【この国は上から腐っていく。そのモラルハザードは末期症状にある。それを許していれば、国民生活は侵食され続け、いずれ朽ち果てるだけだ。それで本当にいいのか。いま本気で問い直さなければ、未来には絶望しかない。 櫻井 智志】
巻頭特集
福島原発の惨状でわかった“犯罪”蔓延国家の実態
2015年12月22日
不都合な事実は無視(C)日刊ゲンダイ
原発の不都合な事実に目をつむり、再稼働と輸出にシャカリキな安倍政権は、亡国の徒というほかない。
あまりニュースになっていないが、東京電力が17日に発表した事実には愕然としてしまう。この国が置かれている危機的状況が、あらためて明らかになった。
福島第1原発事故の際、2号機で原子炉圧力容器内の蒸気を抜いて圧力を下げる「逃がし安全弁」を作動させるために窒素ガスを送り込む「電磁弁」と呼ばれる装置のゴム製シール材が、高熱で溶けていた可能性があるというのだ。ゴム製シール材の耐熱温度は約170度だったが、検証の結果、高温だと短時間の使用にしか耐えられないことが判明したのだという。そんな重大な欠陥が、今頃になって明かされる。ここに原発の深い闇がある。
建屋が水素爆発した3号機も、格納容器上部のフタが核燃料の溶融で発生した蒸気や水素ガスの圧力で浮き、シール材が高温の蒸気で劣化。原子炉に隙間ができて、放射性物質を含む蒸気が格納容器から直接外に漏れた可能性が高い。東電は「蒸気にさらされるとシール材の劣化が進むことまで想定していなかった」と言うのだが、構造上の欠陥は、予測不能な自然災害とは違う。「想定外」で済む話じゃないはずだ。
原発問題に詳しいジャーナリストの横田一氏が言う。
「事故以来、東電は想定外の津波で電源喪失したことがシビアアクシデントにつながったと説明してきましたが、それ以前に、設計上の問題があったわけです。
同様のシール材は、再稼働に向けた審査を申請済みの柏崎刈羽原発をはじめ、全国の原発で使用されている。そこに抜本的な対策を講じる前に、見切り発車で再稼働を推し進め、海外にも輸出してリスクを振りまく安倍政権の方針は狂気の沙汰と言うしかありません」
日本原子力研究開発機構の研究グループが19日までにまとめたリポートによれば、3号機で格納容器ベントを実施した3月15日以降、これまで指摘されていなかった放射性物質の大量放出があった可能性があるという。シール材の劣化が原因だとしたら、同型の原発はどれも危ない。この災害大国で、再び安全神話を信じろと言う方が無理だ。
「福島の事故の反省も、科学的な根拠もないまま、新たな安全神話を振りまいて走りだしているのが、今の政府と原子力ムラです。原子力規制委は、『世界一厳しい安全基準』という嘘八百を垂れ流し、安倍政権と一体になって危険を隠蔽している。ヨーロッパの規制基準では、万が一の事故の際に溶けた核燃料を受け止めるコアキャッチャーや、飛行機テロ防止のためのコンクリート二重構造などが義務付けられていますが、日本の基準にこれらはありません。後から整備するのはコストがかかりすぎるという電力会社の都合で、無視されています。安倍政権は海外に自衛隊を出すことには熱心ですが、肝心の国内の安全対策はおざなりで、世界一脆弱な日本の原発をナシ崩しで次々と再稼働させようとしている。原発がテロに狙われたら、日本はひとたまりもないし、染水の問題も解決の糸口さえ見えない。こんな状態でよくも『アンダーコントロール』などと言って東京五輪を誘致したものです」(横田一氏=前出)
福島第一原発での原子力防災訓練(東京電力提供)
五輪組織委のデタラメも汚職官僚も根っこは同じ
ここへきて、福島第1原発で発生する汚染水が増加していることも明かされた。10月に海側遮水壁が完成した当初、地下水ドレンからくみ上げて建屋に戻す水量を1日50トン程度と見込んでいたが、想定を超える地下水流入が続き、1日600トンにまで増加しているというのだ。
また、4号機の南側地下を通るダクトにたまった汚染水を調べた結果、放射性セシウム濃度が昨年12月の調査と比べて約4000倍になっていることも分かった。いったい福島第1原発で何が起きているのか。ハッキリしているのは、現在も事故は進行中ということだけだ。そして、汚染水封じ込めの最終兵器とされた遮水壁もダメとなったら、もうお手上げという事実。今も溶け落ちた燃料がどこにあるか分からず、格納容器に人間が近づくこともできない。そもそも格納容器には構造的な欠陥がある。冷静に考えれば、既存の原発を動かすリスクにおののくしかないのだが、この期に及んでなお、安倍首相は原発再稼働に前のめりだ。
