤の主成分は界面活性剤であり、頻回にわたる誤った使用はかえって皮表脂質や角質細胞間脂質を溶出させ皮膚の乾燥を増悪する可能性がある。石けん使用後の一過性のpH上昇は、一時的にバリア機能を低下させる。さらに、洗浄剤に含有される色素や香料などの添加物は、皮膚への刺激を引き起こす可能性も懸念される。
・乾燥がつよい症例や部位、季節、あるいは石けん・洗浄剤による刺激が強い場合には石けんの使用を最小限とし熱すぎないお湯(38〜40℃)にて十分すすぎを行う。石けん・洗浄剤はなるべく脱脂力が制御されているものを選択する。
・使用する石けん・洗浄剤の種類は、基剤が低刺激性・低アレルギー性、色素や香料などの添加物を可及的に少なくしている、刺激がなく使用感がよい、洗浄後に乾燥の強いものは避ける、などの適切な洗浄剤を選択することが重要である。
・よく泡立てて機械的刺激の少ない方法で皮膚の汚れを落とし、洗浄剤が皮膚に残存しないよう十分にすすぐことも重要である。


→ 石けんについては、医師の間でも意見が異なります。
 積極的に使用し、その後に保湿する派。
 お湯だけで洗い、石けんは使わない派。
 どちらが正しいと言えませんが、まあケースバイケースでしょうか。
 私は前者です。ただし、垢すりで擦って洗うのではなく、百均で購入できる「ほいっぷるん」で泡立てて、指のお腹で撫でるように優しく洗うよう指導しています。 それでも熱心なお母さんは洗いすぎることがあり、乾燥性湿疹ではないけど皮膚が荒れがちな赤ちゃんには一度石けん使用をやめるよう指導すると、一部改善する例があります。

CQ22:乳児の湿疹に沐浴剤は有用か?
・沐浴剤は製品により組成が異なる。
・健常な皮膚には界面活性剤としての作用が低いため使用後に肌を洗い流さなくても炎症を起こすことが少ないが、湿疹部位には刺激が強くなることがあり注意が必要である。湿疹のある児には推奨されない。


→ 沐浴剤は石けんと違って界面活性剤としての作用が少なく、洗い流さなくてもよい点が特徴です。健康な肌にはそれでよいのでしょうが、湿疹病変のある赤ちゃんの肌はバリア機能が低下していますから、強い作用がないものでも化学物質が皮膚に付着し続けることは好ましくないと思われます。

CQ24:アトピー性皮膚炎の治療にブリーチバス療法は勧められるか?
・次亜塩素酸を溶解した風呂に入浴すること。
・現時点では、日本国内では勧められない(製品もデータもない)。
・コクランレビューでは、アトピー性皮膚炎患者における黄色ブドウ球菌の除菌による治療効果を検討したところ、有意に病勢を改善させたのはブリーチバス療法のみであったことを報告している。
・2014年米国皮膚科学会は、中等症〜重症のアトピー性皮膚炎で感染の関与が疑われる症例に対し、治療選択肢としてブリーチバス療法を推奨すると発表した。


CQ25:日焼け止めはアトピー性皮膚炎の悪化予防に勧められるか?
・アトピー性皮膚炎はいわゆる光線過敏症ではないので厳重な遮光は必要ないが、過度の太陽光への暴露は皮疹の悪化因子の一つになるので、サンスクリーン製品を使用すべきである。一般的には紫外線吸収剤を配合しておらず(ノンケミカル)、紫外線散乱剤を含有している製品が適している。ただし、ジクジクした湿潤病変や強い掻破痕への使用は避けるべきである。
(紫外線のメリット)紫外線には皮膚の免疫に関係する細胞の働きを抑制する作用があり、アトピー性皮膚炎の皮疹を軽快させる効果が期待できる。
(紫外線のデメリット)紫外線による皮膚バリア機能低下の可能性がある。
(赤外線のデメリット)赤外線の作用により、皮膚表面温度が上昇し発汗することで湿疹病変の紅斑や痒みが増強する可能性がある。


→ 患者さんからたまに「海水浴へ行ったら湿疹がよくなった」と報告を受けることがあります。ですから、ヒリヒリ痛いほど日焼けしなければ、適度の日光は悪化因子にはならず、むしろ改善因子になり得ると思われます。
 紫外線吸収剤より紫外線散乱剤の方が皮膚への刺激は少ないことが、従来から指摘されてましたが、その通り記述されています。
 「日焼け止めクリームは湿疹の治療軟膏より先に塗るか、後に塗るか」という質問もよく受けますが、私は「軟膏の後」と答えています。この点については、ガイドラインには記載がありませんね。
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アトピー性皮膚炎治療のエビデンス 〜プロアクティブ療法〜

2018年10月21日 10時55分20秒 | アトピー性皮膚炎
 アトピー性皮膚炎治療では現在、「プロアクティブ療法」が主流になりつつあります。
 「え、プロアクティブってあのCMの?」と驚かれる方がいるかもしれませんが、CMのニキビ治療のプロアクティブとは全く別物です。

 簡単に言うと「アトピー性皮膚炎の予防治療・維持治療」ということになりますか。
 アトピー性皮膚炎にはステロイド軟膏を用いますが、今までとは違う、その特徴的な使用法を意味します。

 従来は「湿疹が悪化したら塗る」方法でした(これを「リアクティブ療法」と呼びます)。
 新しい方法は「湿疹が悪化しないように塗る」のです。

(リアクティブ療法)湿疹が悪化したら軟膏を塗る
(プロアクティブ療法)湿疹が悪化しないように軟膏を塗る

 一度集中的に治療して「湿疹ゼロ状態」に治し、その後塗る間隔を空けていき、どこまで減らしても大丈夫かを見極める方法とも言えます。
 そして「3日に1回ペース(=週2回)まで塗布間隔が空けられると、ある程度長期(4〜6ヶ月)に使用していてもステロイド軟膏の副作用を心配しなくて良い」ことがわかってきたため、近年普及してきました。

 私は小児アレルギー疾患に関わって四半世紀が経ちますが、乳児のアトピー性皮膚炎患者さんに従来のリアクティブ療法を行っても、改善と悪化を繰り返し、正直言って埒があきませんでした。
 そして離乳食開始頃に「現在続いている湿疹の悪化因子を調べましょう」と食物アレルギーのチェックをすると、卵が陽性に出ることが多く、「1歳までは卵を控えましょう」と指導するのが常でした。

 数年前にプロアクティブ療法を導入したところ、手応えを感じました。
 湿疹のない状態が維持できるので患者さんは喜んでくれます。
 そして、ずっと皮膚の状態が良いので「悪化因子としての食物アレルギーチェック」が必要なくなることに気づきました。
 しかし中には、離乳食を勧める段階で「卵を食べたら顔が赤くなりました/蕁麻疹が出ました」という患者さんも出てきます。
 さらに気づいたのは、このような患者さんは湿疹が良くならなくてドクターショッピングの末、生後6ヶ月以降に当院にたどり着いた赤ちゃんだったのです。
 最初(生後1〜2ヶ月頃)から当院に通院して皮膚をよい状態に保ってきた赤ちゃんには食物アレルギーがほとんどいません(ゼロではありません)。
 というわけで、当院では乳児湿疹/乳児アトピー性皮膚炎の診療に力を入れています。

 さて、第52回日本小児アレルギー学会(2015年)の講演がWEB配信されており(学会員でないと閲覧できません)、その中のアトピー性皮膚炎関連のものを再度視聴し、気になる箇所をメモしてみました。
 本物の学会ではどんどんスライドが変わるのでメモを取る暇がありませんが、WEB配信ではPAUSEボタンがあるので便利ですね。

■ 「プロアクティブ療法」を日常診療にどのように取り入れていくか?(二村 昌樹先生)

 プロアクティブ療法の最初の報告は1999年だそうです(⇩)。

<原著>
・Br J Dermatol. 1999 Jun;140(6):1114-21. The management of moderate to severe atopic dermatitis in adults with topical fluticasone propionate. The Netherlands Adult Atopic DermatitisStudy Group.
 FP(Fluticason Propionate)というストロングクラス(※)のステロイド軟膏を、まず連日2週間塗布(initial treatment phase)して湿疹をキレイにし、その後2週間は週4日、その後16週間は週末2日だけ塗布(long-term treatment phase)するというスケジュールを組み、偽薬(ステロイドが入っていない軟膏)と比較したもの。すると、偽薬では75%が再燃したが、FPを使用した人では再燃は半分以下に抑えられたという結果が得られた。
※ リンデロンV軟膏レベル


 以下に小児対象のステロイド軟膏によるプロアクティブ療法のエビデンスを提示します。発表だけでは?の箇所は、原著をみて修正しました。

①(2002年)Hanifin;
対象:0.3-65歳の348例
期間:湿疹沈静化(Stabilization Phase、連日2回塗布を上限4週)→ (Maintenance Phase)週4日1回塗布を4週+週2日16週
使用軟膏:FP(前述)
結果:再発率0.38倍(15歳以下では偽薬で66%、FPで26%が再発)
有害事象:毛嚢炎(acne)1例、副腎機能は問題なし
※ 湿疹がなくなるまで連日2回塗布(最長4週まで)、週4日塗布を4週

<原著>
・Br J Dermatol. 2002 Sep;147(3):528-37. Intermittent dosing of fluticasone propionate cream for reducing the risk of relapse in atopic dermatitis patients.


②(2003年)Berth-Jones;
対象:12-65歳の295例
期間:湿疹沈静化(連日1-2回塗布4週)→ 週末2日塗布16週
使用軟膏:FP
結果:再発までの期間が0.29-0.71倍
有害事象:なし

<原著>
・BMJ 2003;326:1367. Twice weekly fluticasone propionate added to emollient maintenance treatment to reduce risk of relapse in atopic dermatitis: randomised, double blind, parallel group study.


③(2009年)Glanzenburg;
対象:4-10歳の75例
期間:湿疹沈静化(毎日2回塗布4週)→ 週末2日塗布16週
使用軟膏:FP
結果:重症度が0.54倍
有害事象:毛細血管拡張1例、ただしプラセボ群でも毛細血管拡張1例

<原著>
・Pediatr Allergy Immunol. 2009 Feb;20(1):59-66. Efficacy and safety of fluticasone propionate 0.005% ointment in the long-term maintenance treatment of children with atopic dermatitis: differences between boys and girls?



④(2008年)Peserico;
対象:12歳以上の221例
期間:(湿疹沈静化後)16週、週末2日塗布
使用軟膏:MA(methylprednisolone aceponate、ストロングクラス)
結果:再発までの期間が0.36倍(再発率はMA群12.9%、偽薬群34.2%)
有害事象:なし

<原著>
・Br J Dermatol. 2008 Apr;158(4):801-7. Reduction of relapses of atopic dermatitis with methylprednisolone aceponate cream twice weekly in addition to maintenance treatment with emollient: a multicentre, randomized, double-blind, controlled study.



 これら4つの報告を読んでまず気がついたのは、

・再燃を反復する中等症から重症例が対象。
・湿疹をストロングクラスのステロイド軟膏を1日2回4週間使用(Stabilization Phase)して略治・沈静化できた例をエントリーしている。
・連日塗布からゆっくり塗布間隔を空けていくのではなく、いきなり週2回塗布(Maintenance Phase)に落としているスケジュールが多い。


 ということ。
 乳児を扱っているのは①のみでした。そのAbstractを読むと、

・最初(Stabilization Phase)にエントリーしたのが372例で湿疹が沈静化して維持期(Maintenance Phase)にたどり着いたのは348例、つまり24例はこの時点で脱落している。
→ (疑問)脱落例はFPを1日2回4週間塗布しても沈静化しなかったのか?
・小児例の再発率は、FP群が偽薬群の8分の1に減り、20週の観察期間内でほとんど再発例がいない。一方の偽薬群では約1ヶ月後(中央値5.1ヶ月)に再発している。
・非再発例では安全性確認目的で24週まで観察したが、毛嚢炎1例のみで、皮膚の菲薄化や萎縮はゼロだった。


 と記されています。
 当院では乳児対象にマイルドクラスのステロイド軟膏(ロコイド®)をメインに使用していますので、この報告よりさらに安全と考えられます。
 今後も自信を持って乳児アトピー性皮膚炎の診療を続けたいと思います。
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「第8回群馬小児アトピー性皮膚炎学術講演会」に参加してきました。

2018年07月06日 06時58分41秒 | アトピー性皮膚炎
2018.7.5 第8回群馬小児アトピー性皮膚炎学術講演会
メインの講演は「新しいガイドラインに基づいた小児アトピー性皮膚炎診療」(二村昌樹Dr.、国立病院機構名古屋医療センター)

現在、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン(以下GL)は2種類存在します。
①「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2016年版」(日本皮膚科学会作成)
②「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2015」 (日本アレルギー学会作成)

①は皮膚科専門医用、②は非皮膚科専門医用、とされています。
「皮膚科専門医以外、アトピー性皮膚炎診療はできるはずがない」という日本皮膚科学会のうぬぼれたスタンスが見え隠れしますね。
それなら、小児のアトピー性皮膚炎もみんな診てほしいと思うのですが・・・巷には子どものアトピー性皮膚炎患者があふれ、皮膚科の診療に満足できずドクターショッピングを重ねる患者がたくさんいる現実があります。
なので軽症例は当院(小児科・アレルギー科)でも診療せざるを得ません。

私の中では、アトピー性皮膚炎はコントロールしにくいやっかいな疾患でした。
従来のリアクティブ療法(保湿をベースに、湿疹が出たらステロイド軟膏を塗り、治ったら止めて保湿剤で維持する)ではほんの一部の患者さんしかよくなりません。
近年登場したプロアクティブ療法(ステロイド軟膏を十分量・十分期間使用して皮膚を湿疹のない状態にした後、塗布間隔を開けていき最低限必要な塗布間隔を見極める方法、3日おきまで間隔を広げられると半年〜1年間継続してもステロイド軟膏の副作用を心配しなくてよい)を当院でも数年前に導入してから、これが解決しました。
しっかり指導・治療をすると、ほとんどの患者さんがよくなり、中にはステロイド軟膏を止められる子どもも出てきました。何より、アトピー性皮膚炎 → 食物アレルギーの発症連鎖が実感として減ったのが大きな収穫です。

同じアレルギー疾患の気管支喘息では、吸入ステロイドの定期使用(=予防治療)がもう20年前からスタンダート化しています。
遅ればせながらようやくアトピー性皮膚炎でも、「ステロイド薬による局所予防療法」という同様の治療が標準になってきた感があります。
しかし、まだまだ普及はしていません。

さて、当院でプロアクティブ療法を進めるにあたって、様々な疑問が発生してきました。
それらを解決すべく、アトピー性皮膚炎関連の講演には足繁く出かけるようにしています。

話をGLに戻します。
このたび、この二つのGLが統一されることになりました。
つまり、日本皮膚科学会と日本アレルギー学会が共同でGLを作成し、厚労省が発表することになったのです(画期的!)。
その解説を兼ねた二村(「にむら」ではなく「ふたむら」)Dr.の講演を聴講してきました。
演者の話では、GLもうほとんどできあがっていて、あとは発表を待つのみの状況だそうです。

ます、従来のGLから大きな変更はないとのこと。
でも、混乱しがちな事項が何点か整理されたことはメリット。
スライド内容の配付資料がないので記憶に頼ると・・・

・ステロイド軟膏の強さは、年齢や重症度により決まるのではなく、湿疹の重症度により決まる。
→ これは頷けることで、今までのGLがヘンだと私もずっと思ってきました。

・軟膏塗布は1日1回と1日2回で効果に差がなく、1日1回塗布を標準とした。
→ 今までの私の知識では、ストロングクラス(例:リンデロンV軟膏)以上では1日1回でよいが、マイルドクラス(例:ロコイド軟膏、キンダベート軟膏、アルメタ軟膏など)では1日2回必要、でした。これはアレルギー学会の講演で聞いた内容です。GLで変更になるので、私の方針も修正しようと思います。

・プロアクティブ療法の対象はアトピー性皮膚炎患者全員ではなく、「寛解と増悪を繰り返す患者」である。
→ これも頷けます。

ほかにもいくつかポイントがあったのですが・・・忘れました。
余談として、イギリス留学中に「イギリスでは体を洗うとき soap は使わない」エピソードが笑えました。
日本人は「soap = 石けん」と理解していますが、イギリス人が「soap」と言ったとき、それは香料や添加物を含んだ高級石けんを意味するそうです。
では日本の「石けん」はなんと呼ぶか? → 「クレンザー」とのこと。
また、イギリス人は「保湿剤を体にかけてからシャワーで流し洗いする」という行為もするそうです。
「洗って保湿できるから一石二鳥」と考えているらしいのですが、日本人的には「それって洗えているの?」と突っ込みたくなりますね。

ホント、ところ変われば品(習慣)変わる・・・。

おっと、それよりもプロアクティブ療法を勧める際に生じた疑問点を解消することが私の参加目的。
講演終了後と、懇親会の席で二村先生を質問攻めにしました;

Q. FTUはずっと守るべきか、皮疹消失後の維持期は軟膏塗布量を減量可能か(可能ならそのタイミング)?
A. 維持期に入ったら減量可能、FTUの半分以下でも皮疹がコントロールされていればOK。
FTUはよくなった患者がどれだけ軟膏を塗っていたかという統計から割り出された量であり、実験データによるものではない。

Q. プロアクティブ療法施行中、塗布間隔を開ける以外に、塗布範囲を減らすステップを入れるべきか?
A. ケースバイケースであるが、必須ではないと思う。
全身塗布だとしても、塗布範囲はそのままで間隔を開けてみてよい。あるいは、塗布範囲を減らしてみて湿疹が再燃したら対応するというトライ&エラーでもよいと思う。

Q. 乳児期にプロアクティブ療法を施行していると、経過中にいろいろな皮疹が出現するが、ステロイド軟膏を使用すべき皮疹とそうでない皮疹の鑑別点は?
A. かゆみ・赤みがポイントであるが、難しい。
私(二村Dr.)自身も「乾癬」を見落とした苦い経験がある。小児科医は診断基準に照らし合わせてADを診断するが、皮膚科医は除外診断を重視する。鑑別疾患を見落とさないよう注意が必要。

Q. プロアクティブ療法を安全に行える期間は?
A. 現在までのデータでは最長1年。それ以上の長期の報告はまだ見当たらない。

Q. 「乳児期アトピー性皮膚炎をコントロールするとアレルギーマーチの予防が可能」という文章を見かけるが、以下の感作も減るというデータはあるか?
① 幼児期以降発症の食物アレルギー(ピーナッツ、ソバ、エピ/カニ)
② 吸入抗原(ダニ、ペット、花粉類)
A. プロアクティブ療法の歴史が浅いので、吸入抗原についてはまだ十分なデータがない。
① → データなし。
② → ダニは少し減る(から喘息の予防になり得る)という報告がある。

Q. 保険診療内で、1回処方量の上限は?
① ステロイド軟膏
② 保湿剤
A. ①②ともに県単位で保険審査に差があるのが現状。
専門病院では保湿剤1kgという処方も聞いたことがある。

・・・日頃の疑問がかなり解消し、参加の甲斐がありました。明日からの診療に役立つ情報を教えていただき、二村先生に感謝。
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小児アトピー性皮膚炎のマーカー

2018年02月03日 06時33分17秒 | アトピー性皮膚炎
 日々、赤ちゃんの湿疹〜アトピー性皮膚炎を診療しています。
 「乾燥肌」「かゆみ」「発赤」が揃うとアトピー性皮膚炎という診断名が限りなく近づいてきます。
 逆に見ると、これらが揃った湿疹はステロイド軟膏でないと治りません。

 しかし、これが揃わない湿疹もよくみられます。
 赤みはあるけど、痒がらない。
 乾燥感はあるけど、痒がらない。
 触るとザラザラデコボコしているけど、赤みがない。

 これらの湿疹にステロイド軟膏が必要なのかどうか、悩ましい。
 保湿剤/保護剤で様子を見ると一過性で消えていくことも多いので、結果的に「乳児湿疹」ということになります。
 しかし数週間経っても消えない例も散見します。
 その場合、私は皮膚科専門医のフィルターを通すことにしています。
 すると、「洗いすぎ」「汗疹」という見立てが圧倒的に多い。
 やはりアトピー性皮膚炎ではないんだ、と安心する一方で、「汗疹」という診断のもとに当院より強いステロイド軟膏が処方されていることも経験し、苦笑いするしかありません。

 何か客観的な指標はないものか・・・そこで登場するのが「アトピー性皮膚炎のマーカー」としての検査です。
 TARC(thymus and activation-regulated chemokine)が有名ですが、血液検査なので採血が必要です。
 しかも、3歳以下の正常値は高く成長とともに漸減してい矩形黃があるため、1回だけではなく経時的に評価する必要があります。
 元気な赤ちゃんに何回も何回も採血をして泣かせるのは親としてつらく、また採血する方も大変でもあり、当院では行っていません。
 関連記事を紹介します。

■ 小児アトピー性皮膚炎で有望なマーカーは?
2018年02月01日:メディカル・トリビューン
 バイオマーカーとは、病的過程や治療に対する薬理学的反応を客観的に検出し、評価できる特徴を持つ指標と定義されている。アトピー性皮膚炎のバイオマーカーおよびその候補について、国立病院機構三重病院院長の藤澤隆夫氏に解説してもらった。同氏は「扁平上皮細胞がん関連抗原(Squamous cell carcinoma antigen;SCCA)は、病勢を反映するマーカーとして有用である」と述べている。

◇ 生後2日の経皮水分蒸散量増加が将来のリスクに
 アトピー性皮膚炎のバイオマーカーは、

① 診断(鑑別診断、発症前のリスク診断)
② 病勢評価(重症度・臨床経過の客観的指標、治療反応性の指標)
③ エンドタイプ同定(個別化医療、分子標的薬の適応)
④ 予後予測(長期予後の予測、アレルギーマーチの予測の判断)
−などへの利用が期待されている。

 診断にバイオマーカーは必要ないとの意見もあるが、発症前のリスク評価として一定の指標となりうる。例えば、生後2日での経皮水分蒸散量(Transepidermal water loss;TEWL)の増加(乾燥しやすい皮膚)は将来的なアトピー性皮膚炎のリスクである。さらに、TEWL増加が食物アレルギーのリスクにもなる。
 生後早期からの保湿でアトピー性皮膚炎を防げるとの報告は多く、特にTEWL高値の乳児で著明な予防効果が得られたとの報告もある(Allergol Int 2016; 65: 103-108)。まずTEWL値を測定し、必要な乳児に対してのみ保湿を行うという予防法も考えられる。

◇ TARCの問題点は乳幼児で高値であること
 藤澤氏は「最も検討が進んでいるバイオマーカーは、病勢評価に関するものである」と述べている。皮膚については所見で評価するが、バイオマーカーは数値として示されるので客観的な評価の指標となり、治療反応性の評価にも用いられる。病勢評価のバイオマーカーには好酸球数や乳酸脱水素酵素(LDH)、免疫グロブリン(Ig)E値などがあるが、近年は血清活性化制御ケモカイン(TARC/CCL17)など、Th2関連マーカーなども用いられている
 TARCはアトピー性皮膚炎のマーカーとして有用で、既報ではTARCが高値だとアトピー性皮膚炎の重症度(SCORAD)も高く、治療に伴う改善とも連動しており、2つの値に相関が見られた。TARC、好酸球数、LDH、IgEを比較した研究結果からもTARCが最適なマーカーと考えられた。
 しかし、TARCの問題点として乳幼児で高値であることが挙げられる。3歳以下の乳幼児では正常児であってもTARC値は高値(1,000pg/mL超)となるため、他のマーカーで判断しなければならない。
 そこで、考えられるのがSCCAである。SCCAは染色体18q21.3.上の2つの遺伝子(SERPINB3、SERPINB4)にコードされるSCCA1とSCCA2の2種類の蛋白質である。上皮細胞に発現し、子宮頸がんなどの扁平上皮がんで高発現が認められたことから命名され、腫瘍マーカーとして応用された。
 SCCAはヒト気道上皮細胞がTh2サイトカイン(IL-4、IL-13)により刺激されると高発現することが明らかとなり、Th2マーカーとして検討が進んだ(Cytokine 2002; 19: 287-296)。実際に、アトピー性皮膚炎患者の皮膚では高発現している。ケラチノサイトをIL-4、IL-13で刺激すると、つまり皮膚にTh2の環境があった場合、ケラチノサイトにおいてSCCAが誘導される。

◇ SCCA2が重症度と相関
 藤澤氏らは、小児におけるSCCA1/2の基準値およびアトピー性皮膚炎患者におけるSCCA1/2の臨床的意義を明らかにすることを目的に検討を行った。対象は18歳未満の小児ボランティア〔179例、健康または軽症のアレルギー疾患(喘息58例、アレルギー性鼻炎181例、アトピー性皮膚炎129例)〕と入院加療した重症アトピー性皮膚炎の小児(29例)。ISAAC(The International Study of Asthma and Allergies in Childhood)の質問票を用いてアレルギー疾患を分類し、重症患者については重症度をSCORADで評価、治療前後のSCCA1/2値、TARC値を測定した。
 同氏は「SCCA1/2値は、いずれも年齢による差はなく、健康者、喘息、アレルギー性鼻炎例では低値、アトピー性皮膚炎例では軽症でも有意に上昇し、重症ではさらに高かった。重症度のマーカーとして利用できそうだ」と述べている。SCCA1/2ともにSCORADとの相関はTARC値と同等で、重症患者では治療後に全例で症状の改善とともに低下していた。
 SCORADスコアの変化とバイオマーカーの変化との関連を見ると、TARC値に比べてSCCA1、SCCA2が強く相関しており、さらに、SCCA1に比べてSCCA2の方がより強い相関が見られた。同氏は「特に血清SCCA2はアトピー性皮膚炎の病勢を反映するマーカーとして有用と考えられた」と結論付けている。

◇ エンドタイプと予後予測には有望なマーカーなし
 藤澤氏は「エンドタイプ同定のマーカーとしては、Th2、Th17、Th22などが候補だが、実用性に関しては今後の課題である」と述べている。小児のアトピー性皮膚炎では発症時期がまちまちで、乳児期に発症して小児期には治癒する例もあるが、多くは各年齢層で発症し、それが完治せずに継続することになる。また、非常に高齢の患者も存在する。それを関与するサイトカイン(生物学的製剤のターゲット)によって変化させることができるかどうかは不明である。
 予後予測のマーカーとしては、それぞれのアレルギー感作のパターンなどに可能性はあるが、現在のところ有望なマーカーはないという。同氏は「アレルギーマーチの進展は①アトピー性皮膚炎②食物アレルギー③喘息④アレルギー性鼻炎−の順であることから(J Allergy Clin Immunol 2017; 139: 1723-1734)、アトピー性皮膚炎のマーカーはアレルギーマーチのスタートのマーカーと位置付けられる。将来的には、TEWLなどがアレルギーマーチのマーカーとして活用できることに期待したい」と展望している。


 私が知りたいのは、乳児アトピー性皮膚炎とほかの乳児に見られる湿疹が区別可能かどうか、ですが・・・なかなかハッキリ記載している資料に出会いません。

<参考>

■ アトピー性皮膚炎診療における血清TARC値測定の意義マルホ皮膚科セミナー:2014.8.7

■ TARCとアトピー鑑別試験の違いは何ですか?CRC)より抜粋;
・・・水疱性類天疱瘡や菌状息肉症、血管浮腫、薬疹、膠原病などでも高値となりうるため注意します。

■ アトピー性皮膚炎,蕁麻疹の重症度と診断の客観的評価法アレルギー 61(1), 10 ― 17, 2012)より抜粋;
 血清 TARC の高値はアトピー性皮膚炎に特に特異性が高いことが示されているが、他の疾患では蕁麻疹や炎症性角化症、皮膚 T 細胞リンパ腫、水疱性類天疱瘡などで高値の報告がある 4 )5 )8 )。 特に皮膚 T 細胞リンパ腫は経過が慢性でアトピー性皮膚炎と鑑別が困難な症例もあり注意が必要であるが、逆に、十分な治療にもかかわらず想外の高値が持続する場合などは皮膚T 細胞リンパ腫を疑う契機にもなり得る 5)。なお、血清 TARC の測定は 2008 年よりアトピー性皮膚炎に保険適用となっている。

4)玉置邦彦, 佐伯秀久, 門野岳史, 佐藤伸一, 八田尚人,長谷川稔,他.アトピー性皮膚炎 の病勢指標としての血清 TARC!CCL17 値 についての臨床的検討.日皮会誌 2006; 116:27―39.
5)前田七瀬, 吉田直美, 西野 洋, 片岡葉子. 重症成人アトピー性患者における血清 TARC の 臨 床 的 意 義.J Environ Dermatol Cutan Allergol 2011;5:27―35.
8)Tamaki K, Kakinuma T, Saeki H, Horikawa T, Kataoka Y, Fujisawa T, et al. Serum levels of CCL17!TARC in various skin diseases. J Dermatol 2006; 33: 300―2.

■ アトピー性皮膚炎のバイオマーカー ―病勢指標としての血清 TARC/CCL17 値を中心に―アレルギー 62(2), 131―137, 2013

■ 血清 TARC の高値を認めた新生児―乳児消化管アレルギーの 3 例
アレルギー 61(7), 970―975, 2012)より抜粋;
 CC ケモカインであるTARC は、その受容体 CCR4 を特異的に発現している Th2 細胞に対して遊走活性を有している 3).アトピー性皮膚炎においては,様々な刺激によって表皮角化細胞から産生された TARC が末梢血中の CCR4 発現 Th2 細胞を皮膚へと遊走させ,皮膚炎を惹起すると考えられている 4).また,皮疹の面積と重症度を加味した皮膚症状スコアーである SCORAD 値と血清 TARC 値には正の相関が認められ 5),アトピー性皮膚炎の病勢を示すマーカーとして血清 TARC 値は利用されている。他のアレルギー疾患である気管支喘息においても,気道上皮に TARC の発現が証明されており 6),健常者に比べ有意に血清 TARC が高値である事が報告されている 5).
3)Imai T, Yoshida T, Baba M, Nishimura M,
Kakizaki M, Yoshie O. Molecular cloning of a novel T cell-directed CC chemokine ex- pressed in thymus by signal sequence trap using Epstein-Barr virus vector. J Biol Chem 1996; 271: 21514―21.
4)Kakinuma T, Nakamura K, Wakugawa M, Mitsui H, Tada Y, Saeki H, et al. Thymus and activation-regulated chemokine in atopic dermatitis: Serum thymus and activation- regulated chemokine level is closely related with disease activity. J Allergy Clin Immunol 2001; 107: 535―41.
5)藤澤隆夫,長尾みづほ,野間雪子,鈴木由紀, 古川理恵,井口光正,他.小児アトピー性皮 膚炎の病勢評価マーカーとしての血清 TARC!CCL17 の臨床的有用性.日小児アレ ルギー会誌 2005;19:744―57.
6)星野 誠,中川武正,宮澤輝臣.アレルギー 性炎症 喘息気道での炎症細胞浸潤におけ る TARC と接着分子の関与について.アレ ルギー 2006;55:410.
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血液検査で検出できない「遅延型アレルギー」

2018年01月05日 10時22分14秒 | アトピー性皮膚炎
 一般に、アレルギー反応は即時型と遅延型の2種類が存在するとされています。
 即時型はアレルゲンが体に入ってすぐ(30分〜2時間以内)に症状が出るタイプで蕁麻疹が代表ですね。
 遅延型はそれ以降数日中に症状が出るタイプで、代表的なのは“かぶれ”(接触皮膚炎)です。

 湿疹や蕁麻疹の原因はアレルギーではないかと心配して受診される患者さんは後を絶ちません。
 検査を希望されますが、実はこれ、単純ではありません。

 アレルギーの血液検査は、一般に「総IgE」と「特異的IgE抗体」を検査します。
 そしてこれらは「即時型」を検出する検査であり、「遅延型」は検出できません。

 では「遅延型」の検査はなんでしょうか?
 代表的なのは、皮膚検査の「パッチテスト」です。
 残念ながら、血液検査ではわからないのですね。

 かぶれ(接触皮膚炎)の患者さんはふつう小児科/内科ではなく皮膚科を受診されます。
 パッチテストにはいろいろ問題があり、まず試薬が手に入りにくい、感作誘導の可能性、さらにテクニック、ノウハウが必要な検査です。
 なので、小児科/内科でパッチテストを行っている開業医は少ないです(当院も例に漏れず)。

 その辺の事情を解説した記事を紹介します。日経メディカルから;

■ 接触皮膚炎診療にパネル検査薬がじわり浸透 〜感作を誘発するリスクや結果判定の難しさなどの課題も明らかに
2017/12/19 日経メディカル
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プロバイオティクス・カプセル、アトピー性皮膚炎を改善

2018年01月04日 07時40分49秒 | アトピー性皮膚炎
 腸内細菌叢と病気との関連が注目され、テレビの健康啓蒙番組でもたびたび取りあげられるようになった昨今。
 人体に良い影響を与える微生物、または、それらを含む製品、食品のことを「プロバイオティクス」(★)と呼びます。
 紹介する論文・記事は、腸内細菌叢に良い影響を与えることが期待されるビフィズス菌・乳酸菌などの微生物ブレンドをカプセルに入れて内服した結果、アトピー性皮膚炎が改善したという報告です。

定義
・プロバイオティクス:「適正な量を摂取したときに宿主に有用な作用を示す生菌」
・プレバイオティクス:「大腸の有用菌の増殖を選択的に促進し、宿主の健康を増進する難消化性食品」


■ プロバイオティクス・カプセル、アトピー性皮膚炎を改善
ケアネット:2017/12/19
 新たな剤形で複数成分を含むプロバイオティクス・カプセル製剤は、小児・若年者におけるアトピー性皮膚炎(AD)の経過を改善する可能性が、スペイン・Hospital Universitario VinalopoのVicente Navarro-Lopez氏らによる無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験の結果、示された。アトピー性皮膚炎疾患重症度評価(SCORAD)スコアが低下し、局所ステロイドの使用も減少したという。JAMA Dermatology誌オンライン版2017年11月8日号掲載の報告。
 研究グループは2016年3月~6月に、新たな混合プロバイオティクス製剤の経口摂取について、有効性と安全性、ならびに局所ステロイドの使用に及ぼす影響を評価する目的で、12週間の無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験を行った。
 対象は、4~17歳の中等度AD患者50例(女児26例[50%]、平均[±SD]年齢:9.2±3.7歳)。試験前3ヵ月以内に全身性免疫抑制剤の使用歴のある患者、2週以内に抗菌薬使用歴のある患者、腸疾患合併の診断や細菌感染症の症状のある患者は除外された。
 性別、年齢、発症年齢により層別化し、ブロックランダム化法によりプロバイオティクス群または対照群(プラセボ)に割り付け、凍結乾燥させたビフィズス菌(Bifidobacterium lactis)CECT 8145、ビフィズス菌(B.longum)CECT 7347、乳酸菌(Lactobacillus casei)CECT 9104を計109 CFU含むカプセル製剤(キャリアとしてマルトデキストリン使用)、またはプラセボ(マルトデキストリン)を毎日、12週間経口投与した。
 主要評価項目は、SCORADスコアと局所ステロイドの使用日数とした。
 主な結果は以下のとおり。

・12週後、プロバイオティクス群は対照群と比較して、SCORADスコアの平均減少幅が19.2ポイント大きかった(群間差:-19.2、95%信頼区間[CI]:-15.0~-23.4)。
・ベースラインから12週時点までのSCORADスコアの変化は、プロバイオティクス群-83%(95%信頼区間[CI]:-95~-70)、対照群-24%(95%CI:-36~-11)であった(p<0.001)。
・対照群(220/2,032患者・日、10.8%)と比較して、プロバイオティクス群(161/2,084患者・日、7.7%)では局所ステロイドの使用が有意に減少したことが認められた(オッズ比:0.63、95%CI:0.51~0.78)。


<原著論文>
Navarro-Lopez V, et al. JAMA Dermatol. 2017 Nov 8.


 私としては、プロバイオティクスのカプセル投与前後で、腸内細菌叢の構成がどのように変わったのか、具体的に知りたいところです(論文には書いてあるのかな?)。

<参考>
プロバイオティクスとして用いられる乳酸菌の分類と効能(辨野義己、モダンメディア、2011年)
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NHK健康ライフ「子どもの肌を守る」(山本一哉先生)

2017年11月14日 08時00分32秒 | アトピー性皮膚炎

 健康ライフではお馴染みになっている山本一哉先生のお話。
 彼は小児皮膚科を立ち上げた功労者かつ重鎮です。
 相変わらずお元気そうで何より。

 気になったところをメモしておきます。

□ 11月6日(月)「アトピー性皮膚炎の要因」
・遺伝因子と環境因子がある。
・統計学的には生まれた季節と母親の年令との関連が指摘されている。
・アトピー性皮膚炎は「秋生まれ」に多く、10〜30%程度リスクが増える。理由は「乾燥」。角層が乾燥すると外から刺激物が入ってきやすい。秋に子どもを産むのは控えましょう(?)。
・出産時の母親の年令が高いほど子どもがアトピー性皮膚炎になりやすい。北欧発のデータであるが、日本にも当てはまる。

□ 11月7日(火)「スキンケアの必要性」
・子どものスキンケアを担当するのは本人ではなく周りの大人。
・女性が化粧する前には洗顔するように、スキンケアする前にキレイにすることが必要。
・赤ちゃんの肌は胎児期は乾燥や紫外線から守られている。出生後に乾燥と紫外線にさらされるようになる。
・つまり、生まれた直後(24時間以内)にスキンケアを始めるのが正解。
・遅れて始めても挽回は可能、保湿をし続けてください。

□ 11月8日(水)「外用薬の塗り方の考え方」
・内服薬は量が決まっているが、軟膏は塗る量が患者側に任されていることは問題である。
・塗る量は回数で調節する。
・FTU(フィンガー・チップ・ユニット)やローションであれば10円玉大などが目安になるがアバウトである。
・「塗り広げる」のと「すり込む」のは違う。

□ 11月9日(木)「生活で傷つく肌」
・本当に「肌が弱い」人は少ない(先天的な皮膚疾患など)。
・生活習慣にも左右される。
・子どもの手首の荒れ、湿疹がなかなかよくならないのは、手洗い後に服の濡れた袖先が当たってこすれているためのことが多い。
・紙おむつはウエストギャザー、レッグギャザーの部分が荒れやすい。
・肌に直接触れるものには気を遣いましょう。
・手触りのよい肌着でも、洗濯を繰り返せば、1年後には風合いが変わりゴワゴワになってしまうことが多い。すると肌に刺激(ヤスリ掛け)になる。
・耳切れは着替えの仕方が影響している。丸首の肌着・服を無理矢理脱がしたり着せたりしない。

□ 11月10日(金)「スキンケア製品の考え方」
・スキンケア製品は皮膚の中にしみ込むのではなく、表面を覆う、洗うと落ちる、補充できるなどが特徴として挙げられる。
・ジェルタイプはサッパリ感があり夏に向く製品、広げるには乳液タイプ、たびたび補充するにはそこにとどまるクリームタイプが向いている。
・スキンケア製品は薬ではないので、湿疹はよくならない。皮膚の健康状態、バリア機能を保つものである。
・「尿素」はバリア機能を低下させるのでスキンケア製品としてはよくないかもしれない。
・健康な皮膚では、洗う回数が多いところは塗る回数も多くなるはず。
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