https://news.line.me/detail/oa-president/hcgpbia06o5y?mediadetail=1&utm_source=line&utm_medium=share&utm_campaign=none 2022年8月29日 08:00PRESIDENTPRESIDENT Online
2022年上半期(1月~6月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。仕事術部門の第1位は――。(初公開日:2022年1月25日)
メールの書き出しには何を書くのが最適なのか。ライターの安田峰俊さんは「『お世話になっております』では意味がない。そのときの状況を踏まえて、『あなただけに話しかけている』ことを感じさせるフレーズを使ったほうがいい」という――。
※本稿は、安田峰俊『みんなのユニバーサル文章術 今すぐ役に立つ「最強」の日本語ライティングの世界』(星海社)の一部を再編集したものです。
20年前からなんら変わっていないメールの定型表現
ビジネスシーンにインターネットが普及した直後の時期である2001年4月、『eメールのマナーと常識』(誠文堂新光社)では、社外向けメールの文例が100通近く紹介されている。
そのうち、全体の4割くらいに「お世話になっております」に類似した表現がある。たとえばこんな感じだ。
△△株式会社 ○○様
お世話になっております。○○社の△△です。
昨日は遅くまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
○○様は大の日本酒通とお聞きして選んだ店ですが、
お楽しみいただけましたでしょうか。
酒席ではございましたが、今後の財政改革に関するお話は、
たいへん興味深く拝聴いたしました。いつもながら○○様の
財界情報への精通ぶりに敬服いたした次第です。
何かとお忙しいとは存じますが、折りを見てまたお付き合い
いただければ幸甚に存じます。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
20年前の文面ながら、冒頭部の「お世話になっております」と送信者の自己紹介、末尾の「今後ともよろしくお願い申し上げます」という定型表現の3点セットがそろっているので、現代人の目で読んでもほとんど違和感がない。
詳しくは拙著『みんなのユニバーサル文章術』で述べているが、この時期までのビジネスメールの書き方には、「貴社ますますご清祥のことお慶び申し上げ~」という手紙文のような文章形式を使う“堅すぎる派”と、逆に冒頭の挨拶もそこそこに気軽に話しかける“軟らかい派”が存在した。
しかし、「お世話になっております」ではじまるお馴染みのメール定型文は、ゼロ年代前半の比較的短い期間で、“堅すぎる派”と“軟らかい派”の両方を駆逐していく。
2003年の糸井重里氏のジョークがまだ通じる
かつて私が京都の某メーカーの新入社員だった2005年の時点では、すでに社員研修で「お世話になっております」式のメール定型文を教えられていた。もっと早期でも、たとえばコピーライターの糸井重里氏が2003年6月13日に自身のホームページ『ほぼ日刊イトイ新聞』に発表したコラム「オトナ語の謎」には、メールとホームページの話題の直後にこんな記述がある。
全国のオフィスでがんばる諸先輩方、
いつもお世話になっております。
たとえあなたと私が初対面でも、
いつもお世話になっております。
糸井氏の仕事相手は大企業の人たちが多いはずだ。すでに2003年の時点で、こうしてジョークのネタにできる程度には、初対面の相手にも「お世話になっております」を使うビジネスメールが氾濫していたのだろう。
「黒のリクスー女子」の発生と時期が被るワケ
すこし話は変わるが、大学ジャーナリストの石渡嶺司氏が日本経済新聞のウェブ版に寄稿した「リクルートスーツはいつ黒になった?(下)」という記事がある。
こちらによると、就職活動にのぞむ女子学生の間で黒のリクルートスーツを着用する風潮がひろがりはじめたのは1998〜2000年ごろから、さらに2002〜2004年にこの服装が一気に多数派になったという(私自身がこの時期に就職活動をおこなった世代なので、実感としてもよくわかる)。
