かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

「有翼獣は電脳空域に夢まどろむ』  はじめに

2008-04-20 23:04:10 | 麗夢小説『有翼獣は電脳空域に夢まどろむ』
 かっこう長編第7作は、2003年夏、満を持してROMちゃん復活! が最大のテーマなお話です。
 麗夢のライバルというと死神博士ですが、どうも華やかさに欠けます。では他に華のある相手役はというと、このROMちゃんが一番でしょう。本編では動画無し、CDドラマで声だけという不遇のキャラなのに、これだけ琴線に響くのですから大した存在感です。そのおかげか、これまでの6作はブログに移すにあたって結構筆を入れて修正してきたのですが、この作品はほぼすっぴんのままブログに移すことができました。当時、乗りに乗ってキーボードを叩きまくっていたのを思い出しますが、お話を引っ張ってくれるキャラクターの重要性に気づいた作品だったと言えるかもしれません。
 それと、このあと2作品を経て、最新2作は1人称を入れる、という試みをしているのですが、それを別にすれば文章的にはもうこれ以上の進歩は望めない、一定水準に達したということもあるのだろうと思います。今もそれほど進歩していないために、修正点を見出せなかったのでしょう。もう10年くらい経ってから読み直してみたら、また変わる点も出てくるかもしれませんが、一つの到達点として、記念すべき作品なのでしょうね。
 それにしても、今振り返ってみますと、どうも私の作品は大学、とか研究者、とか、理系の関連が頻出するような感じがします。歴史絵巻の「麗しき、夢」シリーズを別とすれば、理系がらみの話じゃないのって、次に上げる予定の1作だけではないでしょうか? まあ「夢曼荼羅 円光地獄編」はちょっと違うかもしれませんが、一応敵役はフランケンシュタイン公国で人造人間の研究に従事した、という設定も入れましたし、全く科学とかかわりがないわけではないと強弁できます(笑)。
 多分これは、私の仕事とか生活とかが大きな影響を及ぼしているのでしょうけれど、それだけにもうどうにも変えようのないスタイルなのでしょう。別の言い方をすれば私の限界、というものだと思いますが、といって今更経済を勉強して金融小説とか商売の話なんて書けるとは思いませんし、描きたくもありません。政治とか法律とかも、私には到底理解できない別世界のお話です。あ、でも、法廷が舞台になるようなお話は結構好きなんですね。古くは「12人の怒れる男」とか。まあ好きなのは法廷を舞台にした人間劇なのであって、法律のお話ではないのでやはり社会学系はからきしダメなのだろうと思います。
 学者でも経済とか法学とかのヒトはぜんぜん想像もつきません。理系全般とか文学系は知り合いもいますし想像もつくのですが、社会学系はそもそも一体何を研究しているのかすら、私にはまるで理解できないのです。
 そういった偏った人間観で物語を紡ぎだすのは、いずれ限界も来るだろうと思いますが、森博嗣のように、理系人間だけを扱って膨大な作品を生み出しているヒトもいらっしゃることですし、そのつめの垢でもせんじさせてもらって、私は麗夢に焦点を絞って自分の物語をこれが限度、と納得いくまで描き続けようと思います。

それでは、まずは人物紹介、つづけて本編をどうぞ。

「人物紹介」へ続く
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登場人物・背景紹介

2008-04-20 23:04:03 | 麗夢小説『有翼獣は電脳空域に夢まどろむ』
 オリジナル設定もありますので、ちょっと整理してみました。本編の一助にどうぞ。

 ROM
 スーパーコンピューターグリフィンの3次元ユーザーインターフェース。プログラミングの天才、屋代修一博士により生み出されたプログラム。その視覚的要素は屋代が理想とした女子中学生の体型を忠実に再現しており、凹凸に乏しい体型、ふわふわしたボリュームある金髪にくりくり動く大きな目など、大人へ脱皮する前の、あどけない少女の姿をしている。性格も女子中学生を完璧にシュミレートされた人格を持っているはずだったが、致命的なバグのため暴走、ドリームハッカーを名乗って屋代を殺害し、東京を滅ぼしかけた。麗夢、円光の決死の闘いの末、グリフィンごと滅ぼされたはずだったが・・・。
 
 屋代修一
 グリフィンプロジェクトの中核人物。やや猫背の中肉中背で、服装にも無頓着なおよそ風采のあがらない人物だったが、コンピュータープログラムではヒトの限界を一蹴する天才ぶりを発揮、グリフィンのプログラムをほぼ一人で完成させた。しかし、趣味を最大限に盛り込んで生み出した「究極の女子中学生」ROM が暴走してしまい、殺されてしまう。

 OZ(オズ)
 グリフィン暴走と前後して爆発的に普及したピアツーピアプログラム。完璧な暗号処理による匿名性、ウィルス排除能力、高速で効率的なファイル交換システムなどが評判を呼び、今や世界中のネットワークで利用者が急増している、作者不明のソフト。 

 桂士朗
 東都大学情報システム研究室教授。グリフィンのCPU、通称グリフィンチップの設計者で、東都大、東京都、武蔵野電気からなるグリフィン開発のための共同研究プロジェクトを指揮する研究者。カササギのようなやせた体を地味な衣装で包み、物腰柔らかい人当たりの良い好々爺然としている。屋代の天才生にいち早く気づき、弟子としてその才能を開花させた屋代の恩師であるが、屋代の死に責任を抱いている。

グリフィンプロジェクト
 桂が開発したグリフィンチップを核とする夢のスーパーコンピューターを開発・実用化するため、政府の研究助成資金を得て立ち上げられた産官学共同研究計画。桂の東都大学が全体を統括し、東京都と武蔵野電気が参加している。

田辺美代子
 大学時代の鬼童海丸のクラスメイト。華やかさはないが、漲る自信に裏打ちされた、快活な美人である。武蔵野電気つくば研究所の主任研究員であり、グリフィンプロジェクトの企業側代表を務める。

「1.屋代邸」へ続く
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1.屋代邸

2008-04-20 23:03:42 | 麗夢小説『有翼獣は電脳空域に夢まどろむ』
 外観上、その古ぼけた洋館にはさしたる変化はないように見えた。
 まるで手入れされることなく延び放題になった草むらを踏みしめた跡が二列、その玄関まで延びている。男は、深く刻まれた眉間のしわを一段とそばだてながら、その、大きい方の足跡に自分の足を慎重にあわせ、ゆっくりと歩を進めた。さすがに警察も馬鹿ではあるまいからいずれ気づくだろうが、それでも可能な限りその初動を遅らせておくことは、戦術上有効なはずだと男は考えている。
 玄関に辿り着くと、手袋をはめた手で取っ手を握った。さっきの連中の指紋を誤って拭き消さないように、握る所に注意を払う。一応跡形も残すつもりはないが、万一のことを考えると、少しでも危険性を排除しておく必要があった。がちゃり、とロックがはずれる音が意外に大きく耳を打って、男の顔がさっと緊張の色を閃かせた。そのまましばらくじっと動きを止め、周りの気配に意識を注ぐ。特に、ついさっきまでたむろしていた少女と若い僧侶が戻って来たりはしないか、と、男は振り返って探りを入れた。だが、夕闇迫る背景に、人の気配は絶えてない。男は少し安堵のため息をもらすと、ヘッドバンドに取り付けた懐中電灯のスイッチを押し、小さな明かりを屋敷の中に送り込んだ。
 その薄惚けた明かりの中に、淀んだ時の長さをその身に刻みつけた、幾つかの調度類が浮かび上がる。床を白く覆うほこりには、点々と侵入者の足跡が奥に続いていた。男は慎重に足跡をたどりながら、勝手知ったる中を、一番奥まったコンピュータールームまで進んだ。前に来たときには手荒い歓迎ぶりを示してくれたセキュリティシステムが、今日はすっかり沈黙している。男は更に足を進め、今は動きを止めたスーパーコンピューター、グリフィンのコンソールパネルまで辿り着いた。
(この中だ)
 男はコンソールパネルの前を横切り、向かって左側の隅で膝まづいた。なめらかな白い壁に、かすかに一円玉ほどのボタンが見える。男は手袋の指をすっと伸ばし、そのロックボタンを軽く押した。すると、一枚の壁にしか見えなかったその一角がパカッとはずれ、十センチ四方ほどの口を開けた。男は続けて中にあるつまみを、躊躇うことなく左回りに九〇度回す。と、どこかで空気が抜けるような音が聞こえ、右側に今度は人一人が充分に潜り込めるほどの四角い穴が現れた。本来なら、グリフィンが虹彩と指紋による識別認証を行い、それで許されたものしか触れることのかなわない聖なる神殿が、その奥に鎮座ましましている。かつて、その登録には確かに自分も名を連ねていたのだが、ある時からはじき出されてしまい、グリフィン健在の間は近寄ることさえできなかった場所だ。だが、万一に備えた手動装置は、システムそのものがダウンした今、男の手を拒むことなくあっさりとその禁断の扉を開いて見せた。男はその穴に上半身を突っ込んで、ヘッドライトの明かりを投げかけた。
「あった。やはり無事だったようだな」
 男は、ずっと抱いていた一抹の不安から開放された喜びに、その不敵な口元をほころばせた。実際、あの侵入者達が驚くべき事にグリフィンのセキュリティーシステムを突破し、CPUを破壊することに成功したときには、さすがに全てが水泡に帰したかと戦慄に冷や汗を流したものだった。だが、結局あの見知らぬ妙なカップルは、このスーパーコンピューターグリフィンにおける、真のパワーユニットを知らなかったわけだ。愚かしいにも程があるが、おかげで自分が無理なくここまで侵入できたのだから、その点だけは感謝しないといけない。男は口元のほころびを皮肉溢れた冷笑に変えながら、両手を中に伸ばした。
 奥には、培養液を詰めた直径三〇センチ、高さ五〇センチほどの強化ガラス製容器が収まっている。その容器を抱えた男は、腰にぐっと負担がかかるのに顔をしかめた。普段イスに座り放しで生活しているだけに、こういう力仕事は腕にも腰にも過剰負担になる。だが、ここで諦めてはここまで無理してきた甲斐がない。それに、あの連中が連絡していた「榊警部」なる警察官が出張ってきては面倒だ。そんな連中が現れるまでにここを立ち去らねばならない。男はここが大事だと普段使わない筋肉を堅くこわばらせ、そのガラス容器をソケットからはずすと、ようやくにして穴から引きずり出した。
「や、やったぞ。やっと私の所に戻って来たな、屋代」
 男は息荒くその容器の中に浮かぶほの白い塊に語りかけると、持参したバックパックか1.8リットルのペットボトルを三本取り出し、その空いた所へガラス容器を慎重にしまい込んだ。しっかり口のジッパーを閉じて、更に外から軽く叩く。男はそうして緩衝材がしっかり容器を保持しているのを確かめると、どっこいしょ、と気合いを入れて、そのバックパックを背中にしょった。
「さて、ここからが一苦労だな」
 肩にずしりと食い込む大事な荷物に気を配りつつ、男は一本のボトルを手にとって、薄茶かかった中身を部屋のあちこちに振りまき始めた。たちまち刺激的な臭いが部屋中にたちこめ、男も思わず咳ごんでしまう。そうしてガソリン一・八Lをしっかりまき散らすと、残るボトルの栓をはずし、両手に抱えて、振りまきながら出口に向かった。こうしてさっき入ってきたばかりのドアから一歩外に出た男は、おもむろに屋敷の中に振り返り、ポケットから鷲の上半身とライオンの下半身という伝説の合成獣、グリフィンをあしらったジッポライターを取り出した。
「さらばだ、我が栄光の思い出よ。新たなる第一歩のため、我が未来を照らし上げてくれ」
 男は満面の笑みで屋敷に惜別の一言を残すと、そのライターを放り投げた。たちまちゴウ!と紅蓮の炎が床を走り、家具や壁に襲いかかった。炎は瞬く間に古い調度類を呑み込むと、壁を登り、天井を舐めて屋敷全体を侵食していった。男は猛烈な熱気に煽られながら満足の笑みを改めて唇の端に浮かべると、二度と振り返ることなく、その屋敷を去った。男が去って間もなく、迷妄から醒めた榊真一郎が綾小路麗夢や円光と屋代邸まで駆け付けたときには、その古い屋敷は大量に吹き上げる黒煙をまといながら、ゆっくりと崩れ落ちて行くところであった。


