「……麗夢さんだ」
「ほんと、麗夢ちゃんみたい……。でもこの格好はなに?」
それは、夢戦士の姿で剣を振り回す麗夢の姿であった。美奈は夢魔の女王の一件で既に見ているが、夢見小僧は初めてである。
「私の夢の中での戦闘スタイルよ!」
「でも、何となくプロポーションが良すぎる気がするんだけど」
首をひねる夢見小僧に、麗夢は少し顔を赤らめながら言った。
「き、気のせいよ! それよりもういいでしょう? 壊すからそこどいて、夢見さん!」
「駄目よまだ! 私、麗夢ちゃんが1番て納得いかないもの!」
「はぁ?」
麗夢が呆れてため息を付く間に、夢見小僧は鏡へ新たな質問を投げかけた。
「本当に麗夢ちゃんが夢世界一の美女なの?私にはそうは思えないのだけれど」
すると鏡はいったん元の渦巻き雲状態に表面を整えると、目を開いて夢見小僧に答えた。
『どうすれば御納得いただけますか?』
「そうねぇ……」
夢見小僧はうーんと唸って腕を組み、やがてそうだ、と手をぽんと打つと、満面の笑みでこう言った。
「候補者を集めて決めましょ。題して『夢世界美人コンテスト』! それで一番になったんだったら、私も納得できるわ」
「出来るわけ無いじゃないそんなとんでもないこと!」
「出来るわよ。ねえ鏡さん、私をこの世界に引き込んだんですもの。それくらい訳ないでしょ?」
『もちろんです。私の魔力は、現世でも冥界でも、届かぬところは一つとしてありません』
「じゃあ早速呼び出して。候補者をここに勢揃いさせるのよ」
『かしこまりました』
鏡の目がすっと細くなり、背景の雲が、一段と速さを増して暗い渦を描き出した。急激に高まった闇の力が、肌を逆なでするような無音の圧力を伴って、麗夢達の心を圧迫する。だが、それもほんの数秒のことだった。麗夢が危険を覚えてやはり破壊すべし、と決心する直前、唐突にその圧力が失せ、大勢の人間がたむろするざわめきが、3人の背後に出現したのである。
「わぁお・ これは大勢いるわ」
「す、すごい……」
そこには、二人には面識のない様々な姿格好をした少女達がたむろしていた。だが、麗夢にはその顔一つ一つに見覚えがあった。いや、強烈な記憶で心に焼き付いていると言ってもいいだろう。何故なら彼女らは、麗夢のかけがえの無い味方であり、かつて助けたクライアントであり、そして、制圧に困難を極めた「敵」だったからである。それも半分以上は、既にこの世にいないはずのモノだ。どうして、と聞こうとして、麗夢は思い出した。魔法の鏡は言ったではないか。現世と冥界とを問わず、と。
そうして惚けている内に、麗夢から見て最前列にいた一人の少女が、バスタオル一枚と言うあられもない姿で麗夢に飛びついてきた。
「麗夢さま! やっとお会いできましたわ!」「ヒッ! あ、貴女、豪徳寺美雪、さん?」
「イヤですわ、そんな他人行儀。どうぞ美雪、とお呼び下さい」
美雪は、たじろぐ麗夢の首に手をしっかと回し、やんわり抑えるくらいでは到底離れそうにない。
「ど、どうでもいいけど少し離れて、豪徳寺さん……」
「だから美雪とお呼び下さいな。私のファーストキスを奪ったお方、あの感動は一生忘れませんわ!」
「貴女、麗夢ちゃんとキスしたの? ずっるーい! 麗夢ちゃん、私にもしてぇ」
いつの間にか、豪徳寺美雪の反対側から見覚えのあるブレザータイプの制服を纏った女の子が一人、抱きついてきた。
「巻向静香さん?!」
「な、何て馴れ馴れしい! 私の麗夢さまに抱きつかないで!」
「いやよぅ。貴女こそお邪魔なのよ」