日本の就活女子の外見が、北朝鮮の女性兵士さながらに同じ服装と髪型できっちり統一されていった時期と、ビジネスの場で「お世話になっております」式のメール定型句が一気に市民権を得た時期が、ほぼ同時期なのは興味深い。
当時はネットが普及した直後だ。ことによると、この時点でのYahoo! Japanの検索結果の上位に表示されていた情報を大学生や若手社会人がみんな読んだことで、ビジネスメールの定型句や就活ファッションが非常に短期間のうちに標準化され、全国的にひろまった――。
などといった、文化の伝播を考えるうえで興味深い現象が起きていた可能性もある。
「お世話になっております」が有効なケース
さて、私が「お世話になっております」の起源を延々と論じたのは、この表現が日本の由緒ただしき礼儀作法でもなんでもないことを、読者に伝えたかったからだ。メールを送る相手と人間的な信頼関係を築きたい目的がある場合などは、マニュアル通りの表現があまり好ましくない場合も多い。
もっとも、ときには無個性な定型句こそが必要、というケースもないではない。
まずは「お世話になっております」「よろしくお願い申し上げます」のセットを使うべき局面について考えていこう。
①個性を強調しないアプローチが求められる場合
たとえば、就活生や若手社員などが、純粋に事務的な内容のメールを送るケースだ。
メールを受けとる人事担当者や上司の気持ちを想像してほしい。まずは指示通りに動くことが期待される若手からの事務連絡で、妙に尖った個性を主張されたり、馴れ馴れしく振る舞われたりしても迷惑なだけである。
ほか、取引先の担当者とほとんど面識がなく、ルーチン化したやりとりが延々と続いている場合も定型表現を使っていい。ある日いきなり「昨日はペットの犬(ララちゃん5歳)の誕生日でした」と、やたらに人間的な話を書かれても反応に困るだけだろう。
こうした、記号的な定型文こそ必要とされる局面では、メールを書く側がとるべき振る舞いもみえてくる。どうせ無個性な文章を書くなら、より無難で礼儀正しいイメージをあたえたほうがTPOにかなうはずだ。
たとえば、「お世話になります」「お世話様です」のような、仕事ずれした雰囲気のある書きかたよりも「お世話になっております」のほうがいい。
また、「よろしくお願いします」よりも「よろしくお願い申し上げます」、「ご無沙汰です」よりも「ながらくご無沙汰いたしております」のほうが丁寧になるはずだ。
情緒性に欠けた定型句のセットが効く
②人間的なコミュニケーションをおこないたくない場合
定型句の情感に欠けたイメージを、逆に利用するケースである。
たとえば、金銭の支払いを督促しており、今後は深い関係をむすぶ気がない相手への連絡に「ご家庭の事情で大変な折とは思いますが」とか「先日は○○でのお仕事を拝見しました。今後のご活躍が楽しみです。ところで……」などと、先方の事情への配慮や人間的な温かみを示す必要はない。それよりも、
平素より大変お世話になっております。安田峰俊です。
10万円の支払いがまだですが。
以上、何卒よろしくお願い申し上げます。
こう書いたほうが効果がある。先方の事情はまったく斟酌せずロボットのように金銭を取り立てるという、冷徹な意思を言外に匂わせることができるからだ。
「お世話になっております」と「よろしくお願い申し上げます」という情緒性に欠けた定型句のセットは、平素からまったくお世話になっていなくて当方のお願いをよろしく聞きいれない相手に使うと、意外と効果がある。
自分自身の人生を守る方が大事
③文案を考えるのが大変な場合
たとえば1日に処理すべき事務的なメールが100通近くある、家族旅行中にスマホに飛びこんできたメールにすぐ返事をしなくてはならない、眠かったり体調が悪かったりして複雑な思考が困難である――。といった、各種の「頭や時間を使いたくない」状況のもとでメールを書いているケースだ。
相手が非常に重要な人物で、なんとしてでも人間的な関係を深めたいといった事情でもないかぎり、こういうときは定型表現に頼って楽をしたほうがいい。
常に同じ表現でメールを書く行為は人間味に欠けているかもしれないが、プライベートを犠牲にしたりオーバーワークでつぶれてしまったりするよりはマシだ。他者に人間味を示すよりも、自分自身の人間らしい人生を守ることのほうがずっと大事である。
④相手が使っていた場合
こちらは①〜③とはまったく事情が異なる。むしろ人間的な親しみを示すために「お世話になっております」と書くケースだ。
