・本著のキーワード
1.構造的貧困/自律的依存・他律的依存
2.安全・快適・便利/2段階の郊外化/システム世界の全域化
3.過剰流動性・入れ替え可能性/感情の劣化/ホームベースの再構築
4.ネットの属性主義/3段階の郊外化/人間関係の損得化
5.われわれ意識/統治コスト/垂直型・水平型監視社会
6.マクドナルド化・ディズニーランド化/新反動主義
7.感情の越えられない壁/感情のインストール
8.共同自治の再構築/2階(半地下)の卓越者/ミメーシス(感情的模倣)
・ヨーロッパに、「地獄への道は善意で舗装されている」ということわざがある。
・『なぜ世界の半分が飢えるのか』スーザン・ジョージ著
みなさんが、文明世界から隔離した島の住民だとしましょう。生活は自給自足で、昔ながらの素朴なやり方で農耕を営み、食料を手に入れています。暮し向きはさほど豊かではありませんが、特に大きな不満も抱いていません。
そこに、あるとき、外の世界から宣教師がやってきます、宣教師は島での暮らしに備えて金属製の鍋、鍬、鎌といった生活用具や農具を持ってきており、それらを見たみなさんは「ああ、便利そうな道具だな」と感じる。実際、宣教師にそれらの道具を借りて試しに使ってみるとやはりとても便利で、自分たちもそういった文明の利器を手に入れたいと思うようになる。
しかし、宣教師が持ってきた道具の数は限られています。みなさんは「もっと道具を貸してください」と頼んでみたものの、宣教師は「もっと欲しいなら、自分たちで島の外から買わなければならない。そのためにはお金が必要で、外の世界に何か物を売らなくてはいけない」と言います。
ここに登場するのがブローカー。つまり市場の中で売り手と買い手をつなぐ役割を果たす人です。この人はみなさんに対し、「お金が欲しいのであれば、自給自足のための作物を生産するのではなく、国際市場で売れる作物を生産した方がいい」とアドバイスしてくれます。「コーヒー豆、サトウキビ、カカオ、そういった作物を栽培して売れば、外貨が稼げるし、そのために必要なお金や資材は貸してあげるよ」
ブローカーの話を聞いて、みんさんはコーヒー豆をつくり始めることにしました。自給自足的な農耕をやめ、換金作物の栽培によって外貨を獲得する農耕へ移行することを決めたのです。その結果、島にはお金が入ってくるようになり、みなさんは金属製の鍋や鍬や鎌を自分たちで買いそろえることができるようになりました。それだけではありません。みなさんの豊かな暮らしぶりを知った周辺の島々の人たちも「あの島の住民のまねをすれば自分たちも豊かになれる」と考えて次々にコーヒー豆をつくり始めました。
ところが、この後、大きな転換が生じます。ブローカーが突然、「コーヒー豆の買値を半分にします」と言い出したのです。「いや、そんな安い値段では売れないよ」。みなさんは懸命に抵抗しますが、ブローカーは交渉に応じようとしません。「だったら、もう買わない。ほかからいくらでも買えるから」。そう言って、値下げを一方的に決めてしまいました。
そうすると、みなさんはお手上げです。なぜなら、自給自足の食料を生産するのはすでにやめてしまっているし、手元にあるのは、食用に適さないコーヒー豆だけだからです。
・一般社団法人日本少額短期保険会社の孤独死対策委員会が発表した「第5回孤独死現状レポート」によると、2015年4月から2020年3月までに発生した孤独死は4448件、このうち80%以上が男性です。年齢別では男女とも60代が多く、つまり60代男性が最もリスクが高いと言えます。その一方で、60歳未満の現役世代が孤独死するケースも少なく、男女ともに全体の約4割を占めています。
発見までの日数は、3日以内が約1割ですが、90日以上たってから発見されるケースも約2%あります。
・3段階の郊外化
1)1段階めの郊外化=団地化(1990年代)
・地域の空洞化
・家族の内閉化(専業主婦の一般化)
2)2段階めの郊外化=コンビニ化(1980年代)
・家族の空洞化
・システム化(市場化と行政化)
3)3段階めの郊外化=ネット化(1980年代後半~現在)
・人間関係の空洞化
・対面の減少(匿名化)
・「個人が、自分のことだけを考えるのではなく、みんなのことを考える」という感情的能力で、それが
ピティエです。
・ジョージア州の北部に
