平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

「復活の日」 小松左京~ウイルスの人類が滅びてしまう物語は現在のコロナ禍にリンクする

2022年02月03日 | 小説
 小松左京の『復活の日』。
 細菌兵器のウイルスが拡がって人類のほとんどが死滅してしまう話だ。
 残ったのはウイルスが入り込めない南極の観測隊の人たち。
 彼らはいかにして復活するか?

 

 現在のコロナ禍、実にリアリティのある作品だ。
 描かれているテーマは「政治」「経済」「戦争」「科学」「文明」「人類史」「地球史」まで及び、実にスケールが大きい。
 まさに巨人・小松左京である。

 そんな中、防疫体制についてこんな描写がある。

〝流行相〟というのは、博士の提唱する防疫学の新しい考え方で、
 病気の流行を、病原体の特性だけでなく、ひとつの社会的特性をもつものと考え、
 既存の防疫体制、社会の動員可能防疫力、病気に対する一般の知識、気候条件などの各種要素を指数化してくりこみ、流行の型を決定し、予測を立てていくものだった。
 ──丁度、戦争の総合戦略を決定するようなものだ。


 すごいですね。
 防疫を「防疫学」の観点だけでなく、保健所などの「社会のインフラ」、看護師などの「人的資源」、季節などの「気象・気候」などと合わせて総合的に考えていく。
 これらを指数化して対策を練っていく。
 こんなことを小松左京は昭和39年(=『復活の日』の初版が発売された年)に考えていた。

 ところが令和のコロナ禍はどうだろう?
 尾身会長は防疫学の立場で話す。
 他の防疫学者は勝手にいろいろな意見を言う。
 地方自治体は保健所が手一杯と叫び、医者は医療従事者が足りないと悲鳴をあげる。
 すべてがバラバラだ。
 これらを集約して総合的な判断するのが総理大臣だが、
 残念ながら安倍晋三や菅義偉に数学的理論的な判断など無理。
 いっそのこと政治はAIやコンピュータにやってもらった方がいいのでは?

 小松左京の言う総合的な指数化。
 可能かどうかはわからないが、昭和39年にこんな構想をできたことがすごい。
 …………………………………

 こんな描写もある。
 政府が「非常事態宣言」を出そうとする時の描写だ。

「総理は早晩非常事態宣言を出す必要があることはみとめていた。
 ただ、それを出す時期については、充分慎重に、という意向だったが……」
「今がその時期だと思う」公安委員長がいった。
「むろん、実際の運用にあたっては慎重を期さねばならん。
 それが政府の行政責任の上においてなされる一時的な権限拡大措置であって、民主主義をおびやかすものではないということを、国民に印象づけねばならん。
 しかし、手おくれになってからでは、効果はうすい。」
「宣言にともなう政府の特別権限をどの範囲にとどめるか、だな」と法務大臣が言った。
「ぼくの要求では、無制限といきたい所だ」
「そんなことは、議会が許すまい。かえって抵抗も大きい」
「しかし……」副総理はつぶやいた。
「食糧確保、物価非常統制、秩序の維持、交通、通信、運輸の確保……
 これぐらいは、政府の直接権限で、ぜひ強制力をもたねばならん」


 これまたすごいですね。
 昭和39年ですでに「緊急事態宣言」に言及している。
 小松左京は太平洋戦争の統制の時代を知っているから、こういう描写が出来る。
 この国家による統制は「軍国主義的」でもあり、「社会主義的」でもある。
 軍国主義と社会主義は表裏一体だ。

 さて、小松左京が生きていたら現在をどう見たのだろう?
 現在を踏まえて『復活の日2』を書いたとしたら、どんな作品を書いただろう。


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2 コメント

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最初はチベット風邪 (コウジ)
2022-02-04 09:01:13
mobilis-in-mobiliさん

いつもありがとうございます。

最初は「チベット風邪」と言われるんですよね。
最初は皆が楽観視しているのですが、ジワジワ怖くなっていく。
僕は最近初めて読んだのですが、ウイルスに関する説明なども詳細に語られてい勉強になりました。
返信する
Unknown (mobilis-in-mobili)
2022-02-03 11:42:40
発端は中国奥地でアヒルが大量死する件だったと記憶しています(ヒマラヤに病原ウイルスを積んだ飛行機が墜落したせいですが)。さまざまな点で現代を予見していますね。
返信する

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