「2.東京武蔵野市  鈴木家 その1」へ続く。
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2.東京武蔵野市  鈴木家 その1

2008-04-20 23:03:36 | 麗夢小説『有翼獣は電脳空域に夢まどろむ』
 「ふん! 馬鹿にしやがってっ!」
 待ちなさい! とヒステリックに追いかけてくる母の怒鳴り声をバタン! と勢いよく閉めた自室のドアで遮りながら、鈴木武雄17才は手にした鞄を床の上に放り投げた。何だっていうんだ。ちょっと山をはずしただけじゃないか。それをぎゃあぎゃあうるさくわめきやがって! 武雄は階段を上がってくる足音を聞くや即座にドアの鍵を閉め、母から引ったくって半ばぼろぼろになった期末考査の答案用紙に目をやると、憎々しげに丸めてくずかごに放り込んだ。二言目には兄を見習え、だ。二つ年上の兄の優越感を隠そうとしないにやけた面が目の前に浮かび、武雄はまた一段と腹が立った。確かに兄は自分と違ってお勉強が得意である。大学も難関を歌われる城西大にあっさり現役合格したほどだ。でも、俺だって中学まではそこそこ成績も悪くはなかったんだ。それなのに、なまじ比較対照が秀才の兄だったが故に、自分ではどんなに頑張ったつもりでも、けして褒めてもらうようなことはなかった。決まって出る言葉は「兄を見習え」だ。ごくまれに満点を取る幸運に恵まれても、出るのは褒め言葉ではなくて、
「やっとお兄ちゃんの背中が見えたわね」!
 100点満点で背中が見えた程度なら、一体何点取れば兄に追いつけるって言うんだ!
 ドアを叩く音と母の怒鳴り声。「うるせえっ!」と一声怒鳴り返して、武雄は制服のままベットに倒れ込んだ。うつぶせになって、頭の上から羽布団をかぶる。わずかにくぐもって小さくなった母の声が聞こえなくなるまで、武雄はじっとそのままでいた。我ながら忍耐強くなったものだと、武雄は思う。ほんのついこの間までは、こっちも切れて殴りかかったことだってあったのに、今は口はともかく手を出すような真似だけはしない。もちろん武雄は、自分で思っているほど忍耐強さやキレにくさを手にした訳ではない。ただ、全てを忘れさせてくれるような楽しみができただけのことだった。そして、前にキレたときにその楽しみが奪われそうになったから、今は我慢してやっている、それだけのことなのだ。それを護るためなら、母の小うるささなどは対して気にならない。いや、耳元の蚊くらいには気になるが、蚊と違って母はものの十分も怒鳴り散らすとエネルギー切れで降りて行ってしまう。喉元過ぎれば何とやら、で、その十分を聞き流してやればいい。こちらが真に受けて言い返したりしようものなら、その何倍も怒りを増幅させて更に撃ちかかってくる。こう言うときは相手にしないこと、という真理を、この半年ほどで武雄は覚えた。以来武雄は、相手が怒れば怒るほど、馬耳東風、柳に風と受け流してきた。武雄は、母がぶつぶつ毒づきながら降りていく足音を確かめると、おもむろに起きあがって机に向かった。その上に、何よりも武雄が大事にしているもの……パーソナルコンピューターが鎮座している。これは、まだ辛うじて意志の疎通がかなう父親に対して、これからはPC位できないととせっついて、ゲーム機を買うよりは、と納得させて買ってもらったものだ。さすがに最新型とまでは行かなかったが、最近のパソコンは、十万円もあれば武雄には使いこなせないほどの高性能機が手に入る。武雄はもう一度耳をすまして下の様子をうかがうと、おもむろに立てかけてあったキーボードを机上に置き、その中程のキーを押した。すると、その奥に置いてあった液晶ディスプレイが突然明るさを増し、空を駆けるジェット戦闘機の写真が画面いっぱいに現れた。その画面下端のタブに、目指すソフトの名前が出ている。「OZ ver.1.44」と記されたそのタブへ、武雄は手元のマウスを操り、カーソルをあわせてクリックした。すると、たちまち戦闘機の姿が真っ黒な画面に置き換わった。その中に、緑や黄色の明るい文字が何列か浮かんでいる。武雄は上の幾つか並んだタグから「ダウンロード」と記されたところにカーソルを移した。クリックと共に画面が切り替わり、緑の文字列が幾つか並んでいる。その中に、お目当ての名前があるのに気づいた武雄は、こみ上げるうれしさにそれまでのむしゃくしゃした気持ちを心の中から掃き出した。


「2.東京武蔵野市  鈴木家 その2」
へ続く。
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2.東京武蔵野市  鈴木家 その2