たとえば私の場合でも、本当の意味で平素からお世話になっている恩人の1人に、「お世話になっております」でメールを書きおこす人がいる。相手がこの表現を使っているので、礼を失さないように似たような表現で返す――。このようなケースもないではない。
「お世話になっております」の代わりになるフレーズ
逆にいえば、先にあげた①〜④以外の場合では、「お世話になっております」は使わなくてもいい。
相手と人間的な関係を構築したい場合、定型句を連発するのは避けたい。とはいえ、メールごとに違う書き出しを考えていたのでは手間がかかりすぎる。
そこで私がよくおこなうのが、各種の局面で使う言葉のパターンを事前にいくつか準備しておき、そのときに最適な表現をかわりばんこに出していく方法だ。
たとえば、「お世話になっております」を使わない書き出しには、次のような例が考えられる。
・時刻や日時に関連して
「おはようございます」
「夜分に失礼いたします」
「休日にご連絡を差し上げて申し訳ございません」
・返信の場合に
「ご連絡をありがとうございます」
「興味深く拝読いたしました」
・何かをおこなってもらった場合に
「ありがとうございます」
「ご配慮をいただき恐縮です」
・情報を教えてもらった場合に
「ご教示をありがとうございました。なるほど、○○は××だったのですね」
「たいへん勉強になります」
・天候や時勢に関連して
「ずいぶんひどい台風でしたが、お変わりはございませんでしょうか」
「コロナ禍のなかですっかりご無音に打ち過ぎておりますが」
・事前に相手の体調が悪いと聞いていた場合に
「お風邪の具合はいかがでしょうか。大変ななか、ご対応をいただき申し訳ございません」
(※風邪や腰痛くらいの体調不良の場合。難病・重病の場合は「あえて触れない」でもよい)
「あなただけに話しかけている」という気配
人間的な信頼関係を深めるためには、そのときの時刻や状況を踏まえたうえで「あなただけに話しかけている」という気配を作ったほうがいい。
特に好ましいのは、相手の状況を推察してねぎらったり、共感したりする表現だ。
安田峰俊『みんなのユニバーサル文章術 今すぐ役に立つ「最強」の日本語ライティングの世界』(星海社)
たとえば深夜の3時にメールがあり、たまたま自分がすぐに返信が可能だった場合に「遅くまでお疲れさまです。私のメールへのお返事は明日でも大丈夫です」という表現を加えれば、相手もちょっとうれしくなる(ただし「お子さんが小さいのに深夜まで申し訳ございません」など、相手のプライベートに踏みこむような表現は避けよう)。
また、自分が指示した作業をこなした人に「あれこれとわがままを申しましたのに、ばっちり仕上げていただいてありがとうございます。大変助かります!」といった返信を書くのもいい。他者から苦労を認められて嫌な人は誰もいないからだ。
(加えてズルいことを書けば、相手に気持ちよく仕事をしてもらえれば次回に依頼するときもやりやすいし、成果物のクオリティも上がるので、まわりまわって自分が得をするのである)
ちょっと一工夫を加えるだけで人間関係を円滑にできると考えるならば、上手なメールを書くことはかなり「コスパ」がいい行為だといえるだろう。
[ルポライター、立命館大学人文科学研究所客員協力研究員 安田 峰俊]
感想;
早速、この本を図書館に予約しました。
メールでは言葉だけです。
会話では相手の表情や言葉の抑揚もわかりますが、メールだとその言葉だけです。
より、言葉に気を遣う必要があります。
envision
このメールを相手が受け取ったら、どう思うか?を想像することです。
それだけで大きく変わります。
大切なメールの場合は、他の人に見てもらって意見を貰うことも必要です。
私が行っているのは、時間差チェックです。
大切なメールでは、作成した後、時間を置いてからもう一度見て確認しています。
言葉は人によって定義が違うので、思いもかけない誤解を生むことがあります。
また会話よりさらに、主語や目的語を明確にしないと誤解されるリスクが高まります。
リダンダンシー(冗長)はよくないと一般には言われていますが、別の角度から説明することでより伝えることができると思っています。
メタファー(例え/比喩)を上手く使うことで相手の理解を深めることもできます。
もうひとつ心がけているのは、その人と自分だけのことなどを盛り込むようにしています。