18日の原子力防災会議では、「政府として総合的な政策対応を進める」とまたテキトーなことを言って、福井県の高浜原発の再稼働をせっついた。20日には林経産相を現地に派遣し、今週中にも知事が再稼働に同意する見通しになった。
「鹿児島県の川内原発も火山噴火のリスクが大きいのに、市民の反対を押し切って再稼働させてしまった。長年、自民党に献金してきた電力会社や財界の目先の利益のために、国民を危険にさらして平気な顔をしているのは、国家的な犯罪行為と言っていい。しかも、海外にまで売り歩く破廉恥ぶりには言葉もありません。政権トップが『アンダーコントロール』などと大嘘をついて、深刻な現実を隠蔽してしまうのだから、この国のモラルハザードは深刻です。嘘で塗り固めた五輪だから、組織委がゴタゴタ続きなのも当然だし、『自分たちが何でも好きに決めるのだ』という傲りが目立つ。国民を騙してでも、我欲を通す姿勢は醜悪そのもの。モラルハザードが国中を覆っています」(政治評論家・本澤二郎氏)
東京五輪でいえば、エンブレムの選考過程に不正があったことも明らかになった。パクリ疑惑で炎上した佐野研二郎氏ら招待デザイナー8人のうち、1次選考で落選危機にあった2人にゲタを履かせていたのだ。組織的なインチキが行われていたのである。
「五輪の大会運営費が当初見込みの6倍にあたる1兆8000億円にまで膨らんだことも、デタラメすぎて頭がクラクラしてきます。今の政治指導者たちには、国民の血税を預かっているという意識がない。特権意識に凝り固まって、庶民は黙ってお上に従えという態度です。厚労省のマイナンバー汚職事件では、収賄罪で起訴された室長補佐と同じ部署に所属していた別の職員も業者から賄賂を受け取っていたことが明らかになりましたが、これだって結局、根っこは同じなのです。国民のことより、自分たちの利権が大事。政治屋も官僚も、財界や五輪関係者も権力を維持することしか頭にない。一部の特権階級が、国民を犠牲にして、自分たちだけ勝ち逃げしようとしているのです。犯罪的な行為も、権力と結託すれば見逃されてしまう。国家ぐるみの犯罪が蔓延する惨状は、どこぞの独裁国家と変わりません。国民は何も真実を知らされず、搾取される一方になってしまいます」(本澤二郎氏=前出)
この国は上から腐っていく。そのモラルハザードは末期症状にある。それを許していれば、国民生活は侵食され続け、いずれ朽ち果てるだけだ。それで本当にいいのか。いま本気で問い直さなければ、未来には絶望しかない。
巻頭特集
福島原発の惨状でわかった“犯罪”蔓延国家の実態
2015年12月22日
不都合な事実は無視(C)日刊ゲンダイ
原発の不都合な事実に目をつむり、再稼働と輸出にシャカリキな安倍政権は、亡国の徒というほかない。
あまりニュースになっていないが、東京電力が17日に発表した事実には愕然としてしまう。この国が置かれている危機的状況が、あらためて明らかになった。
福島第1原発事故の際、2号機で原子炉圧力容器内の蒸気を抜いて圧力を下げる「逃がし安全弁」を作動させるために窒素ガスを送り込む「電磁弁」と呼ばれる装置のゴム製シール材が、高熱で溶けていた可能性があるというのだ。ゴム製シール材の耐熱温度は約170度だったが、検証の結果、高温だと短時間の使用にしか耐えられないことが判明したのだという。そんな重大な欠陥が、今頃になって明かされる。ここに原発の深い闇がある。
建屋が水素爆発した3号機も、格納容器上部のフタが核燃料の溶融で発生した蒸気や水素ガスの圧力で浮き、シール材が高温の蒸気で劣化。原子炉に隙間ができて、放射性物質を含む蒸気が格納容器から直接外に漏れた可能性が高い。東電は「蒸気にさらされるとシール材の劣化が進むことまで想定していなかった」と言うのだが、構造上の欠陥は、予測不能な自然災害とは違う。「想定外」で済む話じゃないはずだ。
原発問題に詳しいジャーナリストの横田一氏が言う。
「事故以来、東電は想定外の津波で電源喪失したことがシビアアクシデントにつながったと説明してきましたが、それ以前に、設計上の問題があったわけです。
同様のシール材は、再稼働に向けた審査を申請済みの柏崎刈羽原発をはじめ、全国の原発で使用されている。そこに抜本的な対策を講じる前に、見切り発車で再稼働を推し進め、海外にも輸出してリスクを振りまく安倍政権の方針は狂気の沙汰と言うしかありません」
日本原子力研究開発機構の研究グループが19日までにまとめたリポートによれば、3号機で格納容器ベントを実施した3月15日以降、これまで指摘されていなかった放射性物質の大量放出があった可能性があるという。シール材の劣化が原因だとしたら、同型の原発はどれも危ない。この災害大国で、再び安全神話を信じろと言う方が無理だ。