サンディスブリングスという市があります。人口約9万4000人(2014年時点)、市民の平均年収は1000万円近く、医師、弁護士、会社経営者らが多く暮す高級住宅地です。この市は、2005年に住民投票で94%の圧倒的多数を得て、それまで属していたフルトン郡から分離、独立して誕生しました。新たな市を設立することによって、貧困層に多く配分されていた税金を取り戻したいという主張が貧困層だけでなく中間層にも支持されました。
独立後のサンディスブリングスでは、警察と消防を除くすべての業務を民間企業に委託し、同じ規模の市なら数百人は必要な職員の数を9人に抑えてコストカットを徹底しました。市民課、税務課、建設課といった部署はもちろん、市の裁判所の業務も民間委託することになりました。
コストカットによって浮いたお金は、富裕層の要望を受けて、市民の安全を守るサービスに使われています。市民からの通報を24時間体制で受けつける民間の緊急センターには、市民の住所や家族構成、持病の有無などさまざまなデータが登録されており、市民が電話をかけると、90秒で警察や消防が出勤します。市内全域に150人の警察官が配置されており、早ければ2分で現場に到着すると言われています。そうした公共サービスについては市民の9割が満足と回答しており、噂を聞きつけた富裕層が全米から流入し、人口は増えています。
その一方で、フルトン郡では、サンディズスブリングス市の分離・独立などが原因で、年間40億円余りの税収が減りました。そのため郡内では、ごみ収集の頻度が下がったり、図書館の開館時間が短くなったり、公園の予算が削減されたりしています。それだけではありません。貧困層の治療を中心に行う公立病院の予算も約26億円削減されることになりました。サンディスブリングは一見、共同体のように見えますが、その実態は損得勘定に走る富裕層たち、宮台さんのよく言うところの「あさましい人たち」の集まりです。
・
リッツァの言う「マクドナルド化する社会」とは、人間が「動物」でありさえすれば回るような脱人間化・没人格化・損得化が進んだ社会です。それに対処するために使われるのが
「ディズニーランド化」、すなわち祝祭的消費による感情的回復です。アメリカでは、マクドナルド化によって疎外感や不安感を、ディズニーランド化によって与えられる祝祭体験で埋め合わせすることで、人々が感情的に破城してシステム世界からこぼれ落ちることがないようにしているのだ、というのがリッツァの図式です。
・アメリカでは
オピオイドという人工アヘンの濫用が大きな社会問題になっています。日本ではあまり報道されませんが、2020年には6万9710人が中毒死しており、これは薬物過剰摂取による死者数の74.7%に当たります。
・2011年の東日本大震災では
災害ユートピア(災害時にはシステムが頼りにならない分、人々がもともと持ち合わせていた良心が、営みとなってあれわれます)がほとんど見られなかったからです。発災の2~3日後には当時の海江田万里経済産業大臣の尽力もあって被災地に支援物質が届きましたが、末端の配分でトラブルが生じました。人々の間に「お先にどうぞといった感受性が働かず、全員分の物資がそろうまで配れない避難所が続出したのです。
例外は創価学会が運営する避難所と、寺の檀家集が運営する避難所だったというのが、僕(宮台)のゼミ出身のボランティアたちの調査結果です。
・エネルギーの共同体自治で有名なサムソ島の取り組みを紹介しましょう。サムソ島は、デンマークにある人口約4000人の島です。この島では、本土の電力会社を通さずに電力を確保するために住民たちが協同組合を作っていて、洋上風力や太陽光を利用して、10年間をかけて100%クリーンエネルギー化を実現しています。また、農業中心の土地柄を活かしてバイオ燃料を製造し、その結果、余剰電力を売って利益を得ることもできるようになりました。
この活動の創始者、
ソーレン・ハーマンセン氏は、2008年米『タイム』誌の「環境ヒーロー」に選出されています。
「コミュニティパワーこそグリーンな世界をつくる方法です! コミュニティパワーを始めましょう!」
・兵庫県の家島という島では、女性たちが、穴が開いて売り物にならない海苔を材料に「