そして相手から質問を受ける余地を残しています。
コミュニケーションが苦手なので、できるだけ自分から開示することを心がけています。
2022年上半期(1月~6月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。仕事術部門の第1位は――。(初公開日:2022年1月25日)
メールの書き出しには何を書くのが最適なのか。ライターの安田峰俊さんは「『お世話になっております』では意味がない。そのときの状況を踏まえて、『あなただけに話しかけている』ことを感じさせるフレーズを使ったほうがいい」という――。
※本稿は、安田峰俊『みんなのユニバーサル文章術 今すぐ役に立つ「最強」の日本語ライティングの世界』(星海社)の一部を再編集したものです。
20年前からなんら変わっていないメールの定型表現
ビジネスシーンにインターネットが普及した直後の時期である2001年4月、『eメールのマナーと常識』(誠文堂新光社)では、社外向けメールの文例が100通近く紹介されている。
そのうち、全体の4割くらいに「お世話になっております」に類似した表現がある。たとえばこんな感じだ。
△△株式会社 ○○様
お世話になっております。○○社の△△です。
昨日は遅くまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
○○様は大の日本酒通とお聞きして選んだ店ですが、
お楽しみいただけましたでしょうか。
酒席ではございましたが、今後の財政改革に関するお話は、
たいへん興味深く拝聴いたしました。いつもながら○○様の
財界情報への精通ぶりに敬服いたした次第です。
何かとお忙しいとは存じますが、折りを見てまたお付き合い
いただければ幸甚に存じます。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
20年前の文面ながら、冒頭部の「お世話になっております」と送信者の自己紹介、末尾の「今後ともよろしくお願い申し上げます」という定型表現の3点セットがそろっているので、現代人の目で読んでもほとんど違和感がない。
詳しくは拙著『みんなのユニバーサル文章術』で述べているが、この時期までのビジネスメールの書き方には、「貴社ますますご清祥のことお慶び申し上げ~」という手紙文のような文章形式を使う“堅すぎる派”と、逆に冒頭の挨拶もそこそこに気軽に話しかける“軟らかい派”が存在した。
しかし、「お世話になっております」ではじまるお馴染みのメール定型文は、ゼロ年代前半の比較的短い期間で、“堅すぎる派”と“軟らかい派”の両方を駆逐していく。
2003年の糸井重里氏のジョークがまだ通じる
かつて私が京都の某メーカーの新入社員だった2005年の時点では、すでに社員研修で「お世話になっております」式のメール定型文を教えられていた。もっと早期でも、たとえばコピーライターの糸井重里氏が2003年6月13日に自身のホームページ『ほぼ日刊イトイ新聞』に発表したコラム「オトナ語の謎」には、メールとホームページの話題の直後にこんな記述がある。
全国のオフィスでがんばる諸先輩方、
いつもお世話になっております。
たとえあなたと私が初対面でも、
いつもお世話になっております。
糸井氏の仕事相手は大企業の人たちが多いはずだ。すでに2003年の時点で、こうしてジョークのネタにできる程度には、初対面の相手にも「お世話になっております」を使うビジネスメールが氾濫していたのだろう。
「黒のリクスー女子」の発生と時期が被るワケ
すこし話は変わるが、大学ジャーナリストの石渡嶺司氏が日本経済新聞のウェブ版に寄稿した「リクルートスーツはいつ黒になった?(下)」という記事がある。
こちらによると、就職活動にのぞむ女子学生の間で黒のリクルートスーツを着用する風潮がひろがりはじめたのは1998〜2000年ごろから、さらに2002〜2004年にこの服装が一気に多数派になったという(私自身がこの時期に就職活動をおこなった世代なので、実感としてもよくわかる)。
日本の就活女子の外見が、北朝鮮の女性兵士さながらに同じ服装と髪型できっちり統一されていった時期と、ビジネスの場で「お世話になっております」式のメール定型句が一気に市民権を得た時期が、ほぼ同時期なのは興味深い。