猫なで声の間延びした言葉遣いが、かえって相手の感情を効果的に逆なでする。豪徳寺美雪は、きーっ!と真っ赤になって怒りつつ、
反対側から一層強く麗夢に抱きついた。
「静香さん、話がしにくいから少し遠慮なさい」
「あ、あっぱれ4人組……」
見ると南麻布女学園古代史研究部部長、荒神谷弥生と、その横に眞脇由香里、斑鳩日登美の二人が並んで立っている。弥生は、ずり落ちかけた眼鏡に手を添えながら、麗夢に言った。
「あっぱれ言うな! それより私達こそお伺いしたいわ麗夢さん。折角『根の国』で復活のための儀式を遂行していたのに、突然こんなところに呼び出されて。一体ここはどこなんですの」
すると、その後ろから、冷ややかな視線で睨み付ける美少女が言った。
「私も是非伺いたいわね。地獄で今度こそナンバーワンになる予定だったのに、急にこんなところに連れてこられたら迷惑なのよ」
その隣には、突然の出現に目を丸くしたまま固まっている双子の片割れ、高宮陽子が、思わず声を漏らしていた。
「……き、鏡子が生き返ってる……」
更にその横で、見事な金髪にピンクのリボンをウサギの耳のように立てた少女、ROMが、けらけら笑っていた。
「あーそれ、あったしも知りたいなっ! れーむちゃん」
「あ、あの、どうなっているんでしょうか?」
いつの間にか美奈のとなりに寄り添うように、一人の少女が青い目に不安げな色を浮かべて立っていた。年の頃は美奈よりも少し下位の、若草色のスカートにエプロンドレスを纏う美少女、シェリー・ケンプである。
「率爾ながら、私も事情を伺いたいのですが……」
更に美奈を挟むようにして、一人和装の美少女が立っていた。美奈は夢御前麗夢(れいむ)の横顔と麗夢の顔を交互に見比べ、あまりの相似に目を丸くして驚いている。
「麗夢さん、これって事件なの?」
彼女達から少し離れた脇に立つ、ポニーテールの少女が言った。その隣の、年格好がよく似ている女の子も続けて声をかける。
「あのう、私、早く帰りたいんだけど」
「榊ゆかりさんと白川哀魅さんまで……」
オウム返しに麗夢がその名を呼ぶと、二人は困惑しつつも曖昧に笑みを浮かべた。そして最後に残った一人が、きょろきょろと自分の姿を見回したり腕を鼻に近づけたりした後、悲しげに麗夢に言った。
「にゃあ」
「あ、貴女もしかして、アルファ? 一体どうして?」
「にゃあ!」
名前を呼ばれたのがうれしかったのか、何故か姿はすっかり人間の女の子になったアルファが、喜色満面で飛びついてきた。麗夢は無理矢理抱きつこうとする三人にもみくちゃにされながら、心底途方に暮れた。何てことだ……。アルファまで人型になって召還されるなんて……。
『ム○クの2に人間体の姿がありましたので、モノは試しとその姿でお呼びいたしました』
麗夢は、目の前が暗くなるのを覚えて、天を仰いだ。
「エー、皆さんご静粛に! 今からこの事態について説明いたしまーす! ちなみに私は最初にここへ召還された者で、夢見小僧と言います! 麗夢ちゃんとは探偵と怪盗でライバル関係してまーす!」
夢見小僧が、いつの間にどこから取り出したのかリンゴの木箱の上に立ち、マイク片手に自己紹介しつつその場を仕切りはじめた。
「……と、言うわけで、この魔法の鏡さんの力でもって、皆様にお集まりいただきました。つまり、私も含めてここに集う皆様が、熾烈なる予選を勝ち抜いて決勝進出を果たした、自他共に認める夢の美女達、というわけです」
夢見小僧が締めくくると、おぉ、とどこからともなく小さなどよめきが生まれた。皆、相応に自分の容姿には自信のあるものばかり。そう言われて気分の悪かろうはずはない。