のりっこ」という佃煮を開発し、ネットで全国に販売しているんですが、そのヒットのきっかけをつくったのも山崎亮さんです。彼はまず、島外の人を呼んで島の魅力を発掘してもらうプロジェクトを企画することで住民たちのやる気に火をつけ、女性だたちが自分の力で新たな名物を発案できるような場をつくり出したんですね。
家島の女性たちは、地域新聞を発行して島の出来事を伝えているほか、唯一の公共交通であるコミュニティバスの運転手を買って出るといった活動もしています。
・共同体自治構築に求められる資質とリーダーシップ
1)合意プロセスの中に個人を<参加>させ、<熱議>を通して合意形成を図る
2)個人の(万バーシップ<われわれ意識>)の感度を育む
3)これによって、国家レベルではなく、ミクロレベルで民主政を回し、共同体自治を確立する
4)このプロセスをリードするのが「エリート(1階の卓越者)」ならぬ「2階(半地下)の卓越者」byキャス・サンスディーン
・構造的問題の解決は容易ではない。明確な悪役が存在しないため、悪役に対する抵抗のエネルギーを動員して一気に社会を変えるという革命を起こすことが叶わない。また、問題を生み出しているのが「安全・快適・便利」を欲求するわれわれ自身であるだけに、人間の存在そのもに向き合わないといけない。社会は思ったようには変わらないものだ。
では、そうすればいいだろう。
社会学では、社会を一気に変えようとするのではなく、斬新的な変化による現実的な処方箋を考える。政府や市場を否定することなく、中間集団の(再)構築に解を見いだそうとする。この最終章で提示した僕らの処方箋-システム世界やテックと共存しながら、食やエネルギーの地産地消費を梃子に共同体自治を確立し、小さいユニットから「われわれ意識」を取り戻すという提案に耳を傾けていただければ、社会学のアプローチとは何たるかが、より深く理解いただけるのではないかと思う。
もちろん、この処方箋はけっして万能ではない。一部の条件に恵まれた地域でしか実現できないかもしれない。しかもその実現に向けては、「2階(半地下)の卓越者」と僕らがヨブ「立派な」リーダーの存在が不可欠だ。そうしたリーダーは、残念ながらきわめて少ないのが現実だ。
だが、僕らは挑戦をあきらめない。
新約聖書ヨハネ福音書に、「光はやみの中に輝いている。そして、やみはこれに勝たなかった」という言葉がある(第1章5節)。
汎システム化に歯止めがかからない中、共同体の空洞化や人間関係の損得化が進んでいく。かつてのコミューナルな生活世界を知る僕らから見れば、もはや社会は殺伐たる荒れ野だ。しかし、光は闇の中でこそ輝く。
感想;
トロッコ問題も紹介されていました。
答えの出ない「トロッコ問題」を考える…回答による傾向と回答例
自分だとどちらを選択するかわかりません。
その時の状況での判断になるかもしれませんし、何もしない(結果的に犠牲者を多くする)かもしれません。
でも、事前に考えておくことは大切なように思います。
私が考えた策(トロッコが最初の線路に入った時に線路を切り替えることで電車のスピードが落ち犠牲者が減るのではないか)もありました。
二者択一の問題を第三の回答を考えるのです。
私たちは一人で生きられない社会に住んでおり、社会から影響をいやおうなしに受けます。
社会をどうするかが問われているのでしょう。
一人ではなく、皆で考えて実践していくことが、変えていけるエネルギーなのでしょう。
そのためにはやはりリーダーがそれができるリーダーが必要なようです。
多くの実践事例がヒントを与えてくれるかもしれません。
それにしても知らないことが多いです。
知らないことがある面、社会にとってマイナスになっているのかもしれないと思いました。
知らないと1階の卓越者に利用されたり、1階の卓越者のための社会優先になってしまうのでしょう。
選択肢は1階の卓越者の仲間入りするか、知識を持って2階の卓越者を支援する側に回るかなのでしょう。
あるいは1階の卓越者の決めたことに従うのか。
戦争を決めた1階の卓越者は戦後も生き残り、それに翻弄された多くの人が犠牲者になりました。
どちらにせよ、学びは必須だと思います。
『学問のすゝめ』福沢諭吉著
「愚民が愚政を生む。だから学びなさい」の言葉に尽きるようです。
そして先ずは、社会に大きく影響する政治に、考えて一票投じることなのでしょう。