2008-04-20 23:03:29 | 麗夢小説『有翼獣は電脳空域に夢まどろむ』
「やったぁ! やっと手に入ったぜ!」
 P2Pデータ共有ソフトOZ、それは、高速ネットワーク回線の普及と共に爆発的な利用者増を更新し続けている、人気のソフトウェアだった。それまでにもP2Pは、色々なソフトが世界中で利用されているが、OZはこの一年余りで瞬く間に他の同系統ソフトを駆逐し、我が世の春を謳歌する一大ソフトにのし上がっていた。作者は未だに不明で、時にネット上の掲示板をにぎわすこともあったが真相は杳としてつかめない。ただ、その効率的なプログラムと高度なセキュリティレベルがたちまち反響を呼び、日本を中心に世界中へ普及し始めていた。
 武雄は、早速共有ソフト0Zを終了し、落としたばかりのそのファイルを楽しもうとマウスカーソルを右上の×印に持っていった。すると、突然ファイル名の並ぶ列の一番下にまた新たな行が現れ、一つのファイルが武雄のハードディスク目がけ流れ込み始めた。
「何だこれ?」
 ファイル名を見ても、自分がダウンロード予約をしたものとは思えない。武雄はしばしそのファイルの正体を探っていたが、やがて諦めて一旦共有を止めることにした。何よりも落とすことに成功したものを早く試したかったし、それを実行するには、共有ソフトと同時では、武雄のCPUでは少し荷が重かった。それに、万一今ダウンしつつあるものが実は意外に面白いものだと後で判ったとしても、その時はまたそれを検索して続きを落とせば済むことだ。武雄は今度こそ躊躇いもなくマウスカーソルを右上の×印の上に移動させ、左クリックを実行した。しかし・・・
「何だ? どうして終わらないんだ?」
 武雄は、もう一度マウスの左ボタンにかかった人差し指に力を込めた。かちっと軽い機械音が耳に届く。だが、ほぼ同時に通信を切断してもよいかどうかを尋ねてくるウィンドウが開くはずなのに、今度もその期待が裏切られた。武雄は更にもう二、三度続けざまに左クリックを繰り返した。
「まさか、固まっちまったんじゃ?」
 プログラムか、あるいはハードウェアの方か、何かのトラブルによりソフトがこちらの操作を受け付けなくなることはそう珍しいことではない。ダウンロードを続けている様子が変と言えば変だが、武雄は口調とは裏腹に、これは共有ソフトがフリーズしたんだと即断した。こういう時は、できることは限られてくる。武雄はキーボードに両手を移すと、三つのコンビネーションキーを同時に押した。これで異常を起こしたソフトは強制的に終了し、コントロールが武雄の方に戻ってくるはずだ。だが、武雄の期待はまたも裏切られた。強制終了もできない。
「くそっ! まさか人が留守の間に勝手に触ったんじゃないだろうな?」
 つい今し方、形相凄まじく武雄に食ってかかった母親の顔を思い浮かべ、怒りが瞬間沸騰するのを自覚する。他のことで何をなじられようがそんなことは一向に構わない。だがこのパソコンにだけは触れられたくない。その事は常日頃から事あるごとに強調してあるはずなのに、ろくに操作も知らない母親があちこちいじくっておかしくしてしまったに違いない。ソフトのフリーズ同様、その原因についても即断した武雄は、もしファイルが飛んでたりしてみろ! 絶対許さないからな、と一人ごちながら、パソコンの電源スイッチに手を伸ばした。できることはこれしかない。武雄はスイッチに右手人差し指を当て、ぐいっと押し込んだまま数秒待った。これで強制的に電源が落ち、パソコンが停止する。改めて電源を入れ直せば一応無事に動くはずだが、異常終了がシステムに何か影響している可能性もあり、立ち上げるときにOSがそのチェックと修復を自動的に始めるため、やりたいことがなかなかできない。それに最悪システムがダウンしていたら、今落としたばかりのお目当て品も無事では済まないかも知れない。それ故にできればやりたくない作業なのだが、マウスはおろか、キーボードも受け付けないとあってはこの作業で運を天に任せるしかないのだった。こうして武雄は、祈る気持ちでスイッチを押し続けたのだが、驚いたことにこれにも武雄のパソコンは何の反応も示さなかった。
「おかしいな、一体どうしたんだ?」
 これも何度か繰り返して、武雄は首をひねった。完全に画面が固まってうんとも寸とも言わなくなったというならまだ理解できる。だが、共有ソフトは相変わらず動き続け、ハードディスクはカリカリとアクセス音を鳴らし、ADSLモデムのLEDは激しく点滅して今も通信が繋がっていることを示している。なのに、武雄の操作だけは一切受け付けようとしない。こんなことは初めてだった。もう残された方法は、コンセントを引っこ抜き、強制的にコンピューターを止めるしかない。共有でハードディスクが全力回転している最中にそんなことをすれば、冗談抜きでハードがお陀仏になるかも知れない。せめてダウンロードだけでも終わってくれたら・・・。武雄は歯がみしながら動きっぱなしの共有ソフトを睨め付け、そうだ、ともう一つ手があったことに思い至った。


「2.東京武蔵野市  鈴木家 その3」
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2.東京武蔵野市  鈴木家 その3

2008-04-20 23:03:24 | 麗夢小説『有翼獣は電脳空域に夢まどろむ』
(通信回線を切ればいいんじゃないか)
 これも以前、母親が誤ってモデムのAC電源を、掃除機を繋ぐためという下らない理由でコンセントから引っこ抜いたことがあった。あの時も貴重なファイルが途中で切れてしまい、それが元で大喧嘩した末、電源を母親の手の届かない位置に移し替えたのだった。武雄はそれを思いつくと、たばこの箱を三つ重ねたくらいの大きさの、真っ黒なAC電源に手を伸ばした。だが、武雄がその思いつきを実行する直前、ファイルのダウンロードが終了した。あれ? と武雄が再び見入ったモニターの中で、突然動いていた共有ソフトが終了した。と同時に、画面が真っ黒に変化した。てっきりフリーズだと思っていたのに、今頃になってコマンドを受け付けたのか? とパソコンを再起動させるべく武雄が電源スイッチに手を伸ばしたときだった。再び点灯した液晶画面の中央に、一人の女の子が微笑んでいた。ボリュームのある金髪にピンクのリボンをトッピングし、くりくりとよく動く青い瞳で、じっとこちらを見つめている。年は、そう、武雄より二つ三つ年下だろうか。思わずごくりと息を呑んだ武雄は、その美少女がいきなり話しかけてきたことに仰天し、イスから転げ落ちそうになった。
「ハァイ! こんちわ!」


 武雄は惚けたように画面を見つめると、思い出したように首を傾げた。
「何だこれ? 新しいゲームか?」
 それにしても音声でしゃべるなんて、なかなか凝った作りではないか。あまり聞き覚えのない声だが、声優は誰だろう? 武雄は再びイスに座り直し、どう操作するのか、とマウスに右手を置いた。
「あれ? おっかしいなー、不思議だなー、どうしたのかなー? 挨拶してるんだから返事ぐらいしてよ」
「……返事だって。でもどう入力したら……」
 思わず画面を見つめて独り言をつぶやいた武雄は、次の瞬間、また仰天してマウスを手放した。
「やっぱりしゃべれるじゃない! どうして返事しないのよぉ」
「な、何なんだこいつ! お、俺が言っていることが判るのか?」
 武雄が驚くうちにも、画面の中の少女が、腰に両手を当ててぷーっと頬を膨らました。
「あたしはこいつじゃないよ。ROMちゃんって言うんだから」
「ろ、ROM、ちゃん?」
「そうよ、ROMちゃん。あなたは?」
「お、俺? 俺は鈴木武雄……」
 つられて武雄は思わず自分の名前を口にした。するとROMと名乗った画面の少女の顔がぱっと明るさを取り戻した。
「鈴木武雄? じゃあ、タケちゃんね! よろしく、タケちゃん・」
 タケちゃん? 武雄は突然見ず知らずの美少女に愛称で呼びかけられて、パニックを起こした。
「な、何なんだよ一体! これはネットワークゲームか? それとも誰かの悪戯か? 何でこんなものが俺のパソコンに……」
「すとーっぷ! 私はゲームでもいらずらでもないわ。私はROMちゃん。言ったでしょ? ちゃんと」
「だからお前は何で俺のパソコンにいるんだ!」
「それはねぇ、ちょっとお願いがあったから来てみたのよ」
「お願い?」
 少女は正面向いて両手を胸の前であわせた。
「そう。お願いだからコンピューターの電源を切らないで欲しいの。約束してくれない?」
「……はぁ?」
 武雄はぽかんと口を開けて画面のROMをまじまじと見つめた。
「だからぁ、あなた頻繁にパソコンのスイッチを入れたり切ったりしてるでしょ? それを止めて欲しいの。コンピューターをつけっぱなしにして、OZを常時接続して置いて欲しいのよ」 
「何故?」
「あたしが使いたいから」
 武雄はぐっと息を詰めると、そんなことが出来るか! と一喝した。
「そんなことしてもし警察に目を付けられたらどうすんだよ。いや、ハッカーやウイルスに狙われるかもしれない。そんなことになったらこれまで苦労して蓄えてきたお宝がおじゃんになるじゃないか!」
「その点はご心配なく。あたしがちゃーんと見張ってて上げるから。タダで最強の対ウィルスソフトとどんなハッカーだって手の出せないファイヤーウォールが手に入ったと思えば儲け物じゃない。それに、OZのネットワークは警察に手の出せるレベルじゃないわ。完璧な匿名機能や偽装能力があって、けしてあなたを特定することは出来ないの。そう言う風に作ったんだから!」
「お、お前が作ったのか?」
「あたしのマスターがね。ねっ。だから安心でしょ? お願いだから協力してよ・」
「でも、OZを動かし放しにしたら俺は他のことが出来無いじゃないか」
「だいじょーぶだいじょーぶ。分散コンピューティングって知ってるでしょ?」
「何だ、それ?」
 真剣に問い返されて、少女ははーっと大げさにため息を付いた。


「2.東京武蔵野市  鈴木家 その4」
へ続く
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2.東京武蔵野市  鈴木家 その4