当時はネットが普及した直後だ。ことによると、この時点でのYahoo! Japanの検索結果の上位に表示されていた情報を大学生や若手社会人がみんな読んだことで、ビジネスメールの定型句や就活ファッションが非常に短期間のうちに標準化され、全国的にひろまった――。
などといった、文化の伝播を考えるうえで興味深い現象が起きていた可能性もある。
「お世話になっております」が有効なケース
さて、私が「お世話になっております」の起源を延々と論じたのは、この表現が日本の由緒ただしき礼儀作法でもなんでもないことを、読者に伝えたかったからだ。メールを送る相手と人間的な信頼関係を築きたい目的がある場合などは、マニュアル通りの表現があまり好ましくない場合も多い。
もっとも、ときには無個性な定型句こそが必要、というケースもないではない。
まずは「お世話になっております」「よろしくお願い申し上げます」のセットを使うべき局面について考えていこう。
①個性を強調しないアプローチが求められる場合
たとえば、就活生や若手社員などが、純粋に事務的な内容のメールを送るケースだ。
メールを受けとる人事担当者や上司の気持ちを想像してほしい。まずは指示通りに動くことが期待される若手からの事務連絡で、妙に尖った個性を主張されたり、馴れ馴れしく振る舞われたりしても迷惑なだけである。
ほか、取引先の担当者とほとんど面識がなく、ルーチン化したやりとりが延々と続いている場合も定型表現を使っていい。ある日いきなり「昨日はペットの犬(ララちゃん5歳)の誕生日でした」と、やたらに人間的な話を書かれても反応に困るだけだろう。
こうした、記号的な定型文こそ必要とされる局面では、メールを書く側がとるべき振る舞いもみえてくる。どうせ無個性な文章を書くなら、より無難で礼儀正しいイメージをあたえたほうがTPOにかなうはずだ。
たとえば、「お世話になります」「お世話様です」のような、仕事ずれした雰囲気のある書きかたよりも「お世話になっております」のほうがいい。
また、「よろしくお願いします」よりも「よろしくお願い申し上げます」、「ご無沙汰です」よりも「ながらくご無沙汰いたしております」のほうが丁寧になるはずだ。
情緒性に欠けた定型句のセットが効く
②人間的なコミュニケーションをおこないたくない場合
定型句の情感に欠けたイメージを、逆に利用するケースである。
たとえば、金銭の支払いを督促しており、今後は深い関係をむすぶ気がない相手への連絡に「ご家庭の事情で大変な折とは思いますが」とか「先日は○○でのお仕事を拝見しました。今後のご活躍が楽しみです。ところで……」などと、先方の事情への配慮や人間的な温かみを示す必要はない。それよりも、
平素より大変お世話になっております。安田峰俊です。
10万円の支払いがまだですが。
以上、何卒よろしくお願い申し上げます。
こう書いたほうが効果がある。先方の事情はまったく斟酌せずロボットのように金銭を取り立てるという、冷徹な意思を言外に匂わせることができるからだ。
「お世話になっております」と「よろしくお願い申し上げます」という情緒性に欠けた定型句のセットは、平素からまったくお世話になっていなくて当方のお願いをよろしく聞きいれない相手に使うと、意外と効果がある。
自分自身の人生を守る方が大事
③文案を考えるのが大変な場合
たとえば1日に処理すべき事務的なメールが100通近くある、家族旅行中にスマホに飛びこんできたメールにすぐ返事をしなくてはならない、眠かったり体調が悪かったりして複雑な思考が困難である――。といった、各種の「頭や時間を使いたくない」状況のもとでメールを書いているケースだ。
相手が非常に重要な人物で、なんとしてでも人間的な関係を深めたいといった事情でもないかぎり、こういうときは定型表現に頼って楽をしたほうがいい。
常に同じ表現でメールを書く行為は人間味に欠けているかもしれないが、プライベートを犠牲にしたりオーバーワークでつぶれてしまったりするよりはマシだ。他者に人間味を示すよりも、自分自身の人間らしい人生を守ることのほうがずっと大事である。
④相手が使っていた場合
こちらは①〜③とはまったく事情が異なる。むしろ人間的な親しみを示すために「お世話になっております」と書くケースだ。
たとえば私の場合でも、本当の意味で平素からお世話になっている恩人の1人に、「お世話になっております」でメールを書きおこす人がいる。相手がこの表現を使っているので、礼を失さないように似たような表現で返す――。このようなケースもないではない。