「ほんと、麗夢ちゃんみたい……。でもこの格好はなに?」
それは、夢戦士の姿で剣を振り回す麗夢の姿であった。美奈は夢魔の女王の一件で既に見ているが、夢見小僧は初めてである。
「私の夢の中での戦闘スタイルよ!」
「でも、何となくプロポーションが良すぎる気がするんだけど」
首をひねる夢見小僧に、麗夢は少し顔を赤らめながら言った。
「き、気のせいよ! それよりもういいでしょう? 壊すからそこどいて、夢見さん!」
「駄目よまだ! 私、麗夢ちゃんが1番て納得いかないもの!」
「はぁ?」
麗夢が呆れてため息を付く間に、夢見小僧は鏡へ新たな質問を投げかけた。
「本当に麗夢ちゃんが夢世界一の美女なの?私にはそうは思えないのだけれど」
すると鏡はいったん元の渦巻き雲状態に表面を整えると、目を開いて夢見小僧に答えた。
『どうすれば御納得いただけますか?』
「そうねぇ……」
夢見小僧はうーんと唸って腕を組み、やがてそうだ、と手をぽんと打つと、満面の笑みでこう言った。
「候補者を集めて決めましょ。題して『夢世界美人コンテスト』! それで一番になったんだったら、私も納得できるわ」
「出来るわけ無いじゃないそんなとんでもないこと!」
「出来るわよ。ねえ鏡さん、私をこの世界に引き込んだんですもの。それくらい訳ないでしょ?」
『もちろんです。私の魔力は、現世でも冥界でも、届かぬところは一つとしてありません』
「じゃあ早速呼び出して。候補者をここに勢揃いさせるのよ」
『かしこまりました』
鏡の目がすっと細くなり、背景の雲が、一段と速さを増して暗い渦を描き出した。急激に高まった闇の力が、肌を逆なでするような無音の圧力を伴って、麗夢達の心を圧迫する。だが、それもほんの数秒のことだった。麗夢が危険を覚えてやはり破壊すべし、と決心する直前、唐突にその圧力が失せ、大勢の人間がたむろするざわめきが、3人の背後に出現したのである。
「わぁお・ これは大勢いるわ」
「す、すごい……」
そこには、二人には面識のない様々な姿格好をした少女達がたむろしていた。だが、麗夢にはその顔一つ一つに見覚えがあった。いや、強烈な記憶で心に焼き付いていると言ってもいいだろう。何故なら彼女らは、麗夢のかけがえの無い味方であり、かつて助けたクライアントであり、そして、制圧に困難を極めた「敵」だったからである。それも半分以上は、既にこの世にいないはずのモノだ。どうして、と聞こうとして、麗夢は思い出した。魔法の鏡は言ったではないか。現世と冥界とを問わず、と。
そうして惚けている内に、麗夢から見て最前列にいた一人の少女が、バスタオル一枚と言うあられもない姿で麗夢に飛びついてきた。
「麗夢さま! やっとお会いできましたわ!」「ヒッ! あ、貴女、豪徳寺美雪、さん?」
「イヤですわ、そんな他人行儀。どうぞ美雪、とお呼び下さい」
美雪は、たじろぐ麗夢の首に手をしっかと回し、やんわり抑えるくらいでは到底離れそうにない。
「ど、どうでもいいけど少し離れて、豪徳寺さん……」
「だから美雪とお呼び下さいな。私のファーストキスを奪ったお方、あの感動は一生忘れませんわ!」
「貴女、麗夢ちゃんとキスしたの? ずっるーい! 麗夢ちゃん、私にもしてぇ」
いつの間にか、豪徳寺美雪の反対側から見覚えのあるブレザータイプの制服を纏った女の子が一人、抱きついてきた。
「巻向静香さん?!」
「な、何て馴れ馴れしい! 私の麗夢さまに抱きつかないで!」
「いやよぅ。貴女こそお邪魔なのよ」