2008-04-20 23:03:18 | 麗夢小説『有翼獣は電脳空域に夢まどろむ』
「タケちゃんは高校生でしょ? あたしは中学生なのよ。そのあたしが知ってるのに、どーして年上のあなたが知らないわけ?」
 美形の少女に一方的にまくし立てられ、武雄はむっとなって言い返す。
「わ、悪かったな、とにかく俺はそんなことは知らないし、迷惑なんだよ! とっとと出ていかないならコンセント引っこ抜くぞ!」
「あー待って待ってったら! もう、せっかちなんだから! 分散コンピューティングって言うのはね、ネットワークを介して沢山のコンピューターが少しずつ力を出し合って大きなスーパーコンピューター並の計算力を発揮するためのシステムの事よ。聞いたことくらいあるでしょ? 宇宙人を捜すためのプロジェクトとか」
 そう言われれば、OZを特集していたパソコン雑誌でそんな記事を読んだことがあったのを武雄は思いだした。まじめに宇宙人探しをするなんて、と笑った記憶があるが、自分には関係ないことだ、と読み流していた分だ。
「あれと同じなの。だから、あなたがパソコン使っているときはなるべく邪魔しないようにしてるし、学校に行ってるときとか使ってないときはもう少し余分にパワーを貸して欲しいの。ね? お願い。いいでしょ・」
 少女は武雄の目を改めてじっと見つめてきた。ただでさえ女の子に見つめられると言うのには慣れていない武雄は、それだけで頭がぼっとしてくる感じがして頬を赤らめた。何といっても目の前の少女は、まるでテレビ電話で会話しているかのようにリアルで本物の人間ぽい。けしてゲームのプログラムされた登場人物ではない。自然に自分と会話を成立させ、的はずれな返事を返すことがない。でも、言っていることは結構無茶苦茶だ。大体OZはこちらが利用したいから使っているのであって、人に利用されるために使っているのではない。幾らソフトの作者だからといって、そんな勝手なことが許される訳がなかろう。そこまで考えて武雄ははたと気が付いた。これっていわゆるスパイウェアって奴じゃないのか?こっちが安心して気を許したら、俺の個人情報、例えばOZを使って何を交換していたのか、とかをどこか知らない奴に送りつけたりするんじゃないだろうか?もしそれが万一警察だったら……。インターネットの掲示板で、まことしやかに近々警察によるP2Pに対する一斉取り締まりが始まる、などと言う噂が流れていたのを読んだばかりだった。もちろんこれまでも大方は「ネタ」だったし、今回もどうせ大したことはあるまい、と高をくくっていたのだが、こんな異常な体験をしてしまうと、妙に不安が募ってきてしまう。
「やっぱり駄目だ! 信用できないなそんな話。もう切るから出てってくれ!」
「お願いよ! もう少しだけ話を聞いて!」
「うるさい! もう話は終わりだ!」
 武雄は急に立ち上がると、PC本体の裏面に手を伸ばし、しっかり刺さったAC電源のコンセントを掴んだ。
「お願い! もぅこれ以上何も言わないから、一瞬だけこっち向いて!」
 必死に哀願する少女の声に、武雄は本当に一瞬だけ目をそちらに向けた。その瞬間である。武雄の目が画面に縛り付けられたようにぴたりと止まった。そのまま時間だけが数秒間動いた。そして武雄は、今にも抜き取ろうとしたコンセントから手を離し、どさり、とイスの上に腰を落とした。
「いーぃ、私の言うことを聞くのよ。コンピューターの電源は切らないの。判った?」
「判った。コンピューターは点けっぱなしにする」
「いい子ね、タケちゃん・」
……
 はっと武雄は意識を取り戻した。いつの間にか、キーボードを枕に眠り込んでしまっていたのだ。一体何をしていたんだっけ? 何か重い感じがする頭で武雄は考えた。確かOZでお目当てのお宝を手に入れて、それを楽しもうとしていたんだっけ……。一夜漬けの試験勉強の疲れが、今になって出てきたのかも知れない、と武雄は軽く頭を振りながら、OZのウィンドウを最小化してタスクバーに放り込み、落としたお宝を楽しむために、デスクトップに配置した、ダウンロードフォルダのショートカットをクリックした。
 その少しぼんやりした頭には、ついさっきまで話をしていた美少女の姿は残っていない。ただ頭の片隅に、コンピューターの電源を切ろうとする度にその行動を記憶から消してしまう、無意識下の言葉が一言、残っているばかりだった。そして武雄と廊下一つ隔てた向かいの部屋でも、同じ言葉に呪縛された二つ違いの兄の惚けたような目が、PCの画面を見つめていた。


「3.鬼童超心理物理学研究所 その1」
へ続く
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3.鬼童超心理物理学研究所 その1

2008-04-20 23:02:51 | 麗夢小説『有翼獣は電脳空域に夢まどろむ』
 都心から少し離れたその古い洋館は、ついこの間から「超心理物理学研究所」なる真新しい看板が掲げられ、新たな産声を上げたところだった。実験中の事故で城西大助教授の職を棒に振った鬼童海丸だったが、長身端麗なその姿に、憂いの色は一刷毛もない。むしろ、これで二四時間、自分の使える全ての時間をただ研究にのみ注ぎ続けることができる様になったことが、うれしくてたまらないようだ。「科学」の魔力に取り憑かれた研究至上主義を信奉するものにとって、鬼童の境遇はまさに垂涎の的に違いない。大学、公的研究機関、企業研究機関、日本に数多ある科学者達の城も、その規模や形式の違いこそあれ、それが組織である以上、ただ自分の研究ばかりに打ち込んでいられない事情がある。特に大学は教育や学校運営と言った雑務が多くあり、事務系の補佐をしてくれる要員も不足がちとあって、鬼童のような優秀な若者は、上の者から馬車馬のようにこき使われるのだ。独立開業する、と言うことは、そんな雑務からすっぱり開放されることを意味する。もっとも、研究費、生活費と言った経済的諸問題と社会的信用と言う点では著しく不利になるが、鬼童には亡き両親が残してくれた膨大な遺産と研究を支持してくれるスポンサーがいる。信用については、超心理学会員として精力的に論文を発表し続け、内外から高い評価を得ている。何も知らない素人には胡散臭く見えるだろうが、その筋においては、鬼童は最先端を走る若きホープの一人として注目を集めているのである。
 そんなこれから始まるめくるめくバラ色の研究生活を言祝ぐために、ようやく梱包を解かれたばかりの実験器具が所狭しと積み上げられた実験室の一角で、ささやかなティーパーティーが開かれようとしていた。鬼童らしく初日からいきなり実験をスタートさせたが、それが一段落したところで、広いだけが取り柄の来客用テーブルに、お招きに参上した大事な友人達が並んでいた。
「今日はおかげさまでいいデータが取れましたよ、麗夢さん」
 白衣姿のまま朗らかに白い歯を見せて振り向いた姿が、甘さと凛々しさを巧妙に配して、意中の女性に無意識のモーションをかける。麗夢は、そんな大抵の女性なら思わずぽっと頬を染めるような姿に、にっこり笑顔でお返しを送った。
「それは良かったわ、鬼童さん」
 途端に鬼童の心臓は二割方心拍を増した。本当に、いつも新鮮な驚きを覚えさせてくれる。鬼童にとって女性とは研究仲間か実験材料以外の何者でもなかったが、この娘だけはただの実験材料では留まりそうにない。軽くウェーブのかかった豊かな碧の黒髪や、大きな生きた宝玉を思わせる美しい瞳に、自分の心がからめ取られていることを鬼童は実感する。恋心……鬼童にとって最も感心の遠かった世界の単語が、今の鬼童には研究と競り合うほどにその心を捉えている。甘美な狂おしさは、新しい発見をものにしたときの喜びに匹敵する興奮をもたらしてくれる。鬼童はそんな幸せをかみしめつつ、傍らのライバルにも声をかけた。
「円光さんもごくろうさん」
 表面上は満面の笑みで、自分と同等のマスクを誇る精悍な剃髪の前に、こちらは緑茶を差し出す。
「忝ない、鬼童殿」
 律儀に礼をして湯呑みを手にした円光は、この麗夢をめぐって鬼童と火花を散らしている僧侶である。もっとも当の麗夢自身がどちらにも言質を与えず等距離を保っているので、二人は努めて公正かつ紳士的に、覇を競い合っているのである。
 これに対して、半ば呆れながらも興味津々の視線を送るのが、榊真一郎である。こちらも警視庁では「怪奇事件」専門というような胡散臭いレッテルを一部で貼られているが、その鼻から顎にかけて髭に覆われた顔は、全国の警察官で知らぬ者とてない敏腕警部の顔そのものだった。年を感じさせないがっしりした肉体がくたびれたコートをまとって事件現場に現れるや、たちまちその場の雰囲気が事件解決への期待へ塗り変わる位に、上下からの信頼が厚い。その榊も一礼を返してティーカップを受け取った所で、鬼童は別に暖めた牛乳を薄い皿に移してテーブルに置いた。それまでちょこん、と麗夢の傍らに座って待っていた二匹が、うれしそうにその皿に飛びつく。麗夢の相棒、子猫のアルファと子犬のベータである。仲良く尻尾を振って皿に顔を突っ込んでいる姿こそ微笑ましいが、常在戦場の主人と共に、最前線で獅子奮迅の働きをする力を、その小さな身体に秘めている。
 この三人と二匹こそ、鬼童海丸が唯一無二と信頼する友人達なのである。もちろんその核になるのは、座席に着いた鬼童の前で、ウェッジウッドのなめらかな肌に可憐な唇を触れさせている一人の美少女であることは言うまでもない。その美少女ー綾小路麗夢が、一口飲んだ紅茶をソーサーに戻し、おもむろに右手の榊へ問いかけた。
「それで榊警部、屋代邸の捜査はどうなったんですか?」
 すると、それまで穏やかにティータイムをくつろいでいた初老の髭がわずかに震え、軽い憂いと困惑がその顔に影を生んだ。

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3.鬼童超心理物理学研究所 その2

2008-04-20 23:02:46 | 麗夢小説『有翼獣は電脳空域に夢まどろむ』
「それが、面目ないことに一向に進まないんだ。やはりあれだけきれいに燃えてしまうと証拠らしい証拠が残らなくて……」
濁した語尾に、榊の苦悩ぶりが凝縮されている。麗夢の連絡を受けて榊が急行したときには、屋代邸は既に紅蓮の炎に包まれており、その周辺には消防や野次馬がごった返して、混乱を極めていた。館が完全焼失してようやく鎮火した後、そこに残るのはほとんど館の基壇だけと言ってもおかしくない状態だったのだ。
「何者かが麗夢さんや円光さんの後に侵入し、ガソリンをまいて火を放った事は間違いないのだが、一体誰が、何のためにそんなことをしたのか、皆目見当がつかない」
「その、ROMとかいうプログラムがやったという可能性はないのですか?麗夢さん」
「いいえ、それはあり得ないわ。コンピューターは完全に止まっていたし、あれからROMの姿も見ないし。ねえ、円光さん」
「左様。拙僧と麗夢殿が協力してあの化け物を止めた後、しばらく様子を窺いもしたが再び動き出す気配はなかった」
「だが、あれほどの能力を持つスパコンが、バックアップシステム一つ持ってなかったなんて僕にはとても信じられないんだ」
 鬼童は、円光と麗夢が協力して、と言う部分に微量の嫉妬を覚えつつも、感じた疑問を素直に口に出した。
 鬼童はつい先頃までアメリカで開催された国際超心理学会に出席しており、この事件に関わりを持つことができなかった。もちろん海外でも、世界的大都市東京が一切音信不通となり、地球規模で社会的、経済的影響を与えたことは大々的に報道されたため、その大まかな話は鬼童も知っている。しかし、それがスーパーコンピューターグリフィンのプログラムに生じたバグを原因とする危機的状況だったと言うところまでは、麗夢や榊と連絡が付くまで判らなかった。その危機を麗夢が見事に解決して見せたことは、鬼童としても喜ばしいことであったが、その一方で麗夢と円光が採ったグリフィン強制停止手段には、当初から疑問が尽きなかったのだ。個人のものならともかく、日本国首都東京が帝都の管理一切を任せようとして開発したものが、そんなフェイルセイフのかけらもない脆弱なシステムだったなんて、鬼童にすれば想像することすら困難な戦慄を覚えさせられる。さらに不可解なのは、都が予算をつけて開発を行ったものが、どうして屋代修一個人の邸宅に組み上げられていたのかと言う点だ。主開発者が屋代だというのは理由にならない。スーパーコンピューターというのは、一般家庭に構築できるような代物では、そもそも無いのである。驚異的な演算能力はその引き替えに莫大な電力を消費し、ものすごい熱を発生する。その熱を制御するためにこれまた膨大なエネルギーを要し、それらはとても個人の邸宅に許容できるレベルではない。それに、システムの組立一つとっても個人の範疇からは大きくはずれる。これは、制作者が天才とか凡才とか言うような個の能力の優劣が問題なのではない。純粋に労働力、すなわち組織の問題なのだ。ある特殊な演算のみに特化したような、単機能の能力を追求する実験的システムなら、個人でもスーパーコンピューターを凌ぐレベルに達し得るだろう。だが、汎用性を有するスーパーコンピューターは、何万人もの従業員を抱える世界的大企業が、その力の大部をそそぎ込んで生み出す工業力の結晶なのである。しかもグリフィンは、そんな世界標準を軽くぶっちぎる高性能ぶりを喧伝されたもので、アメリカ始め世界各国がその誕生に驚嘆と畏怖を覚えていたものだ。それがどうして個人の邸宅にあったのか、不思議と言うにはあまりに理解に苦しむ複雑怪奇な事情を想像させる。
 そのことは、鬼童から聞いて麗夢や榊も了解した事柄だった。特に榊は、屋代邸が何者かの手によって放火された事実に、火事現場で漂う異臭以上のきな臭さを感じていた。
「まあ誰が放火したのか、は、これからも捜査を進めるつもりだ。どうやら麗夢さん達の後で誰かが屋代邸を訪れたのは間違いないしね」
 榊は、事件直後、円光の足跡を慎重になぞるようにして付けられた、未知の足跡を一つ発見している。足跡のほとんどは野次馬や消防隊の足で跡形もないほど乱されてしまっていたが、榊の執念の捜査がようやく一つだけ、ほぼ完全な足跡の発見に成功していたのである。


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3.鬼童超心理物理学研究所 その3

2008-04-20 23:02:41 | 麗夢小説『有翼獣は電脳空域に夢まどろむ』
「それに屋代修一には研究費を横領していた、と言う疑惑があった。あの放火も、その関係者が証拠隠滅にやったのかも知れない」
 それは、警視庁でも榊があずかり知らぬ所で進められていた捜査の一つであった。もっとも、榊は殺人などの重大犯罪を追いかける第一課に所属しているから、経済犯罪担当の第二課の動きまでは基本的に知らなくて当然である。屋代邸が全焼したときも、一番に現場へ急行したのは、麗夢から連絡を受けた榊だったが、その後の捜査は遅れてやって来た第二課に引き継がれ、表だって榊はその件にタッチすることができないのだ。榊の意見も、第二課所属の友人から、非公式に漏れ聞かされたことをここで繰り返しているに過ぎない。
「それならグリフィン・プロジェクトの連中はどうなんです? 警部」
 しばしの沈黙の後、鬼童はグリフィンに関わるもう一つの要素について口に出した。グリフィン・プロジェクトとは、東京都工業技術センター、国立東都大学、そして半導体から原子炉まで広範なシステム開発を得意とする大企業、武蔵野電気を核として、世界標準を凌駕するスーパーコンピューターを生み出そうという、野心的な取り組みに付けられた愛称だった。流行りの産官学一体の研究開発事業で、その音頭取りをしたのが、グリフィンの心臓部、通称グリフィンチップを開発した、東都大情報科学研究室教授、桂士朗博士だった。屋代修一は桂士朗の愛弟子と言われ、屋代の博士論文は、桂の指導の元、グリフィン・プロジェクトを通じて完成された。つまり桂は、このグリフィン暴走によって優秀な頭脳を持つ後継者と、自分の半生を費やした研究成果の両方を一度に失ったと言える。
「ああ、そちらも順次調べに入っている。まだアリバイ確認と聞き込み程度だがね。ただ、屋代修一がROMに殺された、と言う麗夢さんの話を元にすると、どうも判らないことが多すぎる。一体放火した奴は何のために火を付けたんだろう? 殺人犯が証拠隠滅のためにというなら話は分かるんだが……」
「じゃあやっぱり麗夢さんがROMを倒した後、眠っていたサブシステムが動き出してガソリンを……」
「あたしは自殺なんてしないわっ!」
 鬼童の話を遮って、音に色が付けられるなら恐らくそれはレモン色だろうと言う甲高い声が部屋中に鳴り渡った。点になった一二個の目が、一斉に向かいの二二インチ液晶ディスプレーに吸い付けられる。それは、鬼童が大枚はたいて導入した、自慢のワークステーションだった。今、そのシステム上では、夢の研究をさらに進めるために鬼童が開発中の、擬似的に夢をシュミレーションするプログラムが動いているはずだった。もっとも、普段は3DCGで表現した精巧な人間の脳モデルのスクリーンセーバー画面になっている。麗夢達が訪れたときも、そこに映っていたのはくるくる回る脳みそだけだったのだ。ところが今、一二の視線が集中したそのディスプレーの画面一杯に、脳組織の替わりに一人の少女が映し出されていたのである。
「ヤッピー! 麗夢ちゃんひっさしぶりー(はぁと)」
「あ、あなた……ROM?」
 え、これが? と驚く榊と鬼童。円光は傍らの錫杖に手を伸ばし、険しい視線を射込みながらがたりとイスを引いて立ち上がった。アルファ、ベータも一時の驚愕から醒めて、麗夢の前で足を思わず踏ん張った。
「あなた、生きていたのね?」
 それは、聞きようによっては相当おかしな質問だったかも知れない。相手はコンピューター上に組み上げられたプログラムなのだ。少なくとも、生き物が持つ生命とか、魂とか言うようなものとは、確実に無縁の存在なのである。だが、その姿を目にした人間の感覚は、溢れかえるような生命力の輝きをモニター画面から覚えたことだろう。それはまさに生きているとしか言えない圧倒的な存在感を持って、麗夢達の前に姿を現したのである。
「きゃはは、あたしがあれくらいで消える訳無いでしょ?」
 そう言えばROMは、「命」というものを理解しなかった。痺れる頭で辛うじてその事を思い出した麗夢は、画面の中でにこにこ顔のあどけない金髪娘に言った。
「でもどうやって? グリフィンは確かに止まっていたわ……」
 するとROMは、その青い大きな瞳をくりくりっと輝かし、影のない無邪気な笑顔で言った。
「知りたい知りたい知りたい?」
 明らかに言いたくてうずうずしているようだ、と榊は見て取った。だが、どうも何か勘が狂う。こんな見かけの女の子が、昼間人口二〇〇〇万人を超す東京都民のほぼ全員の夢に侵入し、その中身を食い荒らした恐ろしい「ドリームハッカー」だとは、想像がなかなか結びつかない。

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3.鬼童超心理物理学研究所 その4

2008-04-20 23:02:34 | 麗夢小説『有翼獣は電脳空域に夢まどろむ』
 一方険しい表情で無言の返事を返した麗夢に、ROMはからから屈託無い笑いを見せながら、いかにも楽しげに言った。
「そーねぇ、あたしと麗夢ちゃんの仲だし、特別に教えてあげる。麗夢ちゃんがグリフィンを止めちゃう直前、あたし、ネットワークに逃げ出したのよ」
「ネットワークに?」
「そうよ。人の夢にお邪魔するときに使っていた公衆回線よ。それを通じて、世界中のコンピューターにあたしのプログラムを分散して移し替えたの。ここにだって、そうやって入ってきたんだから」
 この言葉に最も早く反応したのは、大事なシステムをROMに乗っ取られてしまった鬼童海丸だった。鬼童は、麗夢、円光、榊がROMの話を咀嚼している間に、瞬時に事の重大性を理解したのである。
「し、信じられん! ここのセキュリティーシステムは完璧だ!外から侵入できるはずがない!」
「ふふん、それができちゃうのよねぇ。確かにここはちょっと手間取ったけど、あたしに破れないプロテクトなんてないんだから!」
「そんな……」
 絶句してがっくり肩を落とした鬼童に、今度は麗夢が過激な提案をした。
「鬼童さん! このコンピューター壊してもいい?」
 麗夢の言葉に早くも円光が身を乗り出し、錫杖をひっさげてワークステーションに近づいていく。その背中を抱きかかえるようにして、鬼童は慌てて円光を止めた。
「ま、待て、待ってくれ円光さん! こいつが幾らしたと思っているんだ? いや値段なんかどうでもいい! こいつには、僕が心血注いだバーチャルドリームプログラムが詰まっているんだぞ!」
 するとROMは、悪戯っぽい瞳を閃かせると、大きくペロリと舌を出して右手を頭にやった。
「あ、あれ? あたしが入るのにちょっと場所が足りなかったから消しちゃった。ゴメンね」
「な、なんだって!」
 ROMの言葉はとどめの一撃となって鬼童の頭脳に突き刺さった。足元から脱力してその場に座り込んだ鬼童を置いて、再び円光がROMの宿るコンピューターに歩み寄る。
「まさに電子の妖怪だな。この上は拙僧の法力で駆逐してくれる!」
 円光は、不動明王真言を唱えつつその錫杖を鬼童のコンピューターに突きつけた。
「ちょ、ちょっと待って! あたしはお願い事があって麗夢ちゃんを捜してたんだから!」
 振り上げた錫杖が、一時頭上で停止した。
「願い事だと? この期に及んで往生際が悪いぞ」
「麗夢ちゃん助けて~! 今のあたしは何の力もないのよ! お願いだから話だけでも聞いて~!」
 円光は今にも錫杖を振り下ろす素振りを見せながら、ちらと麗夢の方に視線を送った。確かにここにはROMが無限と言ってもいい力を発揮するだけの環境がない。鬼童のワークステーションがいかに高速演算能力に優れていようとも、しょせんスーパーコンピューターグリフィンと比較すれば容量も処理速度もウサギとカメ以上の差がある。それにここには屋代邸のようなセキュリティーシステムはない。鬼童苦心のプログラムが失われると言う被害はあったものの、物理的な危険性は皆無であろう。麗夢はこくりと頷いて自らコンピューターの方に歩み寄った。
「さあ、願い事って何?」
「あのねぇ麗夢ちゃん、麗夢ちゃんって、探偵さんでしょ?」
「それがどうしたのよ」
「だから、探偵さんの麗夢ちゃんに、折り入って相談があるの。人を捜して欲しいのよ」
「誰を?」
 すると、脳天気な笑顔でにこにこしていたROMの顔がにわかに改まり、真剣な表情で一人の男の名前を口にした。
「屋代修一博士」
 その瞬間、麗夢は好奇心と警戒心も一時に吹き飛ばして、目の前の少女を怒鳴りつけた。
「ふざけるのもいい加減にして! あんまり馬鹿なことを言うと本当に許さないわよ!」
 余りの剣幕に、傍らの円光もうっと息を呑む。だがROMも負けてはいなかった。
「ふざけてなんかいないわ! あたしには屋代博士がどうしても必要なのよ!」
「だからふざけているって言うのよ! 大体屋代博士はあなたが殺したんじゃない!」
 屋代修一は半年以上前、確かに死んでいた。公式には病死とされているが、焼失前の屋代邸で麗夢と円光が見た日記の記録、そして何よりROMと対峙した麗夢自身が、屋代殺害の事実をROMに確かめている。その事を棚に上げて屋代を探して欲しい、というのは余りに馬鹿げた話である。それでもROMは言い募った。
「確かに博士の有機的存在はあたしが消したわよ。でも、屋代博士は消えてないわ! あたしには判るのよ」
「またわかんないこといって、屋代博士の命を奪ったのはあなた自身なのよ! もう博士の遺体はとっくに荼毘に付されて残った灰だけがお墓の下に瞑っているわよ。博士を捜したければ、墓地にでも行ってみる事ね」
「もう! 麗夢ちゃんこそ何でわっかんないのかな~。屋代博士はねぇ……」
「とにかく! あなたのお願いはお断りします! とっととお引き取りを!」

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3.鬼童超心理物理学研究所 その5

2008-04-20 23:02:28 | 麗夢小説『有翼獣は電脳空域に夢まどろむ』
 ROMの言葉を遮って、麗夢は断固として依頼辞退を表明した。するとROMは暫しぷっと膨れて麗夢を睨み付けていたが、やがて悪戯っぽい笑顔を閃かせると、明るく口調を変えて麗夢に言った。
「あーっ麗夢ちゃんここ面白いわよぉ。一杯カメラがあって、あちこちから麗夢ちゃんが見えるわよ、ほら!」
 呆気にとられた麗夢の前で、ROMの姿が画面一杯に広がった一二の窓にかき消された。その一つ一つに、色々な方向を向いた麗夢の姿が映し出された。ややローアングルのものから天頂より真下に見下ろすものまで、全身ショットから上半身、顔だけアップなど、次々切り替わる画面はまさに麗夢オンパレードである。
「あら、こんなところにも」
 姿を消したROMの声が聞こえた途端、一二個の窓のうちの右下の画面が切り替わった。
「あっ! 馬鹿っ止めろ!」
 放心の体で床に座り込んでいた鬼童が、突然甦ってワークステーション端末に駆け寄った。あわてて手を広げて、液晶モニターを覆い隠そうと画面の前に立ちふさがる。が、鬼童の足は一歩遅かった。
「きゃー麗夢ちゃんかわいーパンツはいてるのね~」
 鈴を転がすようなROMの笑い声が室内に木霊する。
「鬼童殿! こっ、この破廉恥な映像はなんだ!」
 思わず画面に視線を釘付けにされながらも、円光は必死に目を鬼童の顔に反らした。
「これは、被験者の状態をモニターするための記録システムなんだ! やっと配線し終わった所で、撮影用のプログラムもまだなんだ。だから、動くはず無いんだ!」
「それくらい、あたしにかかれば瞬殺よ。動くようにして上げたんだから、感謝してね」
 底知れぬROMの能力をまざまざと見せつけられて、鬼童は絶句するしかなかった。
 一方肝心の麗夢はと言えば、その映像を一瞬惚けたように眺めた後、これもあっと叫んでスカートを押さえた。麗夢は顔を真っ赤に染めて、床に据えられたCCDカメラから後ずさりする。
「だーめよ、麗夢ちゃん! この部屋であたしから逃げるなんてできっこないんだから~」
 画面が切り替わって、麗夢の背中が鬼童の白衣の切れ目から見えた。その映像が急速に下がり、ローアングルから麗夢を見上げる。鬼童が慌てて前のボタンを引きむしるようにはずして、白衣を広げて液晶画面を覆い隠した。
「無駄無駄無駄! ほーらねっ!」
 突然、今まで榊の傍らでスイッチが切られ、グレーの画面を見せていたディスプレーに明かりが灯った。ブゥンとくぐもったブラウン管特有の音に榊が驚いて振り返ると、そこに浮かび上がったのが今、鬼童が必死に隠そうとした麗夢の後ろ姿である。あっと息を呑んで立ち上がった榊が背広で画面を覆い隠すと、今度は皆から最も離れたところに置いてあったパソコンが起動し、いかにも楽しそうなROMと必死に手でスカートを押さえて逃げ回る麗夢の姿が映し出される。鬼童の実験室は測定装置のデータ処理専用機やプリントアウト専用のサーバー、今は特に用が無く、予備機として電源を落としてあるものまで引っくるめると、コンピューターだけで一〇台以上ある。その全てに電源が入り、ROMの高笑いと共にあられない麗夢の姿が表示される。
「もうっ! 鬼童さんの馬鹿ぁっ! 早く止めてよっ!」
 麗夢の悲鳴に促されるまでもなく、鬼童は必死にコントロールを取り戻そうとした。しかし、完全にROMの支配下に落ちたネットワークシステムは、まるで鬼童の操作を受け付けようとしない。鬼童から情けない顔で絶望的な事実を告げられた麗夢は、とうとうお願いする対象を変えた。
「ROM止めて! 判ったから!」
「え? じゃあ麗夢ちゃん、あたしのお願い聞いてくれるの?」
「聞く聞く! 何でも聞くから早く止めてぇ!」
「ありがとう麗夢ちゃん! 麗夢ちゃんならきっと判ってくれると信じてたわ!」
 肉体よりも精神的にドッと疲れた麗夢がへたり込むのと同時に、それまで克明に麗夢を追い続けていた映像がぴたりと消えた。
「おおっと! こうしちゃいられないわ! あんまり一カ所で遊んでたら捕まっちゃう。じゃあね麗夢ちゃん!成功したら、日銀から麗夢ちゃんの口座に好きなだけ流して上げるから、頑張ってねっ!」
「ちょ、ちょっと待って! まだ聞くことが……」
 麗夢は慌てて呼び止めたが、その時には、既にROMの姿はモニターから失せ、再びその液晶画面には、モデル脳が何事もなかったかのごとく静かに回転を続けていた。

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4.雑司ケ谷霊園 その1

2008-04-20 23:01:45 | 麗夢小説『有翼獣は電脳空域に夢まどろむ』
 今日は朝からしとしとと降る雨が、街を霞の中に包み込んでいた。空から下りてきたものの、地面まで届かずにいる微細な雨滴が、あるか無きかの風に乗っていつまでも漂っているのだ。そんな一種幻想的な光景の中に身を置くと、昨日、あれほど大騒ぎした鬼童邸での出来事が、まるで嘘か幻のようにさえ感じられる。実際、ROMの言い残していったことは、麗夢にとっては到底首肯しがたい内容に満ち満ちていた。自分の手で殺した「屋代修一」を探して欲しい、などと、よくもあっけらかんとして言えたものである。傍らで麗夢と並ぶ円光や麗夢の抱えるバスケットから水玉を所狭しとその髭にぶら下げたアルファ、ベータも、釈然としない思いに不機嫌そうである。それだけに一行の足はいつになく重く湿りがちであったが、一応約束してしまったものは致し方ない。とにかく調査を始めましょう、と言うことで、研究室のシステム復旧に大わらわな鬼童を残し、麗夢と円光が屋代修一の足取りを追いに出てきたのだった。ただ、肝心のROMが何一つ情報を残さず消えてしまったため、どこから手をつけたものか、さすがの麗夢も困ってしまった。もちろん、例えば師匠であった桂博士など、屋代修一の元関係者に逐一当たる、という手もあったが、何の裏付けもなくそれら屋代の死を看取ったに違いない人々に、その消息を聞いて回るわけにもいかない。馬鹿にされるくらいならまだしも、失礼な、と怒られる可能性だってある。途方に暮れた麗夢は、せめてそう言う人達と会うに当たって何か話のとっかかりになるものでも手に入らないか、と考え、この屋代家代々の墓が祭られている雑司ヶ谷霊園まで足を伸ばしてきたのである。
 雑司ヶ谷霊園は豊島区の一角、総面積三万坪の広大な敷地に、四〇〇〇基余りの墓地を備えた、都下有数規模を誇る霊園である。またここは、夏目漱石や竹久夢二、東条英機といった文化・政治上の歴史的人物や、大川橋蔵、初代江戸家猫八など著名な芸能人の墓が多数あることでも知られている。敷地の西角にある霊園管理事務所では、そう言う著名人達のお墓に参る人々のために、A三版カラー刷りの霊園地図を配布している。麗夢達一行もその地図をもらい、屋代修一のお墓目指して、霊園に足を踏み入れていた。
 大小さまざまなお墓の間を縫うようにして進み、ぬかるんだ関東ローム層に時折足を取られそうになりながら、事務所からはちょうど対角になる屋代家累代の墓前まで歩を進める。静かで霊的にも安定した落ち着きを覚えさせる浄域は、円光の心に少しばかりの余裕を生んだ。ケヤキの古木が緑なす小道は、お墓を別とすればちょっとした公園の雰囲気がある。身にまとわりつくような微細な雨滴も、二人の姿を周囲から覆い隠すヴェールと化し、もともと人気の少ない所を麗夢と二人でそぞろ歩いているのであるから、少なくともその時間だけは、まさに二人きりの世界と言えた。
(この上は麗夢殿の傘を借り受ければよかった。そうすれば二人で一つの傘の下、より一層この時が素晴らしいものであり得たものを……)
 円光は可愛らしいピンクの傘を差す少女の傍らで、ついさっき下した自分の判断を真剣に悔いた。円光の高い視点からは大方傘に遮られ、見目麗しき尊顔やたおやかな肢体を見ることが出来ない。といってわざわざ腰を落としてのぞき込むような真似も出来ず、円光の悔いは募るばかりであった。こうして円光が場所と格好に相応しいとはとても言えない妄想に耽っていた時、急に麗夢が傘をくるっと回すと、軽く端を上げて、不思議そうに円光の顔を見上げた。
「どうしたの?円光さん」
「え? えぇいえその……おお、そろそろですぞ、麗夢殿!」
 円光は慌てて誤魔化し、適当なお墓を一つ指さすと、そちら目がけて小走りに駆けた。
「あ、待ってよ円光さん!」
 と麗夢が慌てて靄の中に没した円光の後を追おうとした時だった。突然靄の向こうで何かがぶつかる音がはじけ、それを追いかけるように円光の去った先から、木製の桶が麗夢の足元まで転がってきた。
「大丈夫? 円光さん?」
 慎重に近づいた麗夢の視線が、泥だらけになった墨染めの衣が誰かに助け起こされているのを捉えた。
「面目ない、お怪我はないか?」
 円光はようやく立ち上がると、今衝突しかけたその男に声をかけた。
「いえいえ、お坊さんこそ私のためにお召し物をそんなにしてしまって。どうか許して下さい。クリーニング代は御払いしますので」
 見ると紺色のスーツを身にまとったやせぎすな初老の男が、細面ながらやや下膨れな顔に細い目と薄い唇で円光に謝っている。豊かで軽いウェーブのかかった真っ白な髪が上下に揺れ、しきりに平身低頭している様子が麗夢にも分かった。
「あの、どうかなさいましたか?」
 近づいた麗夢が声をかけると、その男は穏和な微笑みを浮かべて麗夢に言った。
「いえ、私がひっくり返りそうになったところを、このお坊さんが身を挺して助けて下さったのですよ」
 それを聞いて円光は大急ぎで言った。
「いや違います。拙僧がよく前も見ずに危うくぶつかりそうになったため、この方を驚かせてしまったのです。非は拙僧にある。本当に申し訳ない」
「いえいえ、私こそ他に人がいるとはとんと思いもしませんでしたから……」

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4.雑司ケ谷霊園 その2

2008-04-20 23:01:39 | 麗夢小説『有翼獣は電脳空域に夢まどろむ』
 麗夢は拾い上げた桶を差し出した。円光がそれをしっかと受け取って言った。
「どちらの浄域にご用です? 拙僧が汲み直して参ろう」
 すると男は、全身で恐縮をあらわすように腰をかがめると、円光に言った。
「いえいえそれには及びません。ここが私の目的地ですから、すぐ自分で汲み直してきますよ」
 男が一つの墓を指さしながら、円光から桶を受け取ろうと手を伸ばした。麗夢も吊られてその墓に目をやったが、思わずはっと顔色を変えて、男の方に向き直った。
「ちょっとお待ち下さい。失礼ですが、あなたは屋代家に何かご縁がおありなのですか?」
 男は少し困惑した目を麗夢に返した。麗夢は慌てて言葉を継いだ。
「あ、私、綾小路麗夢、と言います。青山で探偵をやってまして、今ちょっと屋代修一さんのことを調べている所なんです」
「探偵さん? 貴女が?」
 男は、麗夢の事務所を訪う一見のお客達とほぼ同じ目で麗夢を見た。この年端もいかぬ少女が自分の探していた探偵なのか? と言う好奇と不審の入り交じった目だ。だが、男のそんな目はすぐにさっきまでの穏やかな微笑みに取って代わられた。
「私は屋代修一君の仕事仲間でしてね。祥月命日にはこうしてお参りに来ているのですよ」
 屋代修一の仕事仲間? 麗夢は閃いたままにその男に言った。
「もし間違えていたら謝りますが、あなたは、ひょっとして屋代博士の恩師の桂士朗先生ではありませんか?」
「ほう? よくご存じですね、確かに私は桂ですが……、なるほど、どうやらあなたが探偵さんというのは本当らしい。こうして初対面の私のことも調べられておられるようですからね」
 桂の面前に薄くたゆたっていた不審の思いが、今はすっかり晴れたようだった。
「こんな所で恐縮ですけど、是非先生に屋代博士とグリフィンのことで伺いたいことがあるんです。少し、お時間をいただけませんか?」
 麗夢はこの偶然の幸運を逃すまいと、桂に話しかけた。
「拙僧からもお願いいたす。是非屋代博士について、先生にお聞きしたい」
 円光も麗夢に歩調を合わせて頭を下げた。桂は深いしわが刻まれた目尻を下げて煙る様な微笑みを浮かべると、二人に言った。
「ええ、ここで会ったのも何かの縁かもしれませんね。ですがその前に、少しだけ私もやりたいことがあるのですが、その後でよろしいですか?」
 桂の言葉に円光ははっと思いつき、桶を持って水くみ場の方に駆けていった。桂はすまなそうに何度も頭を下げながら、残った麗夢と屋代家累代の墓に向かい合った。
 墓は、一坪ほどの区画に、雨に濡れて鈍い光沢を放つ高さ一メートルばかりの古ぼけた御影石でできていた。敷地は薄く砂利で覆われ、墓前には生き生きと美しい色を保つ仏花が、沢山の雨粒をまといながら捧げられていた。かなり頻繁に手入れされているものと見えて、墓域には雑草一つ生えておらず、隣接するお墓が朽ち果てた花の残骸が散らばり、生い茂る雑草で砂利も所々にしか見えないのと比べれば、まさに好対照を見せていた。事前の調査によると、屋代の直近の親族は既に絶え、屋代修一のお骨を納めたのは、関西から上京してきた遠縁の老女でそれも葬式と納骨が終わると早々に西へ帰ったそうである。墓は永代供養料が納められてあるので整理されてしまう恐れはないが、もはや誰一人として参る者はない墓は、隣の様に荒れた姿をさらして不思議はないはずなのだ。
「桂先生はずっとこうして屋代博士のお墓を護ってらしたんですか?」
 僅かに生えた草を抜きながら、墓石を磨く桂に麗夢は問いかけた。
「ええ、彼の死には、私も大きな責任がありますから」
「責任?」
「ええ、私は、彼を殺したも同然なんですよ」
 桂の弱々しい口調とは裏腹な衝撃的告白に、暫し麗夢は絶句した。
 その内容が判明したのは、すっかり墓を洗い清め、管理事務所の一角にある簡素な休憩所に入ってからであった。そぼ降る雨に身体の芯まで冷えた三人は、自販機の熱いコーヒーを並んですすりながら、屋代修一について話を交わした。
 まず型どおり麗夢が自分の名刺を差し出すと、桂は背広のポケットをひっくり返し、やっとの事ですり切れた一枚を探し出して、麗夢に返した。
「ほう、怪奇よろず相談承ります、ですか。探偵さんにしてはなかなか珍しい分野のようですが、屋代君のこともその関係ですか?」
「え? ええ、まあその、ちょっと関係があるかも知れません」
 麗夢は「東都大学情報科学部長 工学博士 桂士朗」と記された名刺を手に、そんなことを言う相手の真意をいぶかった。だが、円光にも同じように名刺を手渡す桂の態度には、麗夢の職業に対する不審も揶揄も感じらず、ただ純粋に好奇心を刺激されただけのように見える。
「なるほど、それでお坊さんを同伴なさってらっしゃるのですか」
 独り合点して頷く桂の様子を見ながら、麗夢は軽い驚きを覚えていた。大体麗夢と初対面でこのように丁寧な応対をする人物はそうはいない。何しろ、中身はともかく麗夢の外観は、高めに見積もっても高校生、ちょっと見なら中学生にも間違われかねない姿形なのである。子供扱いされることは再三で、侮りを受けることも珍しくない。今日は円光を連れて歩いてはいるが、もし円光がいつもの墨染め衣ではなく、いわゆる普通の格好でもしていたならば、きっと円光が探偵で、自分は彼の妹か何かに間違われていたことだろう。このように初めから「大人の対応」を示されると、麗夢としては少々戸惑いを覚えるのである。

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4.雑司ケ谷霊園 その3

2008-04-20 23:01:33 | 麗夢小説『有翼獣は電脳空域に夢まどろむ』
「さて、屋代君のお話でしたな?」
 一口コーヒー缶に口を付けた桂は、そんな麗夢の戸惑いにも気づく様子はなく、少し遠い目をして膝に手を置いた。
「月並みな言いようになりますが、彼は実に優秀な、プログラミングの天才でした。彼が学生として私の所に来なかったなら、グリフィンシステムは多分未だ実験段階から抜け出せず、完成まで20年以上、いや、ひょっとしたら遂に完成しなかったかも知れません。それくらい彼の力は素晴らしかった。本当に惜しい男を亡くしました」 
 心持ち顔を上げてあらぬ方を見つめる細い目が、麗夢には少し潤んでいるようにさえ見えた。麗夢は、少し罪悪感を覚えながら話を継いだ。
「その屋代博士の最期を見とられたのが、桂博士でしたね?」
「……そう。あれから半年も経つんですな」
 屋代修一の死亡状況は、榊に教わっておおよそは麗夢も知っている。屋代は、関西の学会で桂以下研究室のほとんどが出払い、人気の無くなった大学実験室で倒れていたそうである。発見したのは、所用で少し早めに帰ってきた桂教授。その時、まだ屋代には充分な息があり、桂は驚き慌てながらも、屋代を隣接する東都大医学部付属病院に運び込んだ。だが、屋代の目は覚めなかった。一週間後、病院のベットの上で、屋代は静かに息を引き取ったのである。死因は不明。死体には外傷も薬物反応もなく、結局研究室に泊まり込み、寝る間も惜しんで研究に没頭したあげくの過労死、と言うことで、決着が付けられていた。もちろん麗夢の考えは違う。ROMの野心を制御しきれなくなった屋代修一は、実験室に閉じこもり、ROMから逃れようとした。きっと能力の限りを尽くして、ROMの侵入を防ぐよう、不眠不休で様々なプロテクトを自分の回りに施したのであろう。しかし、ついにその防壁が突破され、ただ自身の成長だけを臨む怪物プログラムに、精神を根こそぎ奪い去られてしまったのだ。
 麗夢がそんな隠された事情を想像する間も、桂は淀みなく話を続けた。
「私はあの時、どうして彼を無理矢理でも学会に連れていかなかったのか、今でも後悔するんですよ。確かにグリフィンシステム実用化に向けた大事な時期であり、主開発者である屋代君にかけられた期待は大変なものだった。彼もあの通りの頑張り屋で絶対外見に弱みを見せたりはしなかったから、私も彼の身体が実はきしみを上げているのを察してやることができなかった。本当に、私は教育者として失格ですよ」
 自嘲の弱々しい笑みが薄い唇をふるわせた。麗夢は慌てて頭を振った。
「いいえ、ご自分を責めないで下さい、桂博士。屋代博士だって、まさかそれで自分が死んでしまうなんてきっと思いもしなかったことでしょう。それは、桂博士のせいではありませんわ」
「ありがとう、綾小路さん。嘘でもそう言っていただけると少しは気が楽になります」
 桂の顔からわずかに自嘲の色が引き、穏やかな笑みが戻ってくる。かえって麗夢こそ、桂の心情を慮って、話を続けることに少なからぬ努力を必要とした。
「それで、あの、桂博士?……」
「何か?」
「屋代博士のお屋敷に、グリフィンがあったのはご存じですか?」
「ええ、それが何か?」
「それが何かって、桂博士! スーパーコンピューターグリフィンがあったことを、ご存じだったんですか?」
 驚く麗夢が勢い込むのを、桂は苦笑しながら手で制した。
「まあまあ、そんなに驚かれることはない。グリフィンと言ったところで、屋代君の屋敷にあったのはそのプロトタイプ、グリフィンI(ワン)でしたよ。開発当時としては確かにスーパーと形容できる画期的な性能でしたが、現代の水準からすれば、秋葉原で五万円もあればお釣りが来るようなパソコンにも劣る機械です」
「でも、そのグリフィンが東京を・・・」
「ああ、あの事故に屋代君のグリフィンIが影響している、と仰りたいのですね。まああり得る、とは言えるでしょう。屋代君が自宅でも研究を続けられるように、とほこりをかぶっていたグリフィンIを持ち帰ったのですが、ネットワークを経由して実用タイプであるGIVをコントロールできるようプログラムしていたようですし」
「ジーフォーと言いますと?」
「グリフィンの開発ナンバーで4番目だから、グリフィンIVと言うのを、我々は略してGIVと呼んでいるんですよ。この間暴走したのがこのGIVでしてね、屋代君がGIV制御のためにGIを接続していた加減で、GIVが暴走した可能性は否定できません。これも、屋代君の死後、いよいよ本格稼働したGIVの調整に忙殺されて、屋代君の屋敷の整理に行ってあげられなかった私の不徳のせいでしょうね。もう少しして時間ができたら、今度こそ学生達を連れて、屋代君の屋敷の後かたづけをしてやらないと……」
「ちょっとお待ち下さい、博士はご存じ無いんですか? 屋代博士のお屋敷が火災にあったことを」
「屋代君の家が、火災? い、一体いつのことです?」
 はじめて桂が見せた動揺に、麗夢は知る限りの事を話して聞かせた。ただ、桂が言うグリフィン・とは似ても似つかぬ驚異的なスパコンの存在や、その三次元インターフェースであるROMの事は伏せ、昨日榊から聞いた研究費横領に絡む放火の可能性で話を組み立てた。いずれ機会があれば尋ねてみてもいいだろうが、今その話を持ち出すとかえってややこしくなりそうな気がしたのである。

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