「お世話になっております」の代わりになるフレーズ
逆にいえば、先にあげた①〜④以外の場合では、「お世話になっております」は使わなくてもいい。
相手と人間的な関係を構築したい場合、定型句を連発するのは避けたい。とはいえ、メールごとに違う書き出しを考えていたのでは手間がかかりすぎる。
そこで私がよくおこなうのが、各種の局面で使う言葉のパターンを事前にいくつか準備しておき、そのときに最適な表現をかわりばんこに出していく方法だ。
たとえば、「お世話になっております」を使わない書き出しには、次のような例が考えられる。
・時刻や日時に関連して
「おはようございます」
「夜分に失礼いたします」
「休日にご連絡を差し上げて申し訳ございません」
・返信の場合に
「ご連絡をありがとうございます」
「興味深く拝読いたしました」
・何かをおこなってもらった場合に
「ありがとうございます」
「ご配慮をいただき恐縮です」
・情報を教えてもらった場合に
「ご教示をありがとうございました。なるほど、○○は××だったのですね」
「たいへん勉強になります」
・天候や時勢に関連して
「ずいぶんひどい台風でしたが、お変わりはございませんでしょうか」
「コロナ禍のなかですっかりご無音に打ち過ぎておりますが」
・事前に相手の体調が悪いと聞いていた場合に
「お風邪の具合はいかがでしょうか。大変ななか、ご対応をいただき申し訳ございません」
(※風邪や腰痛くらいの体調不良の場合。難病・重病の場合は「あえて触れない」でもよい)
「あなただけに話しかけている」という気配
人間的な信頼関係を深めるためには、そのときの時刻や状況を踏まえたうえで「あなただけに話しかけている」という気配を作ったほうがいい。
特に好ましいのは、相手の状況を推察してねぎらったり、共感したりする表現だ。
安田峰俊『みんなのユニバーサル文章術 今すぐ役に立つ「最強」の日本語ライティングの世界』(星海社)
たとえば深夜の3時にメールがあり、たまたま自分がすぐに返信が可能だった場合に「遅くまでお疲れさまです。私のメールへのお返事は明日でも大丈夫です」という表現を加えれば、相手もちょっとうれしくなる(ただし「お子さんが小さいのに深夜まで申し訳ございません」など、相手のプライベートに踏みこむような表現は避けよう)。
また、自分が指示した作業をこなした人に「あれこれとわがままを申しましたのに、ばっちり仕上げていただいてありがとうございます。大変助かります!」といった返信を書くのもいい。他者から苦労を認められて嫌な人は誰もいないからだ。
(加えてズルいことを書けば、相手に気持ちよく仕事をしてもらえれば次回に依頼するときもやりやすいし、成果物のクオリティも上がるので、まわりまわって自分が得をするのである)
ちょっと一工夫を加えるだけで人間関係を円滑にできると考えるならば、上手なメールを書くことはかなり「コスパ」がいい行為だといえるだろう。
[ルポライター、立命館大学人文科学研究所客員協力研究員 安田 峰俊]
感想;
早速、この本を図書館に予約しました。
メールでは言葉だけです。
会話では相手の表情や言葉の抑揚もわかりますが、メールだとその言葉だけです。
より、言葉に気を遣う必要があります。
envision
このメールを相手が受け取ったら、どう思うか?を想像することです。
それだけで大きく変わります。
大切なメールの場合は、他の人に見てもらって意見を貰うことも必要です。
私が行っているのは、時間差チェックです。
大切なメールでは、作成した後、時間を置いてからもう一度見て確認しています。
言葉は人によって定義が違うので、思いもかけない誤解を生むことがあります。
また会話よりさらに、主語や目的語を明確にしないと誤解されるリスクが高まります。
リダンダンシー(冗長)はよくないと一般には言われていますが、別の角度から説明することでより伝えることができると思っています。
メタファー(例え/比喩)を上手く使うことで相手の理解を深めることもできます。
もうひとつ心がけているのは、その人と自分だけのことなどを盛り込むようにしています。
そして相手から質問を受ける余地を残しています。
コミュニケーションが苦手なので、できるだけ自分から開示することを心がけています。