猫なで声の間延びした言葉遣いが、かえって相手の感情を効果的に逆なでする。豪徳寺美雪は、きーっ!と真っ赤になって怒りつつ、
反対側から一層強く麗夢に抱きついた。
「静香さん、話がしにくいから少し遠慮なさい」
「あ、あっぱれ4人組……」
見ると南麻布女学園古代史研究部部長、荒神谷弥生と、その横に眞脇由香里、斑鳩日登美の二人が並んで立っている。弥生は、ずり落ちかけた眼鏡に手を添えながら、麗夢に言った。
「あっぱれ言うな! それより私達こそお伺いしたいわ麗夢さん。折角『根の国』で復活のための儀式を遂行していたのに、突然こんなところに呼び出されて。一体ここはどこなんですの」
すると、その後ろから、冷ややかな視線で睨み付ける美少女が言った。
「私も是非伺いたいわね。地獄で今度こそナンバーワンになる予定だったのに、急にこんなところに連れてこられたら迷惑なのよ」
その隣には、突然の出現に目を丸くしたまま固まっている双子の片割れ、高宮陽子が、思わず声を漏らしていた。
「……き、鏡子が生き返ってる……」
更にその横で、見事な金髪にピンクのリボンをウサギの耳のように立てた少女、ROMが、けらけら笑っていた。
「あーそれ、あったしも知りたいなっ! れーむちゃん」
「あ、あの、どうなっているんでしょうか?」
いつの間にか美奈のとなりに寄り添うように、一人の少女が青い目に不安げな色を浮かべて立っていた。年の頃は美奈よりも少し下位の、若草色のスカートにエプロンドレスを纏う美少女、シェリー・ケンプである。
「率爾ながら、私も事情を伺いたいのですが……」
更に美奈を挟むようにして、一人和装の美少女が立っていた。美奈は夢御前麗夢(れいむ)の横顔と麗夢の顔を交互に見比べ、あまりの相似に目を丸くして驚いている。
「麗夢さん、これって事件なの?」
彼女達から少し離れた脇に立つ、ポニーテールの少女が言った。その隣の、年格好がよく似ている女の子も続けて声をかける。
「あのう、私、早く帰りたいんだけど」
「榊ゆかりさんと白川哀魅さんまで……」
オウム返しに麗夢がその名を呼ぶと、二人は困惑しつつも曖昧に笑みを浮かべた。そして最後に残った一人が、きょろきょろと自分の姿を見回したり腕を鼻に近づけたりした後、悲しげに麗夢に言った。
「にゃあ」
「あ、貴女もしかして、アルファ? 一体どうして?」
「にゃあ!」
名前を呼ばれたのがうれしかったのか、何故か姿はすっかり人間の女の子になったアルファが、喜色満面で飛びついてきた。麗夢は無理矢理抱きつこうとする三人にもみくちゃにされながら、心底途方に暮れた。何てことだ……。アルファまで人型になって召還されるなんて……。
『ム○クの2に人間体の姿がありましたので、モノは試しとその姿でお呼びいたしました』
麗夢は、目の前が暗くなるのを覚えて、天を仰いだ。
「エー、皆さんご静粛に! 今からこの事態について説明いたしまーす! ちなみに私は最初にここへ召還された者で、夢見小僧と言います! 麗夢ちゃんとは探偵と怪盗でライバル関係してまーす!」
夢見小僧が、いつの間にどこから取り出したのかリンゴの木箱の上に立ち、マイク片手に自己紹介しつつその場を仕切りはじめた。
「……と、言うわけで、この魔法の鏡さんの力でもって、皆様にお集まりいただきました。つまり、私も含めてここに集う皆様が、熾烈なる予選を勝ち抜いて決勝進出を果たした、自他共に認める夢の美女達、というわけです」
夢見小僧が締めくくると、おぉ、とどこからともなく小さなどよめきが生まれた。皆、相応に自分の容姿には自信のあるものばかり。そう言われて気分の悪かろうはずはない。