「福島の事故の反省も、科学的な根拠もないまま、新たな安全神話を振りまいて走りだしているのが、今の政府と原子力ムラです。原子力規制委は、『世界一厳しい安全基準』という嘘八百を垂れ流し、安倍政権と一体になって危険を隠蔽している。ヨーロッパの規制基準では、万が一の事故の際に溶けた核燃料を受け止めるコアキャッチャーや、飛行機テロ防止のためのコンクリート二重構造などが義務付けられていますが、日本の基準にこれらはありません。後から整備するのはコストがかかりすぎるという電力会社の都合で、無視されています。安倍政権は海外に自衛隊を出すことには熱心ですが、肝心の国内の安全対策はおざなりで、世界一脆弱な日本の原発をナシ崩しで次々と再稼働させようとしている。原発がテロに狙われたら、日本はひとたまりもないし、染水の問題も解決の糸口さえ見えない。こんな状態でよくも『アンダーコントロール』などと言って東京五輪を誘致したものです」(横田一氏=前出)
福島第一原発での原子力防災訓練(東京電力提供)
五輪組織委のデタラメも汚職官僚も根っこは同じ
ここへきて、福島第1原発で発生する汚染水が増加していることも明かされた。10月に海側遮水壁が完成した当初、地下水ドレンからくみ上げて建屋に戻す水量を1日50トン程度と見込んでいたが、想定を超える地下水流入が続き、1日600トンにまで増加しているというのだ。
また、4号機の南側地下を通るダクトにたまった汚染水を調べた結果、放射性セシウム濃度が昨年12月の調査と比べて約4000倍になっていることも分かった。いったい福島第1原発で何が起きているのか。ハッキリしているのは、現在も事故は進行中ということだけだ。そして、汚染水封じ込めの最終兵器とされた遮水壁もダメとなったら、もうお手上げという事実。今も溶け落ちた燃料がどこにあるか分からず、格納容器に人間が近づくこともできない。そもそも格納容器には構造的な欠陥がある。冷静に考えれば、既存の原発を動かすリスクにおののくしかないのだが、この期に及んでなお、安倍首相は原発再稼働に前のめりだ。
18日の原子力防災会議では、「政府として総合的な政策対応を進める」とまたテキトーなことを言って、福井県の高浜原発の再稼働をせっついた。20日には林経産相を現地に派遣し、今週中にも知事が再稼働に同意する見通しになった。
「鹿児島県の川内原発も火山噴火のリスクが大きいのに、市民の反対を押し切って再稼働させてしまった。長年、自民党に献金してきた電力会社や財界の目先の利益のために、国民を危険にさらして平気な顔をしているのは、国家的な犯罪行為と言っていい。しかも、海外にまで売り歩く破廉恥ぶりには言葉もありません。政権トップが『アンダーコントロール』などと大嘘をついて、深刻な現実を隠蔽してしまうのだから、この国のモラルハザードは深刻です。嘘で塗り固めた五輪だから、組織委がゴタゴタ続きなのも当然だし、『自分たちが何でも好きに決めるのだ』という傲りが目立つ。国民を騙してでも、我欲を通す姿勢は醜悪そのもの。モラルハザードが国中を覆っています」(政治評論家・本澤二郎氏)
東京五輪でいえば、エンブレムの選考過程に不正があったことも明らかになった。パクリ疑惑で炎上した佐野研二郎氏ら招待デザイナー8人のうち、1次選考で落選危機にあった2人にゲタを履かせていたのだ。組織的なインチキが行われていたのである。
「五輪の大会運営費が当初見込みの6倍にあたる1兆8000億円にまで膨らんだことも、デタラメすぎて頭がクラクラしてきます。今の政治指導者たちには、国民の血税を預かっているという意識がない。特権意識に凝り固まって、庶民は黙ってお上に従えという態度です。厚労省のマイナンバー汚職事件では、収賄罪で起訴された室長補佐と同じ部署に所属していた別の職員も業者から賄賂を受け取っていたことが明らかになりましたが、これだって結局、根っこは同じなのです。国民のことより、自分たちの利権が大事。政治屋も官僚も、財界や五輪関係者も権力を維持することしか頭にない。一部の特権階級が、国民を犠牲にして、自分たちだけ勝ち逃げしようとしているのです。犯罪的な行為も、権力と結託すれば見逃されてしまう。国家ぐるみの犯罪が蔓延する惨状は、どこぞの独裁国家と変わりません。国民は何も真実を知らされず、搾取される一方になってしまいます」(本澤二郎氏=前出)
この国は上から腐っていく。そのモラルハザードは末期症状にある。それを許していれば、国民生活は侵食され続け、いずれ朽ち果てるだけだ。それで本当にいいのか。いま本気で問い直さなければ、未来には絶望しかない。