研究室のドアを蹴破るように飛び出した高原は、まっすぐ中央ホールのエレベーターに向かった。一歩一歩、革靴を床にのめり込ましかねないほどに、足に力を込めて歩く。ことここに至るまでは全く順調に進んでいたというのに、一体どこでどう狂ってしまったのか、いくら考えてみても高原には理解できなかった。そして、その事が余計に高原の怒りに油を注いだ。思わず右手が、白衣の右ポケットから何かを探し出そうと無意識にまさぐり、何かを掴んだ瞬間、高原ははっと気がついて手を抜いた。遙か昔、あの唯一無二の存在を失って以来止めていた煙草を探していることに、ふと気がついたのだ。だが、掴み出したものを見た瞬間、再び高原の怒りは頂点を飛び抜け、満身の力を込めてその手の中のものを握りつぶした。それまで小さなLEDの点滅を見せていた小さな機械、盗聴器と、セキュリティーキーとそっくりな大きさのプラスチック製「夢見小僧犯行予告カード」が、音を立てて単なる無機物へと姿を変える。それだけでは飽きたらず、すでに原型をとどめないそれらを思い切り壁に投げつけた高原は、ようやく上がってきたエレベーターに乗り込んだ。おもむろに操作パネルに指を伸ばす。だがその指は、行き先階の選択キーを通り過ぎ、そのまますっと1のボタンの下まで動いた。高原の指が、一見何もないパネルをとんとんと叩き、すっと引く。
何も変化が無い。
途端に高原の右手が拳を作り、手近なエレベーターの壁を殴りつけた。思わず震えるエレベーターの中で、高原は今度は慎重に、もう一度同じ動作でパネル上に指を滑らせた。最後にトン、とパネルを叩いたところで再び手を一旦離す。すると、今度はちゃんと間違いなく出来たようだ。そこに新たなタッチキーの枠が白い光に浮かび上がり、Bという文字盤が現れたのである。それは、高原と吉住など、研究所でもごく少数の許された者しか知らないシークレットフロアだった。肉眼では判らないようパネル上に設置されたタッチキーに触れる回数とリズムで暗号化されており、ちゃんと暗号通りセンサーに入力しないと現れない。高原は怒りの余り滅多にやらないミスを犯したため、二度もやる羽目になってしまったのである。だが、もう大丈夫だ。高原はやっと満足げににやりと笑うと、新たに現れた『B』のキーにぐいと指を押し付けだ。エレベーターがようやく命令を受領して、扉を閉じた。不快なGが身体を包んだが、高原は、今自分がゆがめてしまった壁面に凄みの籠もった笑みを映していた。
地階に到着して扉が開いた時、高原は一気に自分の結界フィールドを極限まで広げた。もう誰一人逃げることは出来ない。今夜中に全てのケリを付け、おかしくなった軌道を修正して、改めて、夢が無くなった至福のパラダイスを築き上げるのだ。
エレベーターを降りた高原は、現実世界における戦闘衣装から、夢世界でのそれへと姿を変えた。すなわち、白衣姿が一瞬で古色蒼然とした西洋甲冑へと変化したのだ。そして、すっと伸ばした右腕から突如生え延びるかのように、刃渡り二メートルを超える幅広の大剣が姿を現した。柄を握り締めた高原は、軽々と片手でその大剣を振り回し、久しぶりの感触に血が沸騰するのを意識した。
「待っていろよ小娘共。私の邪魔をするということがどういう結果を招来するか、疑問の余地無く学習してもらおう」
ドリームジェノミクス社とナノモレキュラーサイエンティフィックとを繋ぐ秘密地下通路に、はじめて甲冑の足音が響き渡った。
何も変化が無い。
途端に高原の右手が拳を作り、手近なエレベーターの壁を殴りつけた。思わず震えるエレベーターの中で、高原は今度は慎重に、もう一度同じ動作でパネル上に指を滑らせた。最後にトン、とパネルを叩いたところで再び手を一旦離す。すると、今度はちゃんと間違いなく出来たようだ。そこに新たなタッチキーの枠が白い光に浮かび上がり、Bという文字盤が現れたのである。それは、高原と吉住など、研究所でもごく少数の許された者しか知らないシークレットフロアだった。肉眼では判らないようパネル上に設置されたタッチキーに触れる回数とリズムで暗号化されており、ちゃんと暗号通りセンサーに入力しないと現れない。高原は怒りの余り滅多にやらないミスを犯したため、二度もやる羽目になってしまったのである。だが、もう大丈夫だ。高原はやっと満足げににやりと笑うと、新たに現れた『B』のキーにぐいと指を押し付けだ。エレベーターがようやく命令を受領して、扉を閉じた。不快なGが身体を包んだが、高原は、今自分がゆがめてしまった壁面に凄みの籠もった笑みを映していた。
地階に到着して扉が開いた時、高原は一気に自分の結界フィールドを極限まで広げた。もう誰一人逃げることは出来ない。今夜中に全てのケリを付け、おかしくなった軌道を修正して、改めて、夢が無くなった至福のパラダイスを築き上げるのだ。
エレベーターを降りた高原は、現実世界における戦闘衣装から、夢世界でのそれへと姿を変えた。すなわち、白衣姿が一瞬で古色蒼然とした西洋甲冑へと変化したのだ。そして、すっと伸ばした右腕から突如生え延びるかのように、刃渡り二メートルを超える幅広の大剣が姿を現した。柄を握り締めた高原は、軽々と片手でその大剣を振り回し、久しぶりの感触に血が沸騰するのを意識した。
「待っていろよ小娘共。私の邪魔をするということがどういう結果を招来するか、疑問の余地無く学習してもらおう」
ドリームジェノミクス社とナノモレキュラーサイエンティフィックとを繋ぐ秘密地下通路に、はじめて甲冑の足音が響